下
小説 『牛氏』 第一部
49:左平(仮名)2003/05/25(日) 21:28
「…そなた、赤子がどこから産まれるか知っておるか?」
「えっ?」
「知らぬか」
「はぁ…」
「ここだよ」
そう言って董卓が指し示したのは、自分の股間であった。
省33
50:左平(仮名)2003/06/01(日) 22:55
二十五、
二人は、産室に向かった。
先ほど、あれほどためらわれたのは何だったのだろうかというほど、今度はすんなりと入れた。
産室は、どこか異質な雰囲気を漂わせている。室そのものには、何も特別な装飾などは施されてはいないのだが、どうもそういう気がしてならない。
(どうしてだろうか?)
省42
51:左平(仮名)2003/06/01(日) 22:57
「慌てる事はありませんが、きちんと考えておいてくださいね」
「え、えぇ…」
「それと、あれを片付けてくださいね」
「え? あれってのは?」
「ほら、あれですよ」
そう言って瑠が指差したのは、さっき見た、血に塗れた物体であった。
省38
52:左平(仮名)2003/06/08(日) 22:22
二十六、
当時の中国人は、宇宙の構造を「天は円(まる)く地は方形」であると捉えていた。半球状の天が、方形の地に覆い被さる形とみていたのである。この様な考え方を「蓋天説」という。実際、地から天を眺めると、巨大なド−ムの中にいる様な感じがしないではない(そう思えるのは、現代の我々が地球は丸いという事を知っているがゆえの事かも知れないが、実のところはどうであろうか。円屋根の建物もあったらしいので、一概には言えない)。
後には、より精緻な「渾天説」が登場するが、一般的には、なお「蓋天説」が信じられていた。
牛輔が長子につけた「蓋」という名には、その様な大きな意味が込められていたのである。
ただ、董卓が満足げにうなづいたのは、それとはいささか異なるところにあった。彼が反応したのは、「天蓋」の「天」というところに対してである。
省28
53:左平(仮名)2003/06/08(日) 22:24
子が産まれた事で、牛輔夫婦の生活にも、相当の変化が生じた。
赤子には何もできないし、言う事を聞かせる事もできない。躾をしようにも、ある程度育たない事にはどうにもならない。どうしても子が中心の生活となる。
また、若者が多いこの邸内では、子育てに慣れた者は少ない。実家から、経験豊かな家人達を呼び寄せたりしながら、何とかやりくりしている状態であった。
それゆえ、夫婦の間にも、多少の波風が生じた。
二人とも互いに強く相手を意識しているのではあるが、ともに初めての子育てであるので、どうしても子に目が向きがちであった。その為、しばらく疎遠になっていたのである。
省42
54:左平(仮名)2003/06/15(日) 21:01
二十七、
忙しくはあったが、子育ての日々は、概ねこの様に平穏なものであった。
蓋は、普通の赤子よりも大柄で、乳もよく飲む。十分に栄養をつけた彼は、すくすくと育っていた。
そんなある日、牛輔邸に一人の来客があった。
省42
55:左平(仮名)2003/06/15(日) 21:03
「そういう事か。それなら、喜んで相談に乗るよ。しかし、そなたを見ると、私が偉そうに教える事もなさそうだがな」
「まぁ、いくらか書を読んではおりますが…。私一人で決めるのも不安なもので」
「そういうものか。…分かった、ちょっと待てよ。その類の書を持ってくるから、二人でじっくりと考えようではないか」
そう言うと、牛輔は席を立った。
「う−む…。こんなものかな」
省45
56:左平(仮名)2003/06/22(日) 21:34
二十八、
結局、勝は、牛輔邸に一晩泊まる事になった。翌日。
「じゃ、気をつけてな。義父上によろしく伝えておいてくれよ」
「はい、承りました」
義兄達に見送られて、勝は帰っていった。
省44
57:左平(仮名)2003/06/22(日) 21:36
「どうした?驚いておるのか?」
「驚きますよ!来られるのでしたら連絡くらいしてください!何の支度もできないではありませんか!」
「ほほう。わしが来た事自体は大した驚きではなさそうだな」
「義父上ではありませんか。来られる事には驚きませんよ」
「それを聞いて、ちと安心したよ」
「は?」
省36
58:左平(仮名)2003/06/29(日) 13:40
二十九、
この軍団は、長年にわたって董卓自らが育ててきたもの。それを、一時的に、娘婿にとはいえ、他人に渡すとは…。自分が信頼されている事は嬉しいが、若干の戸惑いもある。義父の真意はどこにあるのだろうか。
「私でよろしいのですか?第一、勝、いや、伯捷殿がおられるではありませんか」
「確かに。いずれは、勝に継がせるつもりではあるがな。ただ…」
「ただ?」
省39
上前次1-新書写板AA設索