ロボットによるスパムを排除するため、全板でキャップ必須にしました!

書き込みをされる方は、必ずメール欄に #chronica と入力してください。

お手数をお掛けしますが、ご理解ご協力の程、よろしくお願いいたしますm( _ _ )m


■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 最新50 read.htmlに切り替える ファイル管理
■ 【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】

1 名前:★惟新:2004/01/16(金) 14:26
『この萌えがいいね』と君が言ったから1月18日は旭記念日

と、いうわけで旭記念日祭りの開催を告知します!
旭記念日は神の光臨された1月18日にあやかる、何かゴリゴリ作ろーぜの日です。
学三暦内に設けられた謎の休日「旭記念日」を巡る創作物を中心とした、創作活動の推進を目的とします。
記念日制定の経緯
お祭り開催の経緯

そんなわけで、皆様、ゴリゴリ作ってくださいませーっ!
学三に関連していればSS、イラスト、漫画、音楽、設定等々、何でも構いません。
参加の際には「学三世界での旭記念日」(1月18日)をテーマにしていただけると幸いですが、
何かと制限を受けますので、どうもアイデアが沸かない、などの場合も大いにありえます。
その際はテーマに関わらず、ご自由に創作なさってください。そこは創作の神の命じるままに! です。
多数のご参加、心よりお待ちしております。

具体的な事項は>>2に。

123 名前:海月 亮:2005/01/19(水) 20:04
寮の外からがやがやと声が聞こえていた。
追っ手がかかったことを知った陸遜は部屋の電気をつけず、ベランダの窓にバリケードまで築いた上で懐中電灯とヘッドスタンドを持ち出していた。
扉は鍵をかけた上つっかえ棒もしてあるという厳戒態勢だ。
「これでひとまずは安心だな…」
「ええ。でも、懐中電灯の光も結構目立ちますからねぇ…」
「でも、本当にいいの? お邪魔させてもらって」
「はい。むしろ朝までいてください…今日ばっかりは、一人は嫌です…」
自分が貸したシャツの袖を引っ張って、泣きそうな顔で見つめてくる陸遜。
しかたないなぁ、と呟きながらも、諸葛瑾もそれに関しては同意見だった。
そのとき、ドアをノックする音がした。二人はぎょっとして顔を見合わせると…ドアの隙間からうめくような声。
「は、伯言…いたら助けてぇ〜!」
「御願いぃ〜」
慌ててドアを開けると、二人の少女がなだれ込んだ。赤みがかったショートカットの少女は吾粲、飴色の髪をポニーテールに結っているのは朱拠だ。
「孔休、子範!……よく無事だったわね」
「し、死ぬかと思ったわよ」
そう言ってへたり込んだ吾粲、上下のジャージを着ていた筈なのに、ズボンを失っている。
朱拠に至っては、スカートも靴も履いておらず、厚手のストッキングもボロボロだ。
恥も外聞も捨て、まさに命からがら逃げてきた、という感じである。ドアのバリケードを直しながら、陸遜はしみじみと言った。
「…どうしたの、とは訊かないわよ…解ってるから」
「しゃ、洒落にならんぞアレは…何で女の子同士の宴席で操を狙われにゃならないんだか…」
「あ〜ん…怖かったよぅ〜」
いつのも気丈さは何処へやら、泣きついてきた朱拠を宥めつつ、陸遜は当然の疑問を投げかける。
「しかし、よく逃げ切れたわね」
「仲翔さんが血路を開いてくれたからぎりぎり逃げて来れたんだけど…敬文とか曼才とか、どうなったのかな…徳潤さんも相当呑んでたみたいだし…」
実は虞翻もそうなのだが、(カン)沢は一旦アルコールが入ると豹変するクチだ。捕まれば無事では済まないだろう。
「その仲翔さんも、結局部長と谷利にとっ捕まったみたいだしなぁ…そういや子山は?」
「うぅ…多分いち早く逃げたと思う…何時の間にか元歎と一緒にいなくなってたじゃん」
「見てないのね…公績先輩が興覇先輩に羽交い絞めにされてたくらいの頃に、二人して裏口からこっそり出て行くの」
陸遜は、こそこそと逃げる歩隲と顧雍の姿を目の端で捉えていた。その時には自分も孫登達の襲撃を受けていたのでそれどころではなかったわけだが。
「嘘ッ、そんな早く逃げてたのぉ? ずるいよぅ!」
朱拠が非難の声をあげる。だが、いち早く逃げた二人の気持ちも解らなくはない。この場合は要領の悪かった自分達を責めるべきだろう。
「で、悪いんだが…」
「ぐすっ…会稽寮まで戻れそうにないから…朝までいい?」
「大歓迎よ。情けない話だけど、私も怖くて…」
二人の顔が、ようやく安堵の表情に変わった。

一方その頃。
「くそぉぉ、捕まってたまるモンですかぁ!」
柔かそうな黒髪をショートカットにした、ややキツめの顔に黒縁眼鏡をかけた少女が部屋の小窓から脱出しようと釣り下がっている。その形相は、必死そのもの。
少女の名は潘濬、字を承明。かつては荊州学区で関羽の信任を得、後方の守備を任されていたのだが、張湖部の荊州攻略の際、力及ばず軍門に屈した少女だ。彼女は帰宅部連合に対する信義を貫こうとし、部屋に閉じこもっていたが、孫権自らが彼女を諭し、以来幹部として厚遇されていた。
同じ直言の士であっても、張昭のようにやり込めてくるタイプではなく、親友がそうするように真摯な姿勢で諭してくれるスタンスが気に入られ、孫権の信任は非常に厚い。だが、あくまでそれは孫権が素面であった時の話に過ぎない。
酔った孫権にしてみれば、潘濬とてお気に入りの玩具のひとつでしかないのだ。
「う〜、逃がさないのらぁ〜承明ぃ〜」
「わぁぁ! そんなところに手をかけないで下さい部長〜!」
「お〜、いいよいいよぅ、もっとやれ〜♪」
「おねぇちゃんがんばれ〜」
「もう少し〜」
潘濬は、そのスカートの根元を孫権に捕まれ悲鳴をあげた。それを見て、座の中央で(カン)沢と孫登・孫和姉妹が無責任に声援を送る。援軍の期待できない状況に、潘濬は泣きたくなった。
逃げた連中を追っかけて、甘寧や凌統、徐盛に周泰といった猛者たちは方々へ散らばり、数人しか残っていないのですっかり静かになった宴会場は、それでもまだプチハチャメチャ状態を継続していた。
部屋の隅のほうでは、座った目をした朱桓と朱然が、制服の半袖にブルマというマニアックな格好をさせられ、泣きべそをかいている薛綜に酌をさせ、時折抱きついては慰み者にしている。
孫権が最初に座っていた辺りでは、散々弄ばれた後なのだろう、下着姿で突っ伏している厳Sと、弄んだ張本人の全Nが、酔いつぶれて倒れている。その近くには、普段孫権の後ろにくっついている谷利が、手酌で何かぶつぶつ言いながら痛飲している。
部屋の中央には、頭から酒を浴びせられ、衣服を乱され酔いつぶされた虞翻の姿がある。
どれも一瞬後の自分をみているような気がして、潘濬の顔が蒼白になった。
彼女は最初の大脱走(w)の際、機転を利かせて外に飛び出すと見せかけ、階上のトイレに隠れていたのだ。しかし、騒ぎがひと段落した頃を見計らいトイレから出たところで、徘徊していた孫権とばったり出くわしたのが運の尽き。陸遜という玩具を失ってヒマを持て余していた孫登・孫和姉妹を交えた壮絶な鬼ごっこの末、彼女は宴会場に戻ってくる羽目になった。
「むぅぅ〜しぶといなぁ〜…えいっ!」
「え?」
次の瞬間、孫権は潘濬のスカートの根元を掴んだまま、勢いをつけてぶら下がた。
スカートに限らず、この学園の制服は課外活動に伴う戦闘行為のために相当丈夫な生地を使っているはずだが、偶然ホックの辺りに手をかけていたからたまらない。勢いでホックが外れ、スカートがずり下ろされ…
「―――――――っ!」
その惨劇に、潘濬は声にならない悲鳴をあげた。その顔が、恥ずかしさのあまり瞬間沸騰する。
間の悪いことに、彼女は下着の上にはスカート以外に何も身に付けていなかった。普段堅物振りを発揮して、お洒落にも気を使わないと思われた彼女らしく、シンプルなストライプの下着が姿をあらわす。
「むぅ…白地に青の縞パンか…やるな承明」
なにが「やるな」なのか知らないが、しみじみと呟く(カン)沢。その目の前で露になった下着を隠そうと手を放してしまった潘濬と、未だにそのスカートから手を放そうとしない孫権は一緒に崩れ落ちた。
頭から落っこちた潘濬は、痛む頭をさすって起きあがろうとするが…何故かその上にはマウント・ポジションをキープした孫権がいた。
口元はこれ以上ないくらい妖しく歪み、手の動きが否応なく恐怖をかきたてる。潘濬は涙目で、必死になって逃げようとするが、竦んだ身体に上手く力が入らない。
「あ…あ…」
「つ〜かまえたぁ…たぁっぷりかあいがったげるから覚悟しろ承明ぃ〜」
そして建業棟に、潘濬の悲鳴が木霊した。

(続く)

124 名前:海月 亮:2005/01/19(水) 20:05
「開けろおらぁ! 居るのはわぁってんらお〜!」
「逃亡者はお持ち帰りらぁ〜出て来いやぁ〜!」
鉄製の扉を執拗に蹴り続ける激しい音と、酔った魯粛と甘寧の声がする。蹴っているのは恐らく甘寧であろう。慌てた陸遜達は、下駄箱やテーブルでバリケードを固めて抵抗した。
「な、何、なんで? 何で居るのがバレたのよっ!?」
「そんなの知らないよっ!」
小声でやり取りする朱拠と吾粲。
「まさか…」
築かれたバリケードの上から、可愛らしいカエル柄の散りばめられたパジャマに着替えた陸遜が小窓から外の様子を伺った。そこには、制服のスカートとジャージのズボンをそれぞれの手に握り締めながら、物凄い形相で蹴りを入れてくる甘寧の姿が見えた。
「やっぱり…二人の匂いを嗅ぎつけたんだ…」
「んな馬鹿な! 犬じゃあるまいしそんなこと」
当然の物言いをする吾粲。しかし、陸遜は真顔で、
「承淵から聞いたことがあるの。興覇先輩って、匂いだけでどんな料理を作っているのかは愚か、材料まで完璧に言い当てるって…私も最初は信じられなかったけど…そんな嗅覚なら、人の匂いを嗅ぎ分けるくらい出来るかも」
「うそ…でしょ?」
その言葉に顔面蒼白になる朱拠。陸遜が授業で使っている竹刀を持ち出してきた諸葛瑾も姿をみせる。
「開けたら一巻の終わりよ…私、窓のほう見てくる。ここ三階だから多分大丈夫かもしれないけど…」
「いえ、酔ってるあの人たちに、常識なんて通用しません! 私も行きます! 孔休、子範、此処は任せた!」
「承知!」
必死の形相で、かつ強い語調の小声で、陸遜が指示を飛ばす。
二人がベランダのほうへ行くと、なにやら声がする。ギョッとして駆け寄れば、その声の主が潘璋と凌統であることに気がついた。鍵をかけているベランダの戸がガタガタと乱雑な音を立てる。
「公績ぃ、石かなんか持ってない〜? こりゃ割るっきゃないっしょ〜?」
「そだね〜てかアンタの部屋から何かもってくりゃいいじゃん?じゃん?」
「や〜よ、ヒトのならともかく、あたしのモノでガラスなんて割りたくないも〜ん」
そんな物騒な会話に、二人は息を飲んで顔を見合わせる。
「…忘れてた…確かこの隣りって、文珪の部屋だった…ベランダ伝いで来れたかも」
「というかあの二人まで来てるなんて予想外だったわ…まさかあたし達狙いだったなんて」
二人は入ってくる様子はない。何か言っては二人でげたげたと笑っているが、それは中に立てこもる少女達の背筋を凍らせるには十分すぎる内容だった。
しばらく考え込んでいたが、陸遜が意を決したように立ち上がった。
「…こうなったら先制攻撃あるのみ!」
「え、ちょっと伯言!?」
諸葛瑾から竹刀を奪い取り、陸遜はベランダの鍵を開けて外に踊り出る。
「お♪ 伯言みっけ…」
「先輩、御免なさいっ…たぁっ!」
それに気を取られた潘璋と凌統の一瞬の隙をつき、ベランダの手摺を使って宙に舞った彼女は正確に二人の脳天を打ち据えた。パジャマの上着の裾を鮮やかに翻して着地すると、凌統と潘璋は折り重なるようにして倒れた。
この年度に入って、部下として宛がわれた丁奉に感化され、陸遜も剣術道場に通うようになったのだが、その成果がきっちり現れたらしい。一瞬の出来事にぽかんとする諸葛瑾が、感心したように呟く。
「……お見事」
「感心してないで下さい…とにかく、のびてるうちに動きを封じましょう」
「え…ええ、そうね」
運び込むと、タオルを持ち出してきて、なれた手つきで手かせ足かせにしていく。その上で毛布をかけてやると、気を失っていた二人は何時の間にか寝息をたて始めた。その様子をみると、陸遜と諸葛瑾もほっと一息ついた。
その決着がつく頃には、玄関のほうも静かになっていた。朱拠が恐る恐る小窓を除くと、どうも酔い潰れたらしく、外の二人は抱き合うようにして大いびきをかいていた。

酔っ払いという名の狂嵐が去って、その翌日のこと。
「昨日はすいませんでした先輩…この通りです」
「いや、それはむしろあたしたちの台詞だ…本当にごめん伯言」
「ごめんなさいぃ〜平にご容赦をぉぉ〜」
陸遜の部屋では、一晩寝て正気を取り戻した凌統と潘璋、そしてその二人をのばした陸遜がお互いに土下座している珍光景が展開されている。
そこには明け方、それぞれ衣服を取り返し、それに着替えた朱拠と吾粲、そして明け方自分の部屋に戻って私服に着替えてきた諸葛瑾の姿もある。皆、陸遜が用意した朝食代わりのインスタントスープを啜っている。
甘寧と魯粛はというと、潘璋の部屋に放り込まれ、未だ高いびきをかいていた。
一通り平謝りしあうと、沈んだ表情で頭を抱える陸遜。
「今回の件…学園管理部にどうやって説明しよう…」
「ってか…バレたらむしろヤバいのあたしら卒業生とリタイア組だから…握りつぶしてもらえると助かるかな」
「…それは善処しますよ」
潘璋のひとことに陸遜も苦笑する。
「てか、あたしらがこの有様だったんじゃ…部長はどうなったろうな」
「他の子達も心配だし…早めに見に行ったほうがいいかも」
「そうだな。興覇と子敬はどうする?」
「あのまま寝せとけばいいよ。子敬はともかく、子明抜きで興覇を無理やり起こせる自信、ある?」
潘璋の言葉にお互いの顔を見合わせ、頷いた一同、衣装を調えると会場へと駆け出していった。

125 名前:海月 亮:2005/01/19(水) 20:07
その頃、会場のど真ん中で目を覚ました孫権は大きく伸びをした。
「ふぁ…あれ、ボクどうしてこんなトコで? …ええええ!? 何これぇ!?」
見渡せば、周りは目も当てられぬ惨状の光景が広がっている。
そこいらじゅうに転がった一升瓶とチューハイの缶、そして散乱した紙コップ。
少し離れたところで、大の字で寝ている(カン)沢と、その腕を枕代わりに、抱き寄って寝ている孫登と孫和。
その隣りに、ずぶ濡れになって死んだように寝ている、服を乱されたままの虞翻。
己の傍らには、あられもない姿の厳Sと潘濬が、憔悴しきった顔で寝ている。
主賓席には、未だ目を覚まさずぶっ倒れたままの全N。誰がやったのか、これもあられもない姿だ。
窓際に、日差しを浴びながら突っ伏して寝ている谷利。手には、一升瓶が握られている。
部屋の隅では、泣き疲れて眠っている薛綜を抱き寄せながら、幸せそうな顔で眠っている朱桓と朱然。
整然と並べられていたテーブルも、あるいは倒され、あるいは酔った誰かがやったのか、積み上げられたり無意味に並べられたりしている。
何人かが居ないのは、恐らく途中で逃げたか、あるいは会場の外で大暴れしたことは、窓の外、路上で大の字になっている周泰と、花壇に頭から突っ込んでいる徐盛を見れば予想がつくことだった。最初から一緒に飲んでいた筈の賀斉、呂岱、周魴、太史享らの姿がないのも、会場外に飛び出していったからだろう。
あまりの惨状に呆然とする孫権。よくみれば、自分も上着を肌蹴させていると言う、みっともない格好をしていた。慌ててそれを直すと、スカートの下には何も身に付けていないことに気がついた。慌てて辺りを見渡すが、その下に身につけていたと思しきものは、何処にも落ちていなかった。
「…何が…いったい何が…」
「うぃーっす、起きてるぶちょ…うっ!」
呆然と立ちつくした孫権の姿を見た吾粲、その光景に思わず絶句した。
そう、その孫権の頭には…その姿に、駆け込んできた陸遜達も噴出しそうになる。
「な、なに? みんなどうしたの?」
「ぶ…部長、頭、あなたの頭の上…っ」
「へ…?」
必死に笑いをこらえる陸遜が指差し、孫権が恐る恐る頭に触れると…そこには、彼女が探していた例のものが被せられている。その正体に気付いた瞬間、顔面蒼白になり、次の瞬間…
「やあぁぁぁ―――――! みんな見ちゃ駄目ぇぇーッ!」
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め上げ、孫権が部屋から飛び出していった。
一拍置いて、少女達の笑い声が会場跡に弾けた。

このあと孫権はしばらく、気まず過ぎて居合わせた陸遜達とはしばらく口も利けず、潘濬達も、それぞれの畏怖の対象となった人物たちをそれとなく避け、近づかなかったらしい。
そして真冬の路上で高いびきをかいていた周泰たちも、大方の予想通り風邪を引いて寝込んだとのことだった。酒をかぶってびしょ濡れのままだった虞翻も、その例に漏れることはなかった。
当然ながら、孫権の頭に彼女の下着を被せた犯人も不明である。
この事件は学園史に載る事こそなかったが(当たり前か)、それでも当時の長湖部員の間では長く語り草になったという。当事者・孫権にとってはかなりのトラウマになったようだが、それでもこうした酒盛りが止む事はなかったらしい。

(終わり)

126 名前:海月 亮:2005/01/19(水) 20:31
…ああ、やっちまった_| ̄| ...○
私的には孫権が潘濬を襲っているくだりに全力かけてみました。
何気にそのいちとか書いてありますけど…ミスですのでお気になさらず。多分続き無いので…。

時期的には二宮の変の前年、夷陵回廊戦の翌年の正月になるかと。登場人物の年齢設定などはかなり勝手に決めちまってますが…
因みに張昭不在の理由も、バリケード事件の真っ最中であると勝手に思い込んでます。

>玉川様
流石は本家…祭の先陣を切るにふさわしい逸品でありますな(´ー`)b
実は夕方頃に一度来たのですが、それを拝見いたし吾粲と朱拠の描写を早速拝領させて頂き…というか、いきなりとんでもない扱いをして面目次第も_| ̄|    (((○

127 名前:7th:2005/01/19(水) 22:31
時の流れは万人に平等である。
それは多忙を極める蒼天学園の生徒にも例外ではない。好む好まざるとに関わらず、年は暮れ、そして年は明ける。
そう正月。流石に大晦日及び三が日程度は休みでも良いのではないだろうか、と云うか休ませろ、とのことで、その期間は一死の活動が停止され、生徒達は思い思いの休暇を楽しんでいる。
ことに幹部級の人間にとっては本気で得難い休日。それこそ遊び倒すか、惰眠を貪るかの二者択一である。
寮を出て実家へ帰省する者も多い。市外から来ている者のみならず、市内に実家を持つ者もだ。
例えば趙雲は実家の常山神社の手伝いをしに帰っているし、張遼もヘイホー牧場で馬と戯れ三昧の正月を送っていることだろう。孫権などは二人の姉に連行されて、元日から海に繰り出している。
そしてここにも、正月をまったりと過ごしている人達が居た。


〜〜或る姉妹(達)の正月風景〜〜


「はー、実家はやっぱり安心しますねー。まるで第二の故郷です」
「第一の、の間違いでしょうが」
「あ、そうでしたねー。うっかりうっかり」
炬燵に入りながらのほほんとボケる妹に、姉がツッコミを入れる。割と良くある光景ではあるのだが、姉の方の表情は、呆れたを通り越して少々うんざり気味だ。
「全くこの子は大ボケなんだから……いや、良く考えるとマシな方か。何しろウチは問題児揃いだし」
長女の苦しみである。エキセントリックな性格の妹たちの世話をするのは、昔から彼女だった。その苦労、推して知るべし。
彼女の名は諸葛瑾。長湖部の中堅幹部にして、諸葛姉妹の筆頭である。人望篤い事で知られる彼女の思慮深さと温厚さが、妹達の世話によって培われた事を知る人間は少ない。
「あのー、瑾姉さん。一応訊いておきますけど、問題児ってのはアタシの事じゃありませんよね?」
「クリティカルヒットで私達です。それすら気付きませんか愚鈍な姉」
「…アンタは自覚があって何よりだよ、喬」
「姉さんは自覚が無くて何よりです…バカの」
「何だとー!!」
姉妹間の会話ながら、余りにも容赦ない言葉に、顔を赤くして怒っているのが諸葛恪。彼女は頭が滅法切れるものの、性格は直情径行で調子に乗りやすいのが玉に瑕。将来が思いやられると云う点で、家族内では割と問題児である。
そしてナチュラルに口が悪い諸葛喬。一卵性の双子のためにこの二人の顔立ちはほぼ同じだが、ショートカットで活発に見える恪に対し、喬はロングヘアに眼鏡の理知的風味。加えて、生来よりの病弱のため、見た目は薄幸の美少女と云うかなり得したルックスをしている。ただし、中身は猛毒を吐く危険生物じみた、諸葛家で一二を争う問題児である。
「あ、駄目ですよ喬ちゃん。家族にそんなこといっちゃめっ、ですよー」
「均姉さんは頭が小春日和で何よりです」
「んー、私も春は好きですよー。あ、でも夏も良いですね。スイカ割りとか」
「訂正。均姉さんは脳がお目出度くて何よりです。色々と尊敬しますよ」
「えへへ、誉められちゃいました」
天然はあらゆる悪意を超越する。喬が家族中で最も苦手とするのがこの天然ボケボケ娘、諸葛均である。ほんわかふわふわオーラ全開の彼女には、いくら罵言をあびせても、暖簾に腕押し糠に釘。柳が風を受け流すが如く、ことごとくが効かないのだ。だがその天然ぶりとは裏腹に、家事などは姉妹中で一番出来るのだから世界は侮れない。瑾の言にあるように、姉妹中ではまだマトモな方である。
「……そう云えば、瞻はどうしたの?亮と尚は何か怪しいことしてるみたいだけど、あの子も朝から見ないわね」
「あー、あの子まだ寝てるわ」
時刻は既に11時を回っている。大晦日の昨日も瞻は早々と寝てしまっていたため、かれこれ12時間以上寝ている計算になる。いくら正月でやる事が無いにしても、流石に寝過ぎの感は否めない所だ。
「起こしてらっしゃい」
「へいへい」
瑾にそう言われ、炬燵から名残惜しそうに出ていく恪。そのまま瞻へ行くかと思いきや、おもむろに台所へ。そこでフライパンとお玉を装備して、ようやく瞻の部屋へ出撃した。
しばらくして鳴り響く、雷音と聞き紛う程の音。時折、「起きろー!!」とか「二度寝すんなー!!」とか云った叫びが聞こえたりもする。
この家の中で道路工事をしているかの如き騒音の中、誰一人として動じてないのは驚異的である。慣れって怖い。
そして30分後、寝起きのためにふらふらした足取りの諸葛瞻と、疲労のためふらふらした足取りの恪が居間へとやってきた。
「せ〜ん〜、アンタもう少し早く起きようって気は無いの!?起こす側の身にもなってみなさいよ」
ぜはぜはと息を荒げ、抗議の声をあげる恪。寝ボケ眼でそれを聞いた瞻が一言、
「ん、努力はしてみる」
とは云うものの、その努力はついぞ報われた事は無い。そもそも努力していないのだから当たり前なのだが。
『春眠、暁を覚えず』とよく言うが、彼女の場合は一年を通して暁を覚えていない。いや、寝るのに時と場所を全く選ばないので、そもそも夜と云う概念を認識しているかどうかさえ怪しい。諸葛瞻、生粋の眠り姫である。
「皆さん、明けましておはよーございます」
「何か間違ってない?それにもう昼よ」
「ではおやすみなさい」
「って寝ないでー!」
「ねむねむ」
炬燵に入るや、早々に眠ってしまった瞻。半日寝たくせにまだ寝足りないのか。
すやすやと寝息を立てる瞻を見て嘆息する瑾。恪や喬もおそらく同じ思いだ。
「寝る子は育つって云うけれど、あれは本当ね。邪魔ったらありゃしない」
「瞻ちゃん背がおっきいですもんね。格好良いです」
この寝ボケ娘の何処が、と反射的にツッコミたくなった瑾だが、良く良く考えてみると、格好良いと云うのもあながち嘘ではない。顔立ちは何時も寝ボケ眼であるのを除けばまずまず整った顔立ちをしているし、性格も眠たげでやる気無いのを無視すれば飄々とした感じで悪くない。何より、180p近い長身が絶大なアドバンテージである。総じて、寝ボケてさえいなければ、かなり格好良い女なのではなかろうか。
「成程、確かに背が高くて格好良いのは認めよう。だがどうよ!この胸は!」
やたらエキサイトした恪が指し示す先は瞻の胸である。一言で言うと、おっきい。
「くうぅ〜、寝る子が育つのは解るけど、何で!胸まで!育ってるのよー!!」
ちなみに恪、貧乳。彼女の悲憤は果てしなく深い。
「持たざる者の悲哀、と云うやつですね。……哀れな」
「心底哀れっぽく言うなー!!大体喬もアタシと大して変わんないでしょうがっ!」
「亮姉さんが言うには、私はこの位が萌えのストライクゾーンど真ん中だそうです。何も問題有りません。問題なのは姉さんだけ」
「何よそれ!えこひいきじゃないの、あンのバカ姉め」
彼女たちの姉である諸葛亮だが、どうも喬にえらく萌えているらしく、姉妹中で最も喬に甘い。尤も、喬自身は余り亮のことを好意的には思っておらず、せいぜいが嫌いではない程度の感情しか持っていない。哀れ、一方通行の愛。
「ちくしょー、何時か、何時の日か、胸がおっきくなってみんな見返してやるー!!」
「そんな都市伝説を未だに信じているんですか、姉さんは」
「未来の事なのに既に伝説呼ばわりですか!?しかも都市伝説って一体何事ー!?」
「それはもう怪奇現象の域と云う事でしょう………。おや姉さん、頭を抱えてどうしました?頭痛なら早めに薬を飲んだ方が宜しいと思いますが」
「はいはい喬、そこまでにしときなさい。少しやり過ぎよ」
ネタがネタなだけに流石にこれ以上恪の心の傷をえぐり倒すのは拙いと判断して、瑾が止めにはいる。隣では、あうあうと頭を抱え込みながらうめいている恪を、均は懸命になだめている。ふわふわオーラに影響されて、復帰自体は早そうだ。だからといって問題が解決する訳ではないが。
ふぅ、と一息ついて瑾は考える。一体どうして姉妹間でこんなにも胸の大きさに差があるのか?と。彼女の主観は入るものの、大体の比率では、
均≧瞻>瑾>亮>恪=喬>尚
と云った所である。うち尚は将来性と云う点で除くとしても、この比率には何か法則性があるのではないか、と邪推してみたくもなると云うもの。
上位二人の共通点………………心の余裕?
「つまり心が大きいと胸も大きくなる、と云う事かしら?」
確かに均は天然入ってはいるが、それ故に心の余裕は大きいし、瞻はこの通り一日の大半は寝ているので、精神的な煩わしさなど皆無であろう。
対するに恪は何でも人並み以上にこなす秀才ではあるが、どうにも器が小さい。喬は幼い頃から病弱というハンデを負っている。あの毒舌も、そういった無意識のストレスの発散とも取る事が出来る。そう云う訳で、二人とも心の余裕は少ない。
「まさか…ね?私も何考えてるんだか」
はは、と軽い笑いで己の思考を誤魔化しつつ、迂闊にこの話題には触れるまいと誓った諸葛瑾であった。……時として怪奇は、怪奇のままであった方が良いのだから。

