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小説 『牛氏』 第一部
58:左平(仮名) 2003/06/29(日) 13:40 二十九、 この軍団は、長年にわたって董卓自らが育ててきたもの。それを、一時的に、娘婿にとはいえ、他人に渡すとは…。自分が信頼されている事は嬉しいが、若干の戸惑いもある。義父の真意はどこにあるのだろうか。 「私でよろしいのですか?第一、勝、いや、伯捷殿がおられるではありませんか」 「確かに。いずれは、勝に継がせるつもりではあるがな。ただ…」 「ただ?」 「勝には、わしとは異なる道を歩んでもらおうと思っておる。ゆえに、いま軍団を預ける事はできぬ」 「異なる道、ですか…。それはいったいどういう事ですか?」 何か考えがあっての事の様だ。ならば、その考えを聞いておこう。 「うむ。わしは軍事には自信があるが、政治の事についてはいま一つよく分からん。出自の事もあるから、よくて地方の太守あたりになれればといったところであろう」 「はぁ…」 「だが、わしが言うのも何だが、勝はよくできた子だ。あれには、もっと上を目指してもらいたい。そうなると、軍事のみに携わるのではなく、政治というものを知っておく必要が出てこよう」 「という事は…。伯捷殿を広武に同行させ、政治の何たるかを学ばせようという事ですか」 「そうだ」 「おっしゃる事は分かりました。ですが、それでしたら、なぜ叔穎(董旻。董卓の弟)殿ではなく、この私なのですか?」 「不満か?」 「いえ、私は構いません。ですが、姓の異なる私が、義父上の弟である叔穎殿をさしおいて軍団を預かるというのは、いささか問題があるのではないかと思うのですが」 「ふむ。そなたはそう思うか」 「はい」 「なかなかよく考えておるな。だが、気遣いは不要だ。旻には旻の務めというものがある」 「叔穎殿には叔穎殿の務め、ですか。それでしたら、私があれこれ言う事もありませんな」 「まぁな。そなたが励んでおる事は姜から聞いておる。そなたであれば、大過なくこの務めを果たしてくれるであろう、とな」 「分かりました。それでしたら、喜んでお引き受けいたしましょう」 「うむ。我が軍団を、頼むぞ」 「はい」 「そうそう、今日は、そなたの配下となる者達を連れて来ておるのだ」 「私の配下、ですか」 「そうだ。いくら何でも、そなたが全てをみるわけにはいかんからな。今から紹介しよう。おい、入れ」 「では、失礼します」 そう言うと、三人の男達が入ってきて、それぞれ席についた。董卓に従って戦場を駆けてきたせいか、皆、堂々たる体躯の持ち主である。だが、年の頃は自分とさほど変わらないであろうと思われる。 「ん?一人足りんな。どうした?」 「あぁ、新入りのあいつですか。まだ来てない様なんですよ」 「何だ、まだか。まぁ、都から帰ったら来いとしか言わんかったからな。まぁ良い。そいつは後だ」 「そうですね。では、私から自己紹介を」 「そうだな。始めるか」 そう言うと、その男は牛輔の方を向いた。
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