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第一部「南の国の呂布奉先」
第二部「蜀を得て隴を望む」
第三部「風は荊州から」
第四部「窮地」
第五部「中原へ…」
第六部「合従連衡」
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「戦姫相撃」
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「世界を、征服する少女」
 「いつかきっと、追いつけるはず」
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 ――遠坂凛は、呆然の態で立ち尽くしていた。

 彼女の眼前に広がる光景は、異様を通り越して意味不明である。

 …彼女は今宵、秘術の限りを尽くして魔術儀式を行い、ある英雄の魂魄を現界せんと企てた。
 方円に組まれた法陣の中心に、その英霊は降臨し、彼女に跪いてこう問い掛けるはずであった。
『我を呼びし術者よ――貴方が、今宵より我が剣を託す、我が主たるお人か――?』
 と。

 だが、結儀の瞬間、英霊は目前に降臨せず、かわりに階上の屋根が突き破られたとおぼしき騒音が洋館中に轟きわたったのである。
 魔術の完遂からくる法悦を一瞬で中断し、凛は全力で階段を駆け上がり、轟音の元へと駆けつけた。
 そして彼女が目にした光景はというと――

 

 

 

 

 

………
……

 私立穂群原学園二年。容姿端麗・頭脳明晰・文武両道・絶対領域、と妙齢の女子生徒としてのあらゆる美点を兼ね備えた超優等生である彼女は、同時に平成の世を生きる現役バリバリの魔術師でもあった。
 
 魔術――といっても、魔法の入門書を片手にカタカナで書かれたヘブライ古語をブツブツ読み上げたり、意味不明な魔法陣をとりあえずトレースして通販で買った鉱石の欠片を配置してみる――などという後の人生において黒歴史入り確実な学生オカルトのレベルでは無い。
 地方名士として知られる遠坂家は、その実、累代魔術の家系であり、その現頭首・たる凛も、魔術刻印と呼ばれる一子相伝の魔法系統を肉体に埋め込み済みだ。
 遠坂凛は、若輩ながら万物の理を裏側から読み解き、自在に使い魔を使役し、その気と触媒が揃えば人間を吹き飛ばすことぐらい造作もない――要するに「ホンモノの魔女」であった。

 彼女は、今年ついに勃発する「第五次聖盃戦争」に参戦すべく、傍目には優雅に、実際は必死に学生生活と両立させながら、今宵に至るまでの準備を完璧に揃えていた。
 
 ――そして今宵、本番。
 
 遠坂凛は、儀式に失敗した。
 
 厳密にいえば失敗ではないだろう。
 失敗どころか、数十年の齢を重ねたベテラン魔術師ですら後込みするような難易度の儀式を、完璧に執り行った彼女の魔術技能は賞賛されて然るべきであろう。
 手順は完璧だった。施術も完璧だった。
 だが、彼女は自宅の時計が一時間ずれていた事を、すっかり忘れていたのである。

 


『我ながら何という出オチ!!』

 床から生えているように屹立する両脚の下方から、くぐもった哄笑が響き渡った。
 由緒有る洋館らしく、床・天井はことさらに分厚い造りではあったが、目の前の両足の突き刺さりっぷりと声の遠さから察するに、上半身は余裕で階下まで貫通していることは明らかである。想像したくもないが、下の部屋の光景はこのフロア以上に喜劇的であろう。

「……………。」
 
 ――遠坂凛は幼少時より徹底的に英才教育を施されい、いかなる時、いかなる事態に遭っても、常に冷静沈着に、そして優雅に振る舞えるよう鍛え上げられていた。
 だが、さすがに、この時ばかりは、唖然としたまま、床に突き立つ魁偉な脚二本を眺めるしかなく、

