40.新たな足音
新たな足音
建安16年、六月中旬。 長安において南蛮王国の立太子が成ってからはや三月――。 戦乱の雲は中原を尚厚く覆っていた。 剣戟の響き、兵馬の絶叫、矢羽の風音が止むことなくこだまし、時折、どおぉん!と攻城兵器の破壊鎚の音が山野に轟いている。
洛陽を指呼の間に臨む虎牢関は、曹操軍による火を噴くような猛攻に晒されつつも、健在であった。虎牢関の防禦力は三国屈指であり、衝車が一台二台突っ込んだところで、小揺るぎもしない。 陳留からのしつこい波状攻撃に対して、呂布軍も洛陽から陸続と後詰め部隊を回送し、ほとんど泥沼のような消耗戦に突入している。
攻防一月。虎牢関は、依然として陥ちぬ。 曹操は砂塵の舞う戦場を遠望して鋭く舌打ちをした。 損耗と疲弊の激しい部隊を後退させ、陳留で次々新手と交代しつつ戦線を維持してきたが、もはや限界のようであった。 曹操(cv:岸野幸正@無双)は憮然として呟いた。
曹 操:おい、トニー。 夏侯惇:誰がトニーか。 曹 操:潮時だ。引き上げるぞ。
兵士達の喚声が少しずつ小さくなってきている。 もはや士気を喪失し、積極的に城壁にとりつくほどの勇者が残っていないと見える。いま彼らの頭にあるのは、如何に生き延びるかという厭戦気分のみであろう。
曹 操:今あの関を破るのは、たとえブレイク工業でも不可能だ。次はましな手を考えるとしよう。 夏侯惇:今度はアイウエオ順に離間でもかけるか。 曹 操:口が過ぎるぞ、盲夏侯。 夏侯惇:メインカメラがやられただけだが。
毒づく隻眼将軍・夏侯惇の隣で騎首をかえすと、曹操は「解体・解体・ひとやく買いたい」と口ずさみつつ、絶影の馬腹を蹴って戦場から離脱した。この逃げ足の速さは、劉備ら乱世に生き残るタイプ共通のスキルであった。 さすがに夏侯惇は、撤兵の指揮を執るべく戦場に残る。
ボロボロと崩れるように後退する曹操軍へ、虎牢関から突出した張遼、関羽、関平らが、しつこく追いすがって痛撃を与えるが、陳留からの援護射撃を浴びて引っ返した。 建安一六年の夏中に繰り広げられた虎牢関攻防戦は、曹操勢の総退却に終わった。 損失は、傷病兵も含めると呂布軍六万余に対し、曹操軍は推定十万前後であろう。両軍にとって、痛い消耗戦であった。
――帝都・洛陽。 曹操軍去るの報告を受けた呂布主従は、大いにため息をついた。
呂 布:ふゥ、やっと引き返したか~。 陳 宮:はぁ…今回も泥仕合で。 呂 布:なんか、攻められてる時って長いよな、リアルタイム制って。わんこそばみたいに兵追加しなきゃなんないし。
虎牢関から数理離れた洛陽で防戦の指揮をとっていた呂布も、ウンザリした様子である。 陳宮らが急ぎ虎牢関に修復の指示を出し、各所で兵力の再編成を行う。今回のたった一戦で荊州軍をかなり投入してしまったので、また各地で徴兵し直さねばならぬのだ。
呂 布:とにかく、虎牢関でこの有様じゃ、許昌なんかもっとヤバイな。 陳 宮:やっぱり中牟あたりに前進基地でもつくりますか。 呂 布:うーん…
許昌は曹操領州に突出した位置にある大都市で、東方攻略の最重要拠点であるが、そのぶん敵の攻撃をモロに受けやすい。 各方面への隘路に閉塞物でもつくれば、よい緩衝になりそうなものだが、もし敵に奪われでもしたら、かえって味方の咽喉に突きつけられる刃となってしまう。 それでも呂布、どうせ作るなら豪華なモノを、とばかりに、中牟に城塞建設の計画を立てる。完成すれば、汝南・陳留に駐留する曹操軍の進撃を一手に食い止めることができる防波堤と成るであろう。
陳 宮:…敵地のド真ん中で城作るとは、どういう頭の中身してるんですか。 呂 布:そこをなんとか。
事も無げに言い放つ南蛮王。頭を抱える陳宮。無論、建築途中に攻撃されるに決まっている。 …となると、隣接する敵領内に安価な野戦陣を即席で築いて数部隊を駐留させ、敵の目を引きつけなければなるまい。城塞完成と同時に、陣は破棄し、駐留軍はそのまま城塞に移る。さらに許昌に十万単位の兵団を常設し、その中牟支城を支援する体制を整える――と、これは築城などと一口で言うほど楽な仕事ではないのだ。
陳 宮:そんな手間かけるくらいなら、いっそ陳留なり汝南なりを先制攻撃した方が早いんと違いますか。
呂布、「う゛~ん」と呻りつつゴンゴン頭を叩いて悩む。「許昌要塞化計画」は、検討するほどにボロがでる。だいたい、東を防ぐことが出来ても、南の江夏からの攻撃には全く対応できないのだ。
などと主従が図面を覗き込んで頭を抱え込んでいるところ、今度は西方からの急報が舞い込む。
呂 布:…また、羌だと…?
