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小説 『牛氏』 第一部
90:左平(仮名)2003/10/19(日) 23:47
四十五、
「あなた」
ふと気づくと、後ろに姜が立っていた。いつも明るい彼女であるが、今日はまた一段と機嫌がいい様である。
「ああ、姜か。どうした?何かいい事でもあったか?」
「分かりますか?」
省34
91:左平(仮名)2003/10/19(日) 23:49
「殿!羌族が動き始めましたぞ!」
季節が秋から冬に向かいつつあったある日、盈がそう言いながら駆け込んできた。それは間違いなく急報であり、事態が切迫している事を感じさせる。
「そうか、来たか。で、兵力はいかほどだ?」
「完全にはつかめておりませんが…およそ千ほど」
「千か…」
牛氏・董氏の両軍団の兵員を総動員すれば、数の上では十分に上回る。三千も用意すれば十分であろう。もう何度となく戦いを重ねているので、このあたりの計算は慣れたものである。
省24
92:左平(仮名)2003/10/26(日) 23:32
四十六、
羌族の兵の動きは、ほどなく牛輔達の知るところとなった。
「殿!あれを!」
「む、あれは…。間違いなく、羌族の兵だな」
「いかがなさいますか?」
省41
93:左2003/10/26(日) 23:35
(我らは、知らぬ間に窪地に入っているではないか!)
そして、ふと見上げると、羌族の騎兵の姿が映った。それも、一騎、二騎ではない。
(我らは包囲されたのか!)
こうなると、形勢は完全に逆転してしまう。
周囲は、崖とは言わないまでも駆け上るにはやや苦しい坂になっている。ここで包囲されたりしたら、いかに数にまさるとはいえ、勝てるという保証はない。急いで脱出せねばならないが、ここを抜けるには、前進か後退しかない。しかし、もうあたりは薄暗くなっている。このままではまずいが、かといって、前後の状況が分からないのでは手の打ち様がない。
省35
94:左平(仮名)2003/11/02(日) 21:44
四十七、
「話は分かった。しかし、それだけの兵があれば良いのか?」
「はい。私が率いる部隊は、あくまでも陽動部隊です。ですから、この程度の人数で十分です」
「しかし、それならそれで、どうしてその様な者達を使うのだ?必要ならば、もっと精鋭を引き連れても良いのだぞ?」
「お言葉は嬉しいですが、この策を成功させるのには、この者達こそが最適なのです。少なくとも、私はそう判断しました」
省43
95:左平(仮名)2003/11/02(日) 21:46
賈ク【言+羽】の話が進むに連れ、兵達の顔に恐怖の色が浮かんだ。
説明によると、この策の実行にあたっては、夜陰に乗じて敵のすぐ脇をすり抜け、囲みの外に出る必要があるというのである。いくらなんでも、そんな事ができるのであろうか…。
(これだけの軍勢がいるってのに、どうしてまたそんな危険な賭けを…)
皆、不審に思った。正攻法でかかっていけば勝てるはずであるのに、こんな事をする必要があるのかと。
「怖いか。まぁ、無理もないだろうな。私も怖いからな」
「じ、じゃどうして…」
省31
96:左平(仮名)2003/11/09(日) 23:58
四十八、
どのくらい経ったであろうか。敵兵の気配が消えた。
(どうやら、囲みの外に出たか)
そう思った賈ク【言+羽】は、隣の兵に、松明に火をつける様指示した。もちろん、敵に見えない様に工夫を凝らしたものを使う。
そうして、さらに進んだ。この策は、単に囲みの外に出るだけではなく、一定の距離をおく必要があるのである。
省44
97:左平(仮名)2003/11/09(日) 23:58
(あの砂埃は…。間違いない。文和からの合図だ)
不安の中目を覚ました牛輔は、それを見ていささか落ち着きを取り戻した。策はうまくいっている様だ。これなら勝てる。
「者ども!頭上に盾をかざしつつ、全速で進め−っ!!」
その号令とともに、一斉に全軍が動き始めた。
「なっ、何だ?連中、急に動き出しやがったぞ」
省41
98:左平(仮名)2003/11/16(日) 22:20
四十九、
「文和よ、よくぞやってくれた。そなたがいなければ、この勝利はなかったぞ」
戦の後、牛輔が最初にしたのは、賈ク【言+羽】を厚く賞する事であった。あの陽動部隊の活躍にはめざましいものがあったから、彼が賞
される事については、全く異論は出なかった。
省58
99:左平(仮名)2003/11/16(日) 22:22
それからほどなく、義弟・勝のもとから一通の知らせが届いた。
「で、知らせには何と書かれてるんだい?」
「はい。無事に産まれ、母子共に至って健やかであるとの事です。女の子だそうで」
「それはよかった。で、名前は?」
「白、としたそうです」
「白?」
省20
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