128 名前:7th:2005/01/19(水) 22:31
さて、時刻は正午を回ろうとする頃。正月でごろごろしているとは云え、間食などしていなければ、健康な人間なら小腹も空く頃合いだ。
「……お腹空いた」
起きてまた寝て一時間余り。今まで沈黙を守っていた(単に寝ていた、とも云う)瞻が、のそりと炬燵から身を起こす。
「そりゃ空くでしょうよ。何たって半日以上食べてないんだからねアンタ…。ま、アタシもお腹空いてるから丁度良いか。均姉、何か食べるものあるー?」
「えーと、おせちとお雑煮の残りとお餅がありますね。後は私の秘蔵のサラミとか缶詰とか」
「何処の酒飲みだアンタ。ともあれ、朝も食べたものばっかりって事ね…」
瞻に向けていた半目を今度は均に向け直し、恪は溜息を吐いた。まだまだこの姉の生態については未知の部分も多い。姉妹のくせに謎、と云うのも或る意味問題だが。
それはさておき、昔より正月には餅を焼く・雑煮を温める・お茶を沸かす以外の事に火を使わないと云われる。近年ではその風習は失われつつあるが、諸葛家はどうやら昔からの風習を守るようにしているらしい。
「仕方無いわね。均の所蔵物はともかく、適当にぜんざいでも作りますか」
「えー、サラミは美味しいですよぅ」
均の反論をさらりと流し、皆が瑾の提案に肯く。どうやらこの家、辛党は少ないようだ。
「じゃあそう云う事で。…恪、亮と尚も呼んで来なさい。どうせロクでもない事しかしてないんだから、ドアぶち抜いて引っ張って来て良いわよ」
「あー、それについてなんだけど、亮姉ってばこの間ドアを改造したらしくってさ、アタシの力じゃアレ抜けないわ。多分耐爆シェルター並よ」
「…一体何から部屋を守ってるんだか。しかし困ったわね、どうしたものかしら」
ふむ、と顎に手を当てる瑾。しかしその次の瞬間、
「その必要はありませんぞ!!」
響いた声と同時、背後の襖が快音を立てて開く。そして流れ出る、白煙と高笑い。
ぶしゅー、と吹き出す煙を背負い、諸葛亮が腕を組んだポーズで仁王立ちしていた。その後ろ、諸葛尚がドライアイスの入ったバケツを、パタパタと団扇であおいでいる。
ひとしきりバカ笑いを上げたあと、亮は尚に向き直り、
「ふっふっふ。我が助手尚よ、どうかねこの装置。昨日から徹夜して制作した甲斐もあると云うもの」
「凄いですハカセ!まるでデパート屋上のステージみたいです!」
「うむ、これなら何処へ出しても恥ずかしくあるまい。完成だぞ我が助手よ」
「ハカセー!!」
「………あんたら一体何のコントよそれは」
感極まって抱き合う二人に、呆れと諦めを半々にカクテルした声で瑾が問う。本音を言えばツッコミさえ放棄したい気分なのだが、一応訊いておかないと延々とこの二人のコントを聞かされる羽目になるかも知れない。
「コントとは失礼な。これはただの実地試験です。幸い動作は確認しましたので、早々に片付けますが」
「そう、だったら早く片付けなさい。…一応訊いておくけど、それ何?」
「見ての通りですが、暇ですから説明位はしておきましょう」
そう言って、背負っていた装置を降ろす亮。その装置、原型となった物はは小型のリュックサックらしいのだが、所々に謎のボンベやら何かのアタッチメントと思しき物体が装着され、さらには何本もの細い管が突き出ていると云った、怪しさ全開のデザインだ。少なくとも街中でこんなモン背負っていたなら、まず間違いなく警察へしょっ引かれるだろう。見ての通りとか言っているが、どう見てもこれが何なのかは解らない。
「これは孫乾殿に頼まれて制作したもので、小型のドライアイス噴霧機です。何でも旭記念日の部活動説明会でヒーローショーをやるとか」
「ヒーローショー?帰宅部連合の出し物でやるの?」
「いえ、無届けですのでゲリラショーかと。とまぁその折に使用する訳です」
本来ならそれを取り締まる立場にある彼女が、こんな物を作ってまで協力していて良いのだろうか。答えは絶対に良くない、だ。
「つまり年をまたいでまで作っていた物がそれ、と云う事ですね。……馬鹿ですか貴女は」
「うわ相変わらず容赦ないな我が妹よ。お姉さん悲しくて微妙に嬉しいぞ」
何やら矛盾した発言を繰り出す亮。もしかすると精神的Mなのかも知れない。
「酸素が勿体ないので黙れ馬鹿姉。尚、貴女もこんな馬鹿と付き合う必要はありません。馬鹿が伝染りますよ」
「えー、楽しいのに」
「楽しくても駄目です。私的に馬鹿は法定伝染病と同レベルですからね、感染したら完治するまで学校に行けません。最悪の場合、生物災害(バイオハザード)指定で隔離されますよ。嫌でしょう、それは」
「う、うん。馬鹿って怖いね。ゾンビで拳銃でハーブで回復なんだねっ」
字面的にはそう間違ってもいないのだが、微妙に間違った認識をしている尚。この姉たちに囲まれて、末っ子がマトモに育っているのは奇跡に近い。尤も、この辺の認識に見られるように、少しずつ歪み初めているようだ。将来が不安な所である。
「亮姉さん、貴女も尚に変な事吹き込まない様に。貴女の馬鹿は特に凄いんですから。私的にはエボラ出血熱級です」
「致死率90%とはこれまた凄い。或る意味誇らしいな」
「ええ存分に誇って下さい。近い内に病名『馬鹿』で生物災害に認定されるでしょうから。人類初ですよ?良かったですね」
「うむ、脳が悪いのに良かったとはこれいかに、と云った感じだな。はっはっは」
本人達の認識では、せいぜい「軽口のたたき合い」と云った所なのだが、空気は物凄く刺々しい。周りの人間にはたまったものではない。
「思うんだけどさ、あの二人って同類なんじゃない?類友が亮姉で、同族嫌悪が喬」
「言い得て妙よねぇ…。二人ともイカレてるのは間違いないし」
「イカレてるって云うのはあんまりですよ。確かに二人とも何処かおかしいですけど」
「均姉さん、そう云うのは『他人と行動様式が一線を画している』って言うと良いよ。馬鹿が知的に聞こえるから」
「な、なんか文字数が多くて偉そうです。馬鹿って偉い?」
流石に大声で言うのも憚られるので、小声でひそひそミニ姉妹会議。包み隠さぬ本音なので、みんな結構酷い事を言っている。
そんな外野の心の内を余所に、舌戦はますますヒートアップ。
「時に喬よ、内政戦隊は只今5人目募集中だそうだがどうかね?今なら好きな色の全身タイツに、先程のバックパックが漏れなく付いてくるが。きっと似合うぞ。私の趣味的に」
「ふふ、だんだんと変態性がオープンになって来ましたね亮姉さん。心から辞退させて頂きますよ。それよりも貴女が入るべきでしょう。白い全身タイツにレインボー染め抜いて、リーダーでもないのに真ん中でポーズ付けてる……何てお似合いなポジション」
「○ャッカー電○隊とはこれまたマニアックな。だが私は現状で満足しているのだよ。考えてもみたまえ。『正義の味方としての博士』、この役割の方が遙かに私に相応しい」
「成程、確かに博士は良い感じの役どころですね。その変態マッディーな性格を存分に活かせますから」
「そうとも、マッドサイエンティストは世界を救うのだよ。ビバ科学の力。ラララ科学の子」
「ええ、ついでに言うと、世界を滅ぼすのも大抵マッドサイエンティストですが」
既に状況は加熱から混沌に移り、もはや常人の理解の及ばぬ域へと達しつつある。この二人、やはり似たもの同士か。
「えぇい、我が妹達ながら何て子達よ。何時育て方間違えたのかしら」
「ん、多分母さんの影響だと思う。母さんってほら、結構バイオレンスな人だし」
ちなみに彼女たちの母親の名は諸葛豊。蒼天学園OBで、現役時には清廉かつ正義の人として知られた硬骨の人である。年を経て家庭に入った後も、瞻の言にあるように性格の強さは健在のようだ。
「それにしてもこの馬鹿さ加減は変よ。均と恪と瞻は……まぁ多少問題有るけどあの二人程じゃないし」
「瑾姉、比べる相手が悪い上に、そもそもアタシは問題児じゃないっての!」
「後半無視するとして、流石に相手が悪いのは事実よねぇ…。尚、あの二人には近づかない事ね。馬鹿を通り越して大馬鹿になるから」
「え、えと…つまり、馬鹿ってバカなの!?」
「ああっ、尚ちゃんがついに正しい認識をっ!ううっ、良かったですねー」
ミニ姉妹会議も微妙な盛り上がりを見せている。やってる事は現実逃避以外の何者でもないのだが。
誰でも良いから何とかしてくれ、と云うのが一貫した外野陣の本音である。自分たちは手を出さない。ただ願うだけ。誰だって、進んで火の中に手を突っ込みたいなどとは思うまい。
その願いが祈りとなって天に通じたのか、ぴんぽーん、と家のチャイムが鳴る。
彼女らにとってそれはまさしく福音。もはや一も二もなく、我先にと争って駆け出す。向かう先は玄関のドアだ。
バタバタと転がるように走り込んできた5人。一番早かった瑾が代表でドアを開け―――
「どちら様ですかありがとうございます!!」
「なな、何や一体!?ウチ何か悪い事……や無くて何か善い事でもしたか!?」
その先には帰宅部連合総部長・劉備が、突然の事に目を丸くしていた。
「……と、これは劉備先輩、お見苦しい所をお見せしました。改めまして、明けましておめでとう御座います」
慌てて居住まいを正し、劉備に礼をする瑾。呆けていた劉備も、それに応じるように軽く一礼する。
「ん…ああ、新年おめでとさん。…しっかしさっきのは何や?えらい泡食っとった様やけど」
「いえ身内の事情ですのでお気になさらずに。しかし我が家に何の御用でしょうか?しかも御三方お揃いで」
先刻はパニックになって気付かなかったが、良く見れば劉備の後ろ、関羽・張飛が並んで立っている。家の中にいる諸葛亮を含めれば、帰宅部連合首脳陣の揃い踏みである。
「いや正月やしな、孔明誘って初詣にでも行こ思たんやけどな。丁度子竜も神社でバイトしとるし、巫女服見がてらな。…折角やから瑾のねーちゃん、アンタらも一緒に来るか?家族みんなで行った方が良いやろ?」
「はぁ…。しかし今両親は年始回りで家に居りませんし、妹達の事で先輩方に御迷惑をお掛けする訳には…」
躊躇する瑾。だがそれを叱り飛ばす様に、思わぬ所から声が出た。
「おいおい諸葛の姉さんよ、ウチの姉貴とこのアタシが、まさかその程度気にする程ケチな人間だと思ってんのか?」
張飛だ。口調こそ荒っぽいが、その表情は笑顔。人懐っこい感じの、良い笑顔だ。
「左様。学園内のしがらみも、今日ばかりは関係有りませぬ。今日は元日、年の初めの目出度き日ですよ」
続けて関羽。目元にたたえた微笑が、何時になく柔らかい。
「ちう訳や。昼メシがまだなら外で食べればええやん、屋台もいっぱい出とるで。ほれ、そこのちっこいの、おねーさんが何かオゴったるでえ〜」
「本当!?ワタアメとかでもいいのっ!?」
「ちょっ、尚!駄目だってば。先輩も妹を餌付けしないで下さい!」
「ええやんええやん、ワタアメの一本位、大した事あらへんて。ほな尚ちゃん、おねーさんに付いて来るかー?」
「うん!」
劉備に頭を撫でられながら、満面の笑顔で返事する尚。
「ほい決まり。どうよ瑾のねーちゃん、まさかこの子だけウチらに付いて行かせる気か?」
にんまりと勝ち誇る劉備の顔を見て、瑾は両手を上げた。流石は劉備、役者が違う。
「解りました。御迷惑を掛けさせて頂きます。そう云う訳だからみんな準備―――って」
振り返った先には誰も居ない。どうやら行くことが決まった時点で、皆早々に中に引っ込んで外出の準備を始めたらしい。
独り取り残された瑾の傍ら、劉備がさも可笑しそうに肩を震わせて笑いを噛み殺している。
「いやー、おもろい家族やな。退屈せんやろ、アンタ」
「ええ、本当に。毎日がエキセントリックの嵐で泣けますよ」
はぁ、と肩を落とす瑾。その背中を一発叩き、劉備が言う。
「泣くな、笑え。泣きながらでも笑え。笑う門には福来たる、って言うやろ。笑っとった方が人生たのしいで」
かか、と笑う劉備。瑾もつられて微笑し、
「そうですね、年の初めから泣き言はよしましょうか。何はともあれ」
背をのばし、威儀を正して劉備達に向き直る。
「本年も姉妹共々、宜しくお願いいたします」

かくて始まる新たな年。
それはきっと、楽しい年になる。そんな気がした――――

129 名前:7th:2005/01/19(水) 23:10
何とか一日遅れで間に合った〜!
今年は諸葛姉妹のお話です。
ホントは後二人くらい(諸葛融と諸葛京)が居るはずですが、話がややこしくなるので泣く泣く割愛。
何時か補完できると良いなぁ、と思っていたり。
あー、でもこの文中にもネタが一杯有るなぁ…。内政戦隊ゲリラショーとか諸葛姉妹が常山神社で巫女服とか。
何やらアサハル様の方の参加が遅れるらしいので、もう一本書いてみようかなぁ…。

何はともあれ、玉川様、海月様、GJでした。
そしてこれからの方たちも頑張って下さい!
以上、7thでした。

130 名前:法全:2005/01/22(土) 00:32
それでは続かせて頂きます.三分帰一・番外篇.
http://www.geocities.jp/hosenkosou/gk3/index.html target=_blank>http://www.geocities.jp/hosenkosou/gk3/index.html
より,左フレーム下「番外」の01〜08です.学三では羊示古と陸抗
が幼馴染という設定とのことなので,そこを狙おうと.
ただ,旭記念日に対する認識はこんな感じでいいのか,そこが少々
怪しいですが

131 名前:takahisa@倍率7倍♪:2005/01/23(日) 02:47
本日の朝刊によると、行くつもりの私学志望校の倍率が7倍で、府下第5位ぐらいの倍率になっててたまげているtakahisaです。
もっとも、模試でその学校の希望者の1位を取ったとこがあるので、受かる気自信は結構あるんですが。
…並み居るライバルを蹴散らして、合格を掴み取ってやるぜ!です。

…さて、学三ゲームが少しバージョンアップしたのでお知らせします。
http://takahisa.net/game/gaku3/download/gaku3game_ver0.00.lzh target=_blank>http://takahisa.net/game/gaku3/download/gaku3game_ver0.00.lzh
…前回とバージョンは変わってませんが、内容と画像が少し変わってます。
とりあえず、見てのお楽しみ!ということで。

あ、ぐっこさん、時間があれば、私のサイトの学三ページのアドレスを、
http://takahisa.net target=_blank>http://takahisa.net(ウチのトップ)
に変更していただけますでしょうか。gakusan.takahisa〜というアドレス、諸事情により消したので…。
よろしくおねがいします。

132 名前:★教授:2005/01/23(日) 12:45
■■ 旭記念日企画 〜十色の側面〜 ■■


「え、法正休みなの? 何でまた…」
 意気揚々とデジカメを手に会議室に姿を現した簡雍。法正休みの報を聞き驚きの色を隠せない様子だ。
 珍獣を見るような目をしながら、その報告をした伊籍は続けて休みの理由を話す。
「えーと。何でも風邪引いたらしくて…熱が39度程あるようです。身動き取れないし伝染しそうなので今日は大人しく寝てると電話がありました」
「たかだか39度で寝込むなよなぁ。鍛え方がなってねーっての」
 休みの理由に張飛が茶々を入れる。普通の人間は39度も熱を出せば寝込むのだが…彼女は違うらしい。
「まあ、休みの人間はこの際置いておいて…報告書のまとめを始めましょう。成都棟の花壇を踏み荒らした咎人の探索もしなければなりませんし……あら?」
 とんとんと報告書及び被害届をまとめながら李恢が会議室中を見渡す。しかし、ここにいるはずの面子が一人足りなくなっている事と窓が一つだけ開いてカーテンが風に靡いて寒い事に気づく。
 李恢は訝しがるのと好奇心も手伝ってか窓際を確認に行く。窓から顔を出して周囲の様子を見て、下を見下ろした。そこで目にした光景は―――
「張飛さん…ここ3階なのに…」
 規格外の衝撃に苦笑いしか浮かばない李恢。どうやら窓が開いていたのは張飛がそこから飛び降りて脱出を試みた形跡のようだ。しかも飛び降りて無事着地を果たした上に駆けて行く姿を見てしまったのでは苦笑いしか浮かばないのだろう。
 その時、今までだんまりだった簡雍が口を開いた。それと同時にドアを開けて出て行く。
「悪い、急用があったんだー。後、ヨロシク!」
「あ、ちょっと待ちなさい! 手伝わなきゃ終わらないよ!」
 伊籍の制止の声が届く前にドアは閉じる。たらりと冷や汗が流れた――


 場所は変わって法正の部屋――

「うー…私が風邪なんかでダウンするなんて…私のバカ…」
 ベッドに横になったまま法正は自分に悪態を吐いている。脇の棚にはミネラルウォーターのペットボトルと風邪薬が置かれている。更にその横に子供用の液体シロップと謎のアナログカウンター(現在11,800Pt)が鎮座していた。
「はぁ…もうやだなぁ…」
 うつ伏せになって溜息を吐く。ちょっとした病でも人はこんなにも弱くなる…身を持ってそれを実感している法正。いつもの強気姿勢は欠片も見当たらない。
 そんな弱弱しい姿に反応したのかカウンターがまた動いた。勿論、法正自身気づいてないし意識してやってる訳ではない。やはり謎のカウンターは謎のままだった。
「法正〜。生きてるかー」
 悲観に暮れる法正の部屋にノックもせずに簡雍が突然闖入してきた。勿論、法正は心臓が停止せんばかりに驚いたのだが。
「わわっ! 憲和! 何しにきたのよ!」
「何って、見舞いに決まってるでしょーが」
 見舞いときっぱり言い切った簡雍に対して真っ青を通り越して透き通りそうな色になる法正。
(憲和がお見舞い? え、見舞いだけで済むの? もしかしたら悪化の一途を辿るだけなんじゃ…)
 普段が普段の簡雍に疑問と警戒をしてしまうのは当然なのだが、今の法正には簡雍に対する抵抗力は皆無に等しい状態。進退此処に窮まれり、神様私を見捨てないで―――法正は神に祈るしかなかった。
 渦中の人――簡雍が法正に近づく。身動きが取り難い法正には最早逃げ道は残されていない。法正はそっと伸ばされる簡雍の手に思わず目を閉じてしまう、そして少々冷えた感覚が自分の額に感じられた。
「………え?」
「うーん…まだ熱高めかな」
 顔を顰めながら自分の額にも手を当てて熱の確認をする簡雍。思いもよらぬ行動に法正は別の意味で驚いている。
「えーと…ホントにお見舞い?」
 恐る恐る確認を取る法正。簡雍がその問いに一瞬呆けた顔をしたが、それも本当に一瞬だった。
「お見舞い以外の何だってのさ。まさか病人にいかがわしい事するとでも言うの? もしかして、そっちの方が良かったとか」
「それは絶対ないから」
 悪そうな笑みを顔ににじり寄る簡雍に真顔できっぱりと断りの返事を返す法正、あっそと踵を返した簡雍を見てほっと安堵の息を漏らす。だが、危機感知を担うべき人一倍優れた勘までは働かなかった。刹那の瞬間、簡雍の姿は既に法正が横になってる…その上にあった。マウントポジションを取られてしまったのだ。
「ち、ちょ…何もしないって…」
「服が透けてるよ…汗かいてるでしょ? 着替えるの…手伝ったげる」
 確かに風邪の副産物、高熱と暖を取るための布団の影響で多量の汗をかいている。しかし、今はそれに冷や汗と脂汗まで加わってしまった。
「い、いいわよ! 自分で…」
 語気を強めた言い方が誤解を生んだ、簡雍の顔が輝く。
「いい? いいんだね!」
「うわ、ちょっ…そんな事言ってな…。ひゃあ! そんなトコ…や、ん…やめ……やめてーっ!」
 無駄な抵抗をしながら簡雍の為すがままになってしまう法正、着せ替え人形の如く扱われてしまう。薄れ行く意識と理性の中、『コトバって難しいんだなぁ…』と思ったとか思わなかったとか―――


 ――で、1時間後。
 シャツとスパッツだった法正は簡雍の手によって猫柄パジャマ(背中に旭印)に着せ替えられていた。当の法正は赤い顔で横になっている。もっとも顔が赤いのは熱のせいだけではないのだが。1時間前まで着ていた着衣は簡雍が洗濯機に放り込んでいた。そして、その簡雍はと言うと―――
「〜〜♪」
 最近、流行している歌を口ずさみながら掃除機(竜巻式)を掛けている。物を動かして隅々まで掃除をしている辺りに真面目さが窺える。行ってはいけない世界にチェックメイトしている法正に自分も着替えると言い残して浴室に消えた簡雍が変身した姿、それはメイドだった。この格好には法正も思わず飲んでいた水を噴出して倒れこんでしまったのだが。
 そんな法正も今はぼんやりしながら掃除中の簡雍を目で追っている。
(うーん……結構几帳面なんだね…。歌上手いし…あの服も似合って………じゃなくて、真面目にやってくれるのはありがたいかも…)
 思考の中で道を踏み外しかけたが、一応感心はしているようだ。引き続き、ぼんやりと動きを追い始めた。ふと、机の上に目が留まる。自分用の薬…意味不明なカウンター(現在14,000Pt)…ここまでは分かる、だが、その隣に新たにビール缶が二本鎮座していた。
「け、憲和さん…そのアルコール成分がふんだんに盛り込まれた飲料は…」
 聞かずにはいられない、まさか飲まされる訳じゃないだろうか…そんな心配が過ぎる。が、それも杞憂に終わると共に不安も広がった。
「それは自分用。合間に飲んでるだけだから、気にしないで」
 事も無げに言う簡雍。口説いようだが、彼女は高校生である。法正の不安は高校生は飲んじゃダメではなくむしろ、自分用という言葉にあった。自分用という事は法正用も用意してある可能性が浮上したからだ。今、飲まされたら確実に二日は寝込む…ある種の危機を感じていた。法正が危機対策を痛む頭で捻り出してると、簡雍が覗き込んで来る。法正思考停止。
「掃除終わったけど、何か食べる?」
 意外や意外。まともな事言うもんだ…と感嘆の息をこぼす。
「そーね………任せるわ。…憲和って料理出来たっけ…」
「大した料理は作れないけど、御粥くらいで手を打ってよ…病人の必須だし」
「必須かしら…でも、それが一番かも……台所は適当に使っちゃっていいよ」
「おっけー」
 そそくさとキッチンに移動する簡雍。法正がふぅと軽く息を吐く。
「人って分からないものね…憲和にもあれだけの顔があるんだから…」
 その表情に小さな苦笑いを篭めて彼女の後姿を見ていた――

133 名前:★教授:2005/01/23(日) 12:46

 ――更に1時間後

「お待たせー」
「また随分と時間が掛かったわね…」
 お盆に御粥と付け合せの漬物を乗せた簡雍を見てぽつりと呟く。確かに御粥だけなら1時間も掛かるまい。
「いやー。何を付け合せようかと酒飲みながら考えてたら、何時の間にか酒に没頭しちゃっててさ」
 赤い顔で笑い飛ばす簡雍。酒気を帯びているのは一目瞭然だった。
「もう…病人をほったらかしにして飲酒なんてとてもメイドのする事じゃないわよ」
 上体だけ起こして溜息を吐く法正。
「ま、このだだっ広い世の中にこんな不良メイドが一人くらいいてもいいんじゃない?」
「自分で言うかなー、そういう事」
 盆を受け取りながら苦笑いする。私がふーふーして食べさせてあげよっかとか発言した簡雍を無視して一口掬って口に入れる。よく噛んで嚥下する…ちょっと驚いたような意外そうな表情をする法正。
「あら…美味しい…」
「当たり前じゃん。憲和ちゃんの手作りなんだからね」
「…やるわね…うっ」
 胸を張る簡雍、そんな胸元を見て呻く法正。コンプレックスは健在のようだ。
 その後は歓談を交えながら食を進めていく。気が付いたら全て平らげてしまっていた。若干調子が良くなっているのかもしれない。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした…と。何か随分良くなってない?」
 そっと手を伸ばして法正の額に触れる。法正も害意がなさそうなのは分かっていたので目を閉じてされるがままだ。
「熱は…下がってるなぁ。他は何ともない?」
「うーん。ちょっと気だるい感じがするくらいかな…これなら明日は大丈夫かも」
 目を閉じたまま自覚している症状を報告。と、次の瞬間…自分の唇に何か柔らかくて暖かい物が触れた。
「な、何…え、何かした?」
 驚いて目を開ける法正。別段その場から動いている訳ではない簡雍に問いかける。
「別に何もしてないけど…どうかした?」
「え…い、いや何でもない…」
「ふーん。それならいいんだけど…洗い物してくるね」
「あ…お、お願い…」
 盆を持って再びキッチンへと足を運ぶ簡雍。そんな後姿を見ながら自分の唇に指先を宛がう法正。
(今の感触…ま、まさか唇…? い、いや…憲和は動いてなかったし…え、じ、じゃあ何よ…あれは…)
 髪を掻き毟りながら塞ぎ込む。禁断の想像(妄想?)を思い浮かべては赤くなったり小さく暴れたりと忙しい。そんな法正の姿をちらちらと見てる簡雍がキッチンにいた。
(指先を唇に触れさせただけであそこまで悩むなんてね…愛いわ…ホント)
 簡雍は蛇口を捻り水を止めると、手を拭きながらしたり顔だった。

 その日、簡雍は法正の部屋に泊まりこんだ。どうやらお泊りセットも用意してきていた様で法正も呆れ返って物が言えなくなってしまい、唯々首を縦に振るだけだった。
 そして簡雍は本当にお見舞いと家政婦をやりにきただけで被害自体ほとんど被らなかった法正は就寝前に心の中で疑ってごめんと謝っていた。
 翌日――

「げほ……法正…だるいよぅ…」
「ホント、憲和もお約束な事するわね…何で伝染るかな…」
 昨日、法正がいた場所に簡雍が寝込んでいる。熱も高めで全く身動き取れなくなってしまっていた。そして、法正はと言うと完全に復調して朝から元気だった。
「授業始まるから…行ってらっしゃい…」
 しっしっと手をひらひらさせながら布団に潜り込んで丸くなる簡雍。ドアを開ける音が聞こえたので行ったんだなーと思い目を閉じる。
 しかし、暫くするとまたドアが開き足音が聞こえてきた。そっと布団から顔を出して確認する…その光景に目が点になってしまう。
「な、何してんのさ…法正」
「何って…昨日のお礼。借りを作ったまんまじゃ寝覚め悪いもん」
「い、いや…それは置いといて…。その格好なんですけど…」
「これ、結構暖かいし。…似合う?」
 くるりと一回転してスカートを靡かせる。昨日、簡雍が着ていた作業服を今日は法正が着ていたのだ。スカートの両裾を指で摘みあげると恭しく頭を垂れる。
「不束なメイドですけど、よろしくお願いします………なーんてね」
 くすっと悪戯っぽく笑う法正に苦笑い一辺倒の簡雍。
「あ、頭痛くなってきた…好きにやってよ…もう」
 布団をかぶりなおして溜息を吐く。しかし、満更でもない表情だった…。
 机のカウンターがカタカタと音を立てて回っている。
 味気ないBGMを背景に今日も少し変わった一日が始まる―――

 
 物語を終える前に、もう一つの場面に切り替えよう――

「はぁ…今、何時かな…」
「うん、1時ね。…深夜の」
 李恢と伊籍は廃人寸前の表情で鬱オーラを放ちながら書類と格闘していた。ほったらかしにして帰ればいいのに――
 と、会議室のドアが突然開く。濛々と白煙を立ち込めて登場したのは…
「手伝いに来たぞ、諸君。私が援軍として来たからには何も心配する事はない!」
 その人の高圧的かつ高慢ちきな言動に顔を見合わせて溜息を吐く李恢と伊籍。
「今日は…帰れないね」
「明日はお休みね…これじゃ」
「何か言ったかな、御二方?」
「「いーえ、何にも言ってません…」」
 李恢&伊籍は諸葛亮に落胆しながら声を揃えた――

                      糸冬

134 名前:★教授:2005/01/23(日) 12:51
多忙に多忙が重なって最終日に投下と相成りました。しかもへっぽこ。
これからも多分こんな駄文が続きそうですが、今後も広い心で見逃してあげてください。
絵化期待(コラッ)

旭記念日は永久に不滅。そして簡×法も不滅と信じております。
引き続き皆様の作品を心からお待ちしております。
勝手に旭記念日営業部窓際役員を名乗りつつ…

135 名前:★ぐっこ@管理人:2005/01/23(日) 21:55
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
つうかいきなり遅れてごめん_| ̄|○  結構いっぱいいっぱいの時期なの…

>>120
ウホッ!いいメンツ…つうか今なお前人未踏の域を歩み続ける義兄上と学三流石だな( ゚Д゚)!
陸遜、顧邵、吾粲、朱拠…吾粲カンジ出てるなあ…(^_^;) いちおう顧氏の閥に属する故吏
にしても、ツレどうしってのが嬉しいやね。
長湖部メンバーは、特に世襲の風が強いから、人間関係も複雑な階層になりがちですけど、
フラットな友情ってのがずっと続いてるというカンジで〜。

>>121-126
海月様ぐっじょぶ!
むう、長湖部酒宴ネタ! …そういえば魏蜀よりも呉の方が酒関連の
エピソード多いんですやね。お国柄というか、君主のハメの外しっぷり
が他国よりひどいというか。
そりゃともかく、いいなあ(´ワ`)=3 かなり可哀想属性の強くなった
陸遜といい、瑾姉さんと言い…
あと潘濬たんの職人っぷりに萌えました。

>>127-129
7thさま( ゚Д゚)GJ!
なるほど!諸葛姉妹か!勢揃いですか!
あははは、孔明抜き出も結構個性は揃いというか、普通にいがみあって
じゃれ合う姉妹だったのね(;´Д`)ハァハァ… 
なんつうか、本当にみんなキャラ立ちしてるなー!天然あり意地っ娘あり
ツンデレいいんちょあり…。
心の大きさ(;´Д`)ハァハァ… こういうキャラがひしめき合ってる中でも、
諸葛亮がいかに目立つキャラか、登場しなくても容易に想像できます(^_^;)

>>130
うおおおお!法全様!お美事!
三分帰一番外編! ようこちゃんとりくこちゃんの、ホロッとなるエピソード!
いまでこそ敵対する勢力の前線責任者どうしですけれど、たまには幼馴染みに
戻るっつう(´Д⊂ あー、色んな角度で羊角かわいい…触りてえ…(;´Д`)ハァハァ
通りすがりの張悌さんたちワロタ。

>>131
この子ったらまたこんな時期に( ゚Д゚)!高校受験を甘く見ない! 本番以外の試験は
すべてフィクションであり実際の試験の結果とは一切関係ありません!油断無きよう!
というわけで、またやってみる〜ヽ(´ー`)ノ
あとアドレス了解しました。

>>132-134
教授様っ!久々の簡×法モノありがとうございます!
つうか今回は メ イ ド と ネ コ パ ジ ャ マ で す か 。
あー、なんか簡雍のキャラが確立されて久しいですが、かなり隙のない
傑人に…。要領よく生きる典型…と思ってたらお約束なのな(;´Д`)ハァハァ
しかしあのカウンターはどういう原理で動いてるんだろう…(^_^;)

むう、感想だけ述べて私はどうしたよ(;´Д`)
がんばるー

136 名前:那御:2005/01/24(月) 01:02
>玉川様
先鋒GJ!呉の実力派四人組ですね。凄く感じ出てます!
確かに知名度的に陸遜以外は苦しいでしょうから・・・やっぱり史上初でしょう。
いつでも学三はパイオニアですわなw

>海月様
長湖部酒乱騒動!かなりワロタぐっじょぶ!
潘濬が凄くいい味出してますw!キャラ作りが上手い。
呉の酒ネタは君主が凄いのもありますが、
配下とのやり取りがネタになりがちってところがあるような気がしますw

>7th様
エキセントリック過ぎるぜこの姉妹( ゚Д゚)!
確かにキャラ立ってますねぇ。一作で何回おいしいんだろうか・・・w
なるほど、諸葛亮の才は、この壮絶極まりない生活から生まれたのか!
7thぐっじょぶ!

>法全様
いやぁ・・・心温まりますねぇ。法全様ぐっじょぶ!
こんな友情素敵過ぎます・・・w
って角隠すと顔割れないんか!そんなとこもまた可愛い(^▽^)。

>takahisa様
おおーい・・・時期が時期だけに・・・(まぁ自分も1年前ですが)
とにかく、今一番切羽詰った時期だと思うので、
ここを乗り切って、合格掴み取ってくだされ!
ゲームのほうはこれ書いたらプレイしてきまーす。

>教授様
わぁい、恒例の簡×法だっ!教授様ぐっじょぶ!
二人が「何かを着る」ってのがお決まりになってきてますなw
ましてや今回はメイドとネコパジャマということで・・・(;´Д`)
それにしても簡雍は思った以上にマメで家庭的ですね。。素敵だw

>ぐっこ様
いっぱいいっぱいですかー、焦らず無理せず、ガンガってくだされぃ。

>皆様
陳謝・・・○| ̄|_
お祭り前にお仕事入れてしまいまして、そっちに勢力注いでおりました・・・
さらに言えば、私はやはり文も絵もできませんで、このお祭りの本質を考えて、
今回は感想オンリーということで。どうかご容赦を。

137 名前:★惟新:2005/01/24(月) 23:03
わぁい、皆様の作品がっ♪

えー、明日辺り一旦終了宣言出しますので、もしご都合のある方はお申し出くださいまし。
…私の出せるのはその後だろうなあ…すみません、こんな体たらくで_| ̄|○
もう今日は試験やら課題やらに忙殺されております_| ̄|○
私の感想等も明日のそのときにさせていただきます。もうしばらくお待ち下さ…い……_| ̄|.....○

138 名前:海月 亮:2005/01/24(月) 23:35
祭は一週間ほど続くと伺ったので、さらに何かやろうと目論んでましたが…やっぱりこんな短期間でもう一本SS書くなんて芸当、私には無理でした…。
_| ̄|     ...○

>7th様
すげぇ…この姉妹とにかくすごすぎだよ…でも諸葛家と言われるとミョーに納得いくのが不思議w
しかしこれだけの人数にも関わらず、全員ちゃんとした個性があることを表現できているのが素晴らしいです。
(;;゚Д゚)

>法全様
寒い冬空の下、待ちぼうけのお詫びにちょっと冷めた缶コーヒーを貰った時のような(どんな例えだ)心温まる話、いいですなぁ(´ー`)
このあと陸抗が居なくなって、羊(示古)が長湖部攻略を進言した心中を察するとまた萌える…のは私だけですか?

>takahisa様
私めの場合はもう、入試なんて数年前の出来事になるんですけどね…この時期は本当に修羅場ってるのが普通ですし…とにかく、御健闘を。
私も持って帰ってこれからやらせて頂くとしますかねぇ。

>教授様
お初にお目にかかります、去年の暮れ頃からこちらにお邪魔させて頂いている海月という者です。
SSスレに投稿された数々の作品、ヒマさえあれば拝読させて頂いてますが…未だにそのパワーが衰えを見せないのは流石です(;゚Д゚)
何気に存在している萌えカウンターが凄い数値になってるのが…まだ、あったのかw

>ぐっこ様、那御様
年末年始、やはりお忙しい折でしょう…お察しします。
ご健勝であられること、謹んでお祈りする次第ですm(__)m
で、潘濬ですが…そのお言葉を戴けただけで、書いた甲斐があるというものです。縞パンはいいものだ(え?

139 名前:海月 亮:2005/01/24(月) 23:39
>惟新様
なんか私のが上がった後に書かれてるのを知りました_| ̄|○
そう言えば…もう一週間経つのか…早っ。
私も書きかけのヤツ(二発目)を持ち込めたらいいな…今月中には。

140 名前:法全:2005/01/26(水) 01:02
>玉川さん
まったく,ギャル化以前に,三国志好きとは言ってもたいていの人は存在さえ
知らない面々ですよねぇ(笑).そこがまた,三足鼎立後派(?)の私には
しんぼーたまらんのです!

>海月さん
長湖部というか呉といえば酒宴,呉臣にとどまらず蜀の外交官にまでもエピ
ソードがある酒宴・・・いやいや,是非ビジュアル化してみたいシーンが,
こう・・・さすがに自粛しますが(笑)

>7thさん
公式の場で会った時は,決して私的な会話をしなかったという諸葛姉妹
ですね.なるほど,これじゃできない,という感じでしょうか(笑)

>takahisaさん
う〜ん,まさに当人はどうあれ,周囲が不安になっている状態(笑)
集中力や気力を切らさないことが重要な時期なので,ゆめゆめ油断なさ
いませんよう.

>教授さん
こ,これが音に聞きし簡雍・法正・・・メイドを特に好まない私ですが,
法正のcourtesyにヤられましたので
http://www.mc.ccnw.ne.jp/hosen/img/050125.jpg target=_blank>http://www.mc.ccnw.ne.jp/hosen/img/050125.jpg

#フリルなんてモノきっちり描ける人ってすごいですよねぇ・・・

141 名前:★惟新:2005/01/26(水) 06:59
>玉川様
萌えのあまりに『吾粲の眼』>>17-25読み返したっ!
吾粲ちゃんってばすっかり可愛がられちゃって(;´Д`)ハァハァ
でもって何気にノッポさんの朱拠に萌えました〜!(〃ノ∇ノ)

>海月 亮様
グッジョブ! てか、萌えに萌えたこの気持ちをどう責任取(ry
やー、まず薛綜、厳Sコンビにつかまれたっ! 可愛い…(;´Д`)ハァハァ
酔いどれ天使達の暴走劇! かの虞翻でさえ孫権の餌食に!
でも潘濬ってば仲良くやってるみたいで良かった(^_^;)
最後もしっかりオチて、見事!

>7th様
「頭が小春日和」の均姉さんワラタ(^_^;)
内政戦隊ゲリラショー見てえ…ってか、あの方々は
すっかりヒーローショーに嵌ってしまわれたようで(;´Д`)
それにしてもしっかりくっきりキャラクターが描かれていらっしゃいます!
毒々しくも愛情に満ちた(?)やり取りの数々に大笑いたしました〜!

>法全様
りっこちゃんとようこちゃん漫画が! ヽ(▽`*ヽ)(ノ*´▽)ノ
二人の熟年カップルな友情に、も〜(;´Д`)ハァハァ
でもって私も通りすがりの張悌さんたちにワラタです(^_^;)

>takahisa様
他の皆様も仰ってらっしゃるので、きつくは申しませんが(^_^;)
三年間ずっとA判定でもダメなときはダメですので、決してご油断なきよう!
以上、これでも県下一の公立進学校に何人も教え子を送り出してきた元塾講師より。
それでは、頑張って!

>教授様
黄金の簡×法キター!!
ますますパワーアップ、萌えに磨きがかかっておいでで!(;´Д`)ハァハァ
いや、ホントにもー(;´Д`)ハァハァな展開で!
どんどん簡雍たんが可愛くなってくなあ…法正たんも…(*´Д`*)
それにしても萌えカウンターワラタ。懐かしい…

>那御様
や、ご感想いただけるだけでも助かりますってか勝手に感謝させていただきます!
本来なら盛り上げる側の私がこんな体たらくですので…
でもでも! 皆様のおかげで素晴らしいお祭りになってヨカッタ…!

>そして再び法全様
キャー! 私の萌えスカウターが煙噴き出してげふんげふう〜ん(*´Д`*)
こりゃ簡雍さんもドッキドキだったでしょうて…(;´Д`)ハァハァ

142 名前:★惟新:2005/01/26(水) 07:00
ちうわけで!
ご参加の皆様、お疲れ様でしたー! おかげ様で大変盛り上がりましたですよ☆
やーホント、たっぷり楽しませていただきました♪
では、ここで一旦切ります! 
学三のますますの発展を祈念し、萌えの更なる新境地に思いを馳せて――

第二回旭日記念日、ここに終了を宣言します!


