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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド 二学期!★

1 名前:管理部:2007/01/07(日) 19:33
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投稿原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!
前スレ:ttp://gaksan2.s28.xrea.com/x/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=gakuenn&key=1013010064&ls=50

2 名前:管理部:2007/01/07(日) 19:34
本当は画像やらリンクやらを使った派手なトップを予定していたのですが、
規制中とあって二度も弾かれてしまい(;^_^A)
前スレの内容を引用しただけの物に落ち着きました。
・・・断固たる対応は勘弁して下さい (((( ;゚Д゚)))

3 名前:海月 亮:2007/01/07(日) 20:30
( ´・ω・`)つ旦
お疲れ様です。というかここも1000でストップだったのか…。