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■ ★しょーとれんじすと〜り〜東晋ハイスクール★

1 名前:玉川雄一:2002/02/08(金) 17:24
誠に勝手ながら、SS板から東晋ハイスクールを分離独立させました。
ネタの解説とかも入れて行こうと思いますので、分けた方がいいかな、と。

では仕切り直して始めたいと思います。

2 名前:玉川雄一:2002/02/08(金) 17:28
 ■東晋ハイスクール・不退転の決意■

「ちょっと、それって要するに全部自腹でやれってことですか!?」
 蒼天学園と呼ばれていた一大学園都市、その一角。
 その呼称に従えば揚州校区、建業棟の棟長室での一コマだった。
「仕方ないんですよ…それは、わかって下さい」
 一人気炎を上げる少女に、申し訳なさそうに頭を下げる彼女の名は司馬睿。
 よんどころない事情でこの揚州校区を預かる立場にあった。

 そして、その司馬睿に詰め寄っている少女は名を、祖逖、士稚。
 憤懣やるかたない表情は変わらなかったが、彼女とて事情は十分に理解できていた。
 そう、学園はいまや未曾有の大混乱に陥っていたのである。


 司馬炎による学園統一で訪れた平穏は束の間のものでしかなかった。
 統合学園計画の見直しにより、後漢市外からの学生の流入が頻発。
 折しも学園は蒼天会の内紛−後に“八王の乱”と称された−で揺れており、
 外部からの侵入に対処する能力を喪失していた。
 これにより、学園のほぼ北半部が外部より参入した学校に強制編入されてしまう。
 司馬一家をはじめ多くの学生が「飛ばし」に遭い、またあるものは自主的に階級章を差し出した。
 もはや「蒼天学園」は名ばかりの存在となり、後漢市には数多くの学校が乱立。
 各校は統合学園計画によって大きな枠の中では繋がっているが、
 その実自校の勢力を少しでも拡大せんものとして学校間で紛争が激発していた。
 それは、後漢市がわずか数年前までのあの激動の日々に逆戻りしてしまったことを意味する…


 かつての蒼天学園の流れを汲むものは「女子部」として、
 辛うじて荊、揚、廣、交らの南方校区を押さえるのみ。
 また、北方では涼、平、幽州校区などには浮島のように、
 未だ蒼天学園への在籍を主張する者達もいた。
 しかしそれらも波に飲み込まれるように姿を消して行き、
 やがては南方校区のみが生き延びることになる。
 それはいつしか名を変えて、「東晋ハイスクール」と呼ばれることになるのだが…
 さしあたっては、まだ先のことである。

3 名前:玉川雄一:2002/02/08(金) 17:33
 祖逖が目指していたのは、外部学校に「奪われた」北方校区の奪回。すなわち、“北伐”であった。
 しかし、何せ、物もなければ人も足りない。祖逖と志を同じゅうする少女達の一団だけでは、
 到底成功はおぼつかなかった。そのため、彼女はここを訪れているのである。
 本来の蒼天会長は現在、北方校区で他校の勢力下にある。
 あるいは、既に「飛ばし」にあったとの噂もあった。
 現時点では、数少ない蒼天会幹部生き残りとして、この司馬睿が暫定的にトップの地位を代行していた。
 祖逖は、彼女から少しでもよい条件を引き出すべくなおも食い下がるのだった。
「うん、ごめんなさい、無理を言って…。でも、せめて人員と最低限の装備だけでも…」
「待って」
 そこへ、今一人の少女が祖逖を押しとどめるように進み出た。
 祖逖は一瞬口を開きかけたが、その少女の表情を見て口をつぐむ。
 少女の名は王導。徐州校区琅邪棟に学んだ名門、いわゆる「琅邪王氏」の一門に連なる身である。
 かつて司馬睿が琅邪棟長を務めていた縁で、王導は彼女のブレーン的な立場となっていた。
 彼女は祖逖の目を見つめると、少し間をおいて告げる。
「…わかりました。では、物資だけはできうる限り出しましょう。
 ですけど…ごめんなさい、人員はもう、こちらからは割けないの」
 王導のその言葉を聞いて、祖逖もこれ以上無理押しはできなかった。
 現状を鑑みれば、ここまでしてもらえれるだけでも御の字というものだろう。
 祖逖は大きく一息つくと、二人に向かって頭を下げた。
「本当に、無理なことお願いしてごめんなさい。でも、私は絶対にやり遂げてみせるから」
 祖逖の瞳には容易ならぬ決意の程が見て取れた。司馬睿は複雑な表情で答える。
「うん、大したことはしてあげられないけど、頑張って…」
 そして、少し考えた後、どこか後ろめたそうに付け加えた。
「それと、気休めかもしれないけど… 貴方を予州校区総代に任命します。
 生徒会があんなことになってしまっているから、私の名前で出しますね」
 それがせめてもの罪滅ぼしなのか、微妙なところではあったが…
「ありがとう。必ず奴らから学園を取り戻すわ。それまで、その地位、私が預かります」
 祖逖は今一度頭を下げた。
 王導は、何かを言おうとしたが結局口をつぐんだ。