えー、私がそうですが、まだ完成してないけど出したいという方は引き続き頑張るということで(^_^;)

143 名前:海月 亮:2005/01/26(水) 23:40
祭の後は何時も寂しいものだって、確か何かで言ってましたな。
それはそうと、皆様方、本当にお疲れ様でした。
てなわけで、記念日ネタはもう浮かばないみたいなので(オイ)、完成した日常ネタをSSスレに放り込んでいきます。

…密かに水面下で続けていた長湖部員穴埋め計画も再開せねば…(え?

以上、なんだか勝手に紛れ込んで勝手に楽しんだ感があってちと恐縮気味の海月でした。

144 名前:★ぐっこ@管理人:2005/01/30(日) 01:07
惟新さま宣言乙っ(´Д⊂!

いやさ、今年はマジすんません(´Д⊂
可及的速やかに、対旭祭用作品を投下する所存!
ちうか皆様もお疲れさまでございました!
一番何もやってない管理人が言うのもアレですが、まだまだ後夜祭が続いている
ということで、しばらくこのスレもよろしくであります( ゚Д゚)!

145 名前:海月 亮:2006/01/07(土) 18:34
|Д`)ダレモイナイ…アゲルナライマノウチ…


というわけで僭越ながら、私めがageておきます(゚∀゚)
というか今年もこちらでええんでしょうか?
ついでに言えば、やっぱり17日(火)を前夜祭と位置づけ、18日(水)〜25日が祭りということでいいんですかね?


一応ネタはあるので、前夜には何か持ってくる予定でつ。

146 名前:雑号将軍:2006/01/07(土) 23:10
おお、海月様。あけましておめでとうございます。ご無沙汰しており言葉もありません。
旭祭ですな!むむむ、初参加ですが、頑張りますよ!

147 名前:海月 亮:2006/01/08(日) 10:52
>初参加
一瞬「あれ?そうだっけ?」とか思って小首を傾げてしまった私。
そしてなんとなく勢いで初来訪者スレとか見直してようやく思い込みだと気づきましたさ_| ̄|○


そしてその意気や善し(´ー`)b
そしてわれらで、更なる神作品光臨の先駆者となりましょうぞ!(゚∀゚)

148 名前:★教授:2006/01/09(月) 20:20
海月様、age乙!

長期出張でPC触る機会無かったので死亡説すら流れてました私ですが…え、まだいたの的存在? はい、そうです or2
…こほん。ともあれ旭記念日3周年目も参加しますー。いつもの二人メインだろって? はい、そうです o... r2
では、記念日に会いましょうー(沈黙)

149 名前:海月 亮:2006/01/11(水) 00:39
>教授様
うお、ご無沙汰でした!
これで今年もめいっぱい萌えさせていただけるということですな(゚∀゚)

((*゜∀゜)o彡°簡×法! 簡×法!



そうしたらこの海月めがやることもただひとつ…はい、ワンパターンながら、多分虞姉妹っつーか長姉と誰か…_| ̄|○

150 名前:雑号将軍:2006/01/17(火) 22:31
  旭日記念作品 ▲出逢いと楽しみは危険な香り▲

今日は一月一七日火曜日。この日、蒼天学園の行事の中でも屈指の賑わいを見せる、旭日記念祭を前日に控え、まもなく前夜祭が始まろうとしていた。   
前夜祭と言っても、実際は午後三時から始まるので、強いて言うなら「前昼祭」と呼ぶのが妥当かもしれないがそれほど重要なことではない。
今、重要なのは午後四時だということである。しかし、蒼天学園のどの校区を見渡しても生徒の姿はない。
いや、体育館がぞろぞろと生徒がはき出しているではないか。どの生徒もけだるそうに猫背になっていたり、あくびをしている。
無理もない。なぜなら、三時から一時間の間、学園長の演説を聴かされていたのだから。

ここは司隷特別校区。蒼天学園の首都とも言える校区でさきほどまでこの第一体育館で学園長が演説をしていたのだ。
まあ、聞いていた側の生徒にしてみれば迷惑この上ないものなのだが・・・・・・。
「ホント、何が起こったらあんなに話が長くなるよ!義真もそう思うでしょ?あーあー。あたしの初めての旭日記念祭をどうしてくれるのさ」
赤い髪で小柄な女生徒が、横にいた、自身が「義真」と呼ぶ、長身かつ長髪の女生徒に尋ねた。
 どうやら二人とも学園長の餌食にあったらしい。
「同感だな。あんな形ばかりの儀式になんの意味があるのか、私には到底、理解し得ないな」
 義真と呼ばれる女生徒は風でなびく長髪を気にしながら皮肉を込めてそう言った。
この女生徒の名は皇甫嵩。親しいものは義真と呼んでいる。多少きつめの顔に、一七〇センチを超える長身。そして、光加減によっては青色に光る長髪が彼女の凛々しさを強調している。
そして、彼女のハスキーな男口調が大きな影響を与え、一部の腐女子の間ではかなりの人気を誇っている。
もちろん皇甫嵩にとってはいい迷惑なのだが。
 皇甫嵩は横に並んで歩く少女の不機嫌そうな顔を見て話を続けた。
「どうだ、公偉。これからショッピングモールにでもいかんか?」
 旭日記念祭は蒼天学園も含めた華夏学園都市をあげての祭りのためショッピングモールも例外ではなく、様々な催しものが開かれている。
その何気ない誘いかけに「公偉」と呼ばれた少女は目を輝かせるのと同時に、なぜか前髪のひとふさが天を向いて逆立った。
「本当〜!やったあ!義真とデート〜デート」
 少女は「デート」という単語をあからさまに強調しながら、皇甫嵩の周りをくるくると回っている。
 この少女の名前は朱儁。親しいものは公偉と呼ぶ。いつも前髪のひとふさが天を向いて逆立っている。 
また皇甫嵩と朱儁は小等部からの親友で、寮のルームメイトなのである。
「やっぱり、行かん!」
 「デート」という単語に狼狽した皇甫嵩は照れ隠しのつもりで言い放った。
「うわ・・・・・・もしかして義真、照れてるの?」
 朱儁の言葉に皇甫嵩はますます赤面する。そして一言、
「帰るぞ!」
 そう言って、スタスタと早足で駆けていってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってよ〜義真〜!」
 朱儁はあわてて、皇甫嵩の後ろを追いかけていった。

「見て見て、義真!これもいいよねぇ」
「そ、そうなのか?」
 結局、皇甫嵩はショッピングモールに来てしまっていた。そして今は朱儁の洋服選びに付き合わされているのである。
 皇甫嵩は右手に買い物袋をぶら下げ苦笑していた。
 しかし、皇甫嵩は決して、洋服選びが嫌いにわけではない。事実、皇甫嵩はすでに、紺のジャケットの購入を決めているのである。
しかし、朱儁は二種類のワンピースを見比べていた。こんな状況が、もう三〇分も続いているのだから皇甫嵩が苦笑しているのも、もっともであった。
「うん、決めた!こっちにする」
 結局、朱儁はオレンジと白のワンピースを選ぶと会計の方へと向かっていった。皇甫嵩がその後ろから疲れ気味について行く。 
二人は会計を済ませると、店員の明るい声を背中に受けて二人は店を後にした。

二人は店を出てしばらく歩いていると、一件のコスチュームショップが目に入った。
 朱儁は、自然と上目遣いで皇甫嵩を見やる。これには「皇甫嵩へのお願い」が込められている。皇甫嵩はこの手の視線には、めっぽう弱いのである。
「・・・はあ。今日はお前に付き合ってやるよ」
 皇甫嵩はそう言うと、二人並んで、コスチュームショップに入っていった。
 入ってみると中は思った以上に広く、かなりの種類の装飾品が所狭しと並べられていた。
「いったいどこからこんなものを・・・・・・」
 皇甫嵩が呆れるのも無理はない。
リボンやネクタイといった、一般的なもの以外にドクロのブレスレットなどのオカルトグッズも並べられていた。
それだけならまだしも、なかにはアニメの登場人物が着ている衣装までもが販売されているのであるから驚きである。
それらを凝視している女性客がいたのを皇甫嵩は見逃さなかった。
 皇甫嵩がそうやって辺りを見回していると、朱儁が戻ってきた。
「これ、どうかな?」
「どうって、なにがだ?」
 皇甫嵩が首をかしげて、そう言った。
すると朱儁は両手を開いて二本のリボンを見せた。一本は燃えさかるような深紅。そしてもう一本は澄み切った海のような紺碧色をしていた。
「おそろいにしようよ〜?あたしが赤で、義真が青にしてさあ」
「なるほど、確かにそういうのも面白いかもしれないな。よし、私は青を選ばせて貰うことにしよう」
 皇甫嵩は珍しく、なんの躊躇いもなく朱儁から紺碧のリボンを受け取ると二人揃って会計をすませた。
皇甫嵩はさっそく後ろの髪を束ね、リボンで結び、ポニーテールにした。
その輝くばかりの凛々しい皇甫嵩の姿に朱儁はうっとりしていた。
髪の長い皇甫嵩に対して朱儁は髪が長くないので結ぶことができなかった。そのため朱儁は制服のクロスタイをはずし、そこにリボンを通し、前で蝶結びにした。
 このリボンは二人が三年の夏休み二週間前になるまで、外されることはなかった。

151 名前:雑号将軍:2006/01/17(火) 22:35
続き・・・・・・

この後もしばらく、ショッピングモールを歩き回った皇甫嵩と朱儁は近くにあったカフェテラスでティータイムを楽しんでいた。
「なんか、開会式の疲れがどっかに吹っ飛んじゃったわね」
「そうだな。たまにはこういうのもいいものだな」
 二人はそう言って、声を上げて笑っている。
太陽は二人の笑顔を象徴するかのように、空高く、そして、さんさんと照らしていた。
 二人がしばらく談笑していると、ある女生徒が声を掛けてきた。
どうも不思議な感じの少女だ。
「進呈」
 彼女はブレザーのポケットから、封筒を取りだし、二人に差し出した。
「うん・・・・・・?」
 皇甫嵩は封筒を受け取った。少女はじっと二人を見つめてくる。
「開けてもいいのか」
 皇甫嵩は一応、聞いてみることにした。まあ、渡しておいて開けてるなとは言わないだろうが、これが社会の礼儀なのだろう。
「正解」
 皇甫嵩と朱儁は同じように首をかしげた。その姿を見て、少女はに唇に手を当てコロコロと楽しそうに笑っている。
そんな光景がしばらく続いていると、不意に少女が口を開いた。
「あ、時間切れ・・・・・・ああ、これもどうぞ」
「お米券?」
「そうです。蒼天学園ならどこでも・・・・・・本当にもう、時間切れです」
 心地よい春風がカフェテラスを吹き抜けたとき、すでにその少女の姿は、なかった。
少女の摩訶不思議な言動に、皇甫嵩と朱儁の頭の中では無数のクエスションマークが駆けめぐっていた。
「な、なんだったんだ。優しさだけはありありと感じ取れたが・・・・・・」
「う、うん。なんだか、母性みたいなのを感じたけど・・・・・・」
 そして、しばしの沈黙。
「それで、義真。あの子が置いていった封筒の中に、何が入ってるの?」
 朱儁が沈黙を打ち破って、尋ねた。
皇甫嵩は握っていた封筒の封を丁寧に破った。そこからは、示し合わせたように、二枚のチケットが出てきた。
 そこには「蒼天学園の新鋭オペラ歌手・張角!旭日記念祭特別野外公演」と書かれていた。
「場所は・・・冀州校区の広宗音楽堂前自然公園、時間は七時開演か・・・・・・どうする、公偉?」
 皇甫嵩は取り出したチケットを読み上げると、顔を上げて朱儁に尋ねた。せっかくもらったチケットなので、皇甫嵩としては見に行きたかった。
しかし、「今日は付き合う」と言った手前、とりあえず、聞いてみることにしたのである。
「楽しそうだし、行こうか!」
「そ、そうか・・・・・・公偉がそう言うのなら、私も行くことにしよう」
 皇甫嵩は朱儁の同意を得られてうれしかったのだが、悟られないように、あえてこんな言い方をした。
「またまたぁ、そんなこと言っちゃってさあ。義真だって本当は行きたいんでしょっ」
 朱儁がそう言って、皇甫嵩を肘でつつく。
「むむむ。そ、そのなんだ・・・・・・ああ!もういい、行くぞ公偉!」
 言い訳を考えていた皇甫嵩だったが、結局、なにも思いつかず進退窮まったため、朱儁に背を向けて、足早に歩き出していた。
「もう、義真はシャイなんだからあ〜」
 朱儁は皇甫嵩の背中にそう言うと、自分も歩いていった。
 二人はもう、数分前に会った少女のことなど忘れてしまっていた。

「ここね。もう人がたくさん・・・義真、空いてる席ある?」
「ああ、なんとかな。それにしてもひどい人気だな・・・・・・」
 朱儁は精一杯背伸びしているのだが、残念ながら彼女の身長では前が見えなかった。そのため一七〇センチを超える長身の皇甫嵩が空席を確認していたと言うわけである。
 二人は広宗音楽堂前自然公園に来ていた。
この自然公園は広宗音楽堂の八〇〇メートル先にあり、たくさんの自然が広がっているのどかな公園である。と、言えば聞こえがいいが、その実は何か施設を建てるほどの予算が、慢性的に不足しているためなのである。
 しばらく歩き回った皇甫嵩と朱儁はやっとのことで、席を見つけて座ることができた。
ちょうど、二人が座ったのと同時に、割れんばかりの歓声が沸き起こった。
それもそのはず、ステージの奥から、一人の少女が姿を現したのである。
彼女こそが、このコンサートの主役、張角である。
 彼女は腰まで伸びた黒髪をなびかせ、それと対極的な白一色のドレスという衣装でステージの階段を上っていく。
さらに、ドレスの襟元からは黄色のスカーフを覗かせていた。
そんな張角の優しさに満ちあふれた女神のような美貌に、皇甫嵩と朱儁の二人は目を奪われていた。
 と、不意に朱儁が皇甫嵩に、恐る恐る声をかけた。
「ねえ、義真。あの人の目の色、両目とも違わない?」
「ああ、あれはオッドアイだ。それも金と銀のな・・・・・・」
 朱儁の質問に答えた皇甫嵩は思った。
(と、いうことは、彼女の片耳は聞こえない可能性が高い・・・・・・はたして、そんな状態で歌えるのか?)と。
 しかし、そんな皇甫嵩の不安は全くの杞憂となった。
 ステージの中央で歌う張角の歌声は音質、音程、声のつやなど、どこをとっても非の打ち所がなかったのである。
そしてその歌声は、彼女の身体から出るオーラを代弁していた。
例えて言うのであれば「母親の子守歌」といったところであろう。彼女の歌には、なにものをも包み込むような優しさがあった。
 皇甫嵩と朱儁は日頃の疲れも忘れて、張角の歌声に魅せられていた。

 ・・・・・・そして、歌が終わった。

152 名前:雑号将軍:2006/01/17(火) 22:37
続き・・・・・・パート2

「よかったねぇ〜義真」
 朱儁は祈るようなポーズをとりながら、張角の姿にうっとりしている。
 彼女の眼は潤んでさえいた。
それほどまでに張角の歌は人の心を震わせる力があるのだ。
「ああ、見事としか言いようがない。どうやら彼女は数々の奇跡が重なり合って、生まれてきたようだな」
 さすがの皇甫嵩もいつもより幾ばくか、頬をほころばせていた。
そして、二人が、張角の二曲目に聞き入ろうとした。
 そのとき―――
 そのときである。
 最前列に座っていた数人の観客が一斉にステージに上ってきたのである。
「な、なんですか?あなたがたは?」
 張角が観客の異様な雰囲気に、後ずさりする。しかし、観客はすでに張角を取り囲んでおり、逃げられない。
「今日は学園きっての祭りと聞いて、かわいい女の子がいると思ったら、両目が色違いの萌えっ娘に逢えるたあ、俺はついてるなあ〜」
 そう言った途端、張角を囲んでいた観客は来ていた服装とカツラを取り払った。
なんと張角を取り囲んだ者たちは男であったのだ。
それを見た周囲の動揺は凄まじいものだった。会場の観客は我先へと、逃げ出していく。
それもそのはず、この「華夏学園都市」は男子禁制であるため「男子=怪物」の公式が立っているのである。
この学園の生徒が男子生徒に出会うことは、人が山の中で熊に遭遇したのと同じような状況なのであると言えば理解して頂けるであろう。
もっとも、中には逃げない者もいるのだが・・・・・・。
「大変だよ!早く助けないと!義真!『義を見てせざるは勇なきなり』って学園長も言ってたよ!」
 そう言って、朱儁が皇甫嵩の左腕を掴もうと手を伸ばしたが、その手は彼女をとらえることはなかった。
 それもそのはず、皇甫嵩はすでにステージを駆け上がっている所だったのだ。朱儁は微笑を浮かべると、皇甫嵩の後を追った。
「なあ〜これから俺と付き合ってくれよ」
さっきの男が張角に詰め寄る。
張角はそれから逃れるように後ろへ下がるが、別の男がその行動を阻んだ。
「お、お断りします!」
張角は健気にもそう言ったが、この言葉が彼らの興奮を煽った。
「そんなこと言うなよ!いいとこに連れてってやるからさあ!」
 男は強引に張角の腕を掴んで、自分の方へ引き寄せた。
張角は必死に抵抗するが、残念ながら、腕力の差がありすぎた。
「は、離してください!こんなことが許されると思っているのですか?」
 と、そんなとき、どこからか、声が響いてきた。
「やめておけ。そのような下衆共に道理を説いても無駄なだけだ」
 男たちが、あわてて辺りを見回すと腕を組んでいた長髪の女が一人、スピーカーにもたれかかるようにして立っていた。
 皇甫嵩である。
「なんだあ、お前も相手して欲しいのか?」
「せっかくのお誘いを断るのは心苦しいのだが、私はこれからそこにいる彼女とデートでな。悪いがお前らは、養豚所にいる雌豚の相手でも、していてくれんか?」
 彼女の言葉には、あきらかな皮肉と侮蔑が込められていた。
「んっだとう!俺を烏丸高校(蒼天学園の北側にある男子校の一つで、過去から何度も蒼天学園に嫌がらせを繰り返している)の蹋頓と知ってそんな口をきいているのか!」
 馬鹿にされた男は、あからさまに敵意をむき出しにしている。
その殺気は尋常ではなかった。幾度も死線をくぐり抜けてきた眼だった。
 並の女子高生だったら、すぐさま詫びを入れていただろうが、幸か不幸か、皇甫嵩は並の女子高生ではない。
「養豚だと!はっはっはっは!やはりお前には養豚所の雌豚がお似合いだ。なんなら、私が紹介してやろうか?」
 皇甫嵩はウソ丸出しに驚くと、これまで以上の皮肉を込めて言った。
「な!俺は蹋頓だ!お前ら!このアマをやっちまえ!」
 ついにキレてしまった蹋頓は近くにいた数人の男たちと共に、皇甫嵩を取り囲んだ。そして、バットケースに手を入れると、あろうことか、バットではなく摸造刀を取り出したのである。
 それを皇甫嵩に向けて突きつけた。しかし、皇甫嵩はぴくりとも動かない。
「最近のガキは面白い玩具を持っているらしい・・・・・・なっ!」
 皇甫嵩はそう憎まれ口を叩いたその刹那、真横から斬りかかってきた男のみぞおちに豪快なストレートをきめ、気絶させると、その手から模造刀を奪い取った。
 さらに、彼女は不敵な笑みを浮かべると、こう言い放った。
「『剣とは敵を破る物にして、自己を護る物に非ず』この言葉を知っているか?まあ、しわの少ない貴様らの脳みそでは、知っていたとしても本来の意味など理解し得んだろうが・・・・・・」
 ここでも、皇甫嵩は彼らをさんざんに侮辱する。
男たちは、顔を真っ赤にして、斬りかかってきた。
 皇甫嵩はまったく動じず、右手で自然に振り上げた形に左手を添えるようにして、上段に構えた。
 次の瞬間、正面にいた男めがけて、刀を振り下ろした。男は刀を胸の前に突き出すようにして受けを取ったが、それがいけなかった。
二本の太刀が激突した瞬間、男の太刀が男の胸に跳ね返ってきたのである。
男は地面へとたたき落とされ、胸の痛みにもがき苦しんでいた。
蹋頓はこの型を見て、さっき皇甫嵩が言った言葉を思い出した。
「お、お前ら一斉にかかりやがれ!」
 蹋頓は驚きを隠しきれずにいたが、周りにいた男共に指示を出す。
「ほう・・・・・・しかし、養豚所の豚にやられるほど私は甘くはないぞ!」
皇甫嵩はニヒルな笑みを浮かべて言い放つと、左右から斬りかかってきた男たちの胴を薙ぎ払った。
さらに正面から拝み打ちを放ってきた男の太刀に自分の太刀を合わせると、そのまますくい上げるように刀をはじき飛ばし、容赦なく、男の右肩から袈裟切りにしてみせた。
残った、蹋頓たちは後ずさりしている。
もう、彼らは生きた心地がしなかったことだろう。
そのとき、別の方でもうめき声が聞こえてきた。
「義真〜!張角さんは助け出したよ〜!」
 朱儁だった。彼女は両手を大きく振って、皇甫嵩の方を見ている。
 皇甫嵩の作戦通りである。皇甫嵩が主力を引き付けている間に、朱儁が張角を助ける。見事であると言えよう。
 完全に、いいところなしの蹋頓は歯ぎしりして、朱儁と合流を果たした皇甫嵩たちと対峙した。
 そのとき、数十人の男とたちがステージに上ってきたのである。
「なんだあ、蹋頓。女二人にやられやがって!」
「丘力居の従兄(あにき)!面目ありません」
 どうやら、この男が親玉らしい。丘力居は手慣れた手つきで男たちに命令をし、皇甫嵩たちを包囲した。
 このとき、皇甫嵩には誤算があった。張角を逃がせなかったことである。
(どうするの、義真!二人だけだったらどうにかなるけど、張角さんがいたんじゃあ)
(うろたえるな、公偉。何か策があるはずだ)
 二人はそう言うと、張角を守るように挟み込んだ。
「もう、やめてください!私が行けばすむだけですから!」
 柔らかくも、切実な張角の声が、二人の耳に響いた。
「行く必要なんか無いよ!」
「公偉の言う通りだ。君にはもっと、格好のいい人がお似合いだ。あんな豚の相手をする必要はない」
 皇甫嵩は彼らにも聞こえるような声で、張角に言った。もちろん「豚」を強調することも忘れてはいない。
「どうやら、置かれてる立場が理解できていないようだな」
 皇甫嵩の言葉に顔を引きつらせた丘力居は、ひび割れ寸前の声で言った。
「置かれた状況・・・・・・そうだな、エサを求めてのさばり回る顔の悪い野良犬といったところだろうか・・・・・・」
「そうね。付け足すなら、弱虫のってところかな」
 皇甫嵩の揶揄に朱儁が完璧なタイミングで答える。こんな状況でも口が減らないのがこの二人である。
 二人の言葉に、ついに彼らが完全にキレてしまった。
「もう、詫びぃいれたって、ゆるさんからな!おい!お前ら、腕の一本ぐらい、へし折っちまってもかまわねぇ!二度と喋れないようにしちまえ!」
 丘力居はそう命令すると、男たちは模造刀を振りかざして、一斉に飛びかかってきた。

153 名前:雑号将軍:2006/01/17(火) 22:41
続き・・・・・・パート3

すると突然、公園の茂みから無数のBB弾が彼らめがけて降り注いできたのである。
さらに、別の茂みからは、金髪の少女が二人の男を蹴り飛ばした。
「大丈夫かい?」
 金髪で小柄な少女は瞬く間に、三人の男を殴り飛ばし、ファイティングポーズをとった。
 それと、同時に別方向からも悲鳴があがった。
「邪魔すんなやあ!どかんかい!」
 反対側から、ガラの悪い関西弁が響き渡る。
「しーちゃん!こっち、こっち!」
「建ちゃん。飛び込むのはやいんだから。どなたかわかりませんが、丁原と、わたし、盧植が援護します!」
 盧植と名乗った少女(しーちゃん)は触りたくなるような、ふわふわしたライムグリーンの髪をバレッダで二つに留めている。さきほどのガラの悪い関西弁からはまったく考えようもない美少女であった。
「援護、感謝する!公偉!私たちも続くぞ!」
「まかせといてよ!」
 朱儁はそう言うと、飛びかかってきた男に合わせるように自分も飛び上がると、レッグラリアートを顔面に見舞ってやった。
 その横では上段から斬りかかってきた男の刀を皇甫嵩が身体を半回転させて、攻撃をかわすと、そのまま大外刈りの要領で相手の足を刈り、体勢を崩し倒れかかった所を、刀で後頭部を強打してやった。
 男は脳震盪を起こして気絶してしまった。
さらに丁原は模造刀をものともせずに、懐に飛び込むと五発の正拳突きを瞬時に放ち、男を完全に仕留めた。
「お前らは、ホンマいらんことばっかしよって!早う、帰らんかい!」
 盧植は再びガラの悪い関西弁でそう言うと、向かってきた男の足を思い切り踏みつけると、ハリセンを容赦なく男のあごに叩き込んだ。
 男は飛び上がって衝撃を和らげることもできずに、失神してしまった。
 盧植のハリセンは堅い厚紙で作り、骨組みには竹を使用しているため、威力は想像を絶する物であることは言うまでもない。
 つまり、彼女のツッコミはそれだけでも立派な凶器なのである。

「二十二人の男が、たった四人の女にヤられたのか!?五分も経たずにか!ば、バケモノかぁ・・・・・・」
 丘力居は横にいた蹋頓と共に、驚きの声を上げた。今回連れてきた彼らは決して弱くはないのだ。彼らを倒す、彼女ら四人の強さが異常なのだ。
「さあ、お二人さん!覚悟してもらうよ!」
 朱儁の声と共に四人が一歩ずつ、二人を取り囲むようにして近づいてくる。
 今の二人には彼女ら四人の姿がとてつもなく大きく見えたことだろう。
「くっそーなめやがって!」
 蹋頓がやけくそになって、摸造刀を上段に振りかぶり、朱儁に斬りかかってきたのだ。
 それに対して、朱儁はぴくりとも動かなかった。
蹋頓が勝利を確信したとき、朱儁は蹋頓の太刀を真剣白刃取りで受け止めていたのである。
朱儁は刀をある程度引き寄せると、右手を振り上げ、そして振り下ろした。
残ったのは、模造刀の柄の部分だけだった。
さらに朱儁は、大きく飛び上がり、蹋頓の顔面に蹴りを入れよろめいた所と同時に、腹蹴りをかました。
蹋頓は数メートル吹き飛ばされ、そこで大の字にのびていた。
「あとはお前だけだな・・・・・・私が地獄へと案内してやろう」
 皇甫嵩はそう言うと、奪った模造刀を再び右手で自然に振り上げた形に左手を添えるようにして、上段に構えた。
 そのとき、急に丘力居が脅えだした。
「そ、その薩摩示現流特有の『蜻蛉』の構え・・・・・・思い出したぞ。お、お前はかつて、南羌中学校の奴らを一人で、しかも一刀の太刀のもとに切り伏せた・・・・・・あの伝説の剣豪・皇甫嵩か!」
 彼の脅えようは尋常ではなく、歯をガタガタと震わせ、もはや立っているのがやっとのようだ。
「正解だ。悪いが二ヶ月程度は蓑虫になっていて貰おうか!」
「う、うわああああああああああああああああ!」
 絶望と恐怖に精神を支配された丘力居は何ともわからず、ただ闇雲に太刀を振りかざして突っ込んできた。
 皇甫嵩は、完全にその刺突を見切って左身体を反らすと、その体勢から丘力居の手首を容赦なく打ち据えて、刀を落とさせた。
皇甫嵩は再び「蜻蛉」に構えると、がら空きになっている背後に回り込み、そして、右肩目掛けて刀を振り下ろした。
 丘力居は激痛にこらえきれなくなり、グシャリと鈍い音を立てて地面に転がり込んだ。間違いなく骨にひびは入っていることだろう。
「ふう・・・・・・終わったな」
 皇甫嵩は持っていた模造刀を放り投げると、朱儁たちのいる方に駆け寄っていった。
 張角を助けるため、そして今後、こんなことを起こらないようにするためとはいえ、過剰な暴力をふるってしまったことに、本当に、本当に、多少ではあったが、皇甫嵩は心が痛んだ。
(しかし、こんな奴らの侵入を許すとは・・・・・・蒼天学園はどうなってしまったのだ)
 皇甫嵩が心の中でいろいろと考えを巡らせていると、横から回り込むようにして、張角が抱きついてきた。
「本当にありがとうございました。私、怖かった・・・本当に怖かったんです」
 皇甫嵩はあまりのできごとにあたふたしていたが、取りあえず、さらした張角の黒髪をゆっくりと撫でてあげた。
「もう、大丈夫・・・よく頑張ったな・・・・・・しかし、礼を言う相手は私だけではないだろう」
 皇甫嵩は張角に優しくそう言うと、張角はハッとして皇甫嵩から離れた。
「みなさん、本当にありがとうございました」
 張角はそう言って、深々と頭を下げた。
 そうすると、向かい側に立っていた少女は笑って答えた。
「気にしないでくれよ。あたいはケンカ相手を探してただけなんだからさ。祭りだけじゃあなんか、もの足んなくてさあ」
「もう、建ちゃんったら。それに、蒼天学園はみんなで護るモノですから」
すると、朱儁がふと思い出したように言った。
「まだ、自己紹介もしてなかったよね。あたしは朱儁。公偉って、みんなからは呼ばれてる」
「そ、そうだったな。私は皇甫嵩。皆からは義真とよばれている」
「わたしは盧植。みんなは子幹って呼んでるわ。蒼天学園の一年生です」
 このとき盧植の頬は赤く染まっているように見えた。
「シンちゃん(義真)に、こーちゃん(公偉)か・・・・・・あたいは、丁原。建陽って呼んでくれよ」
「わたしは・・・張角です」
 五人はそう言うと、がっちりと握手を交わした。

154 名前:雑号将軍:2006/01/17(火) 22:46
最後です・・・・・・

「ねえ、みんな。前夜祭は・・・・・・もう終わっちゃったから、気分直しにカラオケにでも行かない?」
 朱儁の提案、盧植と丁原が飛びついてきた。
「ああ、いいんじゃないか。私は聞いている方が好きだがな」
 皇甫嵩は朱儁から目をそらすようにしてそう言った。
そんな皇甫嵩を見た朱儁は悪戯っぽい笑みを浮かべ、言った。
「また〜そんなこと言って〜義真はオン・・・ふぎゃあ!」
 最後の一文字を言いかけたとき、皇甫嵩が朱儁の「ツノ」を目一杯に引っ張った。
「な、なんでもない。張角、君も来るだろう?」
「よ、よろしいのですか?」
 皇甫嵩は「ツノ」から手を離すと、黙り込んでいた張角に尋ねると、張角は驚いたように顔を上げていた。
 皇甫嵩たち四人は、張角の問いかけに頷いてみせた。
「・・・・・・わたしの眼を見て何も思われないのですか?」
 張角は恐る恐る尋ねた。このことから、張角が眼のことにコンプレックスを抱いていることは間違いなかった。
「ふっ、人を外見で判断するのは小人のすることだ。大事なのは・・・・・・いや、言わなくとも、張角、君にならわかるだろう」
「もっと自分に自信を持ってよ!蒼天学園には手が膝ぐらいまである人だっていたんだから、目の色が違ったり、空を飛べたりなんか――」
「空なんか飛べるかい!」
 朱儁のボケに廬植のハリセンが見事に答えた。
「いたいよう〜子幹〜」
「ご、ごめんなさいっ!つい、いつもの癖で」
盧植はあわててぺこりと頭を下げた。彼女が大阪弁を話す理由は二つある。一つは出身地が大阪であること。もう一つは彼女が小等部から在籍している幽州校区にはなぜか、関西出身の生徒がほとんどであったため、彼女が標準語を使って話す機会があまりなかったためである。
 そんなやりとりをしていると、突然、張角が声を出して、笑った。
「皆さんの言う通りかもしれませんね。私、頑張ってみます!・・・・・・それじゃあ、私もご一緒させて貰ってもよろしいですか?」
「もちろん」
 四人は声を揃えてそう言った。

「ねえ、義真〜張角さんとラブラブだね〜」
 カラオケボックスに向かっている最中、不意に朱儁が声を掛けてきた。
 盧植の顔が一瞬曇った・・・・・・気がした。
「なっ!何を言うか!そんなことは断じてないっ!」
 皇甫嵩は顔を真っ赤にして否定する。
「・・・・・・わたし皇甫嵩さんとなら・・・・・・」
それを横目で楽しんでいた張角は真面目な顔つきで答えた。
「張角・・・・・・公偉が邪推するではないか・・・・・・それに、本気だったとしても、悪いが、私にはその気はないぞ」
 皇甫嵩は頭を抱えながらそう言った。
 
はあ・・・・・・高校ってこんなに忙しいものだったのでしょうか?変ですよ…週三で英語の小テストをするとか!いつ小説かけって言うのか!?というわけでしばらくご無沙汰致しておりました雑号将軍にございます。なんとか前夜祭に間に合わせようと必死で完成させてみました。
ただ、当初は入学式設定で昼だったというどうでもいい話。
本祭作品は早くても金曜日になりそうです。

