下
小説、書いてみました。
13:左平(仮名)2002/12/22(日) 00:52
十二、
「そんな、いきなり言われてもなぁ…。婚儀もせにゃならんし…」
豪放な董卓も、この申し出には驚いた。それにしても、羌族の女の大胆なことよ。漢人であれば、こうはいかないであろう。まぁ、悪い気はしないが。
そんな事を考えていると、いつの間にか馬から下りた瑠が、彼の体にしがみついてきた。彼女の胸が当たってくる。ますます驚いた董卓は、動けなくなった。
「あら、鹿を素手で締め上げた勇者さまが、女の私に締め上げられてるなんて」
瑠は、そう言って面白そうに微笑む。その笑顔がまぶしく感じられた。笑顔、体、そして匂い。彼女の全てが、刺激的であった。たまらず欲情をもよおした董卓が、ぐっと彼女の体を抱いた。巨躯の彼からすれば小柄ではあるが、案外豊満な体である。
「きゃっ!?」
「驚いたか?」
「驚きますよ−っ。いきなりなんですもの」
「そっちもいきなりだったろうが。おあいこだよ」
「も−っ。董卓さまったら」
そう言って不機嫌そうにするさまも、また好ましく見える。
「おい、卓。朝から騒がしいが、どうしたんだ?」
おくれて家から出てきた兄が聞いてきた。
「あっ、兄上。実は…」
「うん…んっ!? なっ、何だ、あの牛馬は? 一体、どうしたんだ?」
「じ、実はですね…。以前、私が牛を客人に振る舞った事、覚えておられますか?」
「あぁ。なんせ、たった一頭の牛だったからな。忘れ様もないよ」
「実は、あの客人は羌族の族長でして…。あの時のお礼だって言うんですよ…」
「そうだったのか。それなら、ありがたくいただけばいいじゃないか」
「えぇ…まぁ…」
「おっ、そういえば、この娘さんは?」
「あぁ、彼女ですか。彼女が、この牛馬を持ってきたってんですよ。で…」
「始めまして、義兄上さま。わたし、このたび董卓さまの妻になりました、瑠と申します」
「つ、妻!? 卓、いつの間に?」
「いや、何と言うか…。いきなりこういう事になりまして…」
「そ、そうか。まぁ、いいじゃないか。卓。大事にしてやれよ」
「えぇ」
「他の事については、何も言わぬ。だが、妻を粗略に扱ったりするなよ。それだけは、父上も私も、許さんからな」
「はい」
「ところで、この牛馬を何とかせんとな…」
牛馬を収容する小屋を建てたり、人に貸したりして、ようやく片付いたのだが、大変な作業となった。その間は、さすがの董卓も、新妻に手を触れるどころではなかった。
ひととおり片付いた後、新婚夫婦は、数日にわたって家にこもりっきりだった。若い二人が家の中で何をしていたかは、言うまでもあるまい。
かくして、董卓の名は、隴西郡では知らぬ者がないというほど、有名になった。大量の牛馬によって董家も豊かになり、名門と呼ばれる一族ともつながりを持つ様になったのである。
桓帝の末年、選ばれて羽林郎となった董卓は、数多くの戦いに従軍し、活躍した。史書には、百戦以上にも及んだ、と書かれているから、毎年数回は戦っていた事になる。
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