下
短編(?)です。
24:左平(仮名)2005/01/02(日) 20:27
「国譲(田豫の字)殿、ここは?」
「タク【シ+豕】郡でございます」
「ほぅ…ここがタク【シ+豕】郡ですか。確か、劉備…」
「はい。劉備、それに張飛はこの地の者です」
「…国譲殿、すまぬ事をした」
「?」
「あなたは、以前、劉備に仕えておられた事がありましたな。それに気付かず…」
「もう二十年以上も前の事になります」
「劉備の名を出したのは、他意があっての事ではありませぬ。ご気分を損ねたとすれば、謝ります」
「はは、将たるお方が部下に謝られる事はございません。丞相と干戈を交えたわけではありませんし、丞相も、私も、気にしてはおりませんよ」
「そうですか」
「それより、ゆめゆめ気を緩めませんよう、お気をつけくだされ。漢朝の郡県の内とはいえ、烏丸や鮮卑の連中がいつ襲ってくるやも知れませんからな」
「そうですな。かつて段紀明(段ケイ【ヒ+火+頁】。紀明は字。後漢桓帝期の名将)が辺境にあった時、褥に入る事がなかったと言いますしね。私も、それに倣いましょう」
そうしているうちに、部隊は、易水の近くまで来た。
「『風蕭蕭として易水寒し。壮士、一たび去りて復た還らず』。燕の太子丹が荊軻を見送ったのはこの河のほとりのどこかなのですね…」
「ええ」
「既に中原からは遠く離れている…。国譲殿、偵騎はどうなっておりますか?」
「それでしたら、既に放っております」
「そうですか。しかし、あなたのおっしゃったとおり、気を緩めてはなりませんね」
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