小説 『牛氏』 第一部
74:左平(仮名)2003/08/24(日) 21:52
三十七、

もともとさして大規模な宴ではなかったから、しばらくするとあらかた片付いた。

その頃には、もう日もだいぶ高くなっていたから、眠りこけていた董卓、李カク【イ+鶴−鳥】、郭レ、張済も目を覚ましており、あたりの様子に気付いた。
「んっ? 何だ、ずいぶん片付いておるな」
「そうですね」
「俺達が眠っちまった時には、だいぶ散らかってたはずですけど」
「いつの間に?」
四人は、一様に首をかしげた。

「義父上、お目覚めですか」
「おぅ、伯扶。いつの間に片付けたのだ?」
「えっ?いけなかったですか?」
「いや、いかんという事はない。ただ、目が覚めたら片付いておるから不思議に思っただけだ」
「いつの間にって。義父上や皆の者が眠っている間にですよ」
「それは分かる。しかし、気付かなんだぞ。いったいどう片付けたのだ?」
「どうっておっしゃられても…。あぁ、そうそう、実は文和に手伝ってもらったんですよ」
「なに? 文和に?」
「はい。いや、あの者、なかなかやりますな。わが家人を実によくみて使っておりましたよ」
「ほぅ、そうなのか」
「えぇ。いかがなさいましたか?」
「うむ。ちょっとな」

「あれっ?皆様お目覚めですか?」
「おお、文和か。ちょっとこっちに来い」
「はい…」
一体、何であろうか。昨日合流したばかりで、叱責されたり称揚されたりする様な覚えもないが。
「そなた、急ぎの用はないか?」
「は? …昨日帰ったばかりですよ。そんな用事はありませんが…」
「なら話は早い。そなた、しばらくここに留まれ」
「?」
「分からんか。しばらくここに住み込めと言うておるのだ」
「はっ、はぁ…。私は構いませんが…。ただ、伯扶殿は…」
「義父上がそうおっしゃるのだ、私の方は構わんよ」
「…そうですか。分かりました」
軍団の長の命令である。否応のあろうはずもない。

翌日、董卓は任地に向かっていった。それと同時に、李カク【イ+鶴−鳥】・郭レ・張済は、それぞれの役目を与えられ、各部所に配置された。
ただ、賈ク【言+羽】のみはまだ無任所のままであった。
(義父上は、文和の配置については何もおっしゃらなかった…。これはどういう事なのであろうか…)
(私が見る限りでは、文和は使える。ただ、あの者の事は何も知らんからなぁ…。どうやってその才智のほどを量ればよいものか…)
自室で書を読みつつも、その事で頭が一杯になっていた。
(とにかく、じっくりと話をせねばな)
そう思っていた、その時である。
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