下
短編(?)です。
14:左平(仮名)2005/01/02(日) 20:20
「いえ、正室になどど厚かましい事は申しません。側室、いや婢女でよろしいのです」
「それはいいのですが…どうしてまたその様な話を」
「実は…我ら父子と飛燕の母は、かの董卓の乱の時に生き別れてしまいましてな」
「そういう事があったのですか」
「ええ。恐らくはあの混乱の中で死んだのでしょうが…まだ未練がございまして、今も探しておるのです。とはいえ、辺境にあってはあても無く…。ですが、今や漢朝の第一人者であられる殿の御許でしたら、何かしら手がかりが得られるかも、とそう思いまして」
「将になりたがらなかったというのはそういうわけですか」
「まぁ…」
「いいですよ」
「ありがとうございます。おい、飛燕や。若殿のお許しが出たぞ。入りなさい」
「若様、初めまして。冒突が娘・飛燕でございます。どうぞかわいがってくださいませ」
「ああ…分かったよ」
(あの時は女というものを知らなかったからな。もう何が何やらさっぱりで、飛燕の顔さえよく分からなかったもんだ。しかし、あれから二十年近くも経って振り返ってみると、おれは女運にはわりと恵まれてたな。初めての相手があんなにいい女だったんだからな)
(あとで知った事だが、父上も兄上も、若い頃から艶めいた話には事欠かなかったとか。いや、植もかなり早かったというな。志学を過ぎてからという俺が一番遅かったのかも知れん。まぁ、多少の早い遅いはあまり関係なかった様だが…)
「やれやれ、この冒突、こんな嬉しい事はございません。若殿、さっそくですが、ささやかながら粗餐をふるまいましょうぞ」
「えっ、なにか酒食の類でも?」
「はい。我ら遊牧の民に古来より伝わる料理をば」
「へぇ、どんなものですか」
「では、今からお見せしましょう。飛燕、羊を」
「はい。しばしお待ちください」
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