第六章   成都後始末

 

建安5年、冬。

益州の中枢部成都は、かつての「飛将軍」呂布とその軍団によって占拠された。市民らは不安気なまなざしで、市中に溢れかえる異装の南蛮軍団を見つめている。

 

呂 布:さて……俺様に逆らったバカどもを拝見するか。

 

 大儀そうに、先日まで劉璋が座していた席にふんぞり返る呂布。

 南蛮から駄々をこねて持ってこさせた獣氈を座に敷き詰め、あの化け物のような大画戟を手元へ引きつけている様は、B級ヒロイックファンタジーにでてくる暗黒皇帝めいていた。

 

陳 宮:このたびの戦いで手捕りにした者は、劉璋、劉循父子をはじめ法正、張松、呉懿、呉班、張任、孟達、王累、費詩……

呂 布:(鬱陶しそうに)斬れ。

陳 宮:はあ…?

呂 布:だからあ、男は面倒だから全員死刑。

陳 宮:そ、それは困りますって。

 

 現時点での呂布陣営は、その能力平均値が笑えるほどダイナミックに偏向している。陳宮や張らを除けば、平均知力は40以下なのだ。今、劉璋配下の優秀な内政官を大量に鹵獲したのだから、一人でも多く登用したいところ。

 さらに一つ。

 「Ⅶ」には幾通りものエンディングが用意されている事は周知の事実だが、いわゆるグッド・エンドの条件には敵捕虜の斬首数が含まれているきらいがある(注:このときはまだそういう噂があったんです(^_^;)

邪魔だとか嫌いだとかで、丁々とひとの首を刎ねてよいものではない。

 

呂 布:あ~、わかったわかった。じゃあ、お前やっといて。

陳 宮:殿はどちらへ。

呂 布:しれたことだ。

 

 言うが早いか、捕虜一同を打ち捨てて退席する呂布。残された陳宮は、バツが悪そうに一人一人の身の振りをきくことになる。

 結果、呂布に臣従を申し出たのは法正、王累の二人だけであった。

 一方の呂布、特別に設えた堂(広間)に踏み入り、なかの虜将に話しかける。

 

呂 布:ふん。やっぱり女の子は甲胄よかドレスだな。

 

 無理矢理に歌妓のような艶やかな衣装を纏わされていた公孫楼、じゃっかん迷惑そうな表情をつくって抗議する。

 

公孫楼:呂布殿、これが武人を処するみちなのか…?

呂 布:綺麗だと思うんだけど。

公孫楼:私は、二君に仕えてまで生き延びようとは思わない。

呂 布:ん~?やっぱり陳宮はセンス悪いのかな。俺が選んだトラ柄とかヒョウ柄とかの方がいい?

公孫楼:斬るならば、早々に斬られよ……。

呂 布:せっかく可愛いグラフィック使ってるのだから、もっとおしゃれに気を遣わないと。

公孫楼:……頼むから会話に参加してください。  

 

 結局、公孫楼も呂布の誘いを言下に断った。呂布、しつこく「登用」をクリックするも意味なし。

 

呂 布:ちっ。ゼビウス軍最硬のバキュラでさえ256発も弾を当てたら割れるというのに。

陳 宮:デマだろ、それ

 

 公孫楼は女性ながら89という父譲りの武力を持ち、しかも兵科は鉄騎兵団である。戦場では呂布軍の双璧たる高順・張遼にも引けを取らないであろう。余裕のある中盤以降ならともかく、草創期の呂布にとって彼女を生かして放つメリットは皆無に等しい。

 

陳 宮:どうします?

張 :戦力としては欲しいところですなあ。次の機会に望みをかけて、ここは放ちますか?

