下
短編(?)です。
1:左平(仮名) 2005/01/01(土) 02:36 [左平(仮名) ]
文と威
一、
(むっ…。ふぅ。だめか。体が動かぬ。おれもこれまでってことかな…)
男は、心の中でそう呟いた。
省27
2: 左平(仮名)2005/01/01(土) 02:37
ふと気付くと、何やら足音が聞こえた。と思うと戸が開けられ、そこには息を切らした少年が立っていた。嫡子の楷である。
「父上!しっかりしてくだされ!」
彼には、今までひそひそ話をしていた家臣達の様な不快さは感じない。彼はただひたすらに父親の身を案じている。その純粋さこそ、男が愛でるものである。
「その声は…楷か…」
いまは、声を出すのも辛い。しかし、楷の哀しげな顔は見たくない。何とか力を振り絞って声を出した。
省17
3:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:21
二、
「誰だ!牆垣を壊したのは!…彰、またそなたか!」
「ごめんなさい!つい…」
「ごめん、とかつい、ですむか!こっちに来い!おしおきだ!」
省24
4:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:22
「どうした、彰。めずらしく考え事か」
「もう、兄上まで。『めずらしく』はないでしょう。わたしだって考え事の一つもしますよ」
「なんだ、私より先に何か言われてたのか」
「ええ、さっき、長兄に言われたんですよ。『何か一つでもいいから打ち込んでみろよ』って。何がいいんでしょうか」
「何、と言われてもなぁ。私は一通りやってるから、そんな事なぞ考えもしなかったが」
「ひ、一通りですか。長兄は『父上はそこまでは求められんだろう』っておっしゃってましたけど…」
省23
5:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:23
三、
(ともかくおれには、おとなしく書物を読むという選択肢はなかった。武芸しか選びようがなかったってわけだな)
「それでは、武芸を学びたいと思います」
「武芸か。となると、射術、馬術、それに撃剣といったところだな」
省27
6:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:24
「どうだ。このあたりの的を射てみるか」
「はい。ところで、どこを狙えばいいんですか?」
「まぁ、的の中心だな。矢を放てるからといって、狙ったところに放てん事には意味が無いからな」
「え−と…」
「おいおい、的の中心が分からんのか?しょうがないな。今回限りだぞ」
「じゃ、いきますね−」
省18
7:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:24
四、
(兄上に褒められるなんて、そうそうある事じゃなかったからな。おれは嬉しくて、毎日飽きることなく射術の鍛錬にいそしんだ。もちろん、騎射の鍛錬にも励んだ。こう言うと我褒めになるが、武術については、おれも兄上並に早々と体得した。あの頃は、本当、楽しかった…しかし…)
−建安二(197)年、長兄・昂、討死。ほどなく、昂の養母で正室の丁氏が離縁された。それに伴い、側室だった卞氏が正室となり、次兄の丕が嫡男になった−
省15
8:左平(仮名)2005/01/02(日) 01:25
「父上、お呼びですか」
「おお、彰か。入れ」
「はい、では」
「なに、そうかたい話ではない。…そなたの武術の腕前は相当なものというが、自分ではどの程度だと想う?」
「はぁ…。我流としてはなかなかだと想いますが、実践の機会がなかなかありませんから、何とも…」
「そうか。まだまだ鍛えなければというところか」
省28
9:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:26
五、
「若殿、どうぞおかけ下され」
「はい」
「まずは、そのご尊顔をとくと拝見しとうございます。…それにしても、漢人には稀なお姿でございますな」
「そうですか?鏡を見たこともあるけど、そんなに変わってるとは思いませんが」
省27
10:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:26
「私ですか?私は匈奴の出ですが、別に特別な者ではございません」
「匈奴には私の様な者が多いのですか」
「いえ、特に多いというわけではございません。たまたま、私がその様な者を見知っていたというだけの事です」
「その者はどの様な者だったのですか?」
「今、私が申しました通り、その者は眼が弱うございましたので、武術は不得手でございました」
「それは、体躯とは無関係に?」
省23
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