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小説 『牛氏』 第一部
29:左平(仮名) 2003/03/23(日) 22:02 「姜。何か分かった様な気がするよ」 「何か、って何ですか?」 「まぁ、それはまたゆっくり話すよ。…明日からは、引越しの支度で何かと忙しくなるぞ」 「では、董氏の別邸に移られるのですね」 「あぁ。この部屋でそなたを抱くのも、もうあと少しだ」 そう言うが早いが、姜に抱きついた。 「もぅ、あなたったら。今度は、わたしの部屋でいっぱい抱いてくださるんでしょ」 「まぁな」 あとは、いつもの二人であった。 翌日−。 「で、輔よ。決まったか?」 「はい」 「ふむ。どうするつもりかな?」 「董氏の別邸に移る事にいたしました」 「そうか。ならば、その様にするがよい」 「はい」 父は、それ以上は何も言わなかった。顔を見ても、不満の色は感じられない。反対はしていない様だ。となれば、自分が推定した通りという事か。 「父上。一つお聞きしたい事がございます」 「何かな?」 「なにゆえ、私と姜が従兄妹かも知れぬという時に、父上はかくも冷静だったのですか?」 「なぜかって?そうさなぁ…」 「わしにも、よく分からぬのだ。ただ、不思議と驚かなかった。それだけだ」 「そうなのですか?私は、何か思われるところがあっての事と考えたのですが…」 「それは考え過ぎというものであろう。ともかく、二人の姓は異なるのだからな。ただな…」 「ただ?何でしょうか?」 「姜の母が羌族の女であるというのは事前に知っておった。そしてその事は、わし個人としては、むしろ望ましいとさえ思った。牛氏の当主としては、変な考えなのかも知れぬが…」 「…」 何となくではあるが、父の思いが分かってきた様な気がした。 父は、かつて羌族の娘を愛し、周囲の反対を押し切ってまで結婚した人だ。その結果として、今こうして自分がいる。 牛氏と羌族との関係がこのままでは、何かと問題になろう。どうして、敵の血を引く者が一族の中にいるのか、と。その事で、どこかから糾弾されるやも知れぬ。そうならない様、両者の関係を良好なものに変えたかったのだ。そしてそれは、かつて愛した人を弔う事でもある。 だが、牛氏の当主である以上、先祖の方針を変える事は難しい。そこで、董氏の婿でもある嫡男の自分に、その意思を託したのであろう…。 「父上。父上の思いが分かった様な気がします」 「そうか」 「父上は、牛氏と羌族との関係を良好なものにしたいとお考えなのではありませんか?そして、それができるのは、ともに羌族の血を引いた我が夫婦である、と」 「うぅむ…。そうかも知れぬな」 「私如き非才の者には重いやも知れませぬが…。父上の思いに応えられる様、精一杯努めます」 「そうか。その気持ちを忘れるなよ」 「はい!」
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