155 名前:海月 亮:2006/01/19(木) 00:41
同期の桜は散らない-


きっかけは一本の電話だった。
「…もしもし」
『あ、やっぱり居た。私。子瑜だよ』
その夜、年内最後の食事を終え、年明け間もなくの推薦入試に向けて少し勉強でもしようかと、自室に戻ろうと階段に足をかけたときだった。
父が医者、母が看護婦という仕事柄、珍しくこの年は家族団欒のかなっていた虞家の居間から、電話だと呼びつけられた。
彼女…虞翻にとって、こんな大晦日の夜にわざわざ電話をくれるような友人に、心当たりは少ない。無論その電話を寄越した主…諸葛瑾にしても、そういうことをしそうなイメージは湧いてこなかった。
ましてや、この年は互いに受験を控えた身。互いに模試の志望校合格率がほぼ七割前後という安全圏内に居はしたが…。
『ね、今日明日は暇…というか、どこかに出かける予定はないよね?』
「…ん…まぁ、確かにそんな出かけなきゃいけない理由も、特にないけど…」
確かに予定はなかったが、虞翻には"出かけたい"場所の心当たりはある。
『だったら、これから常山神社の二年参りに行かない?』
「え…二年参り?」
思わずどきっとして、一瞬言葉に詰まる虞翻。
これまでその口の悪さが災いして、あまり長湖部内でも親しいものが居なかったため"近寄りがたい一匹狼"になっていた彼女であるが、そのとっつきにくさに反して生来のお祭好き人間である彼女である。実は年末年始にまたがる一週間、学園都市最大の神社である常山神社の歳末年始の祭を見に行きたくて仕方のないところではあった。
しかし、流石の彼女も夜一人で出歩く気に慣れなかった。妹たちは妹たちで集まって祭を見に行くつもりで居たが、流石にそれに混ざっていくのも気が引けて、年明けて日が昇ってから行くつもりで居たのだ。
『部長は相変わらず南国の海、陸家も顧家も朱家も年始の集まりで、他に付き合ってくれそうな人もいなくてさ』
「でも、わざわざ二年参りでなくてもいいじゃない…明日でも別に」
『何言ってんのよ〜、せっかく高校生活最後の年末年始なんだから、たまには趣向を変えて、ね?』
やはり何か変だ、と虞翻は思った。
確かに行けるなら二年参りにも行ってみたいし、旅の道連れが向こうからやってきたわけだから願ったり叶ったりである。
だが問題は、その相手。
(確かに子瑜なら、信用できる相手だけど…)
一応、疎遠だったと思っていた幹部会の"仲間"達でも、今は自分を受け入れてくれるということも彼女は解っている。
しかし、幾ら気のおける仲間でも、油断のできない者と言うのはわずかながら存在する。基本的に"悪戯っ子"の集合体みたいな長湖部員のこと、今までそっけない態度をとってきた自分が急に尻尾を振って寄っていけば、どんな罠を仕掛けているものだか解ったものではない。
現に彼女は、一週間前のクリスマスパーティではえらい目に遭わされていた。
確かに楽しかったけど、終始自分は晒し者同然の扱いを受けていたのだ。隠し芸で得意の占いを実演したりするまではいいが、その後はほぼ自分のオンステージ状態。似ても居ないモノマネはやらされるわ、ゲームセンターにあるようなゲーム筐体を持ち出されて即興のダンスを踊らされたり…終いには孫権とその従姉妹達に赤ワイン漬けにされ、次の日は二日酔いでマトモに起きる事すらできない有様だった。
しかもその謀主が陸遜と歩隲だと知らされて以来、虞翻は陸遜に対してさえ何処か警戒心を捨てきれずに居る。相手の性格上、悪気があったわけではないことが解っているだけに、なおさらのことだ。
その点、諸葛瑾なら問題ない。喩えるなら、御人好しが服着て歩いているような…他人をハメるという観念から最も遠い思考パターンの持ち主だ。
(でも…どうして急に?)
だから、突発的に何か行動に出るような…正確に言えば、自分の衝動に他人を巻き込むようなタイプではない彼女が、今日になって唐突にそんな行動に出たのが彼女には引っかかっていた。

『…お〜い…起きてる仲翔さん?』
電話から諸葛瑾の声が聞こえてきて、虞翻ははっとして自分の思考を打ち切った。
「あ…ごめん。解った、ご一緒させてもらおうかな」
『あなたならそう言ってくれると信じてたわ。こういうお祭、本当は大好きだからでしょ?』
「…誰から聞いたのよ」
『舐めてもらっちゃ困るわ。私の友達にはあなたの友達だって多いんだからね。子敬(魯粛)とか公紀(陸績)とか』
流石の虞翻も苦笑するしかなかった。
「そういえばそうだったわね…じゃ、待ち合わせは?」
『そうね…確か会稽から琅邪経由の常山行きがあるわよね? それの11頃のバスというのはどう?』
どうやらバスに乗り合わせていくということらしい。虞翻は手元にあったバスの時刻表…数日前に発行された、年始ダイアの記載されているものを確認する。
「会稽営業所発の年始特別便で、そっちに35分に着いて常山着が12時15分前っていうのがあるわ…それでどう?」
『おっけー、じゃあそれで』
「うん」
電話を切ってふと時計を確認する。待ち合わせに指定した時間までまだ二時間弱余裕がある。
「姉さんに電話なんて珍しいわね…誰から?」
妹たちと年末のお笑い特番を見ていたすぐ下の妹…といっても歳は四ツも離れているが…の虞レが、興味津々と言った風で寄ってきた。もうお互いに入浴は済ませ、それぞれがパジャマ姿だ。
コノヤロウ、一匹狼の私に電話をくれるような友達が居るのがそんなに不思議か…と喉まで出掛かったが、此処でムキになってしまったらどうあしらわれるか解ったものじゃない。
「子瑜から。受験生同士年を跨ぐデートのお誘いよ」
と、普段はまったく言わないような強烈な冗談をしれっと返して見せたら、居間のほうからいきなり、がたがたがたっと凄まじい音がした。何事かと思って覗いてみると、末妹の虞譚を以外の三人が、まるで鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして、床にのけぞったり椅子からひっくり返っていたりと楽しい格好で呆けている。既に皆入浴を済ませたのか、そろってパジャマ姿である。
「……何やってんのよあんた達」
「…お、お、お姉ちゃんにそんな趣味があったなんて…」
いちばん手前に居たセミロング…三番目の妹・虞忠が何か恐ろしいものでも見たかのように呟く。
「はぁ?」
「頑張ってお姉ちゃん、あたしたちは応援してるからっ」
「世間が理解してくれなくても、あたしたちはずっと仲翔お姉ちゃんの味方だからね〜」
椅子から仲良くコケていた虞聳・虞キの双子姉妹が何時の間にか、虞翻のそれぞれの手をとって、何か哀れむような表情で見つめている。
此処まで来て、虞翻もようやく自分の冗談が冗談に思われてないことを理解したようだった。
「いや…あんた達、アレは冗談…」
「隠さなくていい、隠さなくていいからっ」
「あたしたち口は堅いほうだからっっ」
もしかしたらからかわれているのかも知れないが、最早怒るよりも苦笑するしかない虞翻。虞レも呆れ顔だ。
そして起こっている状況がよくわからない虞譚は、しきりに小首をかしげていた。

156 名前:海月 亮:2006/01/19(木) 00:41
その後たっぷり一時間かけて妹たちの誤解を解き、外出の許可を貰って自分の部屋に戻ってきた頃には、バスの時間まで30分くらいとなっていた。
初めは普段どおりの服を着て行こうかと思っていたが、ふと着物架けの方を見やる。
そこには一着の振袖があった。薄い緋の地に、赤、黄、白と色とりどりの花模様をあしらった着物と、濃い海老茶の帯。初詣用の晴着として、去年まで来ていたそれを妹に譲り、新調した物だ。
「…折角だから、今日着ちゃおうかな?」
毎年というか、夏だって着物を着ることがある彼女にとって、着物の着付けくらいはひとりで問題なくできる。時間的にも支障はないし、こういう機会でないとなかなか着ない服でもある。
「よーしっ」
彼女は着ていた猫の手柄のパジャマを躊躇なく脱ぎ捨て、着付けにかかった。

「…なんかそこまでめかし込んでいくとなると、またあの子達騒ぎ出すわよ? やっぱり〜とかいって」
着付けの途中で乱入してきた虞レ。こちらはクリーム色無地のタートルネックセーターにジーンズ、その上からダークブラウンのダッフルコートにクリーム色のマフラーという文句つけようもない冬の普段着だ。
「う…でも、こういう機会でないと、なかなか振袖も着づらいし、せっかく新調したから」
「確かに、結構奮発したようだしね。飾っておいて虫に食わせるには勿体無いか」
そういいあって微笑む姉妹。
軽口を交わしながらも、彼女は見事な手つきで最後の仕上げを済ませ、姿見の前でポーズを取った。
「うん、我ながら上出来」
「いつもながら見事ね…あたしも見習わなきゃね」
感心したような、その一方でうらやむような眼差しの妹に、
「明日は解らないけど、祭の最終日には姉妹水入らずで行こう? その時でよければ、教えてあげるわよ」
その頭に軽く手を置く虞翻。
そんな歳じゃないとは思いながら、無碍にその好意と、実は大好きな姉の手を払いのけられず、
「…うん」
少し紅潮した頬を隠すように俯く妹の姿に、彼女からも笑みがこぼれた。


何のハプニングにも出会わず、時間通りにバスに揺られること10分。人出のピークが和らいだのか幾分か席に余裕のあるバスが琅邪に到着すると、見覚えのある少女が居た。
気づいて手を振ると、向こうもこちらに気付いて手を振り返す。
"ロバ耳"と称される癖毛はそのままに、結い上げた髪をべっ甲作りの簪で留め、濃い赤の地に桜や菊の文様をあしらった振袖を、柑子色の帯で締めた晴着姿で居るのは、紛れもなく諸葛子瑜その人である。
バスが止まると、数人の客と共に彼女も乗り込んできた。
「やぁ」
「こんばんわ。ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「…丁度行きたかったところに、あなたが呼んでくれただけよ」
そして隣の席に彼女も座る。
虞翻はまじまじとその顔を見つめる。
未だに、彼女は諸葛瑾が突然こんな行動に出た理由を図りかねていた。見た目には普段どおりのようだが…というか、もともと素地がいいだけあって、やっぱりちゃんと着飾ると、彼女は美人なのかもしれない…などと、何時の間にかそんなことを考えてしまう虞翻。
「どうしたの? 私の顔、何か付いてた?」
「あ…い、いやそうじゃないけど」
不思議そうな諸葛瑾に、つい数時間前の妹たちとのやり取りを思い出して、赤面して慌てる虞翻。
変なの、と微笑む諸葛瑾。やっぱり、そうした反応を見ても普段の彼女とは別に変わったところはないようだ。こういうときは、やはり当人にきちんと聞いてみるべきではないのか…?
しかし、虞翻は口を開こうとして思いとどまった。
諸葛子瑜という少女は、その温和な性格と、一門の人間はおろかそもそも姉妹同士で別々の勢力に身を置いている。彼女と四番目の妹の諸葛恪は長湖部に、二番目の妹諸葛亮と、三番目の妹諸葛均、それぞれ五番目と六番目にあたる諸葛喬、諸葛譫が帰宅部連合に居るという塩梅だ。
まして今年、帰宅部連合…というか諸葛亮の進退あたりにかなり不安なものがあると、何気に懇意にしている交州学区総代・呂岱に聞かされていた虞翻は、諸葛瑾も表には出さないものの大分心労を溜め込んでいるのだろうと思っていた。
彼女がこういう行動をとったのも、その気晴らしのためなのだろうが…そうは思った虞翻だが、ならば何故自分を誘ったのか、それが気になっていた。
彼女なら、わざわざ虞翻を誘わずとも、他に誘うべき人間は居るはずだろう。確かに孫権やら陸遜やらという連中は不在で、恐らくは敢沢、歩隲などは相変わらずバイトに勤しんでいるはず。それでも厳Sや潘濬、吾粲とかが居るはずではないか、と。
(…もしかしたら、後の子達は現地集合かもしれないか…)
そんなことを考えているうちに、バスは見物客の車でごった返している終点・常山神社の敷地内へと入っていった。

「ねぇ…」
バスから降り、門前の階段を何事もなく昇り、鳥居をくぐろうという時点で、虞翻はたまりかねて言った。
「他のみんなは? 誰か待ち合わせとかしてないの?」
「え?」
振り向いた諸葛瑾は、「なんで?」といわんばかりの表情をしている。
「なぁに? 私とふたりきりなのは嫌?」
「ううん…そんなんじゃないよ…でも」
その不躾な物言いにも、穏やかに微笑んで咎めようともしない諸葛瑾に、虞翻は一瞬、次の言葉を吐き出すのを躊躇ってしまった。
だが、このままこのような気持ちの澱みを抱えながら、彼女の行動に付き合うのも心苦しいように思えた。
「…あなただけを呼び出したのが、そんなに気になった?」
その一言に、無言で頷き、そのまま俯いてしまう。
きっと彼女のことだから、特に理由はなくとも自分を誘ってくれただろう。それなのに自分は変な勘ぐりをして、なおかつそれを態度に表してしまった。もしかして、愛想をつかされたかもしれない。
肩に手を置かれて、ふと見上げると、そこには苦笑した諸葛瑾の顔があった。
「相変わらずね…でも確かに、今日の私の行動はちょっと唐突に過ぎたかもね」
寂しそうに笑う諸葛瑾。
「何でなのか解らないけど…なんだか急に、あなたに会いたくなった。それが本音なの」
「私…?」
自分を必要としてくれていたことは、嬉しいと思った。
しかし、あまりに唐突なその一言に、虞翻はただ戸惑うばかりだった。

157 名前:海月 亮:2006/01/19(木) 00:42
境内に所狭しと並ぶ屋台。そして行きかう人並みの中、ふたりはしばらく言葉もなく、本殿の参拝の列に混ざっていた。
「うちの妹の話…あなたはもう知ってるわよね?」
先に沈黙を破ったのは、諸葛瑾だった。
虞翻は無言で頷く。
諸葛亮の件については呂岱からの又聞きだが、大体の事情は解る。
そしてもうひとつ、彼女の妹たちといえば…
「このまま卒業したら…いったい恪や融がどうなるのか、やっぱり心配で仕方ないの」
虞翻には返す言葉が見当たらなかった。
諸葛恪と諸葛融。虞翻も虞レからその人となりを伝え聞き、また実際に逢った事もあるので知っている。
「こんなことを聞くのもどうかと思うけど…あなたはあの子達のこと、どう思う?」
確かに諸葛恪は頭の回転も速いし、言葉も巧みだ。しかし虞翻は…それが諸葛瑾の妹であることを考慮したとしても…どうしても良く評価できない点が見受けられる。
自信家で鼻に付く態度と、あまりにも些事に無頓着な大雑把さ。この二点により、恐らく諸葛恪は一身を完うできない…己が才知に身を誤るのではないか、と。我侭で騒がしいだけの諸葛融に至っては論外と言わざるを得ない。
しかし、自分が交州へ移ったあの日…自分の為に泣いてくれたこの少女の心を抉るようなその評価を、彼女はどうしても言い出せなかった。
「…他人のモノは良く見える、と言うけど…私はあなたが心底羨ましいわ」
「え…」
「あなたは私よりずっと優れた才能もある…そしてあなたの意思をついでくれるだろう子達にも恵まれている…知ってる?あなたって割と下級生に人気があるのよ。あなたの妹…世洪ちゃんだけじゃなく、幹部候補生となった子達の中には、あなたにその才能を見出された娘が、それだけいっぱいいたってことなのね」
寂しそうな表情のまま、諸葛瑾は軽く頭を降った。
「結局、私は何も長湖部に…楽しい思い出をいっぱいくれた場所に、何も残さずに去っていくような気がして…」
「そんな…そんなことないっ!」
自分でもびっくりするくらい、大きな声で叫んでしまったらしい。周囲の目がこちらに向いたことに驚き、虞翻は真っ赤になって慌てて口を押さえてしまった。
その様子が可笑しかったのか、諸葛瑾も少し笑った。彼女も釣られて、少し笑った。

少し時間を置いて、周囲の注目から開放されるのを見てから、虞翻は気持ちを落ち着かせ、
「それは違うよ…個人の意思だけを受け継いできただけなら、きっと長湖部はとっくの昔に無くなっていた…長湖部は、その活動に関わったみんなが担い手になって、次の世代にその人たち全員の思いを受け継いで、今の長湖部があるんだと思ってる」
一言ずつ、大切な宝物を扱うように、彼女はその想いを言葉にしていた。
「私たちの想いは、これからの長湖部を担っていく娘達みんなが受け継いでくれる…私は、そう思いたい…」
「…仲翔」
「だから…何も残せないなんて、そんな寂しいこと言わないでよ」
「うん…ありがとう」
その笑顔に吹っ切れたものを見出せたので、虞翻も精一杯の笑顔で応えた。
そうこうしているうちに、ふたりの参拝の番が回ってきた。
揃って袖の中から財布を取り出し、示し合わせたように五円玉を取り出し、賽銭箱へ投げ入れるふたり。
二回手を打ち、手をあわせて、彼女は願っていた。
(私達の思いを受け継いでくれる娘たちが、充実した学園生活を送れますように…)
(…私を受け入れてくれた仲間と、何時までも仲良く居られますように)
と。


本殿から離れ、見上げた空から粉雪が舞い降りてきた。
「…やっぱり降ってきたわね」
「予報では、今週いっぱいは雪なんか降らないって言ってたけど…?」
怪訝そうに諸葛瑾が言った。
「ちょっと占ってみたの。私も半信半疑だったけど」
ああ、と諸葛瑾が相の手を打つ。虞翻が占いの名手であると言うことは、部内でもそれなりに知られていた。
「あー! やっぱり来てたんですか先輩方」
本殿のほうからふたり走ってくるのが見える。髪形を普段とは違って、うなじの辺りで一本に括って、赤い袴の巫女装束に身を包んだそのふたりは敢沢・歩隲の長湖部苦学生コンビだった。
「何よあなた達、こんなところでバイトしてたの?」
「えーそうですよ。なにしろ看板娘は受験のため不在ってことで、今年は此処の枠が広かったんですよ」
虞翻の問いに、その上着の裾を引っ張って、その姿を主張するように応える歩隲。
「でも珍しいですね。仲翔さんと子瑜さんって組み合わせ」
「やっぱりそう思う?」
何気ない敢沢の一言に、悪戯っぽい笑顔の諸葛瑾。
不意に肩を抱き寄せられ、虞翻は思わず諸葛瑾の顔を見やる。
「でも、いいじゃない? 私たちは"同期の桜"なんですから」
満面の笑顔の諸葛瑾。
敢沢や歩隲のみでなく、虞翻までも呆気にとられてしまったが…。
「確かに、今の長湖部幹部では古株になっちゃったわね、お互いに」
「そうね」
お互いにそういって笑いあった。
舞い降りる雪が、会場に並ぶ松明の灯に照らされ、まるで冬の夜空に舞う桜のように、ふたりには思えた。


「…なんか悪いものでも喰ったのかな?」
「まぁいいじゃねぇか。なんにせよ、仲良きことは美しき…だろ?」
歩隲の物言いに苦笑する敢沢。
「え〜っと、ひたってるトコなんですけど…先輩方、良かったら本殿のほう来ません? 一応暖かいものとかありますよ」
敢沢の呼びかけにわれに返った虞翻。
「え? …大丈夫なの?」
「ええ。先輩達の話したら、神主さんが連れてきたらどうだって」
「だから抜け出てこれたんですけどね」
その言葉に、虞翻と諸葛瑾は顔を見合わせる。
「…行ってみる?」
「そうね、折角だからお邪魔しましょうか」
頷き、後輩ふたりに伴われ…やがて、その姿は本殿の中に消えていった。

158 名前:海月 亮:2006/01/19(木) 00:53
一番槍は逃したか(;;゚Д゚)…まあいい、行くぞ!


…ってなワケで海月です。
言いだしっぺが開催日に間に合わなくてごめんなさい_| ̄|○
そして祭開催の音頭もとらないで、空気読めないひとでごめんなさい…_| ̄|
            ...○


というわけで平成十八年度、旭日祭を執り行います(゚∀゚)
そして雑号将軍様、一番槍乙です^^
そしてのっけから萌えさせてもらったぜコンチクショウw

皇甫嵩、朱儁、廬植、丁原の四人衆に、張角との出会い編ですな。
つかのっけから鮮烈なデビューを飾ったもんですな。
いやぁ本当皇甫嵩カコイイ…(;´Д`)
そして密かに登場しているお米党のヒトとか…(;´Д`)

毎度のコトながら、このあたりのツボをしっかり押していただけて、読むほうは大満足ですわい(´ー`)GJ!


それでは、あっしももうひとつ何かを…去年は二発目まで逝けなかったから今年こそは…(;;゚Д゚)ノシ

159 名前:海月 亮:2006/01/19(木) 00:58
あ…いきなり自分ので誤植発見しちまった…

一箇所だけ「を」が余計に入っているところがあります。
抜かして読めばちゃんと意味通じますのであしからず…_| ̄|○

160 名前:北畠蒼陽:2006/01/19(木) 20:57
「くくっ……」
少女は1人、笑っていた。
少女の胸から階級章はすでに失われ、それでも少女は恨みの視線にさらされていた。


その狂おしいほど透き通った空


「お前らぁ、なにか言いたいことでもあるんか……?」
董卓。
学園史に魔王として長く君臨するその少女は、昔のようにゴスロリファッションに身を包むこともなく、またそれにふさわしい言葉遣いもかなぐり捨て、狂犬のように周囲を恫喝した。
周囲の人間ははっと目を伏せ、そくささと歩みを速める。董卓はふん、と鼻を鳴らした。

かつて董卓ほど天の時、地の利、人の和に加え最悪なほど『運』に恵まれた少女はいなかった。
いつからその歯車は狂ったのだろう、董卓が呂布にトばされたのは誰が書いたシナリオだったのだろう。
魔王は栄華を極め、そして一瞬で凋落した。

董卓は惨めな思いを怒気にかえ、憤怒の表情で校舎内を歩き回る。
そして、その足がやがて、止まる。
豫州校区。
なぜこんなところまで歩いてきてしまったのだろう……
自問自答し、そしてすぐに答えが見つかったことに董卓は驚いた。
董卓には姉がいる。
決して出来がいいとはいえない姉だが、本当に優しいひとだった。
自分に対し、コネを作ってくれるというたったそれだけのためにこの豫州校区まできて一生懸命働いていた。
自分が栄華を極めることができたのは姉の努力、という面もあったことは間違いない。
そう……
姉の思いを……
私は裏切ってしまった……
いっそう惨めな気分になり、董卓はきびすを返そうとする。

だがその声が董卓の足を止めさせた。

「あぁ、本当に文若ちゃんが言ったとおり仲穎ちゃんがここにくるなんて、ね」

聞き覚えのある声。
一番聞きたかった声。
一番今の惨めな自分を見て欲しくなかった声。
董卓は恐る恐る振り返る。
やせっぽちで、でも董家の血筋なのだろう背だけはやたらと高い……姉、董君雅。

「あ、お、お姉ちゃ……」
口をぱくぱくさせてここにいないはずの姉を凝視する董卓。
「友達、がね。仲穎ちゃんだったらきっとここにくるだろう、って教えてくれてね」
にっこりと笑う姉。
董卓はその笑顔に涙腺が決壊するのを感じた。
「うあああああああああああ! ごめんなさいお姉ちゃん! 私は董家を汚しちゃった! もう! もう私は……!」
泣き崩れる董卓に董君雅はゆっくりと歩み、そして上からふわりと抱きしめた。
「よくがんばったね、仲穎ちゃん……あなたはうちの誇りよ。世界中があなたの敵になってもお姉ちゃんだけはあなたの味方でいてあげる」
姉の優しさが董卓に染み渡る。
董卓の中から憑き物が抜け落ちるような感覚があった。

魔王は魔王ではなくなった。

161 名前:北畠蒼陽:2006/01/19(木) 21:05
わざわざ! わざわざこの記念日に萌えではないモノを投稿して悦にいってる北畠です!
いや、董卓萌え? うん、微妙に萌え。

というわけで何気にワタクシも初旭記念日デス。
いつもの2人、というかいつもの蒼天会を離れたものを書いてみたわけですがもうね? ごめんなさいね?

>雑号将軍様
多分近いうちに私もその世代の話を書くと思います。でもその4人は脇役だよ! 人が書かないキャラクターを使うのダ!
というか人と同じキャラつかってたら勝てないからね!

>海月 亮様
諸葛瑾タン萌え。
正統派の萌え話書けない体質なので羨ましい限りなのですよ。
長湖部は前に1回だけ書いた記憶があるなぁ……
でもアレは萌えない。断じて萌えない。

162 名前:冷霊:2006/01/19(木) 22:54
■雪降る戦場にて・1

ラク城棟裏庭。
ここで今まさに、戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

話は1時間前に遡る。
東州の部室に劉璋から一つの荷物が届いた。
中身は蜜柑、しかも温州産の上物である。
たくさんもらったのでどうやらお裾分けということだったのだが……問題が一つ生じた。
六人で分ければ一人数個しか食べられない。
そこで楊懐が提案したのが雪合戦である。
東州では問題が発生したとき、何らかの形で決闘により解決する。
今回の場合は雪が降っていることもあり、雪合戦となったようである。
今回の場合、勝者は蜜柑を独り占め、他の者はお零れを期待するのみ。
一見つまらない勝負のように思えるが、炬燵に蜜柑が付くかどうかは大きな問題である。
それは即ちケーキにイチゴが乗っているか否か……いや、苺大福の苺の有無を問うことにも匹敵するだろう。

失敬。
さてさて、話は戻る。

「で、バンダナを奪われたり、雪を当てられたりしたらアウトだっけ?」
高沛が腕に的であるバンダナを巻く。
何でも発信機を埋め込んでおり、雪の衝突を感知してくれるらしい。
しかも水分を含むと赤く染まる為、当たったかどうかは見た目でもわかるそうだ。
「そうだ。当たった後は権利も無くなるから大人しくすること。いいか?」
「やられる前にやれってことか……」
不敵な笑みを浮かべる冷苞。
「残念だったな、冷苞。最後まで参加出来そうになくてよ」
トウ賢がクスリと笑う。
「そりゃ、どういう意味だよ?」
「別にー。そのまんまの意味だけどー?」
両者の間で早くも火花が散る。
「それよりこのバンダナ、いくらかけたの?」
扶禁はじろりと楊懐を見遣る。
だが、楊懐はさらりとその視線を流し、携帯を手に取る。
どうやら誰かに連絡するつもりらしい。
「もしもし、杜微?」
「あ、楊懐?この前の請求書のことだけど……」
「杜微ー、いつものチェックよろしくねー」
「は?ちょっと待って。まだ書る……」
プツ。
途中で高沛が問答無用で切った気がするのは気のせいだろうか。
杜微も良い迷惑であろう。
今頃、頭を抱えるなり、胃薬を飲むなりしているのだろうか。
「そろそろベルが鳴るわね。じゃ、あたしは一足先にっと。」
扶禁が裏庭の方へと歩いて行く。
「あ、扶禁ちゃん待って〜」
向存が慌てて扶禁を追いかける。
「向存、ちゃんとルール理解してんの?」
「さあ?」
高沛と楊懐は二人を見送る。
「せんぱーい、覚悟しといて下さいよー?」
トウ賢がバンダナを額に結び、ニヤリと笑う。
「トウ賢、てめぇこそ覚悟しとけよ?」
冷苞はバンダナを二の腕に巻き終え、トウ賢を睨み付ける。
「へいへい、お前が来んのを楽しみにしといてやるよー」
トウ賢は手をひらひらと振りながら校舎の方へと歩いて行く。
「では、私もそろそろ準備をするか。」
楊懐は何故か校舎の中へと入っていく。
何やら用意するつもりらしい。
「楊懐ー、楽しみにしてるからねー」
高沛は何をするつもりか大体の予想が付いているらしい。
「じゃ先輩、オレも失礼します。」
冷苞も軽く頭を下げ、走っていく。
「行ってらっしゃーい」
後姿に手を振る。
高沛はひょいと雪を掴み、ぎゅっぎゅっと固めていく。
「さーて、一丁やるとしますか!」
高沛が駆け出す。
それと同時に開始のベルが鳴った。

163 名前:冷霊:2006/01/19(木) 22:55
■雪降る戦場にて・2

「何で付いてきてんのよっ!」
「だって〜、一人じゃ心細いしぃ〜……」
「それじゃゲームになんないでしょ?っつーか離れなさいっ!」
ラク城棟裏庭。茂みに隠れている扶禁と、その後ろにぴったりとくっついている向存がいた。
「あーもうっ!邪魔だって言ってんでしょっ!」
「ねえ、二人で協力しようよ〜?扶禁ちゃんと一緒なら心強いし〜」
「ええいっ!さっさと離れなさいっ!」
扶禁は向存を振り切ろうとするが、上着を掴んでいる向存は扶禁にぐるぐると付いて回っている。
中々出来る芸当ではない。
「それなら……」
扶禁が向存の髪に手を伸ばす。
向存がバンダナを髪留め代わりにつけていたのは覚えている。
それを奪いさえすれば……グッと手を伸ばす。
「見つけたっ!」
高めの声と共に雪玉が飛んでくる。
「危ないっ!」
扶禁が咄嗟に向存を自分の方へ引っ張った。
耳を掠め、雪玉がボスッと地面にぶつかる。
「外しちゃったかー……ちぇ」
高沛が残念そうに言った。
「向存、早く退きなさいっ!邪魔っ!」
「あう〜、ちょっと待ってよ〜」
もたもたと立ち上がる向存。雪玉が飛来し、容赦無く足元を掠める。
扶禁もその下から這い出し、咄嗟に木陰に隠れた。
「扶禁に向存でしょ?いるのはわかってるわよー?」
ふっふっふと怪しげな笑い声が響く。
「は〜……むぐっ!」
(馬鹿ッ!馬鹿正直に返事する馬鹿が何処にいんのよっ!)
扶禁が急いで向存の口を塞ぐ。
が、遅かった。
「そこねっ!」
高沛が校舎を背に左から回り込む。手には二つの雪玉。
「向存ッ、左から来たわよっ!」
「は〜……あうっ」
立ち上がろうとした瞬間、不意に向存がバランスを崩した。
扶禁もろとも、もつれ合う様にして倒れ込む。
「向存?もしかして足……」
「えへへ……ごめんね〜……」
どうやら足首を捻ったらしい。
既に高沛の姿は見えている。
向こうも当然、こちらの位置を把握している。
もはや逃げるのは無理だろう。
正面から戦っても、間違いなく向存がやられる。
道は無い。
そう思った扶禁が取った行動は自分でも意外だった。

「向存覚悟っ!」
高沛が向存の無防備な背中目掛け、雪玉を投げる。
顔は笑っているが、玉を見る限り手心は加えていない。
ギリと奥歯を噛み締める。
次の瞬間、扶禁は向存を自分の方へと思いっ切り引っ張った。
そして、自分の身体を向存のいた位置へと差し入れる。
身体にズンと重い衝撃。呼吸が一瞬止まる感覚。
「扶禁ちゃん、大丈夫?」
向存が顔を覗き込んだ。
「いいから起きなさいっ!」
向存の背中を押し、立ち上がらせる。
立ち上がった向存が扶禁に手を伸ばした。
だが、扶禁は乱雑に手を振り払った。
「あたしに構うんじゃないっ!走れっ!」
ギリッと睨み付ける。
向存は少しだけ躊躇い、そして片足を引き摺り駆け出した。
「向存を逃がす余裕はあるみたいね」
「あの馬鹿のせいで逃げ遅れただけです」
高沛と扶禁が対峙する。
それぞれの手に握られているのはたった一つの雪玉。
「一撃で決めるわよー……おーけい?」
高沛がニッと笑う。
「そう簡単に行くと思わないほうがいいですよ?」
扶禁が口の端を僅かに緩める。
雪はまだ降り続けていた。

164 名前:冷霊:2006/01/19(木) 22:55
■雪降る戦場にて・3

南側校舎
ガッシャーンッ!
景気良く硝子の破片が降り注ぐ。
「おいおい、よーく狙えっつーの」
トウ賢がひょいと壊れた窓から顔を出した。
「野郎っ……ちょこまかとっ!」
冷苞が次々と雪玉を叩き込む。
強く押し固められ、猛スピードで飛んでくる雪玉は立派な凶器である。
頭にでも直撃すれば下手すれば病院送りであろう。
トウ賢は目立つように額にバンダナを巻いている。
それは挑発から来るものか、それとも覚悟の上か。
だが、雪玉はトウ賢に当たることなく、校舎の中へと消えていく。
何かが割れる音や砕ける音がするが今は聞こえないことにしておく。
「ホラホラ、そんなんじゃ当たんねーぞ?」
「ちっ……クソッ!」
状況は硬直状態であった。
冷苞の方が優勢に見えるものの、トウ賢はあまり力を入れて攻めて来ていない。
何か策があるのかもしれない。
「どっちにしろ、今の調子だとこっちがバテちまう……」
木陰で雪玉を作りつつ呟く。
「何かあるはずだ……何か……」
冷苞が辺りを見回す。
壊れた窓、崩れたかまくら、誰かの作った雪だるま。
どれもピンと来ない。
ふと視線を上へとやる。
「……やるだけやってみっか……」
冷苞がそろりそろりと移動し始める。

「……妙だな」
トウ賢が窓からそろりと冷苞の様子を伺う。
先程まで積極的に攻撃していたのに、あたりに姿はない。
「もうちょっと頑張ってもらわねーと困るんだよなー……」
軽く頭を掻く。
予定ではあと十分くらいは頑張ってもらわないと困る。
高沛は扶禁や向存を狙うからいいとして、問題なのは楊懐である。
どんな方法で攻めてくるか予想がし難い。
「冷苞ー、もしかして先輩たちにやられたかー?」
外へ声をかける。だが、返事はない。
「……向こうも待ちか?こうなるとメンドクセーんだよなー……」
呟きながらも耳を凝らす。
僅かな音も聞き逃すことの無い様、意識を集中させる。
カツン。
靴音である。
それは廊下の奥から聞こえてきた。
(裏をかかれた?)
頭にそんな疑問が浮かぶ。
だが、そんな疑問を気にする必要はなかった。
むに、何かを踏んだ感触。
「ん?」
思わず足元を見る。
そこにはロープが張ってあった。
ロープは頭上へと続いており、そこには木がある。
ミシリと枝が悲鳴を上げる。
枝は積もった雪の重量に耐え切れず、折れた。
「うわわっ!」
トウ賢は咄嗟に飛び退く。
そのとき、一つの雪玉がトウ賢へ飛んできた。
(まだ間に合う!)
ギリギリの所で拳で叩き落した。
「な……二つ目!?」
だが、飛んできたのは一球だけではない。同じ軌道で二球、投げていたのだ。
避けようと身体を後ろに反らす。だが、完全には避けられない。
鈍い衝撃の後、じんわりと額のバンダナが赤く染まっていく。
「へっ、オレの勝ちみてぇだな?」
「くーっ、こんな単純な手にやられるなんてよー……」
トウ賢が悔しそうに叩き落した雪玉を握り潰す。
「じゃ、これでオレの28勝目っと。一歩リードだぜ?
ニヤリと笑う冷苞。
「フン、いつものように追いついてやっから安心すんなよ?」
トウ賢が雪を払い立ち上がる。
「こうなったら先輩たちにも勝てよ。じゃねーと許さねーからな?」
「任せろって。お前には出来ねぇコト、見せてやんよ」
冷苞がニッと笑う。
そのときだった。
ひゅ〜……ぽす。
「……」
「……」
僅かな衝撃。
冷苞が二の腕に巻いていたバンダナが赤く染まっていく。
「……は?」
「アウト……?」
二人にも何が何やらわからなかった。
ただ確かなのは、これで冷苞もアウトだということである。
「誰か近くにいんのか?」
「大体の予想は付くけどなー……」
納得いかない様子でアウトとなった二人は部室へと戻って行く。
戻って行く二人の後ろで、雪だるまだけがニコニコと笑っていた。

