小説 『牛氏』 第一部
130:左平(仮名) 2004/10/11(月) 01:16
六十五、

その数日後。都から公式の使者がやって来た。
それは、王甫達の失脚、それに巻き込まれる形での段ケイ【ヒ+火+頁】の自死、そして…董卓自身が、段ケイ【ヒ+火+頁】に連座し、西域戊己校尉から罷免される旨を告げるものであった。もちろんと言うべきか、次の官位についての言及はなかった。
自身の罷免自体には、さしたる驚きはなかった。そもそも、公式の使者が着く以前にこの情報を入手していたのだから、一応の覚悟はできている。だが、分かってはいても、董卓の心身への衝撃は大きいものがあった。
あの日以来、どうも体の調子が思わしくない。今までこれといった病になった事のない彼にとっては、あらゆる意味で、どこか重苦しい日々が続いていたのである。
省24
131: 左平(仮名) 2004/10/11(月) 01:16
「ねぇ、あなた。いったいいかがなさったのですか?ここのところ随分ごぶさたですし、室からもあまりお出にならないし…」
謹慎?し始めてから数日が経ったある日、瑠がそう切り出してきた。もう二十年以上も連れ添ってきた妻でさえ、今回の彼の沈黙に対する戸惑いは隠せないのである。
「瑠か。いや、それがな…。どういうわけか、何もする気が起こらんのだよ」
そう答える董卓の声は、相変わらず張りが乏しい。気のせいか、顔色もすぐれない様に見える。
「何もする気がしない?どういう事ですか?」
「それはわしにもよく分からんのだ。普段なら、こんないい天気だ、狩りにでも出るか、それでもって、鹿の一頭も仕留めてやるか、と張り切るところなのだがなぁ…」
省32
132:左平(仮名) 2004/11/23(火) 22:33
六十六、

翌朝−。

家人達の願いが叶ったのであろうか、見事な晴天となった。夜明けとともに邸内に陽光がさし込んでくるその様は、一種の神々しささえ感じさせた。
「よい日和だ。これならば…」
省38
133:左平(仮名)2004/11/23(火) 22:34
「皆の者、首尾はどうだ?」
一段落ついたところで、董卓は、そう聞いてまわった。長時間駆け回り獲物と格闘した為、さすがに皆の呼吸は荒いものの、総じて機嫌の良さそうな顔をしている。今日の狩りは、成功裏に終わったと言えそうだ。
「殿、ご覧下され。この通りです」
家人の一人が、満面の笑みを浮かべて獲物を差し出した。
「うむ。それは何より…」
そこまで言いかけたところで、董卓の脳裏に、ある記憶が浮かんできた。
省36
134:左平(仮名)2005/07/19(火) 23:42
六十七、

「殿?いかがなさいましたか?」
「ん?」
「この者の仕留めた獲物はいかがでしょうか?」
「おぉ、なかなかやるではないか。褒めてつかわすぞ。わしも負けてはおられぬな」
省29
135:左平(仮名)2005/07/19(火) 23:44
「ただいま戻りましたぞ!」
「おぉ、意外と早かったですな。で、成果はいかほどで?」
「まぁ、これを御覧くだされ!」
「ほぅ、これはまた見事なもんだ」
「でしょ?ささ、はやく宴の支度を。今宵はぱぁ−っといきましょうよ、ね、殿」
「んっ?!ん、そうだな…」
省34
1-AA