「…むかし八つナントカ村って映画にこういうシーンあったわよね…」

 と、級友・美綴綾子の家で見た映画のタイトルを思い出そうと、無意識に思考逃避を行う程度には混乱していた。

 と。

『違ぇーよ!!』

 階下から再び響く哄笑。
 やや非難の響きを帯びたその声は、凛がマスターたるに相応しいアクションを起こし得なかった事に対しての糾弾であったのか、映画のタイトルが残念な間違い方をしている事への指摘なのか――。
 声の主たる両脚は、しばらく半開きのままユラユラ凛の眼前で揺らいでいたが、不意に勢いよくビシィっと揃ったかと思うと、そのまま吸い込まれるように階下へ落下していった。
 凛は無言で、その様を見送る。

 

  

 

 聖盃戦争――

 奇蹟をもたらすという聖なる盃を求め、約60年周期で行われる魔術師どうしの戦争である。
 聖盃、といっても、「教会」が探し求めるいわゆる聖遺物・神器の類ではない。
 それは、想像を絶する程の魔術式と魔力の集結によって人為的に具現化される、「現象」のようなものだ。
 人類の学究が、試行錯誤を繰り返しながらようやく至った「観測・再現可能な」学術上の「奇蹟のようなモノ」。

 だが、神代の残滓であれ人工の魔術機械であれ、その「現象」によって人類が被る恩恵は等しく甚大であった。
 すなわち、
 「所有者のあらゆる願いを叶える」
 ――。
 
 
 「願い事が叶う」とは、なんともシンプルで魅力的な戦争理由だ。
 かくして此処日本は冬木の地にて、江戸末期だか明治初頭だかの黒船維新の真ッ最中、外法魔導の輩が、互いに秘術を尽くして争奪戦を繰り広げることと相成った訳である。

 

 ――さて。

 物語の舞台は、平成の現代、冬木市だ。
 小振りながらも霊山と謳われる山を背負いつつ、麓から平野部に至れば海浜拠点としての開発も進む、何処にでもありそうな中規模都市である。
 
 その一角の、特に高級住宅地として知られる区画に、遠坂の洋館はある。
 この地の魔術の名門・遠坂家は、冬木を含む広大な管区を魔術的に監督する、セカンド・オーナーと呼ばれるポストにあり、いわば200年来の魔術領主とさえいえる存在であった。
 その遠坂邸――


 凛は、大男といってよい魁偉な武人と、相対していた。
 さきほどの上下に大穴のあいた部屋ではなく、1階のリビングで、あらためて凛は、己が召還した英霊と向かい合っているわけだが――

「…巫山戯てるわけ?」

 凛の声は、敵意の一歩手前までに刺々しい。
 
「何が?」

 と、英霊。こちらはリラックスしきった態で、ソファーにくつろいで、凛が渋々淹れた紅茶を啜っている。
 
「何なのよ、あんたのステータス」

 凛は吐き捨てるように言った。

「うむ? 統率:94、武力:100(+8)、知力:25、政治:16。確かに文官系能力がもちっと欲しいところだが、まあアレだ、変にバランスを意識した二流武将より、よほど使い勝手がいいと思うぞ?」

「何の話よっ!」 

 凛はテーブルを勢いよく平手で叩き、ティーカップがトレイごと卓上に踊る。

「あたしが言ってるのは、サーヴァントとしてのあんたの能力よ!」

 ――サーヴァント。
 この概念もまた、聖盃が起こしたある種の奇蹟――少なくとも人倫の業ではない現象だ。
 此処冬木における聖盃戦争とは、魔術師による奇蹟争奪戦に他ならないが、たった一人の勝者が聖盃を手にするまで、実際に戦闘し、敵対する競争者を排除してゆく役割を負うのは、魔術師本人ではなく、彼らが召還し使役する「サーヴァント」と呼ばれる存在だ。
 サーヴァントは、別に英霊とも呼ばれる存在で、聖盃戦争が行われる度、この世界に召還される。
 名の示すとおり、元々は名のある英雄、あるいは神話上の人物たちだ。
 人為的に具現化された聖盃という名の魔術機械は、過去未来を問わず、歴史・伝説・神話上の存在を、実際にこの世界へ呼びつけ、幾千年の幻想から呼吸する肉体へと変換し、召還主のしもべとして使役させてしまうのだ。
 ここまでくると、もはや魔術の結晶と言うよりは魔法の領域であり、もう少しばかり方向が変われば、神の御手による奇蹟とも等しくなりうる、人倫すれすれの業であった。