165 名前:冷霊:2006/01/19(木) 22:56
■雪降る戦場にて・4

「あれ?扶禁先輩もアウトですかー?」
部室に入ってくるなり、トウ賢が扶禁の姿を見つけた。
扶禁は炬燵に入り、劉循と一緒にレーダーの様子を眺めている。
「冷苞とトウ賢揃ってアウト?もしかして相討ちだったの?」
「いや、オレが勝つには勝ったんですけど……ってか、循も来たのか?」
「うん、お姉ちゃんが来れないから代わりに見てきてって」
「タマさん、相変わらずこういうことだけは見逃さねーよなー」
トウ賢が煎餅を手に取り、パリッと一齧りする。
「ってコトは張任さんも来てんの?」
「ううん、張任お姉様はバイトがあるから無理だって……」
しゅんと俯いてしまう劉循。
「だったら後で手伝いに行かねぇか?どうせ暇なんだしさ」
「え、ホント?」
ぱぁっと表情が明るくする劉循。姉に劣らず、非常にわかり易い性格である。
「お、冷苞にしちゃあいいこと言うじゃねーか」
トウ賢が茶化すようにクスリと笑う。
「『冷苞にしては』は余計だ。で、誰が残ってる?」
冷苞がレーダーを覗き込む。
「楊懐さんに高沛さん、それに向存の三人ね」
「へぇ、向存さんが?何か意外だな」
冷苞が煎餅を取り、齧った。
「あれ?そういや杜微先輩はどーしたんです?」
周囲を見回したトウ賢がふと尋ねる。
確か杜微は審判もといチェック役として頼んでいたはずだが……
「ああ、杜微さんならあたしが来るなり、後宜しくって帰ったわよ」
「あれ?杜微さんって体調、あんまり芳しくねぇんじゃ……?」
冷苞が首を傾げる。
「書類整理くらいならってことで手伝ってるみたいよ。後、ついでにこれも宜しくだって」
どさっと炬燵の上に置かれる紙の束。
もう既に見慣れたものである。
「あー……もしかして始末書ですか?」
トウ賢がさり気無く目をそらす。
扶禁が是の意を込めて頷く。
「冷苞にトウ賢……また壊したの?」
劉循が溜息混じりに首を傾げる。
「あー……オレ、劉循との約束が……」
そろりそろりと冷苞が出口へと向かう。
だが、その後ろからぎゅっと扶禁が捕まえる。
「逃がさないからね?あたしも手伝ったげるから、今日中に片付けるわよ?」
冷苞の左腕を掴み、炬燵へずるずると引き摺っていく。
「良ければ私も手伝うから早く行こう、ね?」
いつの間にか劉循が右腕を掴んでいる。
もはや逃げることは出来ない。
トウ賢も既に脱出は諦めているようだ。
「い、嫌だーっ!!」
冷苞の叫びが校舎に木霊した。

166 名前:冷霊:2006/01/19(木) 22:58
■雪降る戦場にて・5

ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ。
校舎の南側へと足音が近付いてくる。
「うっわー。こりゃまた盛大に壊したねぇ……」
やってきたのは高沛。
「多分トウ賢と冷苞の仕業ね。ってことは、まだ近くにいるのかな?」
周囲を警戒しつつ、じりじりと進んでいく。
誰かが見ている気がする。
だが、はっきりとはわからない。
「んー、校舎の中にもいないみたいだね」
ひょいと覗き込み、廊下を見渡す。
見た所、中へと続く足跡はない。
そのとき、背後に何かの気配を感じた。
「はっ!」
振り向き様、その気配を一蹴する。
高沛に迫っていた雪玉はあっさりと砕けた。
「やっぱ誰かいるなー……隠れてるってことはトウ賢の方が勝ったかなー……?」
雪玉の飛んできた方を確認する。
そこには大きな木。
そして、木の下に放置されている雪だるま。
高沛はふと、その雪だるまに目が留まった。
「……楊懐?」
ピク。
雪だるまが動いたような気がする。
そう言えば刺さっている腕代わりの木の枝には何処かで見たバンダナも……
足元の雪を掴み、おもむろに雪玉を作る。
「せーの……」
ピッチャー高沛、振りかぶりまして第一球……そんなナレーションの入りそうな雰囲気。
その刹那、雪だるまから足が生えた。
「でやぁっ!」
高沛の腕が振り下ろされる。
その手から雪玉が放たれた。
「はぁっ!」
雪だるまが避けようと横っ飛びに逃げる。
だが、玉は僅かに弧を描き、雪だるまもとい楊懐を捕らえる。
雪玉は容易に雪だるまの腕を砕き、木に激突した。
……しぃぃん……どさっ!
「うわっ!」
「うっ……」
木に積もっていた雪が一斉に落ちてくる。
綺麗に雪の中に埋もれる高沛とと楊懐(雪だるま)。
「やはり高沛には見抜かれたか……」
少しばかり悔しそうな顔を見せる楊懐。
「へへへ、まだまだ演技力が足りないよ?」
高沛は見抜けたことが嬉しいのか、非常に御機嫌だ。
「おめでとう、高沛。君の勝利だ」
楊懐が雪だるまの右腕を差し出す。
「楊懐こそ御苦労様。三人もアウトにするなんて流石ね」
高沛もがっちりと握手し返す。
「三人?」
楊懐が首を傾げた。
「あれ?三人倒したんじゃないの?」
高沛が首を傾げたそのとき。
ぼすっ。
……手首に巻いていたバンダナに雪玉が命中した。
「やった〜!ちゃんと当たりました〜!」
声は屋上からであった。
ぴょんぴょんと跳ね、そして足の痛みでこける向存。
そう、範囲はあくまでラク城棟周辺、当然ながら棟内も良いのだ。
「これは一本取られましたね」
「あはははは……忘れてたや」
苦笑いを浮かべる楊懐。
そして、笑うしかない高沛。
まだ、雪は降り止む様子はなかった。

後日談
件の蜜柑は杜微や劉循を加え、八人で分けることとなった。
が、蜜柑を食べ終わるなり冷苞とトウ賢は劉循をつれて逃走。
高沛と楊懐の追跡を振り切り、成都方面へと逃走。
結局、始末書は扶禁が徹夜で仕上げる羽目になったらしい。
合掌。



167 名前:冷霊:2006/01/19(木) 23:13
冷霊です。
いきなり萌えより程遠いものを投下してしまった気が……(汗)
しかも、長文となってしまいました。
もう少し短くまとめるよう、努力せねばです(汗)

ちなみに学年に関して少し補足しておきますと、
高沛&楊懐&杜微:劉璋と同学年
扶禁&向存:劉璋の一つ下
冷苞&トウ賢:劉璋の二つ下。劉循と同学年?
のつもりで書いてみました。

>雑号将軍様
皇甫嵩、カッコいいですー。
そしてツノを掴まれてる朱儁に萌えw
お米党の方の密かな登場にもクスリと笑わせて頂きました。

>海月様
開催宣言、乙です。
何だか虞翻と諸葛瑾の別の一面を楽しませて頂きました。
しかし、妹達は冗談とわかっていたのか、それとも本気で受け取ったのかが気になります。
個人的には後者を(以下略

>北畠様
董卓に萌えてしまいました。
董卓も姉の前ではやはり魔王である前に妹なんですよね……としみじみ思ってみたり。

168 名前:海月 亮:2006/01/19(木) 23:42
>北畠様
…先生…狼を指して「羊」と呼んでも、誰も信じやしません…。
そしてアレが「萌えじゃない」といわれて、信じられるはずもあろうハズが…

ええぃ、まさか此処に来て、よもや董卓に萌えることになろうたぁ思わなかったっつの!(;´Д`)ハァハァ
この間の董君雅の話は此処に繋がってくるんですな。GJであります!


>冷霊様
おお、早速東州軍団登場でありますな!(゚∀゚)
確かにあの連中が雪合戦やったら、まぁただで済むはずもないでしょうなw
…つか扶禁タソ哀れ(ノД`)

そして楊懐がいたことを何時の間にか忘れ、文脈から雪だるまには劉璋が入っていたと思ってしまった私は負け組でしょうか…?_| ̄|○


あと、混乱する妹達。
海月の中では、虞姉妹の中で冗談を理解できるのは虞レだけだと思ってます^^A
あと、結局みんな、お姉ちゃん大好きなんですよ。と言うわけで本気説に一票(何?

169 名前:北畠蒼陽:2006/01/19(木) 23:45
>冷霊様
学三にSS初投稿おつ!
実にいい作品だと思います!
というかこんなシチュエーション好き!

王昶世代もこんなふうに書いていきたいなぁ……

170 名前:★教授:2006/01/20(金) 00:18
◆◆ A CONVERSION! 〜転換〜 ◆◆


■■ TROUBLE ■■

「で…どうすんのよ、この状況」
「知らないよ。こんな漫画みたいなシチュエーション、私にどうしろって言うのさ」
 成都棟内、階段踊り場付近でへたり込む女子生徒二名。
 一人は赤いボサボサ髪の眠たそうな少女、もう一人は薄紫の艶やかな髪をした目線厳しい少女。言わずもがな、簡雍と法正だ。
 二人は埃まみれの上に手足に擦り傷や痣を作っている。よくよく見てみると法正はそれほど傷を負ってはいなかった。それを痛がるような素振りを見せてはいないが、端から見るとやはり二人とも痛そうな状態だ。場所と状況を見れば二人が階段から仲良く池田屋ヨロシク転げ落ちたものだと推測する事に容易だろう。
「正直…困ったわ。憲和、何とかしなさいよ」
 大きい溜息を一つ、簡雍がじろっと法正を一瞥して言う。
「冗談。何とか出来るような狡い知恵を孝直が搾り出して欲しいもんね。そーゆーの得意でしょ」
 肩を竦めて法正が言葉を返した。
「狡いはともかく、私の範疇なら幾らでも考えるわよ」
「ま、こんなワケ分かんない状況は…医者にもどうにもならないんじゃない」
 法正は立ち上がるとスカートの埃を大雑把に払う。それに続いて簡雍も立ち上がって着衣の乱れを整える。
「とにかく、ここは離れて会議室行こうよ。あそこなら一人くらいは分かると思うんだ」
 法正は服を少し着崩して簡雍に提案する。着崩している法正を見て、簡雍が慌ててその着衣を戻そうとする。
「私のイメージダウンになるような事しないでよっ」
「あー…はいはい」
 法正は思い出したように声を出して着衣を整える。安心したような表情の簡雍…二人とも様子がかなりおかしい。
「ともかく、それでいいと思うわ。問題はこの状態を信用してもらえるかってトコだけど」
「信用してもらわなきゃなんないよ。このままってワケにはいかないんだし」
 二人は喧々諤々と廊下を歩いていった。


■■ PANIC ■■


「はー…で、そっちが孝直で…こっちが憲和って事なわけやな」
 劉備が簡雍と法正を交互に珍しそうな目で見る。
「流石の憲和ちゃんも困ってるんだ。何とかなんないかな」
「いや、アンタは孝直やろ」
「だーかーらー…私が憲和なんだって」
「あ、そやったな」
 劉備と法正が漫才じみたやり取りを横で見ている簡雍。疲れたような困っているような複雑そうな顔をしている、が堪り兼ねた様で口を挟んだ。
「総代…私、真剣に困ってるんですけど」
 悲痛な思いが混ざった声に、さしもの劉備も咳払いを一つして漫才を止める。
「すまんすまん。でもな…この時間でここにおんのはウチと孔明くらいやで。孔明のトコには行ったんかいな?」
「一番行きたくないトコですが?」
「愚問やったな」
 劉備、簡雍、法正の3人ともが一人の狂科学者の顔を思い浮かべる。何を置いても研究と萌えだけは手放さない、地球が滅びても一人生き延びそうな少女の顔を。
「まあ居場所は分かるから…最後の手段として」
 法正はどかっとソファーに座ると、手近にあった本を開いた。
「ああ、エリア51な…」
 劉備はノートパソコンを開いて信用できる口の堅そうなキレ者をピックアップしながらつぶやく。簡雍は劉備の横でサポートしながら頷いた。

 エリア51。
 それは諸葛亮孔明が自分の研究を誰にも邪魔されたくない為に、築き上げた専用研究室の事である。
 その怪しい研究室は成都棟の旧校舎の中に設けられており、ただでさえ古い校舎というだけで不気味なのに危険な音を流して更に不気味さを演出していた。その為、一般生徒は怯えて近づかないのだ。当然、苦情も劉備の元に何十何百と寄せられてきた。こうなっては総代として動かざるを得ない劉備も張飛や馬超、趙雲といった歴戦の兵を率いて孔明に注意をしに行った。音には物怖じすらしないタイガーファイブに襲い掛かる侵入者排除システム。しかし、アスレチック感覚でそれを返り討ちにされていく。そして先導しているのが劉備では孔明も流石に最終防衛システムのスイッチを押すわけにもいかずお手上げ状態。結局、白旗を挙げた孔明と劉備のタイマン談義によって音は鳴らさない、侵入した一般生徒に危害を加えないという条件で研究室存続を許されたのである。
 しかし、危険な音や侵入者排除システムは解除されたものの、今までの事もありやはり誰も近づこうとはしなかった。
 そして一般人の近づけない絶対領域、成都の秘密研究施設と呼ばれ…現在の呼び名であるエリア51として呼ばれるようになったのだ──

 劉備はあかんと一言言うと、ノートパソコンを閉じる。
「みんなそこはかとなく口が軽そうや。こういう事情なら尚更やなぁ」
「やっぱ、あそこ行くしかないのか? つーか、あそこしかない」
 法正は髪をくるくると指先で弄びながら早くも最終手段を口にした。簡雍もまた同意したように強く頷く。
「今日中に何とかしないと。個人情報が危険に晒されてるもの」
 早速とばかりに部屋を出ようとする簡雍。しかし、後ろからキツイ一言が襲い掛かった。
「ホント…貧しい胸だこと」
 振り返った簡雍にぺたぺたと自分の胸を触りながら哀れみに近い溜息を吐く法正の姿が映る。
「う、うるさーい! 何さ、でかくたっていい事ない…な…の?」
 逆上して同じ事をする簡雍。しかし、そこには未だかつて体験した事のない夢幻世界が広がっていた。気にして初めて分かった事…なるほど、自慢したい気持ちは分かる。むしろ、このままでもいいかも…なんて気持ちになってしまった。
「これはこれで…」
 悦に浸り気味の簡雍から本音がポロリと出た。
「よくねー!」
 それにツッコミを入れる法正。
 そしてそれを新鮮そうな眼差しで見つめる劉備がいた──


■■ MAD and GENIUS ■■


「ほう。経緯は理解できましたが…何とも萌え要素とお約束を混同…あ、冷めた目で見られるのは辛いのでやめてほしい」
 白羽扇を手に本音感想を述べる諸葛亮に劉備、簡雍、法正の冷たい目線が浴びせられた。
「で、どないなんや? 何とかなるんか?」
「ははは。私に出来ない事は何一つないのです! この素敵現象を終わらせてしまうのはいささか残念ではありますが……これこれ、輪ゴムを撃たない」
 簡雍が太い輪ゴムを何発か撃ち込んで諸葛亮を黙らせた。彼女には素敵要素満載なのかもしれないが、簡雍にしてみればこの上なく嫌らしい。
 諸葛亮はこほんと咳払いをすると、こちらへどうぞと部屋の奥に案内をし始めた。三人は互いに見合ったが、詮索すると却って長引くと判断して後に続く。その途中、どこかで見た事がある猫型ロボットや自動歩行する城の模型が目に留まったが、敢えて無視する。そして、目的の場所に到着。
「こんな事もあろうかと、秘密裏に製作しておったのです」
「うっわー…お約束もいいとこだねぇ」
 目の前に広がるその光景。椅子が二つと頭にかぶせるのだろう、色んな突起物とパイプが伸びているヘルメット。そして、その後ろにはこれまた何処かで見た事のある機械が鎮座していた。更にその横には『秘密結社○ョッカー』と書かれた手術台があったが、諸葛亮を除く三人が協議した結果、見なかった事になった。
「つまりは…私達二人があのヘルメットをかぶって椅子に座ればいいという事なのね」
「論理的な説明をしたかったのですが、平たく言えばそういう事ですな。後は、こちらで操作しますので」
 ささ、ご両人と簡雍&法正を椅子に座らせる諸葛亮。渋い顔で椅子に座ると法正と簡雍はヘルメットをかぶった。ここに来て劉備が『ウチ、必要ないんとちゃうんかいな』と思った。
「では、お二方。覚悟完了でよろしいか?」
 諸葛亮はリモコンを手に簡雍と法正に向き直る。
「覚悟完了ー…って! ち、ちょっと! それテレビのリモコンじゃん!」
「のーぷろぶれむ」
「棒読み!? ち、ちょっと覚悟不完了!」
「腹を括ってその時を待ちなさい、お二方」
 逃げようとする二人を見て、諸葛亮がリモコンのスイッチを押す。と、椅子からベルトが飛び出し二人を拘束した。
「うわー! やめてー!」
「離してよ! うわっ! 何か生暖かい!」
 法正と簡雍、絶体絶命。それを眺めてニヤリと諸葛亮。
「では、エキセントリックな世界へご招待!」
「「するなーっ! っぎゃー!!!!」」
 馬耳東風の勢いで嫌がる二人を尻目に諸葛亮がリモコンのドクロマークスイッチを押した──


■■ an EPILOGUE ■■


 簡雍と法正は並んで夜道を歩いている。二人とも疲れきった表情で何を話すでもなく帰路を進んでいた。
 今から約2時間前、諸葛亮の機械で幸いにも元通りに戻る事が出来た。その時に彼女の言った言葉『ヒトによる臨床実験初成功』に心底青褪める思いもした。
「まー…無事に戻れたからいいか…」
 普段見せないような疲れ顔で呟く簡雍。
「贅沢も我侭も言わないわ…自分の体が一番よ」
 自分の肩を叩きながら法正も同意した。
 しかし、胸をちらりと見てやっぱり勿体無かったかな…と溜息を吐いた。
 それを見ていたのはお月様だけでした。


■■ RECOLLECTION ■■


「待てーっ! そのカメラこっちに渡しなさーい!」
「やなこった! 折角のスクープ、台無しにしてたまるもんかー!」
 毎日が日課。いつもの鬼ごっこを繰り広げる簡雍と法正。勿論、簡雍が法正のせくしぃショットを盗撮したのが原因なのだが。
 廊下を走り、教室に逃げ込み引っ掻き回し…他人の迷惑を顧みず展開される鬼ごっこも終盤に差し掛かった時だった。
「あ! しま…」
 階段を駆け下りようとした時、簡雍の足が縺れた。簡雍の体が吸い込まれるように階下に消えていく、が──
「憲和!」
 法正の手が素早く伸び、簡雍の手を掴んだ。しかし、詰めが甘かった。勢いの付いた簡雍の体を支えるのに非力な法正の力が足りようはずもない。おまけに両手で掴んだ為、手摺に掴まる事も出来なかった。
「く…」
 目を閉じ、来るべき衝撃に慄く法正。そして最初の衝撃…存外に痛みを感じなかった。その代わり、自分が抱きかかえられている事に気付いた。
「憲和!?」
 更に二度三度と衝撃が続く。痛みをそれほど感じない法正は必死で自分の盾になってる簡雍を振り解こうとするが…現状ではどうする事も出来なかった。そして最後の衝撃が──

「いたっ!」「あいたっ!」

火花が散った。もがく法正と頭へのダメージを防ごうとした簡雍の無我夢中の動作がごっつんこだったのだ──
 

171 名前:弐師:2006/01/20(金) 17:39
風が、心地良い。
やはり、私には北の地が会っている、と思う
易京棟の屋上で空を見るのが、私の日課だった。
「伯珪さま〜!」
誰かと思い、振り返ると、そこには見知った顔があった
「士起か。」
関靖 士起、いつも私のそばをうろちょろしている少女だ。
いつものように、他愛ない会話をして、それで終わり。
・・・の筈だった。
「伯珪さまって、髪は伸ばさないんですか?」
会話の中の何気ない一言、だけど、私の胸の一番ふれられたくない場所に深く突き刺さる。
私は、思わず士起の胸倉につかみかかっていた。
「え・・・伯珪さま・・?」
だけど、彼女のおびえた瞳に耐えられなくて



――――――――私は、そこから、逃げ出した








「はあ・・・」
一人残された屋上で、ため息をつく。
結局、あのあと追いかけることもできず、ずっと屋上にいた。
どうしよう、伯珪さまを怒らせてしまった。
しかも、いつもの怒り方ではない、あんな悲しそうな、寂しそうな目をした伯珪さまは初めてみた。
「どうしたの?士起ちゃん」
「わっ!」
そこに立っていたのは、公孫範さまだった、伯珪さまの従妹で、勃海棟の棟長だったが、界橋の戦い以来、本体に合流していた。
「わっ!てなによ、失礼ね」
「す、済みません!」
そう言いながらも、範さまは笑っていた、彼女は、優しく、面倒見のいい方だった。
「で、どうしたの?ため息なんてついちゃってさ。」
「それが・・・」
あたしは、範さまにあのことを話した、髪の話をしたこと、いきなり伯珪さまが怒ったこと。
「ああ、なるほどね・・・そういえば、あの頃居なかったもんね。」
あたしの話を聞いた範さまの顔も曇る、あたし、そんなまずいことを言ってしまったのだろうか。
「うーん、ちょっと長い話になるんだけどさ、いい?」
「お願いします!」
迷いはなかった、伯珪さまのことなら、何でも知りたかった。
「伯珪姉にはさ、妹が居たの。」

172 名前:弐師:2006/01/20(金) 17:39
生徒会室に戻ってきて、最初に思い出したのは、この髪を切ったときのこと。
――――――――私の、妹のこと。
あの娘、越は可愛い娘だった、姉馬鹿といわれるかもしれんが、本当に可愛い娘だった。
その頃、私は髪を伸ばしていて、あの娘は逆にショートにしていた。
いつもにこにこと人なつっこい笑顔をしていて、周りの人皆から好かれていた娘だった。

ある日のことだ、私は彼女を同盟の使者に出した、袁術の元だ。
元々袁姉妹は気にくわなかったが、だからといっていまの私の力では、手を組まないわけには行かない。
隣り合う袁紹と組めばどうせあとで潰される、だから袁術と組んだ。
それだけのこと。
そう、それだけのことだったのに。




「あの娘、飛ばされちゃったの、袁紹との戦いでさ」
「え・・・」
「あのあとは大変だったわ〜、私が勃海棟長になったのもさ、その時の伯珪姉にびびった袁紹が私に棟長を譲ってきたの。それでさ、私とか厳綱ちゃんとかが必死で冀州に殴り込みに行こうとする伯珪姉を止めたの、私たちが止めなかったら本当に一人で殴り込みに行ってたね、あれは。」



そう、その時だ、私が髪を切ったのは。
復讐への覚悟と、鏡を見るたびあの娘を思い出せるよう。
だけど、その結果が界橋の、あのざまだ。
私は端から見たら馬鹿みたいなのだろう。
だけど、後悔はしていない。
あの娘の為なら、何だってしてやれる。
それが、我が身の滅びになろうとも。
何を犠牲にしようとも。

あの娘の、為なら――――――――



「それ以来ね、伯珪姉が他人に心を開かなくなったのは。まあ、もともと自分にとって大切な人以外には愛想よくなかったけどね。」
「そんな・・・」
やっぱり、あたしは馬鹿だ、そんなことも知らないくせに。
伯珪さまにべたべたして、
傷つけて。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
「ねえ、士起ちゃん・・・伯珪姉のところに行ってあげてくれない?
あの人さ、いつも強がってるくせ、繊細って言うか、弱いところがあるからさ。」
範さまの声で、ふと我に返る。
「え・・・でも・・・あたし・・・」
「いいから!行って来なさい!」
私の声に驚いて、士起ちゃんは戸惑いながら階段へ向かって走り出している。
(ねえ、士起ちゃん。私、ちょっと口惜しくていえなかったけどさ、伯珪姉はね、貴女には心を開きかけてるの、貴女なら、あの人の「大切な人」になれるかもしれない。)
階段へのドアを開けようとしている士起ちゃんを見送る。
期待と、
羨みと、
ちょっとだけの、嫉妬を込めて。
「あーあ、何で私じゃだめなんだろ。」
何で私じゃ、伯珪姉の「大切な人」になれないんだろう。
誰も、多分伯珪姉自身でも答えられないであろう問いを、澄んだ青空に投げかけながら、


――――――――私は、泣いていた。

173 名前:弐師:2006/01/20(金) 17:40
そういえば、あの頃だったか。
あの娘、士起と出会ったのは。
あの頃は、袁紹を攻めるには力が足りず、だからといってじっとしてもいられなくて、
それで、よくバイクを乗り回して烏桓高の連中と「風紀を守るため」と言っては喧嘩していた。
そんなある日の事だ、烏桓高の連中にからまれている女の子を見つけた、その時いらいらしていたのと、その娘がうちの制服を着ていたから、気がついたら、そこへ突っ込んでいた。
喧嘩自体はすぐに済んだ、2、3人殴り倒したら、残りの奴らは逃げていった。
むしろ、問題はそのあとで、その女の子、士起が、私に妙になついてきたのだ。
最初は、鬱陶しい奴だと思った、しかし、段々私は彼女のことを――――――――

こんこん、と遠慮したようなノックの音で考えが中断される。
「入って良いよ。」
おずおずと入ってきたのは、顔をくしゃくしゃにして、目を真っ赤にした士起だった。
「あの・・・」
「士起・・・どうして・・・」
頭が混乱して、うまく言葉が紡げない、あんな事をしてしまったのに、なんでこの娘は。
「えっと、その、伯珪さまに謝りたくて・・・済みませんでした!!私、何にも知らないくせに無神経なこと言っちゃって、その、あたし、ほんとに馬鹿で・・・」
嗚呼、この娘は、なぜこんなに、私などを慕ってくれるのだろう?
「確かに、本当に馬鹿だな、私は、怒ってなどいないよ?」
そういって、頭を下げ続ける彼女を、そっと抱きしめる。
無性に、彼女が愛おしかった。
だけど、馬鹿なのは私だ。
本当に大馬鹿だったのは、私の方ではないか。
憎しみにとらわれ、また大切なものを手放してしまうところだったではないか。
もう、失うのは、嫌だ。
「あ・・・伯珪・・・さま・・・」
何で?
嬉しいはずなのに、
伯珪さまがこんなにも近くにいるのに、
――――――――あたしは、泣いてるの?

だけど、こんな馬鹿なあたしでも、一つだけは分かる気持ちがある。
この温もりを、絶対に、離したくない。
伯珪さまから、離れたくない――――――――

174 名前:弐師:2006/01/20(金) 18:09
駄文失礼しました、皆さんを目標に頑張りたいです。


>雑号将軍様
後漢の四人組はいいですね〜w
そして、二人の道教の方に萌えます
>海月様
宣言乙でした。
海月様の書く呉の人々は素敵ですね。
自分も早く追いつきたいです・・・
>北畠様
まさか董卓に萌える日が来るとは・・・
これぞ学三の醍醐味ですねw
>冷霊様
東州軍団の個性的な面々に悶えさせていただきました。
杜微さん・・・扶禁さん・・・哀れw
>★教授様
簡雍さんと法正さん萌えです
「これはこれで…」な簡雍さんがいいですw

175 名前:北畠蒼陽:2006/01/20(金) 18:30
>弐師様
冷霊様に引き続き初陣お見事!
というか初陣? ……初陣?
かなり見習わなきゃいけないな、と(笑

176 名前:海月 亮:2006/01/20(金) 19:09
―――――( ̄□ ̄;)

ええい、今年のニューフェイスは化け物かっ!?(;;゚Д゚)w

冷霊様といい弐師様といい、貴公らは何故此処まで素晴らしい萌えをk(ry


>教授様
うわーい久しぶりの簡×法キタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!

私めの知る限りでは、こういう「入れ替わり」ネタってないんですよね。意外なことに。
そして意外に誰と誰の組み合わせでも良さそうに見えて、やはり「このふたりじゃないとダメ」と思わせてくれるのは、教授様の描かれる簡雍と法正がやはりそれだけ魅力的であるという証左といえましょう(´ー`)

…てかそんな堅っ苦しい言葉は要らんですな、GJ!


>弐師様
今年はホンマ、今までになかった人物で萌える年になりそうですな…(;´Д`)ハァハァ
関靖たん可愛いよ関靖たん…(;´Д`)ハァハァ

正史の公孫サン伝ではあまりぱっとしない書かれ方されてたのが残念ではありますが…しかし裏返せばそれを逆手にとって萌えにつなげることもできようワケでありますな。


うおーし、私は二発目は審配と逢紀でいっちゃる!
今こそ隠れ袁氏フリークスの底力発動のときだ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!! w

177 名前:北畠蒼陽:2006/01/20(金) 21:06
「だめよ。認められないわ」
「なんでだよッ!」
2人の少女が睨みあう。
「わかるでしょう? 私たちには圧倒的に無双の経験がない……あんな歴戦のバケモノたちに太刀打ちできるなんてカケラも思えないわ」
「私があいつらに勝てるか、といったら確かにそうでしょうね! でもあんたは『あの』曹操閣下に認められて棟長になったほどの人間なんだ!」
物静かに……しかし強い意思を秘めて言葉を投げかける少女に、犬歯をむき出しにして噛み付くように吼える大柄な少女。
劉度と刑道栄は対峙していた。


この世における正のバランス


誰もが予想し得なかった赤壁での曹操の大敗……そして撤退。
それにより荊州校区の南部に曹操が指名した棟長たちは孤立していた。
長沙棟長、韓玄。
武陵棟長、金旋。
桂陽棟長、趙範。
そしてこの零陵の棟長である劉度。
すでに長沙、武陵、桂陽は荊州校区南部に地盤を固めようとする劉備によって攻略され、この零陵だけが孤立している状態であった。

「刑道栄……あなたは私を買いかぶりすぎてる。私は卓上の仕事でいっぱいいっぱい……この校舎が襲われるなんて今すぐにでも逃げ出したいくらい」
「でも逃げてない!」
刑道栄の一喝に劉度は顔をしかめて目をそらした。
「今日はここまでにしましょう」
「劉度!」
なにも結論を出さずに会議を終わらせようとする劉度を刑道栄は止める。
「劉備は明日明後日にここにくるわけじゃない。今はいったん冷静にならないと結論は出ないわ……あなたも、私も」
そう呟くようにいって部屋を出る劉度。
刑道栄はその後姿に投げかける言葉を見失い……机に拳を落とした。

刑道栄は劉度の昔からの親友だった。
劉度は文に、刑道栄は武に。
それぞれの専門とする分野は違っていたがお互いを高めあういい関係だと思っていた。
親友が曹操に抜擢され、この零陵の棟長になるとわかったときはどれほど嬉しかったことか。
でも……
刑道栄はそんなやるせない思いをぶつぶつと不機嫌に呟きながら寮の自室のドアを開けた。
「おかえり」
「……ただいま」
寮の部屋で刑道栄を出迎えたのは同室の親友……劉度だった。

部屋に気まずい沈黙が落ちる。
あれだけ棟長室で言い争ったのだ。どう声をかけていいかもわからない。
やがて……口を開いたのは劉度だった。
「刑道栄、私、劉備と戦うことにするわ」
親友の沈うつな口調に、それとはまったく別の刑道栄が待ち望んでいた言葉。
刑道栄はそのギャップに眉をひそめながら親友を見る。
「でもあなたには劉賢をつれてこの校舎から逃げてもらう」
「お断りだ」
劉度の妹、劉賢の護衛。
護衛といえば聞こえはいいがただの厄介払いではないか。
刑道栄は親友に疎まれていることにぐったりする。
「なぁ、劉度。私はなにかお前に嫌われることをやってしまったのか? 私はずっとお前と一緒にいたいと思っていたのに……」
「嫌いなんて思うわけないじゃない、このばかぁッ!」
刑道栄の言葉は劉度の涙声にさえぎられた。
「でも、そうでもしなきゃあんたは前線に出たがるじゃない! あの歴戦のバケモノにあんたが勝てるわけないじゃない! だから……だからトばされてほしくないのに……!」
劉度の思いが刑道栄の心にしみこむ。
劉度は刑道栄の前でしゃがみこんで泣いていた。
「確かに私じゃあの歴戦のバケモノ連中に勝てないかもね」
体を震わせて泣き続ける劉度の頭を刑道栄はそっとなでる。
もうなんのわだかまりもない。
「でも、弱虫には弱虫の戦い方だってあるんだ……劉備がイヤになるくらい引っ掻き回してやろう」
そっと劉度の髪をなで続ける刑道栄。
「大丈夫だ。絶対に負けない」
刑道栄は決意をこめて宣言した。親友のために。

178 名前:北畠蒼陽:2006/01/20(金) 21:09
違うよ、海月 亮様!
今のうちにニューフェイスの方々に媚びとかなきゃ!(ナニ?

というわけで北畠です、ごきげんよう。
いつぞや冷霊様が劉度すきとか言っておられたのを思い出して書いてみました。
う〜ん、私にとっては初めての演義ベースかな? まだまだですね、精進が足りませぬ。

後日談は……結構悲惨だから書かなくていいよねぇ?

