下
短編(?)です。
21:左平(仮名) 2005/01/02(日) 20:25
十一、
「曹氏の仲子が、素手で虎を仕留めた」
この噂は、あっという間に広まっていった。それが、彰の武名を大いに高めた事は、言うまでもない。
「彰がのう…。我が子ながら大したものだ」
父も、そう言って喜んだと聞く。彰には、それが何より嬉しかった。
ただ、この頃、父と兄の間には、やや微妙な空気が漂っていた。
父が狙っていた絶世の美女・シン【西+土+瓦】氏を、兄が我がものとした為ともいうし、父が、環夫人との間の子・沖を愛し、彼を後嗣に立てようと考えていたからともいわれる。
彰にとっては、どうでもいい事ではある。しかし、兄に何かあった場合、後嗣の座に最も近い者の一人であったのもまた事実。
(父上のあの言葉は…おれの器量を量ろうとしていたのだろうか…まさかな)
「彰よ」
「はい」
「そなたは書を読んで聖人の道を慕わず、馬に乗り剣を振るう事を好んでおるが…それは匹夫の働きに過ぎぬのだぞ」
「はい」
「ゆえに、そなたには、『詩(詩経)』『尚書(書経)』を読む事を課す。分かったな」
「はい」
(父上の仰せは絶対だから、側仕えの者に読ませ、聴く事にした。内容を理解できておれば叱られる事もないと思ったからな。事実、あれからは、無学の故に叱られるということはなかった)
(ただ、妙に引っかかった。兄上には何ら問題はないし、植も沖もいるのだから、わざわざおれが学問をする必要もないのに…)
だからこそ、あんな事を言ったのかも知れない。その頃の事を振り返り、彰はそう想った。
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