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小説 『牛氏』 第一部
24:左平(仮名)2003/03/09(日) 21:48AAS
十二、
その後、牛朗と董卓は、しばし談笑した。董卓にとっては、やはり隴西の方が気楽である様だ。ときおり、弘農の人間に対する愚痴もこぼれる。
「ははは…。まぁ、そうおっしゃられるな。もう一杯、いかがですかな?」
「えぇ。では、頂きます」
「しかし…。それならば、何故に弘農に移られたのですかな?」
「それはまぁ…。やはり、中央で高位を望もうとすれば、都の近くにいる方が何かと好都合ですからな」
「でしょうな」
「我が家は、代々の名族ではありませんからな。そちらと釣り合おうとすれば、多少の無理はやむを得ないのです」
「そういうものですか…」
「あら。父上ではありませんか」
そばを通りかかった姜が、声をかける。
「おっ、姜か。ほぅ…。しばらく見ぬ間に、また随分と女らしくなりよったな。伯扶殿に、たっぷりとかわいがってもらっておる様だな」
「もぅ、父上ったら。お義父様やお義母様もおられる所で、そんな事を言わないで下さい」
「ははは。これはすまんかったな。だが、当たっておろう」
「もぅ…」
姜がその場を離れると、また二人の話が続いた。
「ところで、一つお聞きしたい事があるのですが…」
「何でしょうか?」
「貴殿のご令室についてですが…」
「あぁ、瑠ですか。あれが、どうかしましたかな?」
「確か、羌族の族長の娘、と伺いましたが、間違いございませんね?」
「えぇ。…いかがなさいましたか?まさか、今になってこの婚儀を無かった事に、などとおっしゃるのではありますまいな」
「いやいや。その様な無礼な事はしませんよ。そうではなくて、ご令室のご家族について、お聞きしたいのです。これは、個人的な事です」
「はぁ…。まぁ、わしの知っている範囲でしたら何なりと」
「では…。まず、ご令室には、姉君がおられますかな?」
「いた、と聞いております。何でも、早くに亡くなったとか」
「その姉君は、漢人の男に恋し、子を成した。違いますかな?」
「えっ? 確かにそうですが、なぜその様な事をご存知なのですか?」
「その姉君の名は、琳、ですね?」
「たっ、確かに…」
董卓は、一瞬ぞっとした。別に内緒にしている事ではないが、かと言って、おおっぴらに話しているわけでもない。なぜそんな事まで知っているのであろうか。見当がつかない。
「驚かれましたか」
「あっ、当たり前です!我が家を探られたのですか?」
「そうではありません。こちらも驚きましたよ。姜殿の顔を見た時には」
「えっ?姜の顔を?」
「そうです。やはりそうでしたか…」
「おっしゃる事がよく分からぬのですが、どういう事です?」
「いやね。姜殿の顔を見た時、一瞬、琳と見紛うたのですよ。なるほど、伯母と姪でしたら、似てるわけですね…」
「伯母と姪?と、いう事は…」
「そうです。今は亡き我が妻・琳と貴殿のご令室・瑠殿とは、実の姉妹であろうかと」
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