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小説 『牛氏』 第一部
79:左平(仮名) 2003/09/07(日) 23:32 数日後、賈ク【言+羽】の配属が決まった。 輜重(武器や食糧)の管理及び各種報告の整理作成というのが、彼に与えられた任務である。孝廉ともなれば、小難しい文書の扱いにはうってつけであろう。 「やはり、私はお役に立たんとおっしゃるのですか?」 その事を告げたとたん、賈ク【言+羽】はさっそく不満をもらした。先日の事をまだ引きずっている様だ。 「誰がそんな事を申した?私は、そなたが役に立たんなどとは言ってもないし、思ってもおらんぞ」 役立たずとみなした?牛輔にとっては心外である。自分は、賈ク【言+羽】の事を相当高く評価しているというのに、何が不満なのであろうか。 「誰も申してはおりませんが、そうではないのですか。役に立つ者であれば、どうして後方なぞに配置しましょうか?」 (そういう事か。非力ゆえに前線に出られない事が、かくも不満なのか) 何とかなだめるしかない。 「どうして後方配置が役に立たんなどと申す?そなた、いやしくも孝廉であろう。相国(蕭何。前出の張良と並ぶ漢建国の功臣)の事くらい知っておるであろう?」 「それは、まぁ…」 「相国の功績とはいかなるものであるか。申してみよ」 「相国は…高祖が項羽と戦っていた際、本拠の関中にあり…丞相として全ての政務をこなすと共に、漢の法制を定め…前線への補給を途絶えさせる事無く続け、兵達を飢えさせる事はなく…」 「そうだ。そして、高祖は相国の功を第一とした。輜重とは、かくも重要なものだ。それを任せるというのに、役に立たんなどという事はなかろう」 「はぁ…」 確かに、その通りである。 「それに、時間が空けば、そなたの好きな様に使っても良いのだぞ」 「好きな様に、ですか?」 「あぁ。わが家人と立ち合いをするのもよいし、遠駆けをしてもよい」 「そっ、その様な…」 相国の故事を持ち出したり、空き時間を好きに使って良いなどとは、新入りの自分には過ぎた厚遇ではないか。そう思った。しかし、かくも自分の事を気遣ってくれるとは。何よりも、その事が嬉しかった。 「私は、そなたの才は相当なものと見ておる。しっかりと務めてくれよ」 「はい!」 こうして、軍団に一人の智嚢(知恵袋)が誕生した。とはいえ、それが明らかになるのは、後の事である。
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