第十九章   第二次長安攻略戦(上)

 

 

 建安八年十一月。

 呂布率いる十一万の大軍団は涼州の安定を発し、北方から一挙に長安を急襲した。

 それに呼応して、漢中教団の鬼卒四万が同時に北上を開始する。長安を進発した迎撃軍を挟撃する構えであった。

 

黄 権:敵の総大将は夏侯淵。参軍は李典であります。

呂 布:ふん、あいつらか。

黄 権:――殿は彼らを御存知で?

呂 布:おう。イナカ者の貴様は知らんだろうが、俺様は一時期、中原を争って奴らと激闘した事があるんだぞ。

黄 権:はあ…そういえばそうでした。

呂 布:おまけにこの長安には色々思い出があってな~。恋は盲目って言葉、知ってるか?

黄 権:はあ?

 

 赤兎の上で、ふいに思い出に浸りはじめる呂布。「あのとき」からはや九年が経つ。思えば呂布、どれほどに波瀾万丈な人生を歩んでいる男だろうか……。

 

馬 超:大将!何を遠い目をしてるんだ! 敵が目の前だぞ!

馬雲緑:真面目にやれ、真面目にっ!

 

 さすがに怒鳴る馬兄妹。呂布、我に返るとすぐさま軍兵を展開させる。戦場「安定→長安」は、マップ中央に森と小高い丘陵がある以外は、それといって特徴がない。

 黄権が選択したのは「迂回右」。――マップ中央にある堅固な砦を無視し、漢中軍が出現する方角へ迂回しつつ奧を目指すというのである。

 ほとんど騎兵のみで構成されている呂布軍としては、速攻あるのみ!

 

呂 布:続け~っ!

 

 相変わらず真っ先に突進をはじめる呂布に遅れじと、馬超、馬休、馬鉄、馬雲緑らが一斉に移動を開始した。その後方を警戒するように、呉懿、呉班、孟達らがしずしず前進する。

 次いで両軍の参軍が、同時に救援要請を行う。これにより、弘農を進発した曹操軍五万余は次のターンで早々と到着することになった。……ところが、黄権の要請は失敗。漢中軍団の到着は、予定通りの9日後である。

 やがてマップ下方、呂布軍全体の右翼方面に敵の大集団が確認される。素早く側面へ回り込んだ黄権隊、孟達隊が、計略「混乱」を連発した。

 早速、敵の旌旗がとぐろを巻くように乱れはじめた。様子を遠望していた呂布、ふいに大声を上げる。

 

呂 布:ん……あの旗印! あっはっは、懐かしいなあ。

馬 超:な、何だ? 

 

 呂布、急に赤兎を飛ばすと陣頭に躍り出て、皮肉そうに敵将へ声を投げかけた。

 

呂 布:袁紹のとき以来だなあ、飛燕! あの黒山衆一〇〇万の首領が、今じゃ曹操の飼われ鳥か~?

張 燕:はん! 貴様こそ相変わらず頭悪そうなツラだな!

呂 布:ぬかせ!

 

 馬腹を蹴ってみるみる混乱中の張燕隊へ分け入る呂布。張燕も鉾をふるって果敢にこれと渡り合う。

 が、武力81(えぢた~済み)の彼が、武力110の呂布に敵うはずがない。さして手間も掛けずに、呂布は張燕を馬上から撃ち落とした。

 

馬 超:おおッ!

 

 呂布軍の中でたちまち拍手喝采がおこる。呂布の武、まだまだ健在であった。

 砦にこもる韓浩隊を蹴散らすと、呂布軍団はあっというまに敵左翼を突破してマップ最深部へ殺到した。

 が――ここにきて、敵の援軍が戦場を横断して呂布軍の前に姿を現した!

 

呂 布:げ……。

 

 と呂布が顔をしかめたのは、敵の「突撃大将」楽進の姿を確認したからである。曹操軍団においては最強の突進力を誇り、呂布は以前、相当に手酷い目に遭っている。

 

呂 布:確か、他にもあの于禁がどこかに居るんだよなあ…。

黄 権:ついでに言いますと、あの徐晃もいます。

呂 布:こんなに戦力集中して、曹操大丈夫なのか~?

 

 呂布が思わず曹操の心配をするほどに、長安守備に充てられた人材は凄まじい。曹操軍団最強の五虎将のうち、現存する全員がここに集まっているのだ(張遼はいまだ呂布の麾下。張は袁紹の配下である)。

 

馬 超:大将!こういうときはプラス思考に限る! たった一戦で曹操勢力をズタボロにする機会じゃないか!

呂 布:……なるほど。馬超!いいことを言った!

馬 超:ははははッ!

  

 キラリと歯を輝かせ、極上の笑顔を交換し合うふたりであった。

 ……が、馬超のおノンキな楽観論はすぐさま崩れ去った。弘農の援軍に引き続き、敵の中央砦を守っていた部隊がいっせいに引き返してきたのだ。

 要するに、呂布軍団は包囲されてしまったのである。

 

呂 布:……お~い。

馬 超:はっはっは!こういうこともあるぜ!