ぞくりと皆が凍り付く、低いつぶやきだ。
場を改め、大評定の席。文武百官がずらりと並ぶなか、陳宮が開陳する馬超の書状を、呂布は無言で聞いている。 呂布は本気で怒っているらしい。 陳宮らは気が気ではない。このまま全軍挙げて羌を攻めよ、などと言い出された日には、洛陽一帯を連合軍に奪還されかねない。まさに董卓の再現である。
呂 布:陳宮。 陳 宮:はっ。
祈るような目で王を見る陳宮。 と――呂布は意外なことを訊ねた。
呂 布:俺様の通帳には、いくら入っているのだ。
呂布の通帳すなわち国家予算は、じつは大黒字である。 金収支でいえば、年間ざっと十万ほどの増資が見込まれ、現在も国庫上限百万のキャパを越えるぶんは、兵糧を買い込んだりボーナスとして武将に還元したりと、実に順調な殖産っぷりであった。
呂 布:つまり、しばらく羌の連中に恵んでやるぶんに不足はないわけだな。 陳 宮:ぎ、御意…。
どうやら呂布、外交で羌族を懐柔する方針を自ら容認するようである。彼なりに、戦況を色々考えているようであった。 馬超・韓遂ルートを通じて、羌の実力者と接触する手はずを整えていたブレーン達は、ほっと安堵の表情を浮かべた。
呂 布:ただし。
呂布は、またしても皆がぞっとするような声で続けた。
呂 布:必ず、奴らを攻め滅ぼす。今からその支度を整えておけ。
言い放つや、席を立って足音荒く退場してゆく呂布。 残された者たちは、また深刻な顔を見合わせた。 …民族を滅ぼす、ということは、彼らの屈強極まりない戦士団三十万を殲滅するか、その根拠を蹂躙するしかない。おそらくは一国を攻め滅ぼすよりも手間のかかる事業と成るであろう。
季節が移り、天下は七月。 この年は大規模な災害もなく、天下万民が豊穣を祝い合う秋を迎えた。そこら中で収穫祭が行われ、民地能力の高い連中は、方々に立ち上る瑞祥とやらを探索に出かけ、そのつど祭の酒をしこたま飲まされていた。
…一日。 対孫策の一環として、許昌と新野を結ぶラインの強化案などを検討していた呂布の執務室に、珍しく虎牢関の守将・関羽が訪れた。
呂 布:…なんだ。無口っ娘倶楽部の定期総会は来月だぞ? 今度は袁譚とか曹操とか出てこれるかなあ… 関 羽:そうではない。
むっつりと答えた関羽は、その巨体の後ろに隠れている人影をひょいっと前に置いた。 見ると、利発そうな少女が、緊張のあまり硬直した容子で突っ立っていた。
呂 布:なんだ関羽。そっちに転向したのか。ひとこと言ってくれたらいいのに。 関 羽:…違う。
あいかわらず黙然と髭をしごくと、関羽は目前の少女の頭の上に手をおいた。
関 羽:兵たちに混じって、この娘が訓練を受けていた。食いはぐれた孤児であろう。
呂布は、しげしげと少女を眺めた。髻ふたつを絹布でくるみ、簡素な衣服は小綺麗だが、いずれも関羽が用意させたのだろう。頬は痩け、身体もガリガリにやせている。数日に一度、食にありつけるか否か、という生活であったにちがいない。 この戦乱の時代、こういう話は幾十万もある。
そういえば昔、窮乏のあまり城の倉に盗みに入った少女をひっ捕まえた事があった。その時は、なぜか成り行きで幾晩かその婿役を演じさせらる羽目になったものだ。 ――その少女には盲いた老母がいたが、この目の前の少女は、それすら無いのだろうか。
呂 布:…で、情に絆されたのはいいとして、陪臣のお前が直接俺様の所に話をもってくるのはどういう了見だ。
珍しく仕事をしていたのに、と皮肉そうに付け加える陳宮。 少女は、呂布らの視線に耐えかねたのか、身体を竦めて震えている。
呂 布:ふむ。無口っ娘か。 関 羽:――そうではない。化ける可能性はあるが。 呂 布:なるほど。だが、まだ遠い。
関羽は無言でうなずくと、なんと、いきなり抜剣して少女に斬りつけた。
呂 布:――はあ!?