 少々現界の仕方が胡乱であったものの、凛の前でくつろいでいる巨漢もまた、史上に名高い英雄であるに違いなかろう。
 満身これ筋肉という豪放な造りの肉体であるが、改めて見ると、その上に載っかっている彫り深い貌は存外若々しい。「濃い」顔立ちが好みの人間にとっては、絶品と言うべき男前であろうが。

「…まず、あんたのクラスが解らないのよ! 結局、何のクラスなのよ!?」 

「おいおい、人にクラスを聞くときは、まず自分のクラスを先に言うのが礼儀というものだろう」

「えっ――そ、そうね、私は2年A組――って違ぁうッ!」
 
 今度は拳で、凛はテーブルを打擲する。さっきよりも派手にカップが跳ね上がり、果たして薄紅の液体が芳香を帯びた湯気を撒き散らした。

「いいノリツッコミだ」

 巨漢の爽やかな物言いに、凛は殺気走った視線を送る。

 クラス――とは、兵科とも言い換えてよく、簡単に言えばサーヴァントの職業のようなものだ。
 人間が創り出した幻想をカタチにする過程において、聖盃はこの世に召還されたサーヴァント達に、それぞれの特徴に応じた性能を割り振るのである。
 というより、それぞれの兵科に相応しい英霊が、サーヴァントとして召還されるというべきか。

 セイバー(剣士)、ランサー(槍兵)、アーチャー(弓兵)、ライダー(騎手)、バーサーカー(狂戦士)、キャスター(魔術師)、アサシン(暗殺者)

 この7つのクラスのいずれかに、英霊達は割り振られ、生前あるいは伝承に相応しいスキルと、宝具とよばれる得物を有する事になる。

「――で、あんたのクラスなんだけど」

 凛は、ジト目で自分のサーヴァントを睨みつつ、紅茶をすすった。
 
「あたしには、見えないのよ。マスターなのに。本来、こんな事あり得ないわ!」

 魔術の結晶として極限まで洗練された結果、冬木の聖盃は非常にシステマチックな概念を持つに至った。
 聖盃に選ばれたマスター達は、サーヴァントの能力やステータスを、瞬時に把握する事ができる。これらは脳内で自動的に数値化され、「筋力A」だの「耐久力C」だの「魔力A+」だのいうパラメータへと変換されるのだ。
 まるでゲームのキャラクターメイキング画面である。
 今日では、まさにそのようにして「ゲームのようだ」と喩えることが出来るが、TVゲームなど無い一世代前の聖盃戦争時では、実に画期的なインターフェイスであったに違いない。
 しかし――いまの凛には、そのGUIよろしきパラメータ画面が、視認できないというのだ。

「…あんた、本当にサーヴァントなの? ていうかホントに英霊なの?」

 じろじろと、凛は巨漢を眺めやった。

「さっきから、何度ためしてみても、ホントに武力とか政治力とか、意味不明なパラメータしか出てこないのよ」

 凛は深々と溜息をつき、項垂れた。
 万全の準備を整え、万全の調整をして挑んだ大儀式での失敗。
 あるいはその失敗の影響で、本来聖盃戦争と関わりのない、どこかの豪傑を間違って引っかけてしまったのではないか?――などという不安が頭をよぎっていたのだ。

「…やり直しできないかな」

 ボソっと呟く凛を、巨漢は鼻先で嗤った。
 
「トオサカ・リンと言ったな。まず、俺様の名前を聴いてから弱音を吐けよ?」

「…何よ」

 サーヴァントは、獰猛な笑貌を凛へ向けた。そして堂々と己が真名を言い放つ。

「我こそは、呂布、字は奉先」

「呂…布…!?」

 まさか、という表情で息を呑む凛に、呂布を名乗るサーヴァントは続けて言った。

「――南蛮の王にして、天下最強の武人よ」

 