呂 布:……。

 

 敵は、強い。

 呂布軍が、後方都市から回送させてきた新兵たちを中核とするのに対し、曹操軍は訓練の行き届いた精鋭揃いであった。おまけに防御側で士気も高い。

 一度の攻防で受ける損害、曹操軍700~800に対し、呂布軍1000以上。

 冗談抜きで、ちょっと危険な攻防が続いた。呂布隊二万はほとんど無傷で健在だったが、馬超以下、曹操軍の重囲にさらされて早くも一万を割り込んでいる。

 やがて、戦列の一角が切り崩された。間に割り込まれて連携を欠く呂布軍、三方向から包囲された呉班隊を救援することさえできず、呉班隊全滅。敵将于禁はさらに前進して孟達隊を潰走させた。

 

黄 権:……損害のひどい隊を戦場から遠ざけろ!

 

 孟達隊や馬休隊など、わずか1000前後まで打ち減らされた隊から順に、呂布軍は後退を開始する。呂布、馬超など比較的元気な隊がこれを援護するが、部隊数が激減した呂布軍、なすすべもなく曹操軍に呑み込まれそうになる。このまま戦局が推移すれば、いかに呂布とて全軍撤退の断を下さざるをえなかっただろう。

 結局、この息苦しい雰囲気から呂布を救い出してくれたのは、〝あの人〟だった!

 

教 母:あらあらあら~♪ 大変ですわね~呂布将軍~。

張 衛:呂布殿、安心されい!

馬 岱:兄者! くじけるな!

呂 布:おおおおお!

 

 張魯が派遣してくれたのは、頼もしいことに実弟・張衛と教母、軍師の閻圃、そして馬超と袂を分かっていた勇将馬岱であった。

 戦力的には、これで五分五分。歩兵ばかりの道兵たちは、意外な素早さで森を駆け抜け、主戦場に到着した。

 

呂 布:よ~しっ! 元気があるヤツは俺様についてこい!

馬 超:おうッ!

 

 混戦のもやを突っ切って、呂布隊と馬超隊が後方へ抜け出した! 長安を守る最後の砦には、敵大将・夏侯淵がただひとり籠もっている。

 

呂 布:おお、夏侯淵か!懐かしいな!俺と勝負する気はないか!

夏侯淵:ない。俺は地球人類以外を相手しないことにしている。

呂 布:何を、この、チキン野郎!

馬 超:ちょっとどいていてくれ、呂布殿――。

 

 呂布と駒を並べる武力99の馬超、砦の前で戛々と輪乗りし、大声で夏侯淵に一騎討ちを申し込む。

 

馬 超:夏侯淵!父の仇をとらせてもらうぞ!俺と闘え!

呂 布:さすがにお前でも無理じゃあ……。

 

 と言いかけた矢先、 なんと夏侯淵、「よかろう」とばかりに砦の門を開いてしまった!

 やはり「冷静2」、「勇猛7」では、我慢できない挑戦だったのだろうか。

 

呂 布:おお! 意外に劇的!

馬雲緑:何ギャラリーしてるのよっ!

 

第二次長安攻略戦の行方は、この馬超と夏侯淵との一騎討ちが決するようである。両陣営の全将兵、それを心得ているのかウソのように静まりかえった。

 

馬 超:いくぞっ!

夏侯淵:……!

 

 同時に飛び出す両雄、初太刀から化け物のような大鉾をフルスイングでぶち当て合い、一撃一撃のたびに両軍から喊声が上がる。

 

呂 布:……。

 

 これが意外なほどに伯仲した一騎討ちであった。緑に尾を曳く大技を連発する夏侯淵に対し、さしもの馬超も疲れを隠せない。ゲージの減り方は、あきらかに馬超の方が早い。

 

馬 鉄:なぜだ! 兄者のほうが武力が高いのに!

呂 布:これがゲームの恐いところだ。多少の武力差は有って無きが如し。

 

 分かったようなことをうそぶく呂布、不意に大声を上げた!

 

呂 布:いまだっ! 大技を狙えっ!

馬 超:おおっ、力がみなぎってるぞ!

 

 ターン終了間際に身体がオーラに包まれた直後の「大技狙い」! 一騎討ちの必勝技である!

 

馬 超:必殺、十文字切り!

夏侯淵:ぐわっ!

 

 馬超の攻撃が、ようやく夏侯淵の巨体をとらえた。二度、三度と緑の閃光が走り、夏侯淵は血けむりをあげて馬上から斬って落とされた。

 ……曹操の一族衆たる矜持か。

 ダメモトの馬超の挑戦にあっさり応じた敵総大将・夏侯淵。

 字は妙才といった。曹操の族弟であり、その旗揚げから付き従った最古参の男である。史実では謹直で大人しかったという従兄・夏侯惇とは違い、夏侯淵はもともとからして勇猛で鳴らし、行軍速度の迅速さから「六日一千里」と称され、電撃のようなその速攻を何よりも恐られたという。

 武力は93。曹操の半身として、夏侯淵はその「攻」を象徴する存在であった。

 後に営門前にて斬首。享年、40歳。

 

呂 布:あ~ヒヤヒヤした……。

馬 休:ようし、長安は貰ったぞ!

 

 馬超が主将を一騎討ちで撃ち破ったため、夏侯淵隊は消滅している。無人となった砦を、馬超の次弟・馬休が素早く占拠。

 「迂回・右」が、この瞬間に成立した。

 

 
 ぐっこ自身が感心するほどドラマチックに展開した「第二次長安攻略戦」! 痛快読み切り三国志Ⅶ活劇は、次回、感動の第三部最終回です!