【ハルヒ三国志】2時間無呼吸垂れ流しでどこまで三国志小説を書けるか実験してみたよ(`・ω・´)
■【ハルヒ三国志】2時間無呼吸垂れ流しでどこまで三国志小説を書けるか実験してみたよ(`・ω・´)
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「涼宮将軍、先遣した長門隊より伝令です。――敵・厳白虎軍の威力偵察部隊と接触交戦中。とのこと」
声にまで笑顔を貼り付けたような、爽やかで俺には耳障りな戦況報告が、右隣からきこえてくる。
横目にチラリと見れば、今やすっかり見慣れてしまった軍師スタイルの古泉が、馬上、黒か灰色かはっきりしない色の羽扇を意味なく揺らめかせていた。公園の鳩の羽根でも採集して作ったのか、そのジュリアナ扇の出来損ないは。
報告を受けた人物は、そんな古泉の胡散臭い中華コスプレに何の違和も感じないのか、馬首を返しながら、実に満足げな鼻息を荒く吹き出した。
「OKよ古泉君!いよいよ、わが”SOS団@会稽”軍の初陣の火蓋が、切って落とされるのねっ!」
いよいよも何も、いま既に交戦中って言ってたじゃねえか。あと、火蓋ってのは火縄銃の部品だ。時代考証を無視した表現をするな。
「うるさいわよ、キョン!」
振り向きざま怒鳴ったその人物は、俺が想像した通りの極上の笑顔を満面に浮かべたまま、眉の角度だけで怒りをあらわした。
「こういう時はね、雰囲気を楽しめばいいのよ!あんた、今のこの状況を見て興奮しないわけ!? この、”SOS”と書かれた旒旗を翻す大軍団を見て、男子の本懐とか思わないわけ!?」
そりゃあ、興奮はするさ。これが日中合作大河ドラマのロケ現場で俺が当事者でない観客か、せめて他国の観戦武官あたりの役どころだったらな。
「さて、どうでしょう。我が軍は総勢2万7千。対する敵軍は2万1千。敵味方会わせて約5万の人間が、この平原にひしめき展開しているというのですから、壮観と言うより他ありません。5万の軍勢が衝突する野戦となると、歴史的な決戦にも劣らない規模といえるでしょうね」
そうかよ。5万人程度なら、ちょうど甲子園いっぱいくらいの人数だがな。見慣れているわけじゃないが、そう非日常的な数字でも無いだろう。
「そう、言い方を変えれば、たった5万人。せいぜい球場のスタンドを埋める程度の兵士の群れだけが、この国や、我々日本のこれまでの歴史を、千年以上にわたって塗り替えてきたんですよ」
いちいち大げさな野郎だ。
そのたかだか数万の兵士の群れを、これからマスゲームみたいに右だの左だのへ移動させて、最終的に敵軍を殲滅し続けなければならない俺たちってのは、一体何者なんだろうね。
「決まってるじゃないですか」
と古泉。
「後世の歴史家は、我々をこう呼ぶでしょう――」
などと芝居がかった口調で続けかけた古泉の声を、絶妙なタイミングで、横合いの声がかっ攫う。
真っ赤な軍馬にまたがる、不釣り合いに小柄な体。史実的に見てどこか違う気もする薄紅色の中国風鎧に身を包んだ16歳の女子校生。
われらが県立北高の非合法組織SOS団の団長にして、今は揚州会稽郡の自称太守である涼宮ハルヒは、声高らかにこう僭称しやがったのである。
「英雄!そう、あたし達は、この時代に彗星の如く現れた英雄なのよ!」
涼宮ハルヒ
涼宮ハルヒの逐鹿
事の発端は――
実のところ、よく覚えていない。
俺と古泉は、今にして思えば本当に唐突に、古代中国の雑踏の中に立つお互いを見出した形だった。
「ふと気が付けば、どうやら三国志っぽい世界にいた」
という、いつもの状況開始のパターンだ。
いつもの、という言葉に我ながら首を傾げるところだがな。とにかく雑踏をさけて、道端へ移動する。
ここで「ふと気付く」直前の事を思い出そうとしても、なにやらそのあたりの記憶だけがモワッと曖昧で、どう足掻いても接近できそうになかった。
まるで、布団の中でぼんやりと、さっきまで覚えていたはずの夢を思い出そうとするかのような徒労感だ。
「そのようですね」
と、古泉。お互い、しばらく無言だったのは、同じ脳内作業を繰り広げていたためであるらしい。こんなことでこいつにシンパシーは覚えないけどな。少しは新鮮みのある驚きを顔に出しやがれ。
「僕も、こうなった状況を思い出そうとしているんですが、どうも無駄骨に終わりそうですね。明らかに、不自然な記憶の改竄が行われたものと見るべきです。一体、いつ、どこで、誰がこの状況を作りだしたのか、追跡する必要があります」
それに関しては同感だが、それ以前にやらなければならないことがある。
「何でしょう?」
ここは、どこだ。
……
…
揚州会稽郡の治所、山陰県城。
そう聞いた俺は、しばし呆然としたね。
まず地名がわからん。そもそも状況もわからん。
おそらくかなり昔の中国であるこの市街に突然放り出されて、俺たちは何をすればいいんだ?
「おそらく」
古泉は、にこやかなハンサム顔を泰然と崩すことなく、俺が最初に思ったがバカバカしくて口にも出さなかった結論を、あっさり言いやがった。
「涼宮さんに影響される現象でしょうね」
ハルヒか。それ以外に考え様は無いが、やはりハルヒなんだな。
「直接かどうかは分かりませんけどね。少なくとも”機関”の視点で見た彼女は、自分の望むことを無意識に実現できる”広義における神”です」
古泉一樹
「機関」、つまりエスパー少年古泉の所属する自称世界守護者的な超国家秘密機関にとっては、県立北高校の1年生涼宮ハルヒは、「神」という呼称で崇め奉られる存在であることを思い出した。
「世界レベルの改変か、我々のタイムスリップかわかりませんが、こういう状況を作り出すことは、涼宮さんの能力的には可能と見るべきでしょう」
タイムスリップか。
そういう現象は、どちらかといえばハルヒよりも、未来人のほうの範疇だと思っていたがな。
そこまで思って、俺はふと気付いて、左右を見回した。
「…古泉、お前だけか」
「僕とあなたが気付いた瞬間からカウントするなら、まさしく今ここにいる僕の顔見知りはあなた1人ですね」
あの愛くるしくも頼りない未来からの来訪者、SOS団専属メイドにして北高における1年先輩の朝比奈さんが、タイムなんとかデバイスを誤作動させて、俺と古泉だけをこの時代の中国にすっ飛ばしれくれた――というシナリオを思い浮かべたのは、無理無いことだと思う。
しかし、だ。俺は小首をかしげた。知る限り、古泉は時間旅行の現場に立ち会ったことが一度も無かったはずだ。
「ええ。残念ながら。いちど朝比奈みくる式のタイムスリップというものを体験してみたいものですが。それはともかく、この現象は、どうやら単純なタイムスリップでは無さそうですね」
どういうことだ?
「いま、この町の場所を確認しようと思って、道行く方に声をかけてみたのですが、そのときお互いの意思の疎通が、言語を介して行えた、という事です。ここに発音や文法の差異は介在していませんでした」
分かり易く説明しろ。できれば一行で。
「日本語が通じました」
…つまり、と古泉は説明した。
「日本人が書いた物語の中の世界、またはゲームの中の世界に飛ばされた、というほうがしっくりくる状況ですね。なんだか以前、似たような状況に遭ったような気もするのですが、それはおいておきましょう」
まさしく俺もそれを思ったところだ。
それが「以前」なのか、それとも「これから」なのかわからない既視感か予知夢の世界の中で、古泉はファンタジーの吟遊詩人みたいな格好をしていた気がするし、その世界かどうかわからないが、西部劇の保安官みたいな格好をしていた気もする。思い出そうとすると加速度的に遠のいてしまう、ちょうど先程の俺たちのような、もどかしい記憶のなかの話だが。
「涼宮さんが望んで、我々をこの世界に送り込んだのか、はたまた涼宮さんの能力を測るため、何者かがこの世界へ我々を呼び込んだのか、それは定かではありません」
何者って、なんだよ。
「まったくもって不明です。少なくとも、僕たち”機関”には、そういう異能者は存在しません。できるとすれば、全宇宙レベルで、物質の存在をも情報として管理するような、そんな存在ですが」
つまり長門の親玉か。
統合思念体とやらいう、宇宙に存在する意思。
その統合思念体が、涼宮ハルヒというファクターを監視するために送り込んできたのが、北高1年生にして文芸部員、今やSOS団員として欠かすことの出来ない仲間、長門有希という対人ヒューマノイドインターフェイスだった。
あの長門の親玉が、何を求めて俺たちに中国の歴史世界を疑似体験させてくれるというんだ。
「それは分かりません。そもそも、情報統合思念体の主流派は、いま穏健な勢力が占めているはずで、下手に涼宮さんに刺激を与えるようなアクションは起こさないと予想していましたので。――だから、別口の広域宇宙的存在の介在かもしれませんが、本当に、まったくもって不明です」
不明不明といいながら、随分とベラベラ喋るだけの推論は出てくるんだな。
俺は肩をすくめると、最初の質問にふと立ち戻る必要をおぼえた。
「本当に、俺とお前の二人だけなのか?」
「何か不都合でも?」
大ありだ。
言葉が通じるという第一関門を突破したところで、お前とふたりきりでこの太古の異国へ放り出されたのかと思えば、まだ1人でリアルの邪馬台国に放り込まれた方が安心できるというもんだ。
「せっかくの異国に二人きりです。たまには僕を頼ってくれると嬉しいんですが」
残念そうに肩をすくめてみせる古泉。お前のそのリアクション、色んな意味で気色悪いぞ。
「まあ、そんなに心配する必要はないと思いますよ。誰が犯人であれ、僕とあなた二人だけをシミュレーションするメリットはありません。きっと、他のメンバーも、こちらへ来ていると思います」
だといいがな。
その古泉の言葉は、すぐに実証されることになる。
会稽郡の山陰県とやらが、現在の浙江省あたりと古泉に聞かされて首を傾げ、紹興酒の紹興市ですよ、と役にも立たない蘊蓄を追加されて余計に苛立っていたところへ、大きな声が俺たちを呼びつけたのだった。
もっとも、その声は俺と古泉の予想とは、少し違っていたがな。
「お――いっ!!! わははっ!!いたいたっ! キョン君と一樹君!!こっちこっち――!!」
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