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小説 『牛氏』 第一部
5:左平(仮名)2003/01/04(土) 02:19
(ほう、あの男が羽林郎とはのぅ…)
董卓の立身は、郡内の人々を驚かせた。しかし、彼の活躍はなおも続くのである。
羽林郎に任ぜられてからほどなく、匈奴中郎将の張奐に従い、その軍の司馬として羌族との戦いに加わる事になった。董卓は、羌族の中に多くの知己を持っており、彼らの事を知り尽くしていた。その故の人事であろう。
羌族は、多くの部族に分かれている。彼も、全ての部族と親しくしたわけではない。戦う事については、別段後ろめたい思いをする事もなかった。
董卓の活躍もあって、この戦いは漢軍が勝利した。戦の後、張奐は、恩賞として絹九千匹(一匹=四丈=約9,2m)を彼に与えた。しかし、彼はそれを受け取らず、全て配下の者たちに分け与えたという。
省26
6:左平(仮名)2003/01/05(日) 23:52
三、
夜。天空には、月と星が輝いている。そして、地上には、一人それを見つめる男がいた。人並み外れた巨躯を持つその男の名は、董卓という。
一人夜空を見つめているからといって、別段、何か考えていたというわけではない。ただ、月が美しかったから、それを眺めつつ酒を呑んでいたのである。風は少し冷たいが、なに、大した事ではない。
「お父様。わたしの夫となられる方が決まったそうですね」
省33
7:左平(仮名)2003/01/05(日) 23:56
「おぉ、瑠か。どうだ、そなたも飲むか?」
「そう言われれば飲みますけど…。いいのですか?お仕事の方はいかがなさったのです?」
「あぁ、だいたい片付いてるし、明日は休みだ。構わんよ」
「じゃぁ…」
そう言うと、彼女は夫の横に座り、その体にもたれかかった。
「ねぇ…」
省28
8:左平(仮名)2003/01/13(月) 21:06
四、
同じ頃。月を眺めつつ、酒を呑む男がもう一人いた。牛輔の父である。
(輔も、もうそういう年なんだな。月日の経つのは早いもんだ。あれから、もう二十年以上も経つのか…)
そう感慨にふける彼の脳裏に、二十数年前の事が、鮮やかに思い起こされた。
省39
9:左平(仮名)2003/01/13(月) 21:09
「では、琳さん。私は帰らないといけないので」
「あの…。朗さん」
「何でしょうか?」
「また…お会いする事はできませんか?」
「えっ? いや…その…」
意外な言葉であった。彼女の方も、自分に気があるのだろうか?だとすれば、願ってもない。
省38
10:左平(仮名)2003/01/19(日) 21:37
五、
「琳さん…」
「はい」
「私と…ずっとこうして頂けますか」
「それは…夫婦になろう、という事ですか?」
省42
11:左平(仮名)2003/01/19(日) 21:38
「私達の関係がただならぬものとなれば、双方とも、追認するしかないはずです。あなたは既に男を知ってしまったし、私も、他家の女に手を出してしまった。あなたを私以外の男に嫁がせる事は難しいし、私も、あなた以外の女を妻に迎える事は難しい。そんな事をすれば、双方の家名は落ちてしまうでしょうから…」
「えぇ。そうなりますね」
「もちろん、危険な賭けなんだけど…他に考えつかなかった…」
「ねぇ、朗さん」
「どうしました?」
「行きましょ」
省46
12:左平(仮名)2003/01/26(日) 00:43
六、
「あっ…!」
門を守る家人は、驚きを隠せなかった様で、しばらく動かなかった。二人は、馬から降りるとそのまま牛朗の居室に入り、もつれ合う様に倒れ込んだ。
牛朗は、男女の事については初めてである。おおよその事は知っているつもりであるが…。慌しく衣を脱ぐと、互いの体を愛撫し合う。
省39
13:左平(仮名)2003/01/26(日) 00:47
「こっ、これは!」
「私達の仲が認められないとなれば、牛氏の男が他家の女を弄んだという不名誉な事になるのですよ!」
「そなた…本気で言っているのか!?」
「はい」
「勘当しても良いのだぞ!」
「構いません。そうなればなったで、司馬相如【前漢の文人。賦にすぐれた。富豪の娘であった卓文君と恋仲となり、彼女の父親に反対されると、駆け落ち同然の形で結婚した。彼女の邸宅の前で夫婦して屋台を経営した為、ついにその仲を認められたという逸話を持つ】に倣うまでです」
省38
14:左平(仮名)2003/02/02(日) 22:44
七、
それからしばらくの時が流れ、季節は夏になろうとしていた。
牛輔の心の中にはなおも戸惑いがあったが、既に決まった話である。
(まぁ、董郎中殿は董郎中殿。娘さんは娘さんだ。性格・容貌ともそっくりという事はなかろう…)
そう、前向きに考えるしかない。
省36
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