下
短編(?)です。
11:左平(仮名)2005/01/02(日) 20:18
六、
「幾多の戦場を駆ける中で、私なりに気付いた事があります」
「それは、どの様な事でしょうか?」
「ごく簡単に申しますと…将たる者には『威』と『徳』とが必要だという事です」
「『威』と『徳』ですか。詳しく教えてくださいませんか」
「兵書を読んだ事がありませんから、兵法として正しいかどうかは分かりません。それでもよろしいですか?」
「ええ。それはあなたの経験に基づいてますよね。それなら、ただの字よりもずっと為になるかと」
「では、お話しましょう」
「『威』というのは、まぁ、威厳ですな。『兵や将校達が、このお方には従わなければならないと思うだけの何か』です」
「何かって…いったい何なのですか?それが分かりませんと」
「それは、お父上をご覧になるのが一番でしょう」
「父上の持つ『威』…」
「一言付け加えますと、お父上の持っておられる『威』と若殿の持っておられる『威』は異なります」
「父上と私とでは『威』が異なる?そうおっしゃられても分かりませんよ」
「いえ、そう難しい事ではございません。お父上と若殿とでは、年齢・官位・貫禄・容貌・知識・体格・膂力・声…全く異なるでしょ?」
「ええ。容貌は似てますけど、他は随分異なりますね」
「お父上の『威』は、それまでに培ってこられたものから発しています」
「確かに。父上はこれまで、数え切れないほどの戦いに臨み、そして勝利された」
「…って事は、まだ戦いの経験の乏しい私には『威』がないという事ですか」
「若殿に『威』がないとは申しておりませんよ。お父上とは異なるというだけで」
「この私のどこに『威』が?」
「あるではごさいませんか。人並外れるという武勇が」
「ま、まぁ…そうですかね…」
「それも『威』になり得るのですよ。張将軍をご覧になればお分かりでしょう」
「なるほど」
上前次1-新書写板AA設索