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小説 『牛氏』 第一部
41:左平(仮名) 2003/05/04(日) 02:19 「ん? なんだ、伯扶か」 そっ、その声は! 「ち、義父上ではありませんか! こんな夜更けに何をしておられるのですか!」 「あぁ、ちょっとな」 そういう董卓の顔は、いつもとは少し違って見えた。そこはかとなく厳粛さが感じられるのである。これから凱旋する将には見えない。 「明日も早いではありませんか。もう休みましょう」 「分かっておる。だがな、もう少しこうしておりたいのだ」 何か思うところがあるのか、自分が何か言うくらいでは、動きそうにはない。まぁ、明日は凱旋だ。もう一日くらいは、体ももってくれるであろう。そう思うと、がぜん興味が湧いてきた。 「義父上がおられるのでしたら、私もお付き合い致しましょう。…それにしても、何をしておられたのですか?教えてはいただけないでしょうか」 「そうだな。そなたにも、話しておいた方が良さそうだな。…実はな、こいつらに誄(るい:しのびごと。死を悼む言葉・文章)を読んでやろうと思ってな」 「誄、ですか…」 彼の口からそういう言葉が出るとは、正直、意外ではあった。だが、兵の死に思いをはせ、それを無駄にしないのが良将というものである。 (義父上は、紛れも無く良将であらせられる) それが分かったというだけでも、この戦いに従軍した意味があった。この方の娘婿になって良かった。心底そう思えた。 「もちろん、そんな大層なものはできん。わしは哀公(孔子が亡くなった当時の魯公)ではないし、こいつらも孔子ではないからな。まとめて、簡単なものを読む程度だが」 「確かに、我が方の勝利とはいえ、少なからぬ戦死者を出しましたからな」 「そうだ。だが、それだけではない」 「えっ?」 牛輔が一瞬きょとんとするのを尻目に、董卓はある塊に近付き、黙祷した。兵の屍である。 だが、何か様子が違う。頭のあたりに付いている飾りなどを見ると、漢人のものではない。まさか! 「義父上、その屍は敵のものではありませんか!」 これには驚いた。義父は、間違って黙祷しているのではないか。だが、その返事は意外なものであった。 「そうだ。分かっておる」 「えっ? では、義父上は敵に対しても誄を読まれるのですか…。しかし、なぜ…」 「なぜかって? そなた、母が羌族の娘であったという割には、羌族の事を知らぬ様だな。…まぁ、仕方あるまい。牛氏と羌族とは、長く敵対しておるゆえ、接触する事自体少ないからな」 「ですが…」 「いい機会だ。そなたに話してやろう。わしが我が義父(琳・瑠姉妹の父)から聞いた事や、羌族の連中から直に聞いた話をな」
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