第11章   武都炎上

 

 建安六年、冬。隴西方面で開始された呂布の侵略戦は、意外な展開となっている。

 馬騰自慢の騎馬軍団は、その圧倒的な猛威を振るう間もなく計略に掻き回され、方々で壊乱し、相次いで主将を失った。

 そしてこの戦場の一角にて、希に見る華麗な一騎討ちが行われていた。

 

公孫楼:……。

馬雲緑:こ、このっ!

 

 兄たちにも匹敵する西涼の戦姫、馬雲緑。対するは、今や父を遙かに上回る女剣士公孫楼。両将は駆け違いざまに一撃、振り向いて一撃、馬首を揃えながら一撃、やがて並走しながら激しく撃ち合う。

 しかし勝負はそれほど長く続かなかった。いくら馬雲緑が自慢の矛を振るおうとも、三尖刀を持つ公孫楼にはまるで歯が立たない。

 

公孫楼:……二段突き!

馬雲緑:う、嘘…っ

 

 馬上から吹き飛ばされ、馬雲緑の小さい身体は大地へ叩き付けられた。公孫楼、その少女を鞍上へ掻き上げると、淡々と自陣へ引き返した。どうっ、と両軍が響動めく。

 

馬 超:お、おのれ~!

  

 本日3度目の「混乱」を喰らっている馬超、ただ戦場を遠望して吠えるのみ。

 そこへ、ようやく南蛮王・呂布が姿を現した。

 

呂 布:はっはっは。馬超よ、早く下りて来て俺の前へ出てこんか。

陳 宮:だから!あの馬超だけはちょっと強いんですってば!

呂 布:やかましいっ!たまには俺の好きなようにさせろ。

 

 砦を飛び出すや、土煙を巻き上げ一直線に突っ込んでくる馬超。呂布も赤兎の馬腹を蹴ると、左右の制止を無視して陣頭に躍り出る。

 戦場全体がとどろくような喊声に包まれた。これほど傑出した豪勇同士の一騎討ちなど、生涯でそう見られるものではない。

 

馬 超:貴様が呂布か!

呂 布:おう。

馬 超:言っておくが俺は弟妹たちとはちょっと違うぞ。武力は99(えぢた~済み)だ!

 

 途端に、矛先を天に突き上げ、鞍壺を激しく叩いて主将を讃える涼州兵たち。天下無敵の錦馬超は、彼ら荒くれ者どもの精神的な支柱なのだ。

  

呂 布:あの~。俺、武力110なんだけど……。

 

   ……し~ん。

 

馬 超:…………い、一騎討ちは武力ではない!根性だ!気合だ!

 

 どぉおおおっ!と、再び激しく燃え上がる涼州兵たち。

 

呂 布:フフフ。なんだか可愛ゆい奴らじゃ。

 

 呂布は満足げである。馬超たちもひっくるめて、ここらの風土風俗は呂布と相性がよいのかもしれない。 

 馬超と呂布は、同時に突進し、激突した。

 

馬 超:そうれ参段突き!!

呂 布:どわっ。お返し!

 

 みるみる両者の体力ゲージが減ってゆくなか、不意に呂布は馬超に怒鳴り掛けた。

 

呂 布:おい、馬超!前から一騎討ちについて疑問に思っていた事があるんだ!

馬 超:何だ!いま戦っている橋のことか!?

呂 布:いや、それは気にしないことにした!それよりも、耳を澄ませ!このBGMのイントロパート、どっかで聞いたことないか!?

馬 超:ん……?言われてみれば…。

 

 ♪ちゃらら~…ちゃらら~…ちゃらら~…ちゃら~……♪

 律儀にも、矛の手を止め考え込む馬超。呂布も一緒に考えこんだ。

 

馬 超:見切った!

 

 やがて十日の宿便が下りたような表情で馬超が叫ぶ! 

 

馬 超:スパイ大作戦だ!ほら、あのテーマソングのBメロ(?)あたりのところ!

呂 布:ミッション・インポッシブルっていえよ!そうか、確かにあのあたりに似てる!出だしの処だけだけど。

馬 超:よかったな、呂布!

呂 布:おうっ、サンキュー馬超!

 

 キラリと歯を輝かし、極上の笑顔を交換し合う呂布と馬超。一瞬後には何事もなかったように一騎討ちを続行した。

 

陳 宮:何なんだ、あの二人は…。

公孫楼:……ああいう人なんだ。

 

 ……若干あきれ顔が見守る中、果てしなく続くかと思われた一騎討ちは、呂布の猛烈な参段突きで決した。

 

馬 超:み、見事…。

 

 涼州随一の剛・馬超は、方天画戟の下に伏した。

 

呂 布:……ふう~。

 

 さすがに満身血と汗にまみれている。気絶した馬超の躰を近従に放ってよこすと、呂布は不敵に笑って戦場の最深部を指した。

 

呂 布:残るは涼州の獅子親父のみだ!ひっくくって親子ともども俺の前へ連れてこい!

 

 その言葉で、わっと色めき立つ諸将。呂布軍団は、わずかに残る馬岱、馬鉄らの部隊を蹴散らして、戦場の最深部に殺到する。

 

馬 騰:フッフッフ。さすがに南蛮にその人ありといわれた猛将である。

韓 遂:なにを暢気な!ここは儂が守りますゆえ、義兄上は急ぎ落ちなされ!

馬 騰:人を虚仮にするのではないわさ!

 

 急に吠える馬騰。彼もまた武力90になんとする猛将軍であり、長らく羌だのだのいう驃悍な騎馬民族相手に戦い続けてきた男である。

 自隊の数倍にもなる呂布軍に包囲されながらも、馬騰は最後まで沈着に猛戦し、やがて砦へ突入してきた高順隊によって手捕りにされた。

 

 建安六年、冬。

 武都は陥落し、涼・雍二州にまたがる馬騰の勢力圏に大きな楔が打ち込まれることになった。

 

 さすがに強い呂布奉先!錦馬超を撃ち破り、さらにのぞむは遙かな涼州!痛快読み切り三国志Ⅶ活劇・「後世中国の曙!?」は、白熱中です!