下
短編(?)です。
10:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:26AAS
「私ですか?私は匈奴の出ですが、別に特別な者ではございません」
「匈奴には私の様な者が多いのですか」
「いえ、特に多いというわけではございません。たまたま、私がその様な者を見知っていたというだけの事です」
「その者はどの様な者だったのですか?」
「今、私が申しました通り、その者は眼が弱うございましたので、武術は不得手でございました」
「それは、体躯とは無関係に?」
「はい。その者もなかなかの体躯をしておりました。しかしながら、眼が弱いゆえ、射術がうまくできぬのです。我らの中で射術ができぬというのは、それこそ士大夫が字を読めぬというのに等しいのです」
「では、私が人並みに射術を行っているというのは…」
「そうです。それ自体が一つの奇跡なのです。ゆえに、若殿は大変なお方なのです」
「何と…」
史書には、彰の容貌について、「黄鬚(黄色い鬚)」と記している。鬚が黄色いとなれば、恐らく髪も黄色であったろう。しかし、父・操も母・卞氏も、その髪の色について、格段の記述はない。
彼一人が不倫の子であるとは考えにくいし、万が一そうだとしても、当時の漢に金髪の人間などどれだけいたであろうか。
となると、彰は一種の突然変異 −この様にメラニン色素の量が少ないのを、学術的にはアルビノ(白子)という− であったのかも知れない。
「ま、まぁ、その様な者の中では、私が非凡だというのは分かりました。しかし、だからといって、私が皆の中にあってなお非凡であるかどうかは…」
「確かに、そうですな」
「では、私から一つお聞きしたい」
「何でしょうか」
「父から、あなたは張将軍にも劣らぬほどの腕前と聞きました。なにゆえ将になられないのかはまたあらためてお聞きするとして…。それほどの方でしたら、さぞや多くの将のもとで戦ってこられたでしょう。でしたら、ご存知のはずです。優れた将となるには何が必要かという事を」
「私は将としての経験がないという事をご承知の上で聞かれるのですな?」
「ご自身は将でなくとも、戦いの中で何かを見聞されているはずです」
「そこまでおっしゃるのでしたら…私で分かる範囲ですが、お話しましょう」
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