 

 


 呂布、字は奉先――
 その名は、とりわけ東アジア一帯においては、特別な意味を持つ。
 意味するところは、

 ――最強

 の二文字だ。

 日本、中国を通じて、最も人口に膾炙している講談は間違いなく「三国志」であろう。
 その中でも特に有名で、かつ最も多くの人々から畏敬の対象となり、ついには神の座に祭り上げられた人物は関羽、字は雲長という猛将である。
 しかし呂布は、悪役として登場しながらも、ついにはその武神関羽ですら歯の立たぬ暴風雨のような存在として最強で在り続け、そして最強の名を抱いたまま――叛将の奸計により捕殺される運命を辿る。

「本当に…呂布なの? あの、三国志の?」

 凛とて、東アジア史に通暁しているわけではないが、魔術師として以前に読書家として、中国三大奇書は一通り読了している。呂布の名も生涯も、無論、知識の裡にあった。
 
「うむ」

 サーヴァント、英霊・呂布は、得意げに鼻息を吹き出した。
 17世紀を経てなお赫々たる我が武名に、満足そうな表情だ。

 ――が、次の瞬間の遠坂凛は、その呂布の得意を荒々しくへし折る。
 
「あんたバカにしてるの!?」

 テーブルとティーセットが三たび目の悲鳴を上げた。
 急に怒鳴られた呂布は、「え?」という貌で半身後ずさった。それを凛の繊手が追撃し、胸ぐらを掴む。

「呂布っていったら、確か北の方の武将でしょう! なんでそこに南蛮なんて出てくるのよ!」

「ム…?」

 呂布、ちょうど困惑した虎の如き風情で、目前に迫る美少女の形相を見遣る。

「あー…しかしだな、俺様は確かに南蛮の王として、中華の半ばを統一したとこまで行ってたんだぞ? …嘘じゃないぞ?」

「むちゃくちゃ嘘じゃなの! あたしの知ってる呂布は、最後は部下に裏切られて、捕らえられて処刑されてたわよ! 少なくとも南蛮じゃないところで」
 
 呂布、ふいに思い出したように、頭上に戴く冠を指さした。

「ほら、触覚が付いてるだろ? 呂布のシンボルだな」

「会話しなさいよ!」

 ――などと、とことんまで話が咬み合わない。

 

「…つまり、あんたは呂布に間違いなくて、でも処刑されてなくて、南蛮で改めて旗揚げして、中国の西半分を制圧した――というわけね」 

 凛は頭痛に耐えかねるというジェスチャーをしつつも、どうにか呂布の要領を得ない与太話を纏めて見せた。

「おう。大筋ではそんなところだ――って何だ、その邪気眼系厨二病患者を看守るような目は」

 呂布は居心地悪そうに、凛の冷めた目線を回避しようとする。

「呆れもするわよ。少なくとも、貴方の言っている歴史は、私たちの知っている歴史から大きく外れているわ。悪いけど誇大妄想患者の弄言としか思えない」

 凛は冷然と言い放ちながらも、魔術師らしく、極少の可能性を推論している。

 ――あり得るとしたら、平行世界からの超例外的干渉。
 平行世界の概念は、魔術の究極の到達点――いわゆる「魔法」によって解明可能とされる。
 全世界でたった4人だけ現存する「魔法使い」の一人、「時の翁」シュバインオーグ師は、平行世界を踏破する「第二魔法」の使い手と目され、現在もどこかの平行世界を旅行中であるという。
 人間の創った魔術の最高傑作と言うべき「聖盃」であれば、あるいはその第二魔法にも通じる現象を、偶発的に引き起こす可能性があるかもしれない。
 つまり、この呂布は、「本当に呂布が南蛮王として君臨した平行世界」からやってきたかもしれないのである。

