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小説 『牛氏』 第一部
73:左平(仮名)2003/08/18(月) 00:03
「おっ、文和。目が覚めたか」
後ろから、牛輔の声が聞こえた。ふと気付くと、あたりを家人達が忙しく動き回っている。どうやら宴の後片付けをしている様だ。
「こら。物音を立てるな。皆が目覚めてしまうであろう」
「へいっ!」
「大声も出すな」
「あっ、はい…」
「伯扶殿、お早いですね」
「まぁ、ここは我が屋敷だしな。主が客を気遣うのは当然の事だ。気にせずともよい。そなた、まだ寝ていてもいいのだぞ」
「いえ。せっかくですから…私も何か手伝いましょう」
「そうか。では、そちらの指示を頼もうか」
「はい」
他の者を起こしてはならないので、賈ク【言+羽】は小声で返事をした。
彼の指示は、なかなかのものであった。何年もつきあいがあるのかというくらい、家人の体格・性格などを的確に把握し、指図をする。
この事は、戦にも通じるであろう。
(ほう…。この男、他の三人とはちと毛色が違う様だな)
牛輔は、そんな賈ク【言+羽】に興味を覚えた。彼ほど痩せてはいないとはいえ、自分も、姜を娶り董卓の娘婿となるまでは、この様に非力な青年に過ぎなかったのだ。
そう思うと、どこか親近感さえ感じられる。
それは、賈ク【言+羽】も同じだった。自分に似て、非力そうに見えるこの人物が、どうして董氏の信頼を得ているのであろうか。単に娘婿だからというだけではない、何かがある。そう思えてならないのである。
(いい機会だ。このお方の人となりをじっくりと拝見しよう)
牛家の家人に指示を出しながら、そんな事を考えていた。
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