短編(?)です。
18:左平(仮名)2005/01/02(日) 20:23
「まず、羊を仰向けに倒します」
「うん」
「次に、手に持った小刀で、羊の脇腹をすっと切り、そこから手を差し込みます」
「そう、そこまではあの時見えたんだ。その続きがどうなってるのかが分からない」
「腹の中には、肋骨の他に、心臓や肺腑を守る為の膜がありますから、手でそれを破り、さらに奥まで突っ込みます」
「そう言えば、手首どころか肘のあたりまで入ってた様な気がするな」
「その通りです。膜を破った手は、次に心臓まで持っていき、ひときわ太い血管を引きちぎります。そうすると羊は、衝撃と失血によりすみやかに死ぬのです」
「しかし、その時には血は一滴も出なかった。あれはどういう事?」
「あれは、血を胸の中に溜め込んで、外に流れ出ない様にしていたのです。ですから、調理する時にどっと溢れ出たのです」
「そういう事か」
「しかし…すみやかに心臓に届かないとえらい事になるな。羊も苦しませてしまうし」
「そうですね」
「どうすれば心臓の位置が分かるかな?」
「まぁ…まずはその拍動を確認してみる事ですな」

そう言うと、冒突は、羊をひょいと仰向けにしてみせた。羊は、呆れるほど抵抗しない。

「このあたりですよ。耳を当ててみなされ」
「どれ…本当だ。確かに聞こえる」
「我らは、こうして羊とじゃれあいながら、おのずと臓器の位置を把握してるのですよ」
「なるほどなぁ…。何となく、見えてきたよ」
「では、いきますか」
「そうだ、一つ頼みがある」
「何でしょうか」
「この技は…できるだけ内緒にしたいんだ」
「なぜですか?」
「ちょっと考えがあるんだ」
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