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小説 『牛氏』 第一部
56:左平(仮名) 2003/06/22(日) 21:34 二十八、 結局、勝は、牛輔邸に一晩泊まる事になった。翌日。 「じゃ、気をつけてな。義父上によろしく伝えておいてくれよ」 「はい、承りました」 義兄達に見送られて、勝は帰っていった。 「父上、ただいま戻りました」 「おぉ、お帰り。勝よ。向こうの様子はどうだったかな?」 「ええ。義兄上も姉上も、お元気でしたよ。蓋殿も」 「そうか。そりゃ何よりだ」 「ほんと、仲の良い夫婦で…」 「なに顔を赤くしてるんだ。ははぁ…。隣で『あの』声でも聞かされたか」 董卓がそう言うと、勝は、ますます顔を赤くした。なりは大きくても、そのあたりはまだ少年である。その様子をみた董卓は、急に威儀を正してみせた。 「勝よ」 「はい、父上」 「年が改まれば、そなたも字を持ち、大人として扱われる事になる」 「はい」 「そなたは、大人になるという事がどういう事だと思っておる?」 「それは…」 そう言われると、どう答えれば良いのであろうか。勝は言葉に詰まった。 「なに、そう難しく考えずともよい。要するに、自分の今ある立場をわきまえ、それにふさわしく振る舞えばよいのだ」 「あっ、なるほど…」 父の一言により、難問はたちまち氷解した。そんな勝は、実に理解力のある少年である。 「もちろん、年が経てばおかれる立場も変わるから、それに合わせて自分も変わる必要があるのだがな」 「『君子は豹変す』ですね。父上のお言葉、しかと留めておきます」 「うむ。…まぁ、厳しい事もあるが、そればかりでもない。…そなたも、そろそろ女というものに興味が出てきた頃であろう。違うか?」 今度は、急にからかう様な口調に変わった。董卓の、このあたりの切り替えは実に素早い。 「…」 勝の顔が、また赤くなった。 「そろそろ、縁談を考えておる、姜の時もそうだったが、そなたの意に沿わぬ相手であれば、無理をする事はないからな」 「はい!」 父と子の、穏やかな日常の一こまであった。 そうして、しばしの時が流れた。そんな、ある日のこと。 「おう、伯扶。元気にしておるか」 牛輔邸に、何の前触れもなく、董卓が姿を見せた。 「ち、義父上!いかがなさったのですか!」 董卓の急な来訪に、牛輔達は驚きを隠せなかった。いつもなら事前に連絡してくるのに、今日は一体、どうしたのであろうか。
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