「――ふむ、難しい話はよく解らん」 

 凛のせっかくの思案を、呂布は一言で流す。
 憮然とする凛を、しかし呂布は嬉しそうに見遣った。

「…だがまあ、相互理解の大いなる一歩目だ。それにオマエも、俺様のような英雄を呼び出せてラッキーではないか。」
「アンラッキーよっ!」

 この日何度目かの掌底をが高価なテーブルに撃ち込まれる。

「なんでせっかくのサーヴァントが、こんなバッタもんの呂布なわけよ!」
「バッタもん!?」

 絶句する呂布に、凛は鋭い視線を突き刺した。

「さっきの話の続きだど、結局あんた、クラスは何なのよ! 聖盃に招かれた英霊なら、自動的に認識できるはずよ!」

「フム。そうさな。さっきは色々アレだったんで混乱したが」

 呂布は目を閉じると、やおらたくましい右腕を掲げた。
 ――次の瞬間、光芒が凝縮したかのような瞬きを見せ、忽然と、3メートルはあろうかという化け物のような大矛が出現した。
 
「――戟」

「その通り。俺様といえば方天画戟。方天画戟といえば俺様」

 呂布は獰猛に笑う。
 その肉食獣さながらの笑みには、先程迄の空とぼけた弛緩は無く、その威名に相応しい剛風が、室内を吹き抜けるようであった。
 この時はじめて、凛は掛け値なしの畏敬の視線を、呂布と、彼の宝具へ向けた。

「…それがあんたの宝具ならば、クラスは当然、槍兵、つまりランサーというわけね」
「ところがそうでも無いんだな」

 呂布が指を鳴らすと、こんどはソファーの後ろの空間をへし曲げるようにして、子象程はあろうかという巨大な馬が闊々と出現した。
 予想外の怪異に、凛は思わず後ずさる。

「怯えるなよ? 頭蓋を噛み砕かれるぞ」

 呂布は真顔で凛に言う。炎のように深紅色の鬣を逆立て、怪馬は凝っと凛を睨み付けている。

「せ…赤兎馬…!?」

「おう。俺様といえば赤兎馬。赤兎馬といえば俺様」

 先程とおなじような節回しで、呂布は楽しげに言った。

「ちなみに解るかもしれんが、コイツは宝具じゃないぞ」

 呂布が言うまでもなく、凛は聖盃戦争のマスターとして、眼前の化け物馬を知覚している。
 この馬は――馬でありながら、れっきとしたサーヴァント…英霊だ。
 千年の時を経て、なおアジアの地に冠たる天下一の名駿は、とうに神格を得て、人間ごときを睥睨する存在となっていたのだ。

「…宝具でないとすると…騎兵…ライダーというわけでもないのよね?」

「うむ。まあ、戦場が許す限りは、コイツの背に載って闘うだろうがな」

 呂布が懐かしげに赤兎馬の逞しい頸筋を撫でてやると、赤兎馬も目を細めて、旧主の愛撫を甘受する。

「…じゃあ、結局、あんたのクラスは何なのよ」

 呂布は、無造作に弓を引く動作をしてみせた。
 
「え?」

「コレだ」

 呂布、見えない弓弦をぱっと手放す。反動で弓手がぶれる所も再現する、なかなか見事な弓術のパントマイムだ。

「…弓兵?」

「ご名答。――まあ俺様の場合、一矢で歴史を変えたのがポイントだろうな」

 凛とて知っている。この呂布が、轅門に立てた戟を射当て、見事戦争を仲裁してのけた歴史的事実を。
 三国志に限らず、史書を紐解いて枝葉までを読めば、作家の創作ではないかと思えるほどに劇的、人間離れした逸話などが散見できる。呂布が放った一矢などは、けだし好例と謂えるだろう。
 
「つまり、アーチャーというわけね」

「うむ。だが見ての通り、この赤兎馬に載って戟を振るえば、槍兵だの剣士だのが束になって掛かろうとも相手になるまい。射てよし、斬ってよし、載ってよし、だ。弓矢に囚われないフリースタイルが俺様の売りなんだぜ」