ギイン! と金属音と火花が部屋に反響する。 愕然とするよりも早く放たれた呂布の抜き撃ちは、関羽の斬撃を少女の身体寸前で受け止めていた。 と――
呂 布:あれ?
呂布は我が目を疑った。 少女の姿が、宙を舞っている。 武力100の自分と、武力98の関羽が手加減無しに斬り合った空間に、棒のように立っていたはずの少女が。 トン、と、少女は膠着した呂布と関羽の長剣で軽くステップし、ふわりと床に降り立った。 ――なんという滞空時間! まるで曲芸を見ているようであった。
関 羽:――こういうわけだ、王。このまま一兵卒にするのは惜しい。字を教え、ゆくゆく兵法を教えて、ひとかどの武者にしてやりたいが、どうか。 呂 布:…なるほど。
過激なデモンストレーションだが、並々ならぬ身体能力は、これで分かった。 確かに万人に一人も無い素質であろう。 考え込む呂布の前で、関羽は少女の肩をポンと押した。
関 羽:王に挨拶しなさい。
少女は、いまのハプニングで緊張が解けたのか、せいいっぱいお辞儀らしいものをして、「崔毓美(サイ・イクビ)です」と名乗った。
呂 布:…微妙なネーミングだな。 陳 宮:ランダムの組み合わせですからねえ。 呂 布:妙に日本人っぽい名前だよな。まあ、卞弁(べんべん)とかよりはマシなわけだが。 崔毓美:……。
いきなり自分の名前についてアレコレ言われるのに面食らったらしく、ふたたび赤面して黙り込む崔毓美。 呂布は、まあ気にすんな、と気さくに声を掛けると、崔毓美の席を用意させた。 考える間でもなく、市井の貧民が国王と同席するなど、古今に例もない出来事である。――が、市の酒場でクダをまいているところを夫人の胡姫に引きずり戻されてゆく姿が日常茶飯事の呂布にしてみれば、どうという話ではない。
呂 布:さて、崔毓美よ。お前も知っての通り、俺様は人より偉大なぶん大変忙しい。そうは見えんだろうか、実はこの関羽もだ。 崔毓美:は、はい。 呂 布:よって、どこかで退屈してる奴にお前の教育を頼むつもりだが、それで構わんな? 崔毓美:もちろんです。私は…その、ご飯さえ頂ければ、どこでも働きます。何でもいたします。 呂 布:…何でも?
腰を浮かせかけた呂布に肘鉄を食らわした公孫楼が、ゆっくりと立ち上がって崔毓美の肩に手を載せた。
公孫楼:…文姫様はどうだろう。年齢も近いし、あの方は諸事心得ている。教師役に適任だと思う。
一同を顧みながら、公孫楼は提案した。なるほど、と関羽たちもうなずく。 こういう話は、本来なら刀姫が適任だが、彼女こそいま呂布なみに多忙であろう。逆に呂文姫は女官として特にやることが無く、山のような兵法素養を持て余している。この崔毓美であれば、心強い護衛にもなるだろう。
呂 布:――というわけで、俺様の娘の一人の下に付ける。みっちりとしごいて貰え。 崔毓美:はい。頑張ります! 呂 布:…まあ、気を付けるんだな。文姫は俺様や刀姫ほど甘くはないからな。 崔毓美:…?