 手続きを済ませると、祖逖は準備に取り掛かるため棟長室を辞去した。
 小走りにどこかへと走っていく姿を窓から眺めながら、王導はひとりごちた。
(士稚さん、ごめんなさい。私達は今、北伐には動けないわ。そしてたぶん、これからもずっと…)

4 名前:玉川雄一:2002/02/08(金) 17:45
 司馬睿や王導には、自ずと祖逖とは微妙に異なる思惑があった。
 王導とて、ある時は北方校区の回復を叫んで皆の気を奮い立たせた事もあった。
 しかし、多分にそれはパフォーマンスの域にとどまるものであり、
 実際問題としては足元を固めるのに精一杯なのである。
 そして、ややもすればこの地を新たな地盤として定着する方向にシフトしつつあった。
 言い換えれば、本気で「中原回復」を図る意志を捨てた、とも言えるのである…


「姐さん! どうでしたか?」
 棟長室を出た祖逖は、とある女生徒の人溜まりの中に足を踏み入れた。
 とたんに、彼女の周りにワラワラと少女達が群がってくる。
 祖逖は口々に首尾を問いかける声を制すると、辺りを見回し声を張り上げた。
「予想通りね… 大して期待はできないわ! 物は出すけど人は出さない。
 …まあ、“物”だってたかが知れてるでしょうけど」
 その言葉に、あちこちから落胆の声が上がりかける。祖逖は機先を制するように声を継いだ。
「だけど! 私達が力を合わせれば、きっと道は開けるわ。目に物見せてやるわよ!」
 祖逖にはある意味、人を惹きつける力が備わっていた。
 もちろんそれは実力に裏打ちされたものであったが、
 彼女の言葉が皆の勇気を奮い立たせる事もまたしばしばだったのである。

 かくして、祖逖以下数百人の「義勇軍」はなけなしの装備を調えると、建業棟を進発していった。
 それを見送る者達の胸中は様々である。
 北方校区から流れてきた者にとって、その姿には少なからず心を熱くさせるものがあった。
 だが、本来この校区で学園生活を送ってきた者にとっては、
 面倒ごとに巻き込まれるのは願い下げ、という思いが少なからずわだかまっていたのである。
 この齟齬が、後にどのような結末をもたらすか。祖逖はまだ、それに気付いてはいない…

 一団は長湖に乗り出した。数十隻の舟艇に分乗し、長湖北岸を目指す。
 彼女たちは以前から祖逖に親しんできただけあって、数は少なくとも士気は高い。
 軽快なピッチでオールは水をかき、流れるように船は進む。
 やがて、湖の半ばまで達したところで祖逖は一旦行き足を停めた。
 自らの座乗する艇を船団の真ん中に進めると、その手に持ったオールを高く差し上げる。
 そこで一団を見回すと、熱のこもった視線が刺すように感じられた。
 祖逖は満足そうに頷くと、北を指して言い放つ。
「私は、必ず中原校区を取り返す! それがかなわなければ、二度とこの長湖を渡って戻りはしない!」
 一瞬、空気が静まった。その次の瞬間、割れんばかりの喊声がわき起こる!
「おーーーっ!!」

 こうして、祖逖の北伐行は幕を開けた。


 ■とりあえず劇終■

5 名前:★ぐっこ:2002/02/08(金) 21:58
スレ移行祝賀あげ〜!
とうとう東晋ハイスクールの全容が明らかになりだしたですね!?
祖逖たん、勇ましい!
もはや蒼天会も死に体で、ひとり南で気を吐く彼女…。
北伐の行く末が気になります!

あ、この晋代以後の人物について元ネタ知りたい方は、
http://ww1.enjoy.ne.jp/~nagaichi/index.html target=_blank>http://ww1.enjoy.ne.jp/~nagaichi/index.html
の人物辞典を調べると幸せです!

6 名前:項翔:2002/02/09(土) 13:59
すごい、すごいですよ!!(←ボキャ貧)
このストーリー一本に、設定や今後の展開に対する期待を十分に抱かせてくれる物がたっぷり詰まってますっ!! 私ももっとしっかりと勉強して少しでもついていけるように頑張らないと…

7 名前:項翔:2002/02/09(土) 14:04
すみません、エラく文字化けしてますね(^_^;)
"р烽烽チ"→"私ももっとしっかり"です…

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