「あー…わかったわ。あんたの武勇は認めるわ。とりわけ、アジアが舞台の聖盃戦争ならば、呂布以上の猛者は望むべくもないわね」

 凛は、南蛮王を名乗る珍妙な呂布を、ようやく容認した。

「じゃあ、これからあんたは、私のサーヴァントね。アーチャー」

 凛は、アーチャーと向き合って、立つ。

「私に誓約しなさい。この聖盃戦争に打ち勝ち。聖盃を必ず私にもたらす、と」

「うむ。約束しよう――」

 アーチャーは、剽悍な笑みを浮かべると、ズシリと肚に響く声で宣言した。

「我が主、遠坂凛よ。聖盃は、かならずその手へ。――楽しみにしているがいいぞ、凛。せいぜい、聖盃への願い事を考えておくことだ」

「ふん。言われるまでもないわ」

 

 凛もまた、不敵に笑い返す。

 双方の合意をもって、契約は完成された。

 始まりの御三家、遠坂家の頭領・遠坂凛は、第五次聖盃戦争に、此の瞬間を以て参戦する。

 彼女に付き従うサーヴァントは、アーチャー。

 その真名は、中国史伝上、最強の男、呂布。
 

 


「…ところで、アーチャー。あんた、いったい聖盃を手に入れて、どうするつもりなの?」

「ふふん、男と生まれたからには、望むことは皆おなじよ」

「皇帝か何かにでもなるわけ?」

「天子にか? 莫迦莫迦しい。自分のちんこに皇太子と名付ける以外、何の楽しみもない将来だな」

「……。じゃあ、何が目的なわけ?」

「知れたこと――二次元へ行く以外に、目的なんぞあるのか?」

「……。」

「無口っ子にツンデレ、ヤンデレ、眼鏡っ娘…まったく、この日本て国は俺をどうするつもりなんだ!」

「…さっきの今で悪いんだけど、チェンジして貰えるかしら」

「はっはっは。聖盃を手に入れた暁にでも、そうして貰うがいい」

 

 

 

 

 こうして主従の契りを結ぶにいたった、南蛮王呂布と遠坂凛。

 二人は時に意気投合し、ときに反目し合いながらも、他の6人のマスターを補足すべく、冬木の市街を駆けめぐる。

 

 

「なあ凛。いまお前の設定みてて思ったんだが」

「…なによ」

「穂群原学園ってさ、高校なの?」

「――ノーコメントです」

「ファック!これが噂に聞くゲー倫コードか!」

「いっぺん死になさい、あんた」

「死んでるしなあ…」

 


 敵サーヴァントとの遭遇――!

 深夜の海浜公園に交錯する、呂布の方天戟と、深紅の魔槍――!

 

「何者だ、テメエ…!」

「うむ、俺様こそが南蛮王、呂…」

「真名なのるな!バカ!」

「うむ。忘れておったわ」

「――愉快な兄ちゃんだなあ、オイ。馬に乗ってるところ見ると、ライダーっぽいか」

「そういうお前は、槍兵だな。…余計な心配かもしれんが、自治体によっては、ボディライン強調する全タイ着用での外出は条例違反なところもあってだな」

「……。なあお嬢ちゃん、こいつバカだろう」

「…」

 

「だがライダーもどきさんよ、解せないのは、アンタの得物だ。アンタが召還された夜、壁越しに見えない矢で俺を撃ったのは、アンタだったな」

「え、あれパントマイムじゃなかったの!?」

「…」

「馬上で弓を使う武芸者は幾らでもいる。つまり、アンタはアーチャーってところか?」

「…おい、やっぱりバレたじゃないか。せっかくフル装備で要撃したってのに」

「やっぱり戟と弓同時に持つと不自然だったかしらね」

「ホント賑やかな奴らだな」

 

 

 

 

 成りゆきから、共同戦線を張ることになるセイバー・衛宮志郎陣営


「探したぞセイバー、まあ喰え」

「アーチャー…また私を侮辱する気か。食べ物で私を懐柔できるとでも」

「侮辱とか懐柔とかはいい。セイバー。タイヤキを食べるんだ」

「……」

「うーむ…ちょっとネタが古かったか」

「あ、何処に行くのよ、アーチャー!」

「ちょっと団子買ってくる!」

 