小休止代わりに崔毓美の処置をきめた呂布は、これで一段落、と軽く手を振って一同を下がらせた。痩せこけた一少女の行く末など呂布にとっては些事であり、彼は国主として山のような案件を抱えねばならぬ身であった。
…ともあれ、一人の少女、崔毓美の波乱に満ちた物語は、この日から始まったわけである。
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呂文姫:ぱんぱかぱーん! 呂刀姫:…はい、毎度おなじみ呂姉妹の解説です。 呂文姫:ぱふぱふぱふー!(^O^)< 呂刀姫 呂文姫
呂文姫:取り敢えずみなさま、明けましておめでと――っ! 呂刀姫:…この更新は、順調にいけば2004年1月1日に行われているはずです。 呂文姫:いや~、猪木祭り、盛り上がらなかったよねー! 呂刀姫:…。それはさておき。ご覧の通り、今回からゲームの舞台は「三国志IXパワーアップキット」へと移行いたします。 呂文姫:ずいぶん長いことかかったねえ。 呂刀姫:まあ、事情は色々あるんだけどね。ブランクが開いて違和感あるって方は、ちょっと前から通しで読んでみたら、勘が戻るかも。
呂刀姫:さて、このパワーアップキット、色々と無印版からの変更点があるんですが、中でも最も目を惹くのが、兵士抜擢システムです。 呂文姫:う゛ーーーーん。これまた、色々と物議を醸したシステムだったねえ。 呂刀姫:ぶっちゃけKOEIは、システムを練り込まずに導入しちゃうので、後からボロボロ粗が出るという悪循環を繰り返してます。 呂文姫:兵士から抜擢→教育→武将へ…っていうシステムはいいんだけどぉ…。出来てくる武将たちが武力95・妖術持ちとかの化け物だらけとなると、話は別だねえ。 呂刀姫:おまけに強制イベントだから、イヤでも出てくる。十年後には武力100近いオリキャラ連中がゾロゾロゾロゾロ… 呂文姫:アイデアそのものは悪くないんだから、もうちょっと練り込めばねえ…。たとえば在野武将や新武将の登場パターンの一つにするとか。文官抜擢とかバリエーション増やすとかぁ… 呂刀姫:うーん。
呂刀姫:というわけで、今回抜擢武将システムに対して、多少アレンジを加えます。 呂文姫:ふんふん? 呂刀姫:ズバリ、「全能力-10」。 呂文姫:シンプル・イズ・ベスト! 呂刀姫:彼女たちの能力値については、例によってメモリえぢたーで変更可能。年齢や性別、顔グラフィック、はたまた名前まで、何だって変更可能。もう卞弁とかで悩む必要なし!今回の崔毓美ちゃんも、年齢は15歳にまで下げてたり。 呂文姫:あ、ちなみに11月の光栄公式パッチを当てると、iniファイルを最新の物にしても、そのままじゃえぢたーは使えないから注意! 呂刀姫:11月パッチ対応のiniファイルは記述は、以下の通り。赤字の部分は、ご自分のマシンの環境に合わせて変更・上書きしてくださいね。
; 三國志IXインストールパス ; 三國志IX実行ファイル(小文字で) ; 顔ファイル名 ; 顔ファイル名(PK追加分) ; 顔ファイル分岐点 ; 顔番号最大 ; 顔用パレットファイル名 ; 武将メモリオフセット (0x00CF7DD0) ; 都市メモリオフセット (0x00CECA58) ; 軍団メモリオフセット (0x00CF2B18) ; 国号メモリオフセット (0x00F9F6A0)
呂刀姫:…とまあ、こんなカンジで。 呂文姫:例によって、フリーソフトウェアの使い方に関して、当サイトはもちろん、M(o:)bius strip - メビウスの帯 -さまに対しても、絶対に質問しないこと。全部自己責任でね。 呂刀姫:それではみなさま、また本編でお会いしましょう! 呂文姫:ばははーい(^o^)/~~~
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