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小説 『牛氏』 第一部
20:左平(仮名) 2003/02/23(日) 22:21 十、 事が終わり、重なっていた二人の体が離れた。呼吸は荒く、体と寝具は、汗やら何やらで、ぐっしょりと湿っている。 「こんなに…」 「ん?」 「こんなに…いいものだなんて…。お父様とお母様がしょっちょうしてるのも分かるわ…」 「そうだな…」 (董郎中殿は、今も奥方と? まぁ、無理もないか…。俺も、こんなにいいものとは思わなかったしな…) 「ねぇ…。もう一回、いいでしょ?」 姜が、甘えた声を出しながら、そう聞いてくる。それは、牛輔からしても望むところではあるが、明日の事もある。何回も交わって、寝坊させるわけにもいかない。 「俺もそうしたいけど…。明日は、早いだろ?だから、もう寝よう」 「だめぇ?」 ちょっと不機嫌な顔になった。その表情もかわいらしく、欲情をそそるものだから、いよいよこちらとしてもなだめるのが辛い。 (俺だって、したいのはやまやまだよ。もう一回どころじゃないくらいに) 内心はそう思いつつも、懸命になだめた。 「まぁ、こらえてくれよ。明日、儀礼が全部済んだらもっとかわいがってやるからさ」 「ほんと?」 「あぁ」 「約束ねっ」 姜は、裸のまま牛輔に抱きついてきた。牛輔も、彼女の体に腕を回し、二人はそのまま眠りについた。 翌日−。 眠い目をこすりつつ、姜は目を覚ました。夏の朝は早い。空は、既に白みがかっている。 親迎の翌朝は、新婦は早起きしなければならないのであるが、このくらいの時間なら、まぁ問題なかろう。とはいえ、ぐずぐずしてはおられない。身づくろいをしないと、今の格好では、恥ずかしくて部屋から出られない。 (さぁてと。もうひと頑張りしないと) 舅・姑との儀礼がまだ残っている。昨晩の様子からすれば、夫とはうまくやっていけそうであるが、舅・姑との関係がまずければ、台無しである。姜は、自分を励ましつつ、元気良くはね起きた。隣には、夫の牛輔が眠っている。いや、眠ったふりをしている様だ。 「じゃ、あなた。また後でね。昨日の約束、忘れないでよ」 そう言うと、心なしか、夫がうなづいた様に見えた。 まずは、身を清めなければならない。姜は、桶を用意し、水を張ると、その中に体を沈めた。体を沈めたといっても、さして大きくない桶であるから、下半身が水に浸るくらいである。 手で体に水をかけながら、彼女は、自分の変化を感じていた。 もちろん、たった一日で目に見える変化があるわけではない。しかし確かに、夫に抱かれ、自分は娘から女になった。その意識をもって見ると、自分の体でさえ、何か全く別なものになったかの様に思える。 (この胸…。この胸を、伯扶様やわたし達の子供が触る事になるのね…。こんな風に…) そっと胸に手をやった姜は、これからの事を思い、思わず恍惚となった。 (いっ、いけないっ!わたしったら、こんな時に何考えてるの!) これから大事な儀礼があるというのに。そう思うと、思わず顔が赤くなった。 沐浴し、体を洗い清めた姜は、堂で舅・姑と向かいあう事になる。 既に六礼は終わったといえるのであるが、この時の儀礼もまた、なかなかに骨の折れるものである。大まかに流れをいうと、まず、礼物のやりとりやまつりごとがあり、それによって新婦の賢明さが確認された後、饗応を受け、退室となって終了するのである。これらがうまくいかなければ、今後、何かと不都合が生じるであろう。最悪の場合は、即離婚ともなりかねない。
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