179 名前:7th:2006/01/21(土) 15:42
※※※このお話は、拙作『簡雍改造計画』の後日談っぽいものとなっております。
   未読の方には、しょーとれんじすと〜り〜スレッド413-415を先に読まれることを推奨いたします。※※※




未曾有の大捕物『簡雍改造計画』より、はや数週間が経とうとしていた。
あの後、法正が簡雍に三日間口をきいてもらえなかった、張飛と魏延が簡雍にやたらとつっかかっていた、劉備がこそこそとなにやら怪しい動きをしていた、関羽がブロマイドの焼き増しを頼んでいた等、もう一騒ぎあったのだが、今ではそれも沈静化し、帰宅部は以前と変わりない日々を取り戻しつつあった。
しかし変わった所が無かった訳ではない。特に顕著なのが、簡雍に対する皆の認識である。
端的に云うと、ファンが急激に増えた。
『簡雍改造計画』終了直後など、テンションMAXになった群集に、危うくお持ち帰りされてしまうところだった程だ。
その後も、あわよくば着せ替えをさせようとして虎視眈々と狙われたり、コスプレ同好会からしつこく勧誘されたり等色々あったのだが、現在は表面上沈静化し、小康状態を保っている。
そう云った訳で、最近の簡雍は実に用心深い。元々勘は鋭い方だったのに加え、いつ何時襲われるか分からない緊張感が彼女にはある。今日も彼女は、スパイ並の用心をしつつ、学園生活を送るのだった。



夏の暑さは、残暑に変わりつつあった。
そんな中でも、今日も今日とて新聞部は編集作業。それに写真を提供している簡雍もまた、作業に追われていた。
部室の中には劉備をはじめ、関羽、張飛、法正、そして簡雍。それぞれが黙々と(若干一名、騒がしいのが居るが)己の作業に没頭している。
……十数分後、漸く作業が一段落したのか、簡雍が大きく伸びをしつつ、溜息を吐いた。それに遅れること数秒、法正もまた首の辺りをさすりつつ、椅子の背もたれに力いっぱい体を預けた。
「うっし、終わったよ玄徳」
「おう、ご苦労さん」
仕上がった原稿を劉備のところまで持ってきて差し出す簡雍。それを受け取ると、劉備は一枚一枚、問題が無いか目を通す。ぱらぱらぱらと原稿がめくられ、最後の一枚。
「……うん、特に問題は無いようやな。お疲れお疲れ」
「それは良かった。けど玄徳、アタシの頭の上に有る、あの金ダライが何なのか説明してもらえるかな?」
「何や、気付いとったか」
「気付かいでか。それと法正、その手に持ってるスタンガンはそこに置け。危ないから」
いつの間にか簡雍の背後に忍び寄っていた法正が、チッと舌打ち一つしてスタンガンを床に放った。
「…全く、最近大人しいと思ってた矢先にこれか。しかも手段が段々過激になっているような気がするんだけど」
「憲和が大人しく着せ替えさせてくれへんからやろ。初回であんだけ見事に逃げられとるしなぁ。並みの手段で何とか出来ん事を自分で証明しとる」
苦笑する劉備。それを見て簡雍は、やれやれと頭を振った。
「何でこうみんな、着せ替えが好きかね。アタシはお人形さんか?」
「だってみんなオンナノコやもんなぁ。憲和も昔やったやろ? お人形さん遊び」
「生憎とアタシは物心ついた時からコレばっかでね、そーゆーのはあんまり興味なかったの」
そう言って愛用のカメラを示す簡雍。彼女らしいといえば彼女らしい。
「まぁそう云うのは珍しいからな。普通の女の子は着せ替えが好きなモンよ。…ちゅー訳でゴスロリ着てくれんか?」
「何その不吉な単語! 全力で断らせてもらうわっ!」
言うや否や、脱兎の勢いで逃げ出そうとする簡雍。しかし、
「関さん! 出番やで!!」
「心得た!」
劉備の声を受け、簡雍の前に立ちはだかるは『武神』関羽。『戦姫』呂布が去った今、ここ蒼天学園における最大個人戦力の持ち主である。
「雲長、アンタもかっ!」
法正の脇をすり抜け、張飛の飛び蹴りを寸での所でかわした簡雍は、此処に来て最強の壁にぶち当たった。
何しろ隙が見当たらない。純粋にタイマンでの強さは張飛に一歩譲る関羽だが、張飛が気分により闘い方にムラがあるのに対し、関羽にはそれが無い。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすのだ。
戦力で云うなら兎と獅子以上に比べ物にならない。なにしろ張飛を迎え撃ったあの時程度の装備が有るならまだしも、今武器と呼べるものは右手に構えたカメラのみ。とてもではないが、敵うものではない。
だが此処を突破できねば未来は無い。意を決して、簡雍は関羽の懐裡に飛び込んだ。狙うは関羽の左、利き手の逆方向。
「む……!」
大きめに迂回して逃走を図るだろう、と予測していた関羽が、肉薄してくる簡雍に一瞬虚を突かれた。
対峙した数秒の中で最大の隙。この機を逃さず、簡雍は姿勢を低く、最大速度を以て関羽の左側をすり抜け……その、左手を掴まれた。
強引に腕を引っ張られ、引き戻される簡雍。捕った! と誰もが確信したその瞬間、関羽の眼全に突きつけられた簡雍の右腕。その手の中には、スタンバイ状態になったカメラが。
必殺簡雍フラッシュ。全ての布石は、この一手のためだけに。
光が、奔る。

「今の一撃は見事だった、簡雍」
関羽は、不動だった。
カメラが眼前にある、と認識し、簡雍がシャッターを切るまでの刹那に、関羽は固く目を閉じていたのだ。
「…反則だろ、その反射速度は。人間業じゃ無いって」
関羽は答えない。代わりに返って来たのは、首筋に振り下ろされる鋭い手刀。
あっさりと、いっそ清々しいほど綺麗に、簡雍の意識は闇に落ちた。

「簡雍の捕縛に成功しました」
「言われんでも目の前で起こっとる出来事やって」
劉備のデスクの前に立った法正が律儀に報告する。どうやら今回の主犯もこの二人らしい。
「流石は関羽さん。あの簡雍をこうも簡単に取り押さえるとは」
「関さんは鬼札(ジョーカー)やからな。こう云う時でもないと使わんわ」
「ほぅ、今回は何か面白い趣向でも?」
「とびっきりのやつがな。…ところで法正、上、見てみぃ」
言われるままに頭上を見上げる法正。そこには、例の金ダライトラップが。まさか。
落下する金ダライ。遠のく意識。暗転する認識の片隅に、法正は劉備の意地の悪い笑みを見た……。



張飛が法正を取り押さえ、関羽が簡雍を肩に担ぎ上げるのを見届け、劉備はおもむろにマイクを取り出した。益州棟全てのスピーカーに直通するそれを構え、彼女はおもむろに、そして朗々と宣言した。

『只今より、第二回簡雍改造計画、及び法正改造計画を開始する!!!』

その声は、秋の気配を見せつつある青空に、高らかに響いた。



〜〜簡雍+法正改造計画〜〜



ゴスロリ。
正式に言うならゴシックアンドロリータ。主に黒を基調とした、レースやフリルで多く装飾された服の総称である。
少女趣味かつクラシカルな印象を持つそれらは、一部の人達から熱狂的な支持を受けている。

先ず受けた印象は人形か。それも、アンティークのビスクドール。
漆黒の生地に、純白のレースで施された装飾。首元には十字架をあしらった、銀のチョーカー。止めとばかりに頭の上にはヘッドドレス。
コケティッシュかつ小悪魔的な魅力を見せるのは簡雍。前回で証明されたことだが、素は結構良いので、基本的に何を着せてもそれなりに似合う。
一方、法正は対照的な純白のドレス。所謂白ゴスと呼ばれるスタイルである。簡雍のものよりゆったり目に仕立て上げられたそれは、フリルで出来たシフォンケーキを思わせる。
ゴシック分よりロリータ分を強調した、清楚な形。全体の印象として、法正にはこちらのほうが似合っているのかも知れない。
「うん、ええ感じや。二人とも似合っとるで」
にやにやとした笑いを顔に貼り付けている劉備。当然このファッションは、彼女のプロデュースによるものだ。
「…屈辱だ」
「うぅ、恥ずかしい…」
される側になってはじめて解るこの羞恥。法正、ちょっとだけ反省。
カメラのフラッシュを浴びて居心地悪そうに縮こまる二人。それを見咎めて、劉備が言う。
「二人とも、もっとにこやかにせぇ。今回は写真集にするんやからな」
「ちょっと待て」
「何ですかそれは」
不穏当な単語にすかさず反応する二人。
「学園祭で売って部費の足しにするんや。まぁ頑張って二人とも部に貢献して頂戴な」
悪びれもせずに答える劉備。この二人といえど、今回ばかりは彼女の掌の上か。
ひとしきり撮影も終わり、そそくさと下がっていく撮影陣を、憔悴した顔でぼんやりと見送る簡雍と法正。
まぁこれでこの羞恥プレイも終わると思えば、そんなに悪くは無い。解放される喜びで、表情も緩むというもの。
しかし、二人のその安心をぶち壊しにする発言が、劉備の口から飛び出した。
「よーし、テイク2準備! 今度は巫女服いくでー!!」
まさに爆弾発言。緩んだ表情が一気に凍りつく。
固まった二人を前に、劉備は悪魔的に微笑む。
「折角の写真集がゴスロリだけやと寂しいからな。もう何パターンか収録しとかんと、買ってくれる人に申し訳ないやろ。ちう訳でてきぱきと次いくで、着せ替え班よろしくなー」
劉備が指を鳴らすと同時、圧倒的人海に呑まれ、仮設更衣室へと連れ去られる簡雍と法正。途中、「覚えてろー!」とか「跡で報復ー!」とか聞こえてきたが、無視。所詮は負け犬の遠吠えである。
二人の受難は、まだ続くのであった。

180 名前:7th:2006/01/21(土) 15:50
ただ、二人で着せ替えをしたかった。

ごめんなさい。続きます。
一応コレだけでもある程度読めますが、所詮はジオング。未完成品です。脚は飾りではありません。要ります。
只、折角続きを書くので、皆様から着せ替えさせてみたい服を募集します。
私ごときの駄文でよろしければ、可能な限り(私の文章で表現可能な限り)実現させたいと思いますので、リクエスト頂ければ幸いです。

181 名前:海月 亮:2006/01/21(土) 18:31
>>荊南のひととか
うわーいひそかに「荊南ボンクラーズ」とか考えてたのにー( ̄□ ̄;)
しかしこれはこれで萌えだから良し!GJであります!

そういえば刑道栄が演義にしかいない人だって最近知った私は_| ̄|○


>>改造計画op.2
7th様(o≧∇≦)oGJ!
普段狙う側が狙われる側に回っても強い、という簡雍も、「武神」関羽の前においては形無しですな^^
そして仕掛けた側と思っていた法正もハメられてたという罠っぷり。お見事でつ。

服装…
私のページとか見てる人なら、私がナニを言い出すかはお解りやも知れませんが…あえてw


(*゜∀゜)o彡°スク水!スク水!!!

182 名前:北畠蒼陽:2006/01/21(土) 21:47
>7th様
う、うぶぶぅ……
ナースで! 超ナース! ピンクナース!
……はふん(照

183 名前:海月 亮:2006/01/22(日) 00:06
最初の頃は、どうにも気に食わない小娘だと思った。
ちょっと小利口なところを"あの方"に認められたからって、そのあとも身の程を弁えずに"あの方"の周りをうろちょろする目障りな犬っころ…そうとまで思ったこともあった。
きっとあの一件がなければ、あたしはあの娘を、一生受け入れることなどできなかったであろう。


-フローズン・ハートは笑顔に融けて-


あたしの主人…本初(袁紹)お嬢様が冀州学区に腰を落ち着けた頃のことだった。
幼い頃から本初お嬢様の側近くに仕え、いろいろ目をかけていただいたという恩義の分を差し引いても…お嬢様は聡明で寛大さ持ち併せ、何よりも魅力的な方だった。
名族・袁氏の血筋云々ではなく、生まれ持った気品、気高さのようなものがあった。
そして何より、お優しい方だと思う。
妹のように可愛がられていたあの曹操などは、言うに事欠いて「優柔不断で鷹揚なだけのお嬢様」などと陰口を叩いているらしいが…そんなことすら、ただ微笑んで気に留めずにもいた。
何時も「あの娘はただ、私にかまって欲しくて、わざと憎まれ口を叩いているのよ」と、言って。
そういうお嬢様だからこそ、私はこうして、側近くに仕えることができることを誇りにすら思っていた。

だからこそ…怖かったのだ。
あたし以上に優れた娘が、今あたしのいる場所を、いつか奪い去ってしまうのではないかと。
今思えばその娘は、かつてのあたしにとってそういう存在だったのかもしれない…。


「…元図さん?」
どのくらい時間がたっていたのだろう。
彼女…逢紀は、はっとして目の前の少女のほうへ視線を戻した。
「あ…す、すみません、あたし…」
袁氏生徒会の本拠地・冀州学区はギョウ棟の執務室内で、逢紀はその主・袁紹とただふたりきりで、向かい合ってソファに腰掛けている。
数日前、易京の地において宿敵・公孫サンの勢力を打ち払い、そのことにより華北四校区の覇者となった袁紹。逢紀は中学三年生ながら、その功績と才覚を認められ、華北四校区における会計事務の総括を任されるまでになった。
ある、少女と共に。
「あなたでも、周りを忘れてしまうくらい考え込んでしまうこともあるのね」
「う…」
咎めるでもなく、にっこりと微笑む袁紹の言葉に、申し訳ないやら恥ずかしいやらで俯いてしまう。

この日、彼女がこうして呼ばれたのには、ある重大な理由があった。
彼女と共に華北四校区の会計を総括するもう一人の少女についての、あるウワサ。
いわく、その少女が華北四校区の会計総括を任されたのをいいことに、その予算をこっそり横領し、なおかつ一般生徒に対して横柄に振る舞っているというものだ…。

「…私はどうしても、あの娘がそんなことをするような娘には見えないわ。けれど、こうして話題に上ってしまうということは、何らかの原因があると思うの…」
そう話す袁紹の表情は、とても悲しそうに見えた。
それはそうだろう。その話題に上った少女は、袁紹が直々にその才能を認め、取り立てたほどの逸材だったのだから。
事実、彼女はその鈍臭そうな見た目に反して、非常に頭の回転が速く、しかも武の面でも"ソードマスター"顔良が認めたほどの才能を秘めている。
そして、彼女はお嬢様の為に全力で尽くすことを…お嬢様の側に居れる事を、何よりも望んでいることを、逢紀は知っていた。
「あの娘には確かに素晴らしい能力があるし、何よりも一生懸命な娘だと思ってた。でも、こんな事態になっては、このまま彼女に大役を任せるのは厳しいような、そんな気がするの…」
俯く袁紹。
逢紀は、その言葉を噛み締めながら、何時か自分がその少女に対して行ってしまったある事件のことを思い出していた。
半月ほど前、逢紀とその少女が華北四校区の会計総括を任されて、間もなくのころの話だ…。

184 名前:海月 亮:2006/01/22(日) 00:07
「何か、御用ですか?」
人気のない、ギョウ棟体育館の裏手。
数人の少女に取り囲まれながらも、その少女は気丈にも、その首魁と思しきロングヘアの少女…逢紀をを見据え返している。
双方の背丈の差もあるが…明らかに逢紀は、その少女に対して見下すような格好である。
「…あなた…はっきり言って目障りなの」
その冷たい言葉にも、目の前の少女は怯む様子をまったく見せていない。
むしろその言葉に、更に強い視線できっと見据え返してくるほどだった。
「何故ですか!? はっきり言いますが、私はあなたに恨まれる様なことをした覚えはありませんよっ!」
その態度に、逢紀は自分の神経を逆撫でされたような不快感…いや、憎悪すら覚えた。
「新参者の分際で、お嬢様にべたべたとまとわり付くその態度が、目障りだって言ってんのよッ!」
感情に任せるまま、彼女は振り上げた平手を思いっきり少女めがけて振り下ろす。
しかし、その"制裁の一撃"は、何処かあどけなさを残したその少女の顔に届くことはなかった。
「…ッ!?」
振り下ろした左手は少女が振り上げた右手に弾き返されてしまい、それどころか逢紀の身体もその衝撃の余波で後ずさりする格好になった。
取り囲んでいた少女達も、その様子に驚愕の色を隠せない。
「…そうやってあなた達は、今までもやってきたんですか…?」
少女の眼差しに、凄まじいまでの怒りの色がほどばしる。
「あなた達がこんなつまらないことをすれば、かえって本初様を悲しませることになるってこと、どうして解らないんですかっ!」
「何ですって…」
「私達が本初様のことが大好きなように、本初様だって私たちのことを大好きでいて下さってるんです! それがこんな醜い争いをして、傷つけあっているのを知ったら…きっとものすごく悲しまれます!」
少女の凛とした態度、声…いや、それ以上に、まるで解った様に主のことまで語るその少女の言葉に、逢紀どころか周囲の少女も顔を憤怒で紅潮させていた。
「っ…言わせておけばッ!」
憤怒が頂点に達した逢紀が少女の顔に向けて拳を振り上げる。
少女が跳ね除けようとするよりも早く、少女の両隣にいた少女が、素早くその両手を掴み、その動きを封じた。
一瞬の出来事に驚愕した少女は、その痛みを覚悟するように目を閉じた。

だが、その拳が少女の顔を捉えることはなかった。
「やめておけ」
振り上げた拳を後ろから掴まれ、逢紀は憤怒を露に後ろを振り返る。
「っの、邪魔を…っ!?」
その人物の姿を見た瞬間、彼女の顔から一気に血の気が引いた。
同学年の少女達よりも背の高い逢紀よりも、更に長身の、亜麻色の髪をポニーテールにした少女。
そして、その後ろにいたライトブラウンの髪をショートカットにした少女が、
「やれやれ…女の園の嫉妬による私刑とは…まったくもって美しくないですねぇ…」
大仰な仕草で、そう吐き捨てた。
「顔良先輩…儁乂さん」
再び目を開けた少女が、呆然とつぶやいた。
顔良は逢紀の手を掴んだまま、やれやれと言わんばかりに頭を振った。
「まったく…本初様からお前達の様子がおかしいから見て来いと仰せつかったから、嫌な予感はしていたんだがな…」
そして、少女の手を掴んでいる少女達に一瞥くれると、反射的にその両手を開放した。
「元図、正南の言うとおりだ。お前らがお互いにつまらん言いがかりをつけ合っていること、どれ程本初様を悲しませているか、少しは考えろ。本初様の側に仕えて長いお前であれば、そのくらいのこと解らぬわけではあるまい?」
「くっ…」
開放され、所在のなくなった拳を振り下ろし、その場から立ち去る逢紀。
急激に冷めていくその心の中には、何故か敗北感だけが残った。


思えば、この時からだっただろう。
あたしの中で彼女…審配に対するイメージが、それまでとはまったく違うベクトルに傾き始めたのは。

彼女はあの時、「私達」と言った。
つまり彼女は、本初お嬢様だけではなく、あたし達のことまで考えていたということに。
あたしは"新入り"のあの娘がお嬢様と親しくしていたことに、不快感と敵意をむき出しにしていたというのに。

彼女は、それ以降もあたしと馴れ合うようなことはなかった。
だがそれでも、彼女は与えられた責務を全うし、あたしが帳簿記入の上でやらかしたミスも、あたしのいないうちにこっそり直してくれたり、他にもさりげなく、あたしがやりやすいように取り計らってくれたことを、あたしは知ることとなった。
彼女は、本初お嬢様そのものは当然として…お嬢様を取り巻くすべてを、好きでいてくれるということに気づいたとき…あたしはその時から、彼女のことをもっと良く知りたいと思うようになっていた…。

185 名前:海月 亮:2006/01/22(日) 00:07
逢紀は穏やかに微笑んで、袁紹のほうへ視線を戻した。
「愚問ですよ、お嬢様」
「え?」
「そんなの、どうせ彼女の立場をやっかんだ郭図か辛評あたりが流したデマでしょう」
逢紀の答えに、袁紹は驚いたのか目を丸くした。
逢紀は更に続けて、
「あの娘があなたを慕う気持ちは本物ですし、大体あれほど一生懸命で正義感の強いあの娘がそんなことをするはずなんてありません!」
そう言い切った。
袁紹は想いもよらぬ逢紀の言葉に、戸惑ってさえいる風でもあった。
「…あなたは、あの娘のこと…その、嫌いだったんじゃ、なかったの…?」
「確かにあの娘が嫌いだったこと、否定はしませんよ…でも、私事は私事、公の事は公の事。流石に華北四校区の会計総括ともなれば、いくらあたしでも一人では荷が勝ちすぎます。今あの娘が…正南がその役目を外されたら、あたしが困りますから」
逢紀は悪戯っぽい笑顔で微笑む。
幼い頃から袁紹の側に仕え、令嬢専属のメイドとして厳しいくらいの教育を受けていた逢紀が、こういう笑顔を見せるのは袁紹の前だけであった。
袁紹も彼女の真意を汲み、微笑む。
「そう…あなたがそう言ってくれるなら、私も心配はないわ。この話については、聞かなかったことにしましょう」
「ええ、それが上策です」
そして逢紀は徐に立ち上がると、つかつかと執務室のドアに向かい、それを思いっきり開け放った。
「入りづらい雰囲気だったのは酌量の余地はあるけど…立ち聞きはいい傾向じゃないと思うわよ?」
「あ…」
扉の前にいたのは、飴色の光沢がある髪を、二本の赤いリボンでスタンダートなツインテールに纏めている、年相応の幼い顔立ちをした小柄な少女。
鳶色の瞳をわずかに潤ませ、ばつが悪そうに俯いてしまったその少女こそ、その話題に上っていた審配、字を正南そのひとであった。

袁紹に促されるまま、審配は袁紹、逢紀と向かい合う形でソファに座らされていた。
その手には、一通の手紙がある。
こうして彼女がやってきたということから、その内容は袁紹にも逢紀にもなんとなく予想がついた。
「え…えっと、その…私っ」
ふたりの視線を感じながら、彼女は親から仕置きを受ける子供のように、不安で震えていた。
「私…この生徒会の一員として日が浅くて…それにたいした能力もないのに、突然重要な役目を与えられた所為で、結局本初様の御期待を仇で返す結果になってしまいました…だから、私…」
「…悪いけど、それじゃ大いに困るのよ」
「え…?」
思いも寄らぬ方向から声が飛んできて、審配は驚いてその人物…逢紀のほうを向いた。
「生真面目なのもいいけどさ、そうやって思いつめて周りを振り回すのがあなたの悪い癖よ」
「あ…」
そうして、呆気にとられる審配の手から、その手紙を難なく取り上げる逢紀。
その中身を一瞥すると、果たして彼女の考えたとおりの内容であった。
この不始末を償うための、職務辞退の請願書。その末尾には、自分を認めてくれた袁紹への感謝の言葉と、同僚である逢紀に対する謝罪の言葉で締めくくられていた。
そのことに逢紀は何故か、嬉しくすら感じていた。
「なんだか…無碍に破り捨てるのも気が引けますから、とりあえずあたしが預かっておく、という形で宜しいですか?」
「ええ、あなたの良い様に計らって、元図さん」
逢紀の言葉からその内容を悟ったらしい袁紹は、鷹揚に頷く。
「ということだから…まぁ気にしないこと。また明日から、ちゃんとふたりで協力し合って、頑張って頂戴ね」
呆然としたままの審配。
何時の間にかその隣に腰掛けていた逢紀が、その背中を軽く叩く。
「は…はいっ!」
飛び上がるかのように立ち上がり、勢いよく深々と頭を下げる審配の姿に、逢紀は苦笑しながら、袁紹は穏やかに微笑みながらその顔を見合わせ、頷いた。
「と言うわけで、このお話はこれで終わり。もう大分良い時間になってしまったし…どうかしら、折角だから今日の夕食、正南さんも一緒に…どうかしら?」
「え…?」
驚き、戸惑う審配を他所に、袁紹は傍らの逢紀に目をやる。
「手配なら、今からでも間に合うと思いますが…」
「どう? 何かご予定があるなら、また別の日にでもいいけど」
その言葉を受け、審配は一瞬、逢紀のほうへ目をやった。
「景気づけ。お嬢様直々に、生徒会随一の働き者のあんたへのご褒美だってさ。受け取って吉だと思うけど?」
その笑顔に、自分がようやく受け入れてもらったことを感じ取り、審配の表情に笑顔が戻る。
「は、はいっ、是非とも!」
そして再び勢いよく頭を下げるその少女の姿に、今度は袁紹すらも苦笑するしかなかったという。


この日を境に、それまで不仲と専らの噂であった審配と逢紀は行動を共にするようになり、やがて無二の親友として、共に袁紹の為に身命を賭す事を約束しあったという。
しかし、それから間もなく行われた、春休みを跨いで行われた官渡公園決戦において袁氏生徒会は曹操率いる蒼天生徒会より総敗北を喫し、ふたりは凋落する袁氏生徒会のために奮戦するも、滅びの道を辿ることとなる…。

(終わり)

186 名前:海月 亮:2006/01/22(日) 00:17
なんだか今年はえらく予想外のキャラで萌えまくったので、勢いで逢紀視点中心で話を書いてみた。反省はしていない。

えーまぁつまりはなんだ、結局こういうお話は海月さんってば大好きなんですよ。
そして何気に目立ってんだか目立ってないんだか張コウとかもこっそり出てるとかな。

で、袁紹や顔良、張コウはともかく、審配と逢紀は海月のオリデザしかない(ハズ)ので、とりあえずこれを見てイメージ補完しといてくださいな。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~flowkurage/data/create003_a.jpg target=_blank>http://www5f.biglobe.ne.jp/~flowkurage/data/create003_a.jpg(審配)
http://www5f.biglobe.ne.jp/~flowkurage/data/create003_b.jpg target=_blank>http://www5f.biglobe.ne.jp/~flowkurage/data/create003_b.jpg(逢紀)
ご覧になられた方も居られるかも知れんが、参考程度に。

187 名前:7th:2006/01/23(月) 23:00
巫女服。
白の小袖に緋色の袴。正月の神社でよく見るアレである。
女性にも割合好まれる服装であり、そのためか正月の巫女の求人は狭き門となっている。ある意味、女性の憧れと言っても良い服装である。

正月にはまだ早いが、別に正月でなければ着てはいけないと云う決まりも無い。むしろ可能ならば一年中愛でていたい衣装、それが巫女服。
長い髪を赤いリボンで束ね、手にはお払い棒を持った法正。
髪はそのままに、右手に玉串、左手に神楽鈴を持った簡雍。
両人とも、即席巫女とは思えぬほど様になっている。
「うんうん、インパクトにはちぃとばかし欠けるけど、巫女服は王道やしな。やっぱし外す訳にはいかんやろ」
「ほんとですね。私も腕を揮った甲斐がありました」
満足げに頷く劉備。その傍ら、衣装提供者兼プロデューサーの趙雲もまた、会心の笑みを浮かべている。現役の巫女に太鼓判を押される程なのだから、やはり大したものなのだろう。
「…やけに本格的な仕立てだと思ったらコレ本物!?」
「なんつー無駄なことを…」
趙雲提供と云う事は、当然この服は彼女の実家、常山神社のものである。この時のために、わざわざサイズが合うのを持ってきたらしい。
しかし、こんな目的に神聖なはずの巫女服を使用していいのだろうか。
「いえいえ、お二人ともよくお似合いですよ。お正月には是非、うちの神社でバイトしてみませんか?」
どうやらアルバイトの勧誘と面接も兼ねているようだった。



スク水。
正式名称スクール水着。小学校から高校までの体育における水泳用に採用されている水泳着を指す。
その限りないフェティシズムは、制服・ブルマー・スクール水着の三つをもって『お菓子系』と称され、支持を集めている。

濃紺のナイロン生地に、白い名札布が映える。前の内側腹部から外側下半身にかけて穴が開いて、前からだとスカートのように見えるそのデザイン。
紛う方無き旧スク水である。
あまりの恥ずかしさに、法正は頬を真っ赤に染めている。
それもその筈。一般にスク水に使用されるナイロン生地は、分厚い上伸縮性に乏しい。少々サイズが小さいだけで、簡単にぱっつんぱっつん少女の出来上がり……つまりはそう云う事である。
最早、作為的どころの騒ぎでは無い。どう見たって恣意的だ。誰が考えた?
簡雍の方はもっとそれが顕著だ。
デザインは法正と同じ、旧スク水。しかし圧倒的に異なる、その色。
真っ白なそれは、禁断の白スク。
スク水は、何も伊達や酔狂で濃い色をしている訳ではない。水着という性質上、それは必ず水に濡れる。そうなった時、水着を通して身体が見えぬよう考慮された上でのあの色なのだ。
故に、スク水に白が採用される事は基本的に有り得ない。だからこそのアンビバレンツ。これこそ、禁断と呼ばれる所以である。
「…こんなの撮って良いの? 倫理的に問題があるような気がするんだけど」
「全くだ。一体どんな層をターゲットにしてんだよ、コレ」
どう考えてもそっちの人対象である。最悪だ。
「まぁええやん。売れて儲かればいいって事で。あまりヤバイのは編集でカットするから」
そう言いつつ、手に持ったビデオカメラを二人に向ける劉備。動画も売る気なのか。
「……早く終わってくれないかしら。正直、この格好って結構肌寒いのよね」
真夏や屋内ならともかく、秋の気配を仄かに見せ始める今の時期でこの格好は、少々無理がある。
寒そうに胸の前で腕をかき抱く法正。それを見て立ち上がったのは諸葛亮だ。…何だろう、このそこはかとないヤな予感は。
「ふむ、寒いと仰られるなら法正殿、この上着をどうぞ」
そう言って渡された服を、言われるままに着る法正。そして気付く。コレは……!
「半袖体操服……っ! 見事や、孔明!」
「はっはっは、お褒めに預かり恐縮です」
これこそ奥義『スク水の上から体操服』。前述の『お菓子系』三要素のうち、二つを同時に盛り込んだ究極のスタイル。
スク水のオプションと言うにはあまりにも破壊力の強いこの組み合わせ方は、まさしく奥義の名を冠するに相応しい。
「ぃよし! コレだけで売り上げ15%アップは間違いなしや!」
「「そんなのどうでも良いから早く終われー!!」
涙目になりつつ叫ぶ簡雍と法正。でもね、まだ終わんないんっすよ。



ナース服。
『クリミアの天使』ナイチンゲールに由来するこの制服は、彼女以来、看護婦の象徴となっている。
看護婦と云う名称が看護師になったのは記憶に新しい。が、そんなのは関係ない。重要なのは、そこにナースがいる。ただそれだけだ。

ナースのことを『白衣の天使』と呼んだのも昔の話。最近のナースは一味違う。
具体的には白くない。淡い色が基本ではあるが、グリーン、ブルー、イエロー等、実にカラフルだ。
勿論、ピンク色のナース服なんてのも当然のように存在する。暖色系の色は見る人に安心感を与えるらしく、病院でも意外と違和感が無い。
そして、今まさに簡雍が着ているのがソレ。ピンクのナース服にナースキャップ、追加装備にカルテを持たせてある。
確かに看護師なのだが……
「うーん、何ちゅうかなぁ…。看護師だけどナースっぽくない気がするなぁ…」
「待て、ソレは一体何処がどう違うんだ」
「憲和の場合、ナース界の二大幻想、『ツンデレナース』と『ドジっ娘ナース』のどっちにも当てはまらんしなぁ…。言ってみれば『おたんこナース』?」
「意味がわかんねぇ…」
ナースと云うのは、外野の壮大なる共同幻想である。実際の看護師はとんでもない重労働で、肉体労働の上に休みも少ない。かなり過酷な仕事なのだ。
仕事に疲れ果て、微妙にやさぐれた看護師…今の簡雍はそんな風に見える。この上なくリアルだが、それ故にかえって減点だ。
一方、法正はピンクナースに非ず。白いワイシャツに膝上のタイトスカート、眼鏡をかけて白衣を着こなすその様は、どう見ても女医。
法正のソリッドな印象に、服装がばっちりマッチしていて、こちらもリアルである。只、簡雍ナースとの大きな違いは、リアリティが加点になっている事だろう。如何にも大人の女性然とした法正。何と云うか、色気がある。一歩間違えればイメクラと変わらない辺りが特に。
「完っ全に女医さんにしか見えんなぁ。将来はその道へでも行くんか?」
「生憎と私は文系でして、そっち方面はさっぱりです。孔明辺りにでも行かせてください」
「いえいえ、別段医者でなくとも白衣は着れます。文系でもカウンセラーとかありますしね。斯く云う私も、白衣は普段着として愛用してますが」
そう言われれば、確かに孔明は白衣を常日頃から着ている。もっとも彼女の場合は、あまりにも自然過ぎて本当に普段着にしか見えないが。
「ま、取り敢えず悪くはないからこんなもんで言いやろ。ナース服については次回までの課題と云う事で」
「三回目もやる気かよ!!」
簡雍の悲鳴が、空に響いた。

188 名前:7th:2006/01/23(月) 23:08
簡雍+法正改造計画、続きをお送りします。

先ずはネタを提供してくださった海月 亮・北畠蒼陽両氏に深く感謝を。
お二方の想像されたものの万分の一でも表現できていたら幸いです。

この話はもう少しだけ続きます。
25日で旭記念日からちょうど一週間。その日を目安に完結させられるよう、努力したいと思います。

189 名前:海月 亮:2006/01/23(月) 23:54
>>7th様
( 冫、)ノシ GJ!
あぁ…タグの使える身分であれば、今の気持ちが最大限に表現できるものを…_| ̄|○


というわけで、「どう考えてもそっちの人」の典型たる私が来ましたよ(゚∀゚)
そして私めも、劉玄徳と同じ言葉を贈らせて頂きたい…あの奥義を出された以上、最早私如きめに何の文句が浮かびましょう(;´Д`)ハァハァ
つかぱっつんぱっつんときたらもうそれd(ry


そして簡雍を指して「おたんこナース」とかテラワロスwwwwつか懐かしいなソレwwwww



私はもうネタ切れなんでとりあえず以後はROM…_| ̄|○

190 名前:北畠蒼陽:2006/01/24(火) 19:40
ナース!ナース!うっはー!
やぁ、これはいいコスプレですね!
感動のあまり熱と鼻水が出そうです!
会社休めとかいう話ですか、すいません……

