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小説 『牛氏』 第一部
61:左平(仮名) 2003/07/06(日) 21:17 「私の生まれ育った武威郡という所は、都からみれは、いよいよもって辺境の地です。それゆえ、周りには羌族が多くおります。いや、羌族の中に漢人が点在しているという具合です」 「ふむ。そうであろうな」 「私も、幼い頃から羌族とよく遊んだものです。我が一族の中には、羌族と姻戚である者も多くおります。彼らには、我が一族が漢人であるという意識が薄いのです」 「そうか。…そういえば、羌族には字という考え方がないな」 「そうです。それゆえ、私が字をつけるのはまずいのです」 「そこが分からないのだが。どうして字をつけるのがまずいんだい?」 「こう言うと自慢になりますが、私は、あの辺りでは少しは知られているのですよ。腕っ節が強いという事で。その私が字を持ったとなれば、我が一族が漢人であるという事を知られてしまいます」 「知られると、一族の身に危難が及ぶ。そういう事か」 「まぁ、直ちにそうなる事はないでしょうが…。何かと気まずい思いをするでしょうね」 「そうか」 「それに、私の出自からすると、とても字を名乗る様なものではありませんからね」 「それなら気にする事はない。これから手柄を立てて立身すれば良い事だ」 「そうですね。立身し、一族を迎えられる様になれば、字をつけても良いでしょう。しかし、それまでは、このままでいたいのです」 「そうか…。それならば、私が無理強いする事はない。そなたの思う様にすると良い。まぁ、字をつけようと思ったら、いつでも相談してくれ。共に考えよう」 「はい。ありがとうございます」 「ただ、何と呼べばいいかな?」 「お気遣いは不要です。ただ名の『済』と呼んでいただければ結構です」 「そうか。分かった」 「どうやら、話は済んだ様だな」 董卓が、おもむろに口を開いた。やはり威厳がある。 「では、稚然、仲多、済!」 「はっ!」 「これより以後、牛伯扶がそなた達の長となる!彼の命を我が命として従え!」 「はっ!」 こうして、牛輔は義父・董卓の軍団を預かる事になった。話が終わった、その直後。 「殿!近くに賊が現われましたぞ!」 家人がそう叫んでいるのが聞こえた。
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