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小説 『牛氏』 第一部
12:左平(仮名) 2003/01/26(日) 00:43 六、 「あっ…!」 門を守る家人は、驚きを隠せなかった様で、しばらく動かなかった。二人は、馬から降りるとそのまま牛朗の居室に入り、もつれ合う様に倒れ込んだ。 牛朗は、男女の事については初めてである。おおよその事は知っているつもりであるが…。慌しく衣を脱ぐと、互いの体を愛撫し合う。 どうすれば、相手が悦んでくれるだろうか。試行錯誤しながらも興奮は募る。二人の呼吸は早くなり、体からは汗がにじみ出る。 (えっと…この先は…) 琳は、男を受け入れる態勢になりつつある様だ。自分のものも、もう張っている。さて、この先は… 現在では、義務教育の段階で性教育が為されるし、様々な媒体があるので、結婚する男女は、経験の有無にかかわらずその方法を(一応は)了知している。しかし、この当時には、そういうものは殆どない(前漢後期に春宮画【日本でいう春画。男女の性愛の様子を描いた画】の原型ができたらしいが、この当時、一般の豪族の家庭にあったかどうかは不明である)。 「朗さん」 「えっ?」 「これを…ここに…」 琳は、顔を赤らめつつ、朗のものに軽く触れると、自分のところを指し示す。 (そっか…。琳さんは、羌族の女だったな。羊の繁殖の様子を見てるから…) 牛朗は、変に納得した。 「じゃぁ…いくよ…」 「えぇ…うっ」 ついに、二人の体が繋がった。彼女も初めてなのか。琳の顔が、苦悶にゆがむ。 「琳さん、痛いの?」 「うん…ちょっと。でも、朗さんとなら…」 その表情と言葉がいとおしい。二人は肢体を絡め、初めてとは思えぬほどに激しく求め合った。 「はぁ…はぁ…」 事が終わり、けだるさと心地良さがないまぜになる中、二人はゆるゆると立ち上がった。ふと見ると、琳の腰に巻かれていた布に、血痕がついていた。 「これは…」 「これが…証です。わたしにとって、あなたが初めての男の人だという…」 「…」 二人の間にしばしの沈黙が流れる。これで、完全に退路は断たれたのである。 「朗! その女は一体…」 牛朗の父が居室に入って来た。その顔は上気し、今まで見た事もないほどに怒り狂っているのが分かる。普段の牛朗であれば、即座に叩頭して謝罪するところであるが、ここで引く事はできない。ここで引いてしまったら、琳を捨ててしまう事になる。 「父上! 私は…この女(ひと)を抱きました! この女との仲を認めて下さいっ!」 彼女を抱きしめつつ、そう叫んだ。初めて父に逆らったのである。 「何っ!」 「いかがなさいますか。…これを御覧下さい!」 そう言うと、琳の腰を指し示した。そこについている血痕こそ、二人の関係が既にただならぬものになった事を示す、何よりの証拠である。
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