 

「…不可解だ。リン、貴女はあんなののマスターとして、よく精神が保てますね」

「換えられるなら、とうにあなたと交換してるわよ、セイバー。でも、私に言わせれば、衛宮君も十分に変わり者だと思うけど」

「む…確かにそれはそうですが…」

「お互い、苦労するわよね」

 

 

 


 

 次第に明らかになってくる、第五次聖盃戦争の全貌――
 アインツベルン勢力の参戦。
 冬木市内で次々と発生する、不可解な集団中毒事故。
 学校の敷地に張り巡らされた結界。
 
 ――やがて、山頂の柳洞寺に、キャスターが堅牢な魔術陣地を構築している事が明らかになる。
 いかにして、難攻不落の要塞を攻め落とすか――
 衛宮志郎も、凛も、そしてセイバーさえもが、目前の攻城戦に気を取られた。

 近接戦闘では最強とも言われるクラスのサーヴァントが、ついに、アーチャーへの警戒を緩めた。
 共同戦線を張ってからの数日間、一度たりともアーチャーへ背を見せた事のないセイバーが、ほんの数秒、アーチャーから視線を完全に外したのだ。


「あ、ところでだな、シロウ」

「なんだ?アーチャ…っ」

 

 

 


「衛宮くん!!」


「アーチャー!!貴様ぁ――ッ!!!」

「悪いな――凛、セイバー。それにシロウ」

 アーチャーは、無感動な視線で、一同を見渡す。

「俺はアーチャーじゃない。俺を識る人間であれば、俺の正体に気づくべきだった」

 

「アーチャー…っ あんた…まさか…!」

「凛。最初に問うたな。俺は本当に呂布なのか、と。――その通り、俺は俺である以上、史上最強の勇者であり、また――」

 自嘲はことさらに低く、瘴気のように重い。

「――最強の刺客でなければならない訳だ」

 誰もが最強と認めながらも、呂布が、遂に神と成り得ない理由――
 ただ一人の例外を除き、仕える者総てを、自ら殺して成り上がった、狼性。

「アサシンのサーヴァント……! それが、貴様の正体か…!!」

「その通り。はじめまして、セイバー。そしてさようなら、だ」

 ――呂布は、薄く笑った。

 

 

 

 

 体験版はここまでです。
 続きを楽しみたい方は、製品版をお買い求め下さい。

 

 

 

 

 

 

 

呂 布:――つう夢を見てだな

陳 宮:まさかの夢オチかよ!?

献 帝:しかも体験版とな!? 

呂 布:いや、正確に言うと、教母の落雷にやられたあと、しばらく蒼天航路してたじゃん。

陳 宮:あー…なんかありましたな。

呂 布:あの間、ずっと俺は冬木で聖盃戦争をしていたわけですよ。俺様、まさかのエロゲ初出演。

陳 宮:…サーヴァント役でエロっすか。

呂 布:結局、アサシン的に、セイバールートが無いんだよなー。やっぱストーリー上志郎殺しちゃうから、フラグが立たないんだよなあ

劉 循:当たり前でしょう

呂 布:まあ、志郎は胸刺したくらいじゃ死なないんだけどな。エクスカリバー的に。あと凛もペンダント持ってるし。

陳 宮:何という主人公補正。

呂 布:そんなわけで。こういう痛熱いSSを公開して、エイプリルフールのお茶を濁すと。

 

 

胡 姫:うわー、懐かしい。

陳 宮:だくちゃってそういう意味だったのか…

呂 布:掲示板の日付見ると、4年前にやる予定だったんだな。

公孫楼:…引っ張りすぎ

呂 布:まあ、四月だし。

陳 宮:はあ。

呂 布:実はよく見るとロゴの令呪もエロイんだぜ?

陳 宮:小学生のラクガキですか。

 

 

 

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