小説 『牛氏』 第一部
77:左平(仮名)2003/08/31(日) 20:15
(よし!勝てるぞ!)
しばらく様子を見ているうちに、武術における、賈ク【言+羽】の弱点が見えてきた。それは、彼が非力である事だ。
(棒を構え、振り下ろす態勢に入るまでは実に素早い。だが、非力ゆえ振り下ろすのは遅い。…なるほど、だから私でもよけられたのか)
よく見ると、袖口からちらりと見える彼の腕は細い。力を入れている為に浮き出ている血管等がなければ、女のそれと見紛うほどである。
(あの腕が義父上ほどであれば…。ただの棒でも、私の頭は砕かれていたかな)
まだ攻められっぱなしなのに、そんな事を考える余裕さえ出てきた。
(となれば、だ。あいつが棒を振り上げた時こそ勝機!)
そう思った牛輔は、棒を短く持ち直した。

「やぁ−っ!!」
再び、賈ク【言+羽】が振り下ろす構えに入った。
「今だ!!」
そう叫ぶとともに、牛輔は賈ク【言+羽】の懐に入り、その腕をしたたかに打った。
「ぐっ!!」
短いうめき声とともに、賈ク【言+羽】の手から棒が離れ、地面に落ちた。乾いた音がした。

「殿!お見事ですぞ!」
一部始終を見届けていた盈が声をかける。ともかく、長としての威厳は保たれたというところか。軽くうなづく牛輔の額には、汗が滲んでいた。
一方、賈ク【言+羽】は、うずくまったまま押し黙っていた。
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