陳 宮:いや、放したところで「嫌いフラグ」がしばらく立ちますから、まず次の登用も不可能ですよ。いっそ……。

公孫楼:……。

呂 布:阿呆らしい。

 

 呂布は不意に肩の力を抜くと、放り出すように公孫楼を堂から出した。

 

呂 布:公孫楼。

公孫楼:……はい。

呂 布:何度でも受けて立つ。白馬を揃えておけ。戦場で会おう。

公孫楼:……。

 

 その日のうちに劉璋ら捕虜は、めいめい馬と糧食、水などを与えられ、成都から追い立てられるように釈放された。

 各人、それぞれの為人にあわせて胸中に呟いている。

 

劉 璋:(ふん、きっと後悔させてやるぞ……)

張 松:(この甘さが貴様の命取りになるのだ)

 

 と毒づく連中もいれば、何を勘違いしたのか、

 

呉 懿:(呂布殿……噂に違わぬ仁君だ)

張 任:(敵としてお会いしたくなかった……)

 

 と感動している連中もいる。

 一同からやや離れて、とぼとぼと騎馬をすすめる公孫楼。彼女もまた、(メッセージを読む限り)後者の一人ではあった……。

 

 ともあれ、あこがれの成都を難なく陥として見せた南蛮王、呂布。

 今回帷幕に加わった法正と王累に十分な俸禄を約束し、その忠誠を得る。王累は中堅内政官として、法正は知力96(えぢた~済み)の名参謀として呂布陣営に新たな居場所を得た。

 だが、一同が不思議に思ったことに、呂布は軍師職をいまだ陳宮に委ねたままでいる。すでに西方随一の賢者・法正が帷幄に入った以上、陳宮など第二線の参軍にされてもおかしくない。

 これについては一言、

 

呂 布:アレだな。こ~ゆ~のは思い入れの問題だな。

 

  光栄三国志シリーズは、壮大な歴史SLGではあるけれども、極論すれば

  「巨大なキャラゲー」

  でもあるのだ。

    だから、

 

呂 布:これでいいのだ

  

 なのである。

 

 さて、この年建安5年も、はや暮れようとしている。

 成都と南蛮が統合されたことにより、豊かな物資が双方の地域を潤しはじめ、内政も少しずつだが進み始めていた。

 そんななか呂布は、北国出自の彼自ら発案した掘りごたつと、近隣の交州から箱売りで取り寄せたミカンを装備し、すっかり年越しの準備を整えていた。

 コタツのご相伴に預かるのは、家老格の張、軍師陳宮と新参の法正であった。呂布は下の娘を膝に抱き、ミカンの薄皮剥がしに余念がない。

 

法 正:……まず益州を地盤に確固たる勢力を築き、南蛮の諸勢力を吸収しつつ、時代の動きを待つ。これが上策ですな。

張 :ここのところ他勢力に全く動きがないが。

法 正:いやさ、東の劉表領荊州をご覧なさい。武将数が少ないのにやたら勢力が広いから、そのうち江東の孫策が伐り奪り騒ぎを始めましょう。

 

呂 布:ふん。東の荊州へ出ろ、か。陳宮は。

陳 宮:(ちらりと法正を見て)だいたい荊楚は水郷の地。我が軍がううっかりと手を伸ばせば、手痛い火傷…じゃない、溺死してしまうのではないかな。

法 正:なるほど「水軍」を持たぬ武将ばかりですから、苦戦はするでしょう。しかし孫策に先に荊州を奪られては、後々に手に負えなくなる。まだ孫策が弱いうちに何とかするべきでは。

陳 宮:何とかしたところで、その維持が大変だぞ。それよりもむしろ、先に北へ出て雍州・涼州を抑え、以て「西方王国」を築き上げてしまうべし。そうして、やがて東を抑えてくる何者かと決戦するのだ。

 

 と、陳宮、怪しげな東西戦略を語る。呆れたように反論しかける法正を、ふいに幼い声が遮った。

 

呂布の娘:そういう話はちゃんと益州をとってから言うものだよ~。

 

  その一言で赤面する一同。

 

呂 布:ぶわっはっはっ! 聞いたか、貴様ら?お前らは俺様の娘にも及んどらん。

 

 様子を観察していた呂布は、両賢者を遠慮なく笑い飛ばした。

 まだ9つという下の娘は、実は初期設定で知力98。建安5年の段階では、この場はおろか全登場武将中で最高の頭脳を有しているのだ。

 

 ……事多き建安5年は、あと数刻で終わろうとしていた。 

 

 いよいよ成都を奪い取り、ようやく天下に思いを馳せる、我らが無敵の呂布奉先。痛快読み切り三国志Ⅶ活劇・「後世中国の曙!?」は、ちょっとアットホームです。