第3話 「猛将募集中!」
1-3 猛将募集中! 1――という経緯で「猪突猛進」という、亡国の掛け軸にうってつけのスローガンが掲げられるに至った俺たちSOS団@会稽郡だが、さて猪突しようにもその牙に事欠き、猛進したくともその燃料すら無いのが現状だ。 財務方から、以上の報告を聞かされたときも、ハルヒは別段関心がある風でもなくのたまった。
…人の話を聞け。
つまらなさそうな顔で一同を見渡すハルヒ。 |
武官 |
しかしまあ、的はずれの指摘ではない。 いま会稽にいる武将は俺たちを除いて5名だが、王朗さんを筆頭に、見事に文官揃いだ。武力か統率が70以上の人間が一人もいない。 だが、有り余るとはまた贅沢過ぎる物言いだ。呉の厳白虎が聞けば泣いて悔しがるに違いない。あっちは武官ふたりで切り盛りしてるんだからな。
さすがはオトナというべきか、王朗さんに目配せされた華
ハルヒがおびえた風もなく、そんな強面の虞翻さんを睨み付ける。
ドキッとするようなことを、ハルヒは虞翻さんを睨みながら言う。
虞翻さんが、さすがに大人げないと思い直したのか、ムスッとした顔のまま折れてくれた。
と得意げに勝利宣言を掲げ、虞翻さんはいっそう渋面を歪めている。
サラリと言う古泉。ハルヒは面倒くさそうな表情を浮かべたが、不意に眉をはねあげ、何か呟いたかと思うと、
なんだよ。
勘弁してくれ。 2――で。
などと、こいつは縁日に小学生が親と間違えて知らないオッサンの手を引いて駆け回ってるくらいのテンションだ。情緒もクソもない。
いい加減だなおい。
だから人の話を――!
む?
俺はそうでもないと思うが、ハルヒ的には駄目な体臭らしい。確かに酸っぱい臭いが周りに充満している。
臭いに馴れたらしいハルヒが、また俺の手を引いてズンズンと男へ歩み寄ってゆく。
そんな周囲の視線を意識しないのか、ハルヒは男のすぐ隣の席に、横ざまに腰掛けた。俺は半歩離れた後ろに突っ立ったままだ。
意外に良識あるまっとうな台詞を吐いて、しっし、とハルヒを追い払う。無論それで怯むハルヒではなく、むしろ面白そうなオモチャを見つけた子供のように目を輝かせ始めたのは、そのリアクションが気に入ったせいだろう。
ハルヒが対人スキルの低そうな名乗りをあげると、男はきょとんとした表情で俺とハルヒを見比べる。
と、錆のある声で答えた。 |
有り余る文官 ちなみに王朗さんの他、華 ![]() 孫策に処刑された許貢さんはともかく、王朗さんも華 ![]() 要するに、色んな国の宰相級の人材が最初から4人もいる、この会稽こそ異常なのである。 |
3
そりゃそうだろう。一応、地味ながら後の孫呉を代表する部将の一人だ。
いきなりかよ。
ハルヒはあっさり決めつけると、上機嫌そうに卓上の酒瓶を取り、まだ中身のある董襲さんの杯に酒をつぎ足した。無礼きわまる奴だな。ついでに言えば、それは普通に董襲さんの酒だ。
などと手を取らんばかりにまくし立てる。 董襲さんの弁によると――今は浪人しているが、ゆくゆく天下国家のために己を活かしたいと思う、と。今は生涯を託せる主を捜しながら、各地の豪傑たちと交わっている最中である、と。故に、今は特定の主に仕えるを良しとしないと―― ふーむ。
誇大妄想と嗤わば嗤え。身代こそ単家の素浪人だが、志は常に天を向いている――と。
お前はいったい何を聞いていたんだ!?
董襲さんの底響きのする呻り声を、ハルヒはぴしりとへし折った。
ハルヒは、だん!と卓を叩くと、董襲さんにビシッと指をつきつけた。
一刀両断に、ハルヒは董襲という男の生き様を否定した。
董襲さんの上体が、なんと、落雷でも受けたかの如くグラリと泳いだ。
董襲さんがぶるぶると震えている。それは怒りではなく、己が立っていた大地が突然裂けた怯えか。
これ以上お前に人生を狂わされる犠牲者を出したくないんだよ。
お前は何を言ってるんだ。
なんと。 ――どおおおおお! っと、周囲のギャラリーから歓声がわき起こる。…いつの間にこんなに増えてんだ!? |
董襲さん 統率:80 武力:84 知力:53 |
うなだれている董襲さんに歩み寄ると、ハルヒはその手を取って立ち上がらせる。ああ、なんかそういうアスキーアートも一時期よく見かけたよな。
ハルヒがびしっと北の方を指さして宣言するや、ふたたび周囲から大喝采だ。
ハルヒが高らかに叫ぶと、ふたたび歓声がわき起こる。
手をぐるぐる回しながら怒鳴っているハルヒを後目に、なぜか俺が盃の買い出しとかツケの交渉をやらされてるわけだが。
それに唱和して突き上げられた盃。飛び散る酒。 みんなが明日知れぬ乱世ってことを忘れて、まあ、心底楽しめたんじゃないかと思う。 …………………… ――西暦194年、9月。 渡渉地点に敵影無し――という知らせを受けた会稽軍は、未明に浙江を一挙に押し渡り、銭唐より進路を東へ転じて呉郡へなだれ込む。 対する呉郡の支配者・厳白虎は、県城の守りに1万を留め、残りの1万6千を率いて呉近郊に布陣した。 |
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