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小説 『牛氏』 第一部
135:左平(仮名) 2005/07/19(火) 23:44 「ただいま戻りましたぞ!」 「おぉ、意外と早かったですな。で、成果はいかほどで?」 「まぁ、これを御覧くだされ!」 「ほぅ、これはまた見事なもんだ」 「でしょ?ささ、はやく宴の支度を。今宵はぱぁ−っといきましょうよ、ね、殿」 「んっ?!ん、そうだな…」 「分かりました!では、早速。酒も用意しませんとな。久々に、賑やかにいきましょうか」 主も了承済みとなれば、話が早い。狩りに随行していた者達までもが、一斉に邸内に駆け込み、支度にとりかかる。 (おいおい、こりゃまたえらい早業だな…) 主の董卓が半ば呆れつつ見守る中、誰が指示するでもなく、てきぱきと宴の支度が整えられていった。 老若男女を問わず、皆、目が回るほどの忙しさである。しかし、楽しげであった。なにしろ、久々の宴なのだ。 まず、家人達が総出で獲物を解体する。小さい獲物であれば子供でも何とかなるが、大物だとなかなかそうもいかない。どうしても大人数人が仮になる。 「よ−し、じゃ、さばくぞ。え−と、このあたりかな…」 家人の一人が、恐る恐る刃先を獲物の皮にあてがう。 「おい、何やってんだよ。そんなところからやったら骨に当たって刃こぼれしちまうぞ。おれに代われ」 「え〜。おまえ、そう言っていいとこ持ってこうってんじゃねぇのか?」 「何言ってんだ。肉を切るのはおれでも、仕分けられるのは殿だそ。ね、殿」 「まぁな」 「なっ。殿もああおっしゃってるんだし。おれに任せとけって」 「しょうがねぇな。代わってやるよ。ちゃんと切れよ。変に切ったら、あとが面倒だからな」 「よ〜し、それじゃ。…おっと、炭を用意しとけよ。生肉ばっかりじゃ何だからな」 「分かってるって。そのへんは抜かりなく整えてるよ。羹もこしらえときたいしな」 「おっと。そう言ってて塩忘れてたってのはなしだぞ。こないだみたいな目にあっちゃかなわんからな」 「へへ、やけによく覚えてやがるな。いつの話だよ」 「当たり前だ。塩気なしの羹なんざ、まずいことこの上ねぇからな」 「ありゃたまたまだ。殿も召し上がるってのにそんなへまはしねぇよ」 「言いやがったな。今日は抜かるなよ」 「分かってるって」 「あと、臭みをとるのも忘れんなよ。血の臭みが残ったままじゃまずいからな」 主の気風を受けてか、皆、闊達に動き回っている。生きていることを、精一杯享受している様である。 (段公…) またしても、段ケイ【ヒ+火+頁】に想いが及んだ。なかなか、おさまってくれそうにない。
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