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小説 『牛氏』 第一部
17:左平(仮名) 2003/02/09(日) 21:47 これから、妻を迎えようとするところである。落ち込んではいられない。 門が開いた。馬車がゆっくりと中に入っていく。別邸とはいえ、なかなか広い。中庭で、彼は手綱を董氏の家人に預け、車から降りた。 堂(中庭の側が吹き抜けになっている広間)に上がり、祖廟での一連の儀礼が終わると、新妻を車に乗せる 事になる。 姜が、姿を現した。彼女もまた、当時の儀礼に従い、新婦が身につける纓(えい:頭にかける紐飾り)を除いては、わりと地味な衣装をまとっている(古礼によると、この時の衣装は、黒いものを用いるという。これでは喪服と同じではないか、と思うかも知れないが、古代の喪服は白いものを用いたというから、問題はない)。顔は、ここからではまだよく分からない。照れて、顔を合わせるのもままならないのである。それは、向こうも同じらしい。顔を伏せ気味にしてこちらに近付いてくる。 (意外と小柄だな。それに、私に会って照れてる様だ…) そんな、何気ないしぐさにも、彼の心はときめく。 姜がそばまで来た。牛輔は綏(車の乗降の際につかまるひも)を投げ、彼女を車に導く。綏を通じて感じる彼女は、不思議に軽く感じられた。あの董卓の血を引くとは思えないほどに。 車輪を三回転させると、彼は車から降りた。先に自邸に戻って、新妻を門前で迎えるのである。 すっかり夜も更けた。自邸の門前で、彼は妻の到着を待っていた。時の流れが遅く感じられる。が、それは苦痛ではない。 やがて、松明が見え、姜の乗った馬車が姿を見せた。彼は、揖譲(ゆうじょう:手を組み合わせて挨拶し、へりくだる)し、彼女をいざなった。 目の前に杯が置かれ、酒が注がれる。二人は、それぞれの杯を手にとり、酒を口に含んだ。酒で口をすすいで体を清めるとともに、同じものを口にする事で、礼を明らかにするのである。 これで、親迎の儀礼はなかば終了した。翌朝、妻は早起きして夫の両親に挨拶をする事になる。 (明日の事があるから、あまり変な事はできないが…) 姜の横顔をちらちら眺めながら、牛輔は心を昂ぶらせていた。
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