25日を目安に!? まだあるの!?
うっはー、明日までもんもんと過ごしましょう(笑

191 名前:雑号将軍:2006/01/25(水) 19:58
  ▲跳躍▲

 帰宅部連合の劉備が益州校区を手中に収めてから間もない頃、各地では連合に反抗する蜂起が相次いでいたそんな時。ここ南充棟でも反対派が蜂起していた・・・・・・。

「急ぐのよ!反乱軍は目の前まで迫ってきているわ!」
 棟長が半ば叫ぶようにして、辺りを駆け回っている。
 多少なりとも錯乱しているのだろう。元来、武道を鍛錬するよりも本を読むのが好きな文学少女だ。こんな山賊まがいの連中とまともにやりやったことなどあるはずもない。
 まあ、焦るのも無理ないか・・・・・・。
「棟長、少しは落ち着いたらどうです?あなたがそれでは皆の士気にかかわります」
「・・・うっ、でもぉー」
「デモは反乱軍に殲滅させられましたよ・・・。とにかく今は・・・・・・うん?どうした?」
 私は半ベソの棟長に軽口を交わし、善後策を講じようとしたとき放っておいた斥候が血相を変えて戻ってきた。
「なに!副棟長が敵に捕らえられたっていうのっ!」
 私は灰色の天井を仰ぎ見るよりほかになかった。横では棟長がぺたりとへばりこんでしまっている。
 無理もないかな。棟長と副棟長、仲良かったから。
 文の棟長に対して武の副棟長。あの人はそんなに弱い人じゃない。
 まあそんなに強い人ではなかったけど。
 それでも単身棟内に残って私たちを逃がしてくれた・・・・・・。
助けないと・・・・・・絶対助けないと・・・・・・っ!
 なんだろう。この感じ。なんだか胸が熱い。
体中が炎に包まれているみたいに。
――なんでもできる
なんの根拠もない自信が私の心の中に満ちあふれてくる。
 気がついたとき、私はもう木刀を手に取っていた。
 身体が勝手に動いていた。
そう。それが一番近い表現。
「は、伯岐さん?一体どこに行くつもり?」
 伯岐・・・親しい人にしか呼ばせない私のもう一つの名。この名で呼んでくれる人はここにいる棟長と後一人だけ。
 副棟長。あの人は私を「伯岐」と呼んでくれる。
「そうですね。囚われた姫将軍を助けに行く・・・・・・そんなところでしょうか?」
 私は肩をすくめ、ちょっとおどけてみせた。
 棟長は何も言おうとしない。どうやら私の無謀極まりない行動に絶句しているようだ。
『私だって、バカだと思う。それでも私は副棟長を助けたい!』
 もはや火のついていない部分は私の心の中には存在しない。
さあ、行こう!
「棟長。副棟長は私が必ず助け出してきます。必ず!」
 わたしはそれだけ言うと、引き揚げてきた道を今度は攻め上っていった。
 夕暮れ時に吹く風はまだ冷たかった。

『ここまでたどり着いたはいいが、どうやって侵入するか・・・・・・』
 私は南充棟の裏門前の草陰に隠れ、潜入の機会を窺っていた。
 昨日まで自分が登校していた所に入れない・・・バカらしい話だ。だが、れっきとした現実だ。
だからこそ、今はこの危機をなんとか切り抜けなければならない。
さて、どうしたものかな・・・・・・。
 私は半時くらいそこで丸まっていただろうか。棟内を白光が照らし始めた頃、運動場の方から歓声が聞こえてきた。
それだけではない。
校舎の方からもなにやら、驚喜の雄叫びらしきものが聞こえてくる。
『なんとまあ、節操のない・・・・・・。あれでも女?』
 私はそう毒づきながらもこれらの情報から現在の状況を分析する。そこかから導き出される答えは・・・・・・。
 宴会である。
『ふふ、なるほど・・・私たちを追い出せたことを肴に祝勝会ねぇ。だったら私も参加してみよっかな』
 私は心の底から再び燃えたぎってくる炎を感じていた。そして同時にこれから行う手順が流れる川のように形作られていった。
 決断してからの行動は素早かった。
私は六〇センチばかりの木刀を握り直し、裏門に詰める柔道着姿の女生徒に斬り込んでいった。
闇の中を駆けた。かっこよく言えばそんな感じ。
私の斬撃の前に女生徒は助けを呼ぶ暇もなく、地面に倒れ伏していた。
正直言うと、なぜ柔道着なのか突っ込みたくなったけど、生憎そんな暇はなかった。
まあ、聞かなくても大方検討はつくし・・・。
 ここからはスピード勝負だと感じた私は、女生徒からサブマシンガン(エアガン)と弾倉だけを引ったくり、棟を囲む壁に手を掛け、登った。
『さて、どこから忍び込むかだけど、やっぱり突入は美術室からよね』
 私は最近、美術室の窓ガラスが割れているという情報を入手していたので、そこから乗り込むことにした。もちろん一階にあるというのも重要な理由なのだが。
 私は小、中、高とガールスカウトに所属して、数々の山をベッドにしてきた。崩れ落ちそうな橋を何度も渡ってきた。そんな私にとって、塀の上を走ることは難しいことではなかった。
 どうやら、本当に運動場に集まって宴会をしているようだ。ここまでいくら裏道を通ってきたとはいえど、誰一人として顔を合わせていないとは。
『ま、交代の時間までが勝負かな』
 私は早くも光り始めた月明かりをバックに時計を確認すると、美術室に突入した。
「作戦・・・スタートよ!」

192 名前:雑号将軍:2006/01/25(水) 20:02
 ▲跳躍▲

 美術室に飛び込んだ私は敵が隠れていないか、辺りを見回す。だが、どこにも人の姿は見かけられない。
「まったく。私らもなめられたものね」
 私は思わずそう呟いてしまったが、冷静さを失ったわけじゃない。現に今だってこの山賊の首領が楽しんでいるアジトをトレースしている。
 私の心当たりがあたっていれば場所は一つ・・・・・・。
間違いない。きっとそこに副棟長と一緒にいる。
『あの首領なら必ずあそこに・・・・・・いる!副棟長と一緒に』
 自分の勘に確固たる確信を持ち得た私は美術室を飛び出し、真横にある廊下を駆け抜け、はなれの方へと歩を進めた。

 はなれへとたどり着いた私は自らの作戦が誤りでなかったことを悟った。
 その証拠に渡り廊下の先にはノースリーブタイプの拳法着に身を包んだ二人の女生徒が背筋をピンと立てて文字通り直立していた。更にその後ろには弓道部の部室への入り口があるのだ。
『ふふ、私の読み通り、親玉は弓道室にいるみたいね』
そして今、私は微笑を浮かべながら、目的地へと続く渡り廊下の角に隠れて様子を窺っているところだった。
 「ほんとに『ここ』とはね。この先の光景はあんまり見たくないわね・・・・・・」
 私はこれから眼に飛び込んで来るであろう情景を想像し苦笑してしまった。確かに、それ程見たいものではない。
でも副棟長を助けるためには仕方がない。間違いなく副棟長もここにいるのだから・・・・・・。
私は前へ進む決心をして、大きな深呼吸をした。
そして・・・・・・。
「レディ!ゴー!」
 私の一人舞台は今開幕した。

 私はいま、渡り廊下を歩いている。もちろん、目標は正面の重厚さを押し上げる、黒塗りの木門だ。
「な、何者です!この『道義衆』では胴衣を着ることが義務づけられているはずです!」
 私は自分の想像が確信から真実に変わっていくのを感じた。そう思うと私は笑いが止まらなくなってしまった。
「な、何が可笑しいのですか!な、名前をお名乗りなさい!」
 門をかためていたもう一人の女生徒がムキになって食いついてきた。
「ふふ、聞きたいなら教えてやる!私は張伯岐!お前らに奪われた南充棟の生徒よ!」
 私はそう言い放つのと同時進行で二人をきっと睨み付けてやった。
「た、たった一人でなにしにきたのよっ?」
「ふっ・・・愚問ね。南充棟の生徒が来たというのなら目的はただ一つ。あんたらに囚われた副棟長を助け出す・・・それだけだろうが・・・・・・」
 私がそう言って、やっと彼女らははっとしてエアガンを構えた。
「潰すぞ!!」
 彼女ら二人が引き金を引こうとトリガーに手を掛けたとき、彼女らの身体には数十発のBB弾が叩き込まれていた。
 二人はあまりの痛みに声を上げることもできずに失神してしまった。
「じゃ、親玉の顔を拝見するとしますか」
 私はそう呟き、倒れている少女たちを見下ろし、門を開いた。
 ドアの向こうに広がっていた光景は・・・・・・。
「あらぁ〜あなた弓道着も似合うのねぇ〜。もっと、ここを、こうしてっ」
「い、いや、やめてください!」
 広がっていた光景は驚くほどに官能的であった。弓道着を着せられた副棟長の胸元を開こうと女の手が伸びているのだ。
 その女はジャージに竹刀を持った昔のスポ根アニメに出てくるコーチの様な出で立ちであった。
 どうやら奴がこの賊の親玉のようだが私は身体が動かなかった。この状況を真実としたくないと、心から願ってしまったのだろう。
しかし、それは間違いであった。
私は副棟長を助けに来たのではなかったのか。現に副棟長は弓道着をはだけさせられ、嫌がっているではないか。
「早く助けないと」その感情が私を決起させた。
「おい、そこの女。その汚い手を放せ!」
 言うが早いか、私は気がついたとき親玉の顔をグーで殴っていた。
 親玉は頬を右手で押さえているが、これは反射的なもので、どうやらまだ事態を飲み込めてないらしい。
「副棟長。大丈夫ですか?無理はしないで下さい」
「はっ、伯岐なのか!?ごめん・・・迷惑かけて・・・・・・」
 副棟長が私の顔をまじまじと見つめてくる。なんというのか、とにかく恥ずかしい。私は、思わずそっぽを向いてしまった。
「とにかくっ!あのバカが正気に戻る前にここから脱出しましょう!」
「『バカ』っていうのはあたしのことかしら?まったく、痛いわね!この美しい顔に傷でも付いたらどう責任を取ってくださるのかしら!」
 なんと、さっきぶん殴った女が鬼のような形相で私たちの方へのしのしと歩いてきたのだ。
 私はとにかくここから逃げだそうと副棟長の手を取ろうとした。
「そうはさせませんことよ!」
 怒り狂った頭領はそう言い放つと、胴着姿の女生徒がわらわらと私たちを取り囲んだ。
 どうやら、何が起こってもいいように頭領があらかじめ戸棚の奥に伏せさせていたようだ。
「ざっと見て、二、三十人・・・。副棟長、私から離れないでくださいよ!」
「わ、わかった。あたしも援護する。そのエアガンを貸して」
 少し脅え気味で声が上擦っている副棟長にエアガンを渡すと、副棟長の後ろに控える。
 そして次の瞬間――
 私は跳躍した。副棟長の肩を踏み台にして。
「今です!」
「あいよ。任せな!」
 私と副棟長は絶妙のコンビネーションを魅せた。私のジャンプに気を取られていた女生徒に向け、副棟長の容赦ない弾丸が放たれる。
 その破壊力は凄まじく私とは反対側に立っていた女生徒五人を失神させた。
同時に私は着陸した。相手の胴体を滑走路にして。みごとなまでに私の跳び蹴りが剣道着の腹に直撃したのである。
 さらに、横から向かってきた柔道着の脇腹に回し蹴りをいれ、着地した脚を360度回転させ、後ろから斬りかかってきた薙刀娘の懐に飛び込み、木刀で肩を打ち据えてやった。
「副棟長!こっちです」
 私はそう言って副棟長を引き寄せると、空いてる左手を掴んで走り出した。
 もちろんだが、賊の数が減ったわけではない。まだ20人弱はいるはずだ。
 正直、さすがに一斉にかかられてはこっちとしても防ぎきれない。だったら、一点突破するだけ。
 副棟長は私の作戦に感づいてくれたのか、エアガンを連射して、後ろから向かってくる賊を牽制してくれていた。
 その甲斐あってか、私たちは弓道部の練習場のある裏庭に飛び出すことができた。

193 名前:雑号将軍:2006/01/25(水) 20:06
  ▲跳躍▲

 それでも賊は追ってくる。さらに悪いことに増えているではないか。もちろん、その先頭にいるのは右の頬を倍以上に膨らませたあの女だ。
『まったく、嫉妬深い女だこと』
 私はそう侮辱しながらもこの先の作戦に一抹の不安がよぎっていた。
壁を乗り越え、棟長の待つ本陣へと帰る。それがベストだ。
だが、不幸なことに副棟長の服装は制服ではなく弓道着であり、足にはご丁寧にも足袋をはかせてある。
これでは壁が乗り越えられない。それ以前にこのまま走ってたら、袴に足を取られて転んでしまうかもしれない。
張嶷が危惧した矢先であった。
「あっ!」
数歩後ろで副棟長を素っ頓狂な声をあげた。
そして、私が振り返ったときには無数の女生徒と、尻餅をついた副棟長が対峙していた。
「おーほほほ!あなたたちもこれで終わりのようね。今です!その制服を剥いでさしあげなさい!」
 下卑な笑みを浮かべた親玉の合図と同時に7、8人の女生徒が副棟長に群がろうとした。
 私は正直、もうおしまいだと半ば諦めていた。ならば、せめて、護りたいと思った者のために戦って果てよう。
 そう決意した。
 しかし、私が副棟長の前に飛び出そうとした時にはもう遅かった。
「ふ、副棟長―!」
 私は叫んでいた。
もう副棟長の姿は見えなくなっていた。
今まで燃えたぎっていた焔が一気に灰になってしまった気分だ。
 もう護る物は何もない。
 私は絶望の淵にいた。もう好きにすればいい。自棄に陥っていたのだろうか。とにかく、何も考えられなかった。
 しかし、ある一言が私の現実へと引き戻した。
「勇者よ!まだ諦めるのは早いぞ!貴女が護ったものはここにいる。さあ、存分に戦うが良い!」
 私は声の主を確かめるため、辺りを見渡した。すると、屋根の上には白衣姿に扇子という出で立ちのかなり怪しげな女が立っていた。
 そして、目をこらしてみてみればそこには副棟長が寝そべっているではないか。
 私はどうやってあそこに移動させたかをつっこむことを忘れ、副棟長の無事に感激していた。
 そして同時に副棟長をあんな目に遭わせた賊共に対する憎悪の炎が再び燃え上がってきた。
「どなたか知りませんが、感謝します。これからちょっと暴れてきますので副棟長をつれていって頂けませんか?」
「ふふ、わかりました。それでは、ご武運を・・・」
 そう言うと科学者らしき女は副棟長を抱えて闇の中へと消え去った。
「ま、待ちなさいよ!」
「待つのはお前だ。よくもまあ、副棟長をあんなめに合わせてくれたな!たっぷりと礼をさせてもらうよ!」
 私はもう我慢の限界だった。それだけ言うと奴に詰め寄り、体当たりを行おうとしたが、二人の女生徒がそれを阻んだ。
「どけ!潰すぞ!」
 私が威嚇するが二人はぴくりともしない。だから私は見せしめのために、二人を飛ばすことにした。
 まず、がら空きになっていたスネにローキックを入れ、体勢を崩し、そのまま後頭部を手刀でしたたかにうった。
 同時に背後から斬りかかってきた竹刀女には木刀を土手っ腹に叩き込んである。
 そして、倒れた二人の肩から、階級章を剥がしとった。さらに私は目の前で突っ立っている下衆共に怒号を浴びせた。
 持てる限りの怒りを込めて・・・・・・。
「この二人のようになりたくなかったら・・・消えな!」
 私の一喝にびびったらしく、賊の多くは辺りへと散らばっていた。
 こうなってしまえば賊というのはもろいものだ。反対派といってもほとんどのメンバーは傭兵だろう。
 だからこそ、勝てないと思った相手ははなから相手にはしない。その証拠に、群れを成していた賊が今では頭領を護る弓道着の女生徒二人だけだ。
「さあ!決めさせてもらうぞ!」
 私は地面を力強くける。正面では二人の女生徒が慌てて矢をつがえるが・・・・・・もう遅い。
「はあ!たぁっ!」
 私は右側の女生徒の真横に並んで刺突。私の太刀は彼女の脇腹を見事に射抜いていた。
 私はそのまま、左にいる女生徒目掛けて走り出した。そのときやっと照準があったのか女生徒から鏃がゴムボール使用の矢が放たれた。
 しかし、もはや私を止めることなどできはしなかった。
 私は木刀で向かってきた矢をたたき割り、そのまま跳躍する。
 そして相手の弓をたたき割り、勢いそのままに肩口へと木刀で打ち抜いた。
 私が地面に降り立ったとき、その女生徒は激痛に涙を流しながらグシャリと崩れ落ちていた。
 それを見送った私はキッと正面を見据えた。風が私の前髪をなびかせる。
「後は、あんただけよ・・・・・・。潰す!あんただけは絶対に潰す!」
 私は身体から殺気をほとばしらせながら、一歩ずつ奴の方へと近づいていく。
 一歩、また一歩と奴との距離が近まってゆく。
「いっ!いやああああああああああああああああああああ!」
 ついに奴との距離が1メートルとなったとき、奴は恐怖のあまり絶叫した。
「ふっ、無様なものね。でも気絶するのはまだ早い・・・私の大事な人にしたことへの代償を払ってからだ!」
 奴の膝がガタガタと震えだしている。今にも失神してしまいそうなほどに・・・・・・。
 そうはさせない。
 心の中のボルテージが一気に高まる。そんな感じがした。
 知らずのうちに私は走り出していた。
 そして・・・・・・一閃。
 私は奴の右肩を打ち抜いた。さらに横に流れてきたのを一蹴。相手の脇腹目掛けて回し蹴りを見舞ってやった。
 奴は三回転ほどして止まった。もちろん、奴の意識はもうなかった。そして階級章も・・・・・・。
 そう、私は頭領を飛ばしたのだ。

「ふう・・・・・・終わったわね」
 私の身体を凄まじい疲労感が襲った。それは心地の良い疲労感でもあった。いや、達成感と言い換えた方が良かったのかもしれない。
『護りたい人を護れた・・・だから満足』そんな感情が私の心を満たしていた。
空を見上げる。
そこにはあまたの星々が光り輝いていた。
 そんなとき――
「さすがは勇者!お見事な戦ぶり」
「うわっ!」
 突如として空が人の顔に移り変わったのだ。私は突然のことに驚いてしまい、しりもちをついてしまった。
 思考が一瞬フリーズしていたが、すぐに彼女がついさっき副棟長を助けてくれた白衣の女生徒であることに気がついた。
「・・・あっ。えっと、さっきはどうも」
 私は今だ落ち着かずそのままの姿勢でただお礼を言った。
「なんのなんの。同志を助けるのは当然のこと」
 いつから私が同志になったのだろうか?そもそも私は彼女の名前すら知らない。なんともつっこみたいとこだらけだ。
「申し遅れました。私、諸葛亮と申します。孔明でかまいません」
 聞いてないのに・・・・・・。私は妙な脱力感に襲われていた。
この人は私の天敵に違いない。そんな意味深な確信が芽生えつつあった。
 まさか、この人が私の上司になろうとは思いも寄らなかった。
「それで、勇者よ。お名前は?」
「私・・・私の名は張嶷」


…遅くなりました。金曜日のはずが水曜日しかも最終日に・・・・・・。旭日祭りは僕のとって新しい出発かなあと思い、張嶷の初舞台みたいなものにしてみました。
 

194 名前:雑号将軍:2006/01/25(水) 20:09
   ▲跳躍▲

それでも賊は追ってくる。さらに悪いことに増えているではないか。もちろん、その先頭にいるのは右の頬を倍以上に膨らませたあの女だ。
『まったく、嫉妬深い女だこと』
 私はそう侮辱しながらもこの先の作戦に一抹の不安がよぎっていた。
壁を乗り越え、棟長の待つ本陣へと帰る。それがベストだ。
だが、不幸なことに副棟長の服装は制服ではなく弓道着であり、足にはご丁寧にも足袋をはかせてある。
これでは壁が乗り越えられない。それ以前にこのまま走ってたら、袴に足を取られて転んでしまうかもしれない。
張嶷が危惧した矢先であった。
「あっ!」
数歩後ろで副棟長を素っ頓狂な声をあげた。
そして、私が振り返ったときには無数の女生徒と、尻餅をついた副棟長が対峙していた。
「おーほほほ!あなたたちもこれで終わりのようね。今です!その制服を剥いでさしあげなさい!」
 下卑な笑みを浮かべた親玉の合図と同時に7、8人の女生徒が副棟長に群がろうとした。
 私は正直、もうおしまいだと半ば諦めていた。ならば、せめて、護りたいと思った者のために戦って果てよう。
 そう決意した。
 しかし、私が副棟長の前に飛び出そうとした時にはもう遅かった。
「ふ、副棟長―!」
 私は叫んでいた。
もう副棟長の姿は見えなくなっていた。
今まで燃えたぎっていた焔が一気に灰になってしまった気分だ。
 もう護る物は何もない。
 私は絶望の淵にいた。もう好きにすればいい。自棄に陥っていたのだろうか。とにかく、何も考えられなかった。
 しかし、ある一言が私の現実へと引き戻した。
「勇者よ!まだ諦めるのは早いぞ!貴女が護ったものはここにいる。さあ、存分に戦うが良い!」
 私は声の主を確かめるため、辺りを見渡した。すると、屋根の上には白衣姿に扇子という出で立ちのかなり怪しげな女が立っていた。
 そして、目をこらしてみてみればそこには副棟長が寝そべっているではないか。
 私はどうやってあそこに移動させたかをつっこむことを忘れ、副棟長の無事に感激していた。
 そして同時に副棟長をあんな目に遭わせた賊共に対する憎悪の炎が再び燃え上がってきた。
「どなたか知りませんが、感謝します。これからちょっと暴れてきますので副棟長をつれていって頂けませんか?」
「ふふ、わかりました。それでは、ご武運を・・・」
 そう言うと科学者らしき女は副棟長を抱えて闇の中へと消え去った。
「ま、待ちなさいよ!」
「待つのはお前だ。よくもまあ、副棟長をあんなめに合わせてくれたな!たっぷりと礼をさせてもらうよ!」
 私はもう我慢の限界だった。それだけ言うと奴に詰め寄り、体当たりを行おうとしたが、二人の女生徒がそれを阻んだ。
「どけ!潰すぞ!」
 私が威嚇するが二人はぴくりともしない。だから私は見せしめのために、二人を飛ばすことにした。
 まず、がら空きになっていたスネにローキックを入れ、体勢を崩し、そのまま後頭部を手刀でしたたかにうった。
 同時に背後から斬りかかってきた竹刀女には木刀を土手っ腹に叩き込んである。
 そして、倒れた二人の肩から、階級章を剥がしとった。さらに私は目の前で突っ立っている下衆共に怒号を浴びせた。
 持てる限りの怒りを込めて・・・・・・。
「この二人のようになりたくなかったら・・・消えな!」
 私の一喝にびびったらしく、賊の多くは辺りへと散らばっていた。
 こうなってしまえば賊というのはもろいものだ。反対派といってもほとんどのメンバーは傭兵だろう。
 だからこそ、勝てないと思った相手ははなから相手にはしない。その証拠に、群れを成していた賊が今では頭領を護る弓道着の女生徒二人だけだ。
「さあ!決めさせてもらうぞ!」
 私は地面を力強くける。正面では二人の女生徒が慌てて矢をつがえるが・・・・・・もう遅い。
「はあ!たぁっ!」
 私は右側の女生徒の真横に並んで刺突。私の太刀は彼女の脇腹を見事に射抜いていた。
 私はそのまま、左にいる女生徒目掛けて走り出した。そのときやっと照準があったのか女生徒から鏃がゴムボール使用の矢が放たれた。
 しかし、もはや私を止めることなどできはしなかった。
 私は木刀で向かってきた矢をたたき割り、そのまま跳躍する。
 そして相手の弓をたたき割り、勢いそのままに肩口へと木刀で打ち抜いた。
 私が地面に降り立ったとき、その女生徒は激痛に涙を流しながらグシャリと崩れ落ちていた。
 それを見送った私はキッと正面を見据えた。風が私の前髪をなびかせる。
「後は、あんただけよ・・・・・・。潰す!あんただけは絶対に潰す!」
 私は身体から殺気をほとばしらせながら、一歩ずつ奴の方へと近づいていく。
 一歩、また一歩と奴との距離が近まってゆく。
「いっ!いやああああああああああああああああああああ!」
 ついに奴との距離が1メートルとなったとき、奴は恐怖のあまり絶叫した。
「ふっ、無様なものね。でも気絶するのはまだ早い・・・私の大事な人にしたことへの代償を払ってからだ!」
 奴の膝がガタガタと震えだしている。今にも失神してしまいそうなほどに・・・・・・。
 そうはさせない。
 心の中のボルテージが一気に高まる。そんな感じがした。
 知らずのうちに私は走り出していた。
 そして・・・・・・一閃。
 私は奴の右肩を打ち抜いた。さらに横に流れてきたのを一蹴。相手の脇腹目掛けて回し蹴りを見舞ってやった。
 奴は三回転ほどして止まった。もちろん、奴の意識はもうなかった。そして階級章も・・・・・・。
 そう、私は頭領を飛ばしたのだ。

「ふう・・・・・・終わったわね」
 私の身体を凄まじい疲労感が襲った。それは心地の良い疲労感でもあった。いや、達成感と言い換えた方が良かったのかもしれない。
『護りたい人を護れた・・・だから満足』そんな感情が私の心を満たしていた。
空を見上げる。
そこにはあまたの星々が光り輝いていた。
 そんなとき――
「さすがは勇者!お見事な戦ぶり」
「うわっ!」
 突如として空が人の顔に移り変わったのだ。私は突然のことに驚いてしまい、しりもちをついてしまった。
 思考が一瞬フリーズしていたが、すぐに彼女がついさっき副棟長を助けてくれた白衣の女生徒であることに気がついた。
「・・・あっ。えっと、さっきはどうも」
 私は今だ落ち着かずそのままの姿勢でただお礼を言った。
「なんのなんの。同志を助けるのは当然のこと」
 いつから私が同志になったのだろうか?そもそも私は彼女の名前すら知らない。なんともつっこみたいとこだらけだ。
「申し遅れました。私、諸葛亮と申します。孔明でかまいません」
 聞いてないのに・・・・・・。私は妙な脱力感に襲われていた。
この人は私の天敵に違いない。そんな意味深な確信が芽生えつつあった。
 まさか、この人が私の上司になろうとは思いも寄らなかった。
「それで、勇者よ。お名前は?」
「私・・・私の名は張嶷」

…遅くなりました…。最終日になってしまうとは…。面目次第もございませぬ。
今回の旭日祭りはそれがしの新しい出発点となるような気がしたので張嶷の初舞台みたいなものにしてみました。

195 名前:雑号将軍:2006/01/25(水) 20:13
あら?さっきはなかったのに・・・・・・。
す、すみません…。同じの二回書き込んでしまいました。両方ともほとんど同じなので、お好きな方を…。

感想の方なのですが、今、現在、仕事が山積みになっておりまして…。後日、まとめて書き込ませて頂きます。申し訳ありません。

196 名前:海月 亮:2006/01/26(木) 18:30
>雑号将軍様
キテタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!

レス遅れてすいません_| ̄|             ...○
何よりこの場をほったらかしててごめんなs(ry


そして張嶷キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!! (<いい加減しつこい…
各キャラクターの特徴も巧く出てて、読み応えは十分でした^^GJ!

197 名前:海月 亮:2006/01/26(木) 18:38
…そして私めの怠慢により一日伸ばしになってしまいましたが…


僭越ながら。
この時点を持ちまして、旭日祭の終了を宣言させていただきます ̄∇ ̄)ノ


いやぁ今年も濃い内容でしたというかニューフェイスの皆様方のパワーに圧倒されまくりな私がいる^^A
しかし、古参常連の皆様方が居られぬのに、比較的新参者の私如きが音頭とって良かったんでしょうか…?

そして後夜祭はしばらく続くと思われますので、出し逃しという概念はナシの方向でよろです ̄∇ ̄)ノ

198 名前:7th:2006/01/26(木) 21:34
魔女。
一般的には中世以前の欧州で、ドルイド・シャーマンの流れを汲んだ民間医術・占い師を生業とした人々の事を指す。
現在の魔女のイメージは、スラヴの魔女、ババ・ヤガーを基にして中世魔女狩り期に成立したもので、黒いウィッチドレスに三角帽、と云ったアレである。そしてもう一つ、忘れてはならぬものが……

セーラー襟つきのピンク色の服。レースのフリルつきミニスカート。星型の飾りつきの、これまたピンク色の帽子。背負ったナップザックにはご丁寧にも白い羽根の意匠が。トドメとばかりに、手に持った魔法のステッキはハート型をあしらった実にファンシーな物である。言うまでもなくコレもピンク色だ。
リリカルでラディカル、ファンタスティックにルナティック。このショッキングなコスチュームこそ、かの魔女っ娘、もしくは魔法少女と呼ばれるモノである。
その異常にファンタジックか衣装を身にまとうのは簡雍。ゴスロリは恥ずかしかった。スク水はもっと恥ずかしかった。ナースはまだマシだった。しかし、コレの恥ずかしさは、それらを超えて余りある。
何なんだこのビビッド過ぎる色彩は。加えて意匠・小物の一つ一つが無闇にファンシー。正気の沙汰とは思えない。
恨めしそうに隣の法正を見遣る簡雍。なるほど確かに法正も魔法少女的なコスチュームを身にまとっているものの、見た目は大分違う。
漆黒ののウィッチドレスに、白いエプロンを追加。頭には裏地にフリルをあしらった三角帽。手に持つは魔法の箒である。
細部こそファンシーであるものの、簡雍のものより大分落ち着いてシックな感じの仕上がりだ。まだ羞恥心が許せる範囲にある。
「差別だぞ玄徳! 何でアタシはコレで、法正はアレなんだ! 明確な説明を要求する!」
納得いかぬ、とばかりに抗議の声をあげる簡雍。それを聞いた劉備はニヤリと不敵にほくそ笑み、
「よしよし、そこまで言うなら回答したろやないか。耳の穴かかっぽじってって良く聞き」
「なら400字詰め原稿用紙で5枚以内、制限時間120分で答えなさい!」
「似合うから。」
「即答でしかも6文字かよ! 小論文の試験なら採点対象外だぞコラ!!」
いきり立つ簡雍だが、劉備は呵呵と笑って相手にしない。
まぁ回答が横着なだけで、劉備が言っていることも正論ではある。法正のようなクールでシャープな人間が着るよりも、簡雍のように少し抜けた、暖色味のある人間が着るほうが、あの服が似合うのは確かだ。
だからといって引き下がる訳にもいかない。良いから止めろと腕を振り回して力説するも、手に持ったステッキからピロパロと訳の解らぬ音が流れ出るため、全く迫力がない。
「何のオモチャよあれ…」
法正の呟きも尤もだ。安っぽい音に加え、電飾が発光しているあたり、幼児向けのオモチャにしか見えないのだが、
「あぁ、アレなら私がちょちょいと作りました。…本当はもっとこう、マジカルな兵装も内蔵したかったのですが、時間が無くて泣く泣くオミットしました。返す返すも残念でなりません」
どうやら諸葛亮謹製のアイテムらしい。しかし妙に不穏当な発言が有ったのは気のせいか。
「法正殿の箒にも、レーザー発振装置とか搭載したかったんですけどねぇ……」
何処の魔砲だ。
ついでに言うと、それは最早兵器だ。そんなモン作ってはいけません。
今更ながら、法正は薄ら寒くなった。普通の服を着させられるならまだ良い。しかしそれに孔明が関わっているとなると、妙なところで安心できない。
大きな不安をはらみつつ、改造計画は続くのだった。



メイド服。
メイドとは、主に清掃、洗濯、炊事などの家事労働を行う女性使用人を指す。
19世紀後半の英国、ハノーヴァー朝ヴィクトリア女王時代に於いて、使用人を雇うことはステータスシンボルの一つであった。しかし、第一次世界大戦を契機として女性労働力の再評価が始まると、女性の社会進出と共に急激に減少、メイドは消滅を余儀なくされた。だがメイドとその精神は滅んではいなかった。21世紀、メイドは別の側面を以って日本に復活したのである……。

濃紺のエプロンドレス。純白の袖カフス。すらりとした脚を包むは、これも白いオーバーニーソックス。ホワイトブリムを頭に載せたその出で立ちは、どう見てもメイドさんです。本当にありがとうございました。
「絶妙や…絶妙なメイドさんがおる…。このツン分とデレ分の見事過ぎる配合っ……! 想像以上の破壊力や…」
半ば放心しながら感嘆の声を上げる劉備。当の二人は、訳が解らないといった顔で、そんな彼女を眺めていた。
だが無理も無い。当人たちは自覚していないようだが、劉備が放心する程までに、二人のメイド姿は完璧だった。
メイドとは即ち家庭内労働者。主人との関係に存在するのは、主従関係ではなく、あくまで現実的な雇用関係である。それ故に、メイドにデレは不要。昨今のデレデレメイドとは一線を画した、ツン分9・デレ分1の黄金比。これこそがパーフェクトメイド。深遠なるメイド道、その極意である。
「ナイスですぞお二方。あまりの感激に、私、鼻血が出そうです」
鼻を押さえながら賞賛する諸葛亮。その後ろ、ギャラリーの中にも鼻を押さえている面々がちらほらと。その誰もが、鼻を押さえていないほうの手でサムズアップ。
「しかし良いのですか総帥。次がラストの予定ですが、これ程の破壊力を見せ付けられては、何をやっても見劣りするのでは?」
正論である。写真や動画は後で編集できても、この場にいる観衆を満足させることは難しいだろう。
「ふっふっふ、まぁ見とき。トリはトリらしく、最終兵器を投入せんとな」
我に秘策有り。そういった体で不敵にほくそ笑む劉備。これを超えるコスプレとは、果たして何なのか……?



最後の着せ替えを終えた二人を迎えたのは、雷の如き喝采と、一面の溜息。
足下には赤い絨毯が敷かれ、居並ぶ人々が紙吹雪を撒く。
そして二人の向かう先、少し高い壇上には、神父の格好をした劉備が、人の悪い笑顔で二人を眺めている。
これは、まるで……
「結婚式じゃねーか!!」
まるででも何でもなく結婚式である。
それもその筈。二人の衣装は、法正がタキシード姿、簡雍が純白のウェディングドレスである。結婚式にならない理由がない。
「え、ちょ、何で……? 何で私が新郎役な訳!?」
わたわたと狼狽する法正。結婚式っぽい演出もそうだが、何より自分が新郎役になっていることが納得いかないらしい。
「だって憲和の方が背ぇ低いやん。新婦の方が背が高いのはちょっとマヌケっぽいしな」
別に背格好など結婚する当人たちにとっては些細な要素であるが、今回はコスプレをさせて遊びつつ、部費も稼ごうと云う趣旨である。当然、しっかり様になっている方が望ましい。
「じゃあ二人とも、此処まで来て愛の誓約やってもらおうかいな。動画で撮ってることやし、しっかり演技してや〜」
「「何ぃーー!!」」
まさかそこまでさせる気か、と正気を疑うように抗議する二人。
「部長命令や。簡雍、法正、別に指輪交換せぇ言う訳でなし、さっさとやりぃ」
部長命令では仕方がない。まぁ確かに本当の結婚式ではないのだ。演技だと割り切れば、別段腹も立たない。
腹の中はさておき、演技に徹してしずしずと壇上に向かう簡雍と法正。両端にいる観衆の祝福が、なんとも不愉快だ。
そうして壇上まで来た二人に、劉備は大仰に聖書を広げ、厳かに問うた。観衆が静かになる中、ちゃっかりかけられた、メンデルスゾーン『結婚行進曲』が耳障りだ。
「汝、法正。この者を妻とし、一生愛することを誓いますか?」
「…………誓います」
答える法正。こんな奴を嫁にする者の気が知れぬ、と云うのが本音であるが。
「では汝、簡雍。この者を夫とし、一生愛することを誓いますか?」
「…………誓います」
答える簡雍。女同士に何させてんだバカヤロー、と云うのが本音ではあるが。
「此処に誓約は結ばれました。では皆の衆、拍手で祝福を!!」
劉備の宣言に従うように沸き起こる大拍手。そして、キスコール。
「うん、観衆の皆様も言っていることやし、期待に応えて誓いのキス、いっとこか?」
「「何ぃーー!!!」」
今回二回目の唱和。本気でソレをさせる気か、と意識が遠くなる二人。
なおも止まぬキスコールに、満足げに微笑む劉備。さては謀られたか、と気付くも、最早どうにもなりそうに無い。全ては、最初に劉備にしてやれれた時からケチがつき始めたのだ。
ちらり、とお互いの意思を目で確かめ合う。やるしかない。奇しくも同時にそんな悲愴な決意にたどり着いた二人であった。

しばし見詰め合う二人。そして、どちらからとも無く唇が近付いていき…………

全てをやり終えた二人。最早感動しない者など此処にはいない。大喝采が飛び交う中、目元をハンカチでぬぐいつつ、劉備は宣言した。
「これにて簡雍改造計画、及び法正改造計画の全工程を終了する! 我々の心に素晴らしい感動を与えてくれた二人に、盛大な拍手を!!」
燃え尽きた二人に対し、いっそう盛大に喝采が上がる。満足そうに頷いた劉備は、へたりこむ二人に対しおもむろにマイクを向けると、コメントを求めた。
返ってきた返事はこうだ。

「「次は絶対アンタの番だ」」

その言が実現したかどうかは、また別のお話。
ともあれ簡雍+法正改造計画、此処に閉幕と相成るのでした―――

199 名前:7th:2006/01/26(木) 21:42
絶賛後夜祭中、7thです。

……
………
御免なさい。こんな駄文の癖に宣言通り25日までに仕上がりませんでした。
ともあれ、此処まで私如きの駄文に付き合って頂いた皆様に深く御礼申し上げると共に、旭祭に参加された皆様に万のGJを捧げたいと思います。


では後始末。嘘吐きの私に極刑。誰か介錯御頼み申す_| ̄|○

200 名前:北畠蒼陽:2006/01/26(木) 21:55
>7th様
介錯はいたしませんことよ。いい物に時間がかかるのは当然なのです。
それはともかくすべての方々、旭祭お疲れ様でしたっ!

201 名前:海月 亮:2006/01/26(木) 21:57
そして>>189で陳べたとおり、傍観者に徹した挙句何時の間にか祭りの存在を忘れていた海月めにも介錯(≠愛の手)を_| ̄|         ...○
然らば私めも刑場の露と消える所存であります。以後は彼岸よりお送りする形で(何

>7th様
…だから先生……狼をひつj(ry

魔法少女キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
メイドキタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!

そ、そ、それに結婚式だとぉぉぉぉ━━━━━━(;´Д`)━━━━━━ !!!!
つか萌え殺す気ですか(;;゚Д゚)!?
むむ、トリに相応しき破壊力抜群の展開!まさにお見事!!!

202 名前:冷霊:2006/01/26(木) 23:10
旭祭、皆様お疲れ様でしたー。
只今、こっそりと合間に読破中であります。
簡×法があれば、審×逢もあり、張嶷まで登場……まさに豪華なお祭りでした。
特に北畠様、劉度&ケイ道栄の登場には驚きました!
じっくりと読み返さねばですー。

実はこっそりともう一作投下したかったのですが、
予定外のアクシデントに見舞われ投下出来ず……
いつかリベンジを誓いつつお疲れ様でしたですー……(ぐっ)

203 名前:★教授:2006/01/27(金) 21:53
祭乙でしたー!(拍手喝采)
参加者の皆様も乙でしたー!(歓声)
古参が沈黙を保ってる状態でここまで盛り上がれるのは、やはり新規参入の皆様の力だと思います。
一古参メンバーとして恥ずかしながら名を連ねられております私も、負けずに頑張ろうと思いますです。
今年は旭祭を機に学三を盛り上げていきましょう!

7th様>

 簡×法キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
 凄い、素晴らしい、清清しいの3Sを見事達成っす!
 この機会に私から簡×法シリーズを引き継いでくださいー(*゚∀゚)
 アッシですか? 逃げます (-_-)

204 名前:弐師:2006/01/28(土) 08:03
どうも、受験でしばらくこれない間にこんなにも多くのすばらしい作品が!

北畠蒼陽様>

これはいい劉度さんですねw
格好良すぎです!さらに刑道栄の友情が・・・もう・・・
感動です!

海月 亮様>

乙でしたー!
そして審配さんと逢紀さんいいです
確かに彼女たちが居なければ、袁氏もあれだけの隆盛を得られなかったでしょう

ってそんな話はおいといて・・・激しく萌えさせていただきましたー!

雑号将軍様>

張嶷キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!!!!
もう格好良くて素敵でなんと言えばいいか
そして孔明の怪しさが相変わらずでw


7th様>

あああああああ!!!!!!!!!
萌ええええええええええ!!!!!!!!!

すいません、あまりの破壊力に壊れてしまいましたw
すべてがツボにはまって凄まじかったです!

と、いうわけで!皆様方本当にお疲れさまでした
たいへん勉強になりましたー!
私もまたもう一本程書きたいのですが・・・那御様が以前に素晴らしい易京話を書いていらっしゃるので難しいですね

205 名前:北畠蒼陽:2006/01/28(土) 21:43
>弐師様
他のひとはともかく私のは読み飛ばしてください。なんか色が明らかに違うのでー(笑
それはともかく今の時期だと大学でしょうか? それとも高校……? もし高校だとすると先恐ろしいほどのこの才能はなんだ……(苦笑

海月 亮様もいっておられましたけど出し惜しみはなし、の方向で。
易京話ぜひ読みたいですよ。受験が落ち着いたら書いてくださいね(笑

……以上、三国志大戦メインデッキにはガチで刑道栄がレギュラー化している北畠でした!

206 名前:海月 亮:2006/01/28(土) 23:22
>弐師様
いやいや、貴君こそ乙ですた^^

そして易京で躊躇われているなら、多分大丈夫でつ。
何しろ初めての投稿で夷陵を書いた人間が、此処でのうのうとやってるわけで…。
ええ、私が書いた夷陵SSこそ、むしろ歴史の闇の彼方へ葬り去ってやってくだせぇ(何

受験の苦しみもあと僅かですぞ! 貴君に幸あらんことを!


…というわけで私はポプ熱帯の将軍部屋でひと暴れして来まさぁ^^A

207 名前:海月 亮:2007/01/07(日) 20:32
さて、今年も後10日ほどでこのスレの出番がるのかどうか知らんですが…



一応ageておきます。
我こそはと思う方はこぞってご参加のほどを…。

さておいらはどうするかな( ´・ω・`)

208 名前:韓芳:2007/01/09(火) 23:49
旭祭ちょっと期待してたけど、皆さんサイトが完全復活してから改めてって感じなんでしょうか。
もし参加する方は、是非頑張ってください!
私は文章力が無いので書けませんが…

とりあえず私は、3年ほど泥沼化している漢中防衛を頑張ります…(三国志11

209 名前:弐師:2007/01/10(水) 00:41
昨年に旭祭で学三に初参加した自分にとっては感慨深い物がありますねぇ・・・
今書いてる物が間に合うかどうか微妙なところですが、頑張ってみます。明日からテストですけど(ぉ

210 名前:弐師:2007/01/20(土) 22:22
「だんすぱーてぃー?」

存在自体は知っていた。あたしだって一応高三だし、今までに何回も旭記念日――この蒼天学園の創立記念日――は体験しているのだから。
そしてその日は学園を上げて式典――例えば、そう、ダンスパーティーといったものなど――を執り行っていることももちろん知っていた。
だがそれは限られた一部の「お偉いさん」だけの事であって、今まではあたしの様な一般生徒にとっては単なる何処の学校にもある「創立記念日」と言う名のたなぼた休日にしか過ぎなかった。
だから、今、憧れの伯珪さまからダンスパーティーに誘われてもとぼけた反応(まあいつものことなんだけど)しかできなかった、というわけだ。

「そう、ダンスパーティー。今までは範と踊っていたのだが、今年は運悪く足をくじいてしまってね。貴女も受験勉強ばかりでは気が滅入るだろうと思って・・・迷惑だったか?」
「め、迷惑だなんてそんな!とっても嬉しいです!でも・・・あたしダンスなんて一度も・・・」
「ああ、それはもちろんこれからみっちりと特別レッスンを・・・って、ほんとに迷惑じゃないの?」
「が、頑張りますっ!」

だって・・・これが伯珪さまと此処で過ごせる最後の「旭記念日」だから。

だけど、その事実はあまりにも今のあたし達には残酷なように思えて、あたしは喉元まで出かけたその言葉を飲み込んだ――――――――

211 名前:弐師:2007/01/20(土) 22:23
「ダンス・・・パーティー・・・?」


唐突な、誘いだった。
ふむ・・・ダンスパーティー・・・か。
正直、興味はない。ダンスは一応出来るが、そんな場に堂々出られる程までではない。第一、今私達は受験生だったと思うが。


「本気か?田揩?」


そう目の前の少女に問い返す。彼女が自ら何かを私に提案することすら非常に希有だというのに、その用件が「一緒に踊りませんか?」ときている。問い返すなと言う方が無理ではないだろうか。
確かに、二人とも志望校の判定には余裕があると言っても良い。少なくとも、一日くらいなら息抜きできるほどには。だが、それでもこの時期の受験生、しかも真面目で知られる田揩がそのようなことを本気で言うとは思わなかった。

「・・・本気です!私、単経さんと踊りたいんです!」
「君は・・・踊れたか?」
「う゛・・・き、気合いがあれば何とかなります!とにかくっ!私は単経さんと踊りたいんですっ!」
「何でそんなにこだわる?いつもの君らしくもない。」

そうまた聞き返す。そうすると、田揩は何故か急に真っ赤になって俯いてしまった。
まあ、彼女が赤くなるのは良くあることではあるのだが、今回は何やら様子がおかしい。
そう思ったのは、彼女がどうやら涙をこらえているようだったからだ。


「だって・・・」
「・・・だって?」
「だって・・・これが、最後のチャンスだからぁっ・・・!」


彼女がこらえていたものが、零れ落ちた。
これが――――――――最後。
それは今まで私の頭からすっぽり抜け落ちていた――――いや、あえて考えようとしなかったこと。彼女の涙は私にそれを強く、印象づけた。
――――――――「女の涙は武器」とは、故人もよく言ったものだ。


「分かった、踊ろう。」
「え・・・ほんとですか!」
「ああ、本当だ。だからとりあえず涙を拭くと良い。」
「え・・・あ・・・あはは・・・ごめんなさい・・・」


彼女はそう言って半泣きのままへへぇと困ったように笑ってみせる。
その笑い顔に、曇り空からゆっくりと降り注ぐ粉雪が触れては溶けていった。

212 名前:弐師:2007/01/20(土) 22:24
「ふぅ・・・じゃあ続ちゃん、これを向こうに持っていっておいてくれないかしら。」
「はいはい、向こうね。」


今夜あるパーティー、その準備は着々と進められている。幽州校区ではこんなイベントはなかなか無い為、毎年の事ながら、私を含めた準備役員は相当張り切っている。このパーティーは引退組のみで開催されるので(もちろん現役で課外活動に参加している人は別に催しがある)、日頃の憂さ晴らしという面も大きいのだが。
今準備に取り組んでいる人たちは、このパーティーのメインとなるダンスを出来ない、しない、という人たちの中からの有志だ。
(主として私の手伝いをしてくれている続ちゃんは二番目のタイプだ。曰く「お姉ちゃん以上の相手なんていないもん」だ、そうな。)


「じゃあ、これはどうすればいいのかしら?範さん?」
「ああ、それはそっちに・・・って、伯安さんじゃないですか!」
「ええそうですけど・・・なにか私まずいことでもしてしまいましたかしら・・・?」


目の前で困り顔をして首を傾げているのは、劉虞伯安さんであった。
気品にあふれる立ち振る舞いで、常に穏やかな笑みを絶やさないどこか世間からずれたところのある可憐なお嬢様で、蒼天会長とも血縁があるという方だ。
そんな由緒正しいお嬢様なので、もちろんダンスには参加するものだと思っていたから私は彼女に声を掛けられて不覚にも驚いてしまったというわけだ。


「伯安さん・・・あの、ダンスの方は?」
「あら、それで先ほどはあんなに驚かれたのですか。・・・いつも御相手していただいていた魏攸さんが病気で引退してしまいましたからね・・・それで、今年は遠慮させていただくことに致しましたの。」
「ああ・・・これは酷なことを聞いてしまいましたね・・・」


魏攸さんというのは、彼女が幽州総代を務めていた頃の参謀で、病気が原因で課外活動を引退したのだ。彼女さえいれば、伯珪姉と伯安さんがあれ程までに争うこともなかったであろうと言われている。伯安さんと魏攸さんはとても仲が良く、伯珪姉が魏攸さんを闇討ちしたから戦いが始まったなどとふざけた噂すら流れたこともある。


「いえいえ、お気になさらず。そんなことより範さん、急がないと準備が間に合わないのではないでのですか?」
「あ・・・」


その通りだった。今年は例年と比べてダンスの参加者が多く(おそらく一般生徒の間で人気があった伯珪姉と伯安さんが今年で見納めという点からであろう)、それに伴い準備の人数も減少してしまったのだ。


「そ、そうでしたねぇ。じゃ、とっととやっちゃいますか!」
「ええ、そうしましょう。」


そう言って伯安さんはにっこりと微笑む。
上品で、それでいてあたたかい。まさに「乙女百合」といったところだ。
その笑みを見ていると私も心が暖まる気がした。この人が見ていてくれるなら、何でも出来そうな気がする。そんな笑顔だった。

213 名前:弐師:2007/01/20(土) 22:25
何とかあたしは伯珪さまの「特別レッスン」の甲斐あって、それなりには踊れるようになった。
それなりといっても、正に必要最低限といった感じで、到底周りの人たちからしたら見られる物ではなかったのだけど。


「うん、上手くなったよ。ばっちり、とまでは言えないけどね。」


伯珪さまも苦笑しながらそう言ってくださる。もうパーティーの始まりまで時間がない、そろそろ会場であるホールに向かわなければならない。正直めちゃめちゃ不安だ。だけどそんなことも言ってられない、伯珪さまの言葉を信じて、せめて恥をかかないように頑張ろう。


「よし、じゃあいこうか、士起?」
「はいっ!い、いざ、しゅ、出陣!」


そんな緊張してこわばっているあたしの顔をみて伯珪さまは思わず吹き出した。
うぅ・・・いきなり恥をかいてしまった・・・先が思いやられるなぁ・・・


「ごめんごめん・・・くくっ・・・いやほんとごめん・・・そんなに緊張しなくて良いんだよ。貴女はそのままで充分可愛いんだからね。」
「ふぇ!?」
「さ、行くよ。ほんとに遅刻しちゃう。ほら、士起、出陣!」


先程以上の間抜け面をしている上に真っ赤になったあたしを後目に伯珪さまはまるで遠足に行く子供のように楽しげに歩き出した。置いていかれた形になったあたしは、その背中を一呼吸遅れて追いかけた。
よし、頑張るぞ!

214 名前:弐師:2007/01/20(土) 22:27
流石に、立派な会場だな。公孫範さんたちが設営をしただけのことはある。
私は今まで一応幹部という立場にありながら、何かと理由を付けて旭記念日のパーティーはさぼっていたので、驚きも大きな物であった。普段はがらんとしているホールに、多くのテーブル、その上の料理、大勢の生徒達。こんな時でなければ見ることもない光景に、ただただ驚嘆するのみだった。
そんな私の袖を、田揩が引いた。


「ね、来て良かったでしょう?」


満面の笑み、私も最高の笑みを返す。とは言っても、こんな私に出来る範囲で、だが。


「ああ、そうだな。なかなか見られる物でもない。有り難う、田揩。」


彼女は無言で微笑み返す。幸せいっぱいといった風情だ。そして、それは私も同じ事だった。
来て良かった。少なくとも、彼女のこの笑みを見られただけでもここに来た価値は充分あったと言っていい。

ダンスが始まるまでにはまだ時間がある、それまでは立食をしている事になる。しかしあまりそういったのは得意ではない、それは田揩も同じだった。まあ、私に話しかけてくるような変わり者などはいないだろうから、その点は安心なのだが。

・・・どうやら、世の中は物好きが多いらしい。
パーティーが始まって物の10分ほどで私は多数の生徒に囲まれてしまった。同じ様な状態になっている伯珪様、劉虞さんは慣れているようで上手く応対しているが、私はこのような状況は初めてなのでそうもいかない。人の輪の外から田揩が心配しているような、何やらよく分からないが不満そうな顔をしてこちらを見つめていた。
そんな時、私を救うアナウンスが流れる。公孫範さんの声。


――――――――これよりダンスの部に移ります。参加される方は準備の程をよろしくお願いいたします――――――――

「じゃぁ、単経さんはダンスの準備があるので失礼しま〜す。ごめんあそばせ〜。おほほほほ・・・」


田揩が妙な口調で挨拶しながら私を輪の中から引き出した。何やら、いつもの彼女らしくもない不自然な笑いと、私の腕をつかむ力が妙に強いというか、怒りを感じる気さえするのが気にかかるところだが、まあ、この際それはいい。
輪から離れて、控え室に向かう道すがら、私は彼女に礼を言った。


「有り難う。おかげで助かった。」


だが、返事が返ってこない。
彼女は少し怒っているようだった。一体どうしたというのだろう?


「なあ、田・・・」
「なんですか!?」
「・・・何を怒ってるんだ?」
「怒ってなんて無いです!」
「・・・充分怒ってるじゃないか。」
「・・・だって!単経さんが私を無視して他の人とばっかり話しちゃって!私の事なんて忘れちゃってるみたいで!」


よく分からないが、さっきのことに腹を立てているようだ。
確かに放って置いてしまった感はあったな。反省せねば。
だが、私が彼女のことを忘れるなど、そんなことは決してないと言い切れる。だから、そのことを彼女に伝えなければ、と思った。


「そんなわけないだろう?私の親友は君だけだ。」
「え・・・」


呆気にとられたような顔。さっきまで膨らんでいた頬が今度は赤くなる。
私にとっては何を今更という感のあることであったが、よく考えてみれば言葉にして伝えたことは殆ど無かったように思う。


「聞こえなかったか?私の親友は君だけだといっている。」
「あの・・・もう一回・・・お願いできます?」
「・・・私の親友は、君だけだ。」
「・・・嬉しい・・・」


今日は、きっと良い踊りが出来るだろう。
理由もないけれど、そう思った。

215 名前:弐師:2007/01/20(土) 22:28
「うわ・・・お腹がきつい・・・」


でも・・・胸のところは逆に・・・まあいいか、言わないでおこう・・・恥ずかしいし。
その点、伯珪さまは流石だ。白いタキシードを見事に着こなしている。毎年恒例だそうだが、あたしが見たのは初めてだ。


「大丈夫?何なら別なのでもいいけど。」
「いえ、これでお願いします!」


だって、これは伯珪さまがあたしの為に選んで下さったドレスだから。
あたしは全然服のセンスとか無いけど、でも、このドレスがあたしに似合っているのだろうと、なんとなくわかる。


「もう時間がないから、行くよ?」
「はい・・・行きましょう」


胸がどきどきする。頭が、ぼーっとするみたい。
でも、もうそんなこと言っていられない。これが、あたしの学園生活一世一代の大勝負だ。

216 名前:弐師:2007/01/20(土) 22:28
ホールに、色とりどりの華が咲いている。ひらひらと、ひらひらと、美しく舞っていく。
自分で踊るのも良いけど、こうやって舞台裏的な場所からマジックミラー越しに見ているだけというのもまたいいものだ。まあ、見ているだけ、と言えども音楽など仕事は結構あるのだが。
そうして、幻想的に照らし出される多数の華々をうっとりと見つめていると、この放送室のドアを誰かがこつこつと叩いた。

「は〜い?どうぞ〜?」
「失礼しますわ。」
「ぬわっ!伯安さん!」
「・・・私、何か致しましたでしょうか・・・?」

何故か、彼女の登場の仕方にはどうしても慣れない・・・
彼女のようなお嬢様には不釣り合いなところにばかり登場しているからだろうか。
に、しても・・・

「伯安さん・・・どうしてこんな所に?」
「いえ、ここがダンスを見る穴場だと聞いたので・・・ああ、本当に綺麗ですね。」

伯安さんも、ずっと踊る側だったから、恐らく私と似たような思いで見つめているのだろう。
端正な顔が、ミラー越しに一点を見つめていた。その視線の先を追っていくと、そこにはたどたどしいステップながらも一生懸命踊っている士起ちゃんと、本当に幸せそうな顔をしている伯珪姉の姿があった。
・・・正直、私と踊っていたときにはもっと堅い顔だったように思う。単に踊りのうまさというなら私の方が士起ちゃんより上だろう。しかし、士起ちゃんでなければ・・・士起ちゃんがいなければ伯珪姉があんな顔をすることもなかっただろう。

「伯珪さん・・・本当に楽しそうな顔・・・」
「ええ、そうですね。」
「関靖さん・・・だったかしら?彼女のおかげなのかしらね。いや、彼女だけじゃないわね、妹さんや部下の方々・・・そして、範さん、貴女が有ってのことですわ。
・・少なくとも私達が戦っていたときには間違ってもあんな顔は出来なかったでしょうね。」
「本当に・・・伯珪姉・・・じゃなくて、伯珪様は穏やかになられました。憑き物が落ちたようです。」

――――――――ダンスは、クライマックスを過ぎ、終焉へと向かっていた。

217 名前:弐師 :2007/01/20(土) 22:29
「お疲れさまだったね。」
「いえ、伯珪さまこそお疲れさまでした。」


これまでの人生で一番緊張したが、何とか大過なく踊りきることが出来た。死ぬほど嬉しかったが、寿命が縮んだ気さえする。まあ、何だかんだ言って、最高だった。
そういうわけで、ダンスは無事に終わり、私達は寮へ帰り道を二人きりで歩いていた。
範さまは片付けがあるらしく(あたしも手伝おうとしたのだが、見事に断られてしまった)、単経さんと田揩さんは二人で別にもう帰ってしまっていた。
昼間降っていた雪は、今は止んでいる。が、また何時降り出してもおかしくはない。厚い雲が、あたしたちの頭上に広がっていた。


「これで旭記念日も最後か。うん、今までで一番楽しかったよ。ありがとうね。」


――――――――最後。
わざと、意識しないようにしていた。
もうすぐ、伯珪さまとは違う学校に行くことになる。当然と言えば当然のこと、「出会いが有れば別れもある」のだ。だけど、そんな悟ったようなことを言っても、淋しいものは・・・淋しい。
だけど、目の前の伯珪さまは何というか・・・実にあっけらかんとしている。


「・・・伯珪さまは、淋しくないんですか?これが・・・最後なんですよ?」


思わず、非難するような口調になってしまった、と反省する。しかし、伯珪さまは特に気分を害された様子もなく、むしろ、少し驚いたような顔をしている。


「そうだな・・・私も、もちろん淋しいさ。だけど、淋しさに身をゆだねるより、残り少ないみんなと・・・貴女と過ごせる時間を大切にしたい。だから、私は出来るだけ笑っていたい、淋しそうな格好も我慢する・・・変かな?」
「いえ・・・あたしの考えが足りませんでした・・・」
「いや、私も素直じゃなかったかもしれないね。出来ることなら、みんなとずっと一緒にいたいし、これが最後だということを淋しくも思う。」


しばし、沈黙が二人の間に流れる。
気が付けば、雪がひとひら、またひとひらと降っていた。幽州はこの学園内でも最も寒いと言われる。今も手が寒くて仕方ない。せめて手袋でもあれば良かったのだが、今日に限って忘れてしまっていた。そんな自分の間抜けさを恨みつつ、真っ赤になってしまった手に息を吐き掛ける。


「士起、寒くないか?手が真っ赤だよ。」
「え、あはは・・・」


あたしが誤魔化すように笑うと、伯珪さまも少し頬をゆるめた。
そしていきなり、あたしの手を握った。いきなりの事態に混乱する、が、さっきの伯珪さまの言葉を思い出し、あたしは何も言わずに握り返した。


冷え切った手に、伯珪さまの暖かな感触が伝わってくる。


雪が、ひらひらと、あたしに――――――あたしたちに、舞い降りる。


もう、言葉は何もいらなかった。
ただ、お互い側にいる。

それだけで、最高に幸せだ――――――――――――――――

218 名前:弐師:2007/01/20(土) 22:40
どうも、激しくお久しぶりでございます。何か落としてみました。
開催宣言・・・はしても良いのかな?いまいち判断が出来ないので保留しておきます。

偉そうなことを言っておきながら遅れてしまって申し訳ございませんでした、言い訳の言葉もございませぬorz

219 名前:韓芳:2007/01/21(日) 00:16
>弐師様
長編お疲れ様です。
この寒い時期に心温まるストーリー、いいですね〜。
自然に笑みがこぼれて来ました。

一応私も話の構成(妄想)は出来てるんですけど、おもいっきり『祭り』のイメージとはかけ離れているのでやめときます。

220 名前:雑号将軍:2007/01/27(土) 17:32
■やまない雨なんてない■

「ほんとにいいの?」
 白塗りの部屋で透き通るソプラノ声が響く。見舞いに来ていたライムグリーンの髪をした少女―盧植―はベッドに横たわる朱儁に尋ねた。
「うん。まだ、肩治ってないしね。多分これじゃあ、まともに動けないだろうし…。だから、子幹と建陽の二人で楽しんできてよ」
 そう言って朱儁はぎこちなく笑った。無理矢理笑顔を作っているのは誰の目にも明らかであった。
 今日は蒼天学園最大の行事の一つである「旭記念日祭」通称「旭祭り」の最終日だった。
だからこそ、盧植と傍らでつまらなそうに座る小柄な少女―丁原―は朱儁を祭りへと連れだそうと入院中の朱儁を訪ねてきたのである。
「でもでも!こーちゃん(朱儁)、毎年、旭祭り行ってるじゃない。あたいたち今年で最後なんだよ?」
 ついに場の荘厳な雰囲気に我慢出来なくなった丁原が朱儁に詰め寄るように言った。

 
丁原の言う通り、朱儁は高等部に入学してから、旭祭りに参加しなかったことは一度もない。ましてや彼らはもう三年である。これが最後の機会なのだ。
しかし、朱儁は気持ちを入れ替えることはなく、ただ、力なく首を横に振った。
「ごめん。建陽。でも行けない…」
「こーちゃん…」
 場に重々しい空気が立ちこめる。個室であることも影響してか、外部の音が全く聞こえてこない。まるで、この空間だけ孤立してしまったかのように…。
 それから、少ししてからだろうか。
 盧植はパイプ椅子から腰を上げた。
「・・・・・・わかったわ。ごめんなさいね。無理に誘ったりしちゃって。じゃあ、わたしたち、行くわ」
 そう朱儁に言ったときの盧植の顔は苦笑が浮かんでいた。
「ありがとう。子幹…」
 朱儁が呟くようにそう言うと、またも盧植は困ったように笑った。そしてそのまま踵を返し、病室から出て行った。
「ちょ、ちょっと待ってってば!お〜い!しーちゃん(盧植)!じゃ、じゃあ!こーちゃん、また来るから!」
 丁原はそれだけ言うと、力強く地面を蹴り上げ、矢のような速さで病室から飛びだしていった。
 場がまた静寂に包まれる。
「はあ・・・つまんないの」
 朱儁は寂しそうに目を細めてそう言うと、自らをまどろみの中へと押し込んでいった。

221 名前:雑号将軍:2007/01/27(土) 17:36
 彼女には親友がいた。何者にも代え難い親友が。
 しかし、彼女とは二カ月前にある事件が元で絶縁関係にあった。そしてそれは、学園を巻き込んだ大事件へと発展した。
 結果として、その事件をきっかけに二人は仲直りをした。しかし、その代償として彼女は親友の刃で肩の骨を折られることになった。
 そして親友は一度も彼女の見舞いに来ることはなかった。
 
 それから、何時間経っただろうか。目を開けた朱儁の見える景色はいかんせん暗い。
「もう・・・・・・旭祭り、はじまっちゃったな」
 俯いたまま朱儁は呟く。いつも天に向かって逆立っているはずの一握りの赤髪さえも、力なくしおれている。
 そんなとき、朱儁の耳に足音が飛び込んできた。
 ことん、ことん、とまるで前進することを戸惑うかのような重い足取り。
そしてその足音は少しづつ、大きくなってきていた。
もう面会時間は窓の外を見る限りとっくに過ぎているし、朱儁の病室の周りは空室だ。
朱儁は近くにある青いアナログの腕時計に目をやった。
「やっぱり、看護師の巡回には早い・・・・・・」
 朱儁はまだはっきりしない頭で思考を巡らす。彼女はつい最近まで生徒会の中で、かなりの地位にいた。それ故に飛ばしてきた人間も多い。
それらを総合してたどり着く答えは一つだった。
朱儁は慌てて身体を起こそうとするが、思ったように動いてくれない。
やはり片手しか使えないことと、しばらく運動らしい運動をしなかったのが問題らしい。
 そして、足音は止まる。朱儁の直感が正しければその足音は朱儁の病室の前で途切れている。
かろうじて身体を起こす朱儁は病室のドアに目を向けた。
そのさきにはぼんやりと一人の人影が映る。
場が張りつめた弓のように緊張している。朱儁の身体から冷たい汗が流れる。
ついにがちゃりと音を立て、扉が開かれた。
「・・・義真!?」
 朱儁は目に映る光景を信じることが出来なかった。
 しかし、彼女の目にははっきりと見えていた。いつもと変わらぬ、碧色のリボンで結ばれたポニーテールをもつ長身の女性が。
「・・・・・・」
 朱儁の言葉に彼女は答えなかった。しかし、朱儁のベッドの前まで近づく。
 そんなそっけない態度に朱儁はますます疑心暗鬼に陥る。
「久しぶりだな。公偉・・・・・・。少し痩せたんじゃないか」
 彼女を見間違うはずなどないのだ。
 仲違いを起こすまでは何をするのも一緒だった彼女を。
 最も信頼し、最も憧憬した彼女のことを・・・・・・。
 彼女は皇甫嵩。
 そう、一番の友達。

222 名前:雑号将軍:2007/01/27(土) 17:41
朱儁は涙が溢れそうになった。しかし、泣いてるところを見せたくなかった彼女は顔を背けて拗ねた声で言った。
「そりゃそうだよ・・・。義真が遊びに連れってくれないから」
 言いたいことはこんなことじゃない。
 というより、遊びに連れて行かないからと行って痩せるわけではない。
 それは朱儁自身が一番よく知っていた。しかし、朱儁は素直になれなかった。
「そうだな。すまん・・・」
 それでも、皇甫嵩は素直に謝った。
 朱儁はどうして皇甫嵩が一度も見舞いに来てくれないかを知っていた。
「公偉に怪我を負わせたのが自分であるから」そんな負い目を彼女は感じているのだ。
 しかし、今、彼女はここにいる。
 朱儁はそれだけでうれしかった。しかし、どうにも素直になれない。
 そんな彼女を知ってか知らずか、皇甫嵩は苦笑を浮かべた。
「お詫びといっては何だが、これから旭祭りを楽しまないか?と言っても、この時間だと花火大会くらいしか残ってないが・・・・・・」
 朱儁はびっくりして、目を丸くしながら、皇甫嵩の方を見た。
「でも、あたしは外出禁止だし・・・・・・」
 そんなことは誰にも言われていない。むしろ少しは歩けと言われているくらいだ。でも、今日の朱儁は自分の気持ちに素直ではなかった。
 そんな朱儁の態度に皇甫嵩は困っていたが、やがてこう付け足した。
「しかし、私は公偉と行きたい。毎年、お前と行っているのだ。やはり、公偉がいないとどうも落ち着かない・・・・・・」
 そしてさらに皇甫嵩は目を泳がせながら続けた。
「それに・・・・・・今まで、私は公偉の我が儘に何度付き合ってきたと思っているんだ。一度くらい、私の我が儘をきいてくれたっていいだろう?」
 そう言った皇甫嵩の声はところどころ裏返っていた。
 朱儁はいつもと違う彼女の態度や言動に、戸惑っていたが、やがて声を上げて笑うと、皇甫嵩の目を見て答えた。
「もう、しょうがないなあ、義真は。わかった。付き合ってあげるよ」
 そう言って、朱儁はもう一度、笑った。
 その笑みは出会った頃と変わらぬ、裏のない素直な笑み。
 ずっと見ていなかった彼女の本来の姿。
 それは皇甫嵩が大好きな彼女の姿。
「そうと決まれば・・・・・・」
 皇甫嵩はそう呟くとお姫様だっこの要領で朱儁を抱き上げた。
「ちょ、ちょっと!な、なにするのよ!」
 朱儁が不満をあらわにすると、皇甫嵩はうっすらと笑みを浮かべて答えた。
「外出禁止と言うことは要するに運動するなということだ。だから、これが一番だろう」
皇甫嵩は不敵に笑うと、朱儁を抱きかかえたまま、病室から抜け出していったのだった。
「もう〜!義真のいじわる〜!」
 そう言った朱儁の顔は笑っていた。まるで雨上がりに咲く朝顔のように。
「これからも、よろしく頼むぞ、公偉!」
「うん!こっちこそ、よろしくねっ、義真!」
 朱儁の髪の一房はピンと跳ね上がっていた。

 
余談だが、この日、長身の男にお姫様だっこされた純白のドレスに身を包んだ少女が生徒に混ざって花火を見ていたという目撃情報が多く寄せられたが、真偽のほどは定かではない・・・・・・。



受験戦争に見事に敗北した雑号将軍、帰還致しました。まあ人生長いんでゆっくりやります。
ということで、旭記念日作品。なんとか仕上げました。もしかすると、もう閉祭してたり…。まあいいか。
とりあえず、一年近く書いていなかったので文章力が落ちてます。無かったのがさらに落ちてます…orz。また勉強し直しですね。
今度は卒業式だ〜!!

385KB
新着レスの表示

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50 read.htmlに切り替える ファイル管理

名前: E-mail(省略可)
画像:

削除パス:
img0ch(CGI)/3.1