小説 『牛氏』 第一部
101:左平(仮名)2003/11/24(月) 22:53
はい。それは知ってます。でもぉ…。どうして、わたし達が母上のところに行ってはいけないのですかぁ?」
「それはな…」
(出産というものがどれほど壮絶なものか、口で話しても分かるのだろうか…。とはいえ、直に見せるのも何だしな…)
なかなか、うまい具合に説明できるものではない。
「ねぇ〜、どうしてぇ〜?」
「と、とにかく、だ。いま、母上は大変なところなのだ。そして、こればかりは、私も、そなた達も、何もしてやれないのだよ」
「そばにいるのもだめなのですかぁ?」
「そうだ。分かったら、おとなしく寝てなさい」
「でもぉ〜」
「そなた達が母上の事を思っているのはよく分かった。それを聞けば、母上もさぞ喜ばれる事であろう。明日の朝には産まれているはずだから、その時、母上をしっかりとねぎらってやるのだ。夜更かししたりすれば、母上も喜ばれないぞ。よいな。さっさと寝なさい」
「はぁ〜い」
やや不承不承ながら、そう言うと、ようやくそれぞれの寝所に入っていった。
「はぁ…。子守りってのも、なかなか大変なもんだ」
慣れない事がひと段落ついたせいか、どっと疲れを感じた。

子供達を寝かしつけたとはいえ、牛輔自身は眠れない。姜の身を最も気遣っているのは、他でもない、夫である彼自身なのだから。母子ともに無事に産まれるまでは、気が気ではない。
一睡もしていないのだから、心身ともにひどく疲れている。しかし、姜の疲れはそんなものではないはずだ。
(男だろうが女だろうが構わないから、とにかく無事に産まれてくれよ)
そう祈るのが精一杯であった。そんな時間が過ぎる中。

「殿!産まれましたぞ!!」
家人達の声が聞こえた。
「そうか!で、姜は!」
家人達の声には、不吉なものは感じられなかったが、念のため、そう聞き返した。
「ご心配なく!奥方様もお子様も、ともに至って健やかですぞ!!」
「そうか!よくやったぞ!!」
その言葉を聞いて、ようやく人心地ついた。ほっと胸をなでおろすと共に、安堵したせいか、ふっと体から力が抜ける。
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