下
短編(?)です。
7:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:24
四、
(兄上に褒められるなんて、そうそうある事じゃなかったからな。おれは嬉しくて、毎日飽きることなく射術の鍛錬にいそしんだ。もちろん、騎射の鍛錬にも励んだ。こう言うと我褒めになるが、武術については、おれも兄上並に早々と体得した。あの頃は、本当、楽しかった…しかし…)
−建安二(197)年、長兄・昂、討死。ほどなく、昂の養母で正室の丁氏が離縁された。それに伴い、側室だった卞氏が正室となり、次兄の丕が嫡男になった−
省15
8:左平(仮名)2005/01/02(日) 01:25
「父上、お呼びですか」
「おお、彰か。入れ」
「はい、では」
「なに、そうかたい話ではない。…そなたの武術の腕前は相当なものというが、自分ではどの程度だと想う?」
「はぁ…。我流としてはなかなかだと想いますが、実践の機会がなかなかありませんから、何とも…」
「そうか。まだまだ鍛えなければというところか」
省28
9:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:26
五、
「若殿、どうぞおかけ下され」
「はい」
「まずは、そのご尊顔をとくと拝見しとうございます。…それにしても、漢人には稀なお姿でございますな」
「そうですか?鏡を見たこともあるけど、そんなに変わってるとは思いませんが」
省27
10:左平(仮名) 2005/01/02(日) 01:26
「私ですか?私は匈奴の出ですが、別に特別な者ではございません」
「匈奴には私の様な者が多いのですか」
「いえ、特に多いというわけではございません。たまたま、私がその様な者を見知っていたというだけの事です」
「その者はどの様な者だったのですか?」
「今、私が申しました通り、その者は眼が弱うございましたので、武術は不得手でございました」
「それは、体躯とは無関係に?」
省23
11:左平(仮名)2005/01/02(日) 20:18
六、
「幾多の戦場を駆ける中で、私なりに気付いた事があります」
「それは、どの様な事でしょうか?」
「ごく簡単に申しますと…将たる者には『威』と『徳』とが必要だという事です」
「『威』と『徳』ですか。詳しく教えてくださいませんか」
省27
12:左平(仮名) 2005/01/02(日) 20:19
「では、『徳』というのは?」
「ありていに申せば、『この将に従えば戦いに勝ち、生還できるかどうか。そして、褒賞にあずかる事ができるかどうか』という事です」
「戦いに勝てるかどうかというのは、結局はその将器に帰するものではありませんか?」
「そうですね。その通りです。ただ、私の申し上げます『徳』というのは、単に兵略の才のみを指すのではありません」
「と言いますと?」
「なるほど、『威』と兵略の才をもってすれば、眼前の戦いに勝つ事はできましょう。しかし、それが戦いの全てではございません」
省17
13:左平(仮名) 2005/01/02(日) 20:20
七、
(おれが将たる事を意識し始めたのは、この時だったのかも知れない。考えてみれば、父上の子である以上、一介の武人というだけでは済まないからな)
冒突の話を聞いた彰は、しばらく考え込んだ。父にはなく、自分にはあるこの武勇を、いかにして『威』に転ずるか。また、どうすれば『徳』を得られるか。
それには、更なる鍛錬と経験を積むしかないというのは分かった。その為には、今後、従軍できる機会を無駄なくおのれの血肉とせねばなるまい。また、より一層武術を磨き、誰からも侮りを受けない、揺るぎないものにする必要もある。
省17
14:左平(仮名)2005/01/02(日) 20:20
「いえ、正室になどど厚かましい事は申しません。側室、いや婢女でよろしいのです」
「それはいいのですが…どうしてまたその様な話を」
「実は…我ら父子と飛燕の母は、かの董卓の乱の時に生き別れてしまいましてな」
「そういう事があったのですか」
「ええ。恐らくはあの混乱の中で死んだのでしょうが…まだ未練がございまして、今も探しておるのです。とはいえ、辺境にあってはあても無く…。ですが、今や漢朝の第一人者であられる殿の御許でしたら、何かしら手がかりが得られるかも、とそう思いまして」
「将になりたがらなかったというのはそういうわけですか」
省21
15:左平(仮名)2005/01/02(日) 20:21
八、
「若様、父上。用意ができました」
「では若殿。参りましょう」
「えっ、どちらに?」
「この料理の支度は野外でするものですからね。ちょっと外に」
省24
16:左平(仮名)2005/01/02(日) 20:22
冒突は、その後も驚くほどの手際の良さで羊を解体していき、日がすっかり暮れる前に料理はできあがった。
「ほら、できましたぞ。若殿、さあ、たくさん召し上がってくだされ」
「じゃ、いただくよ」
(あの時の羊、野趣にあふれてけっこう美味かったなぁ。しかし、俺にはあの技が頭から離れなかった。どうすればあんな事ができるのかと、しばらくの間、そればかり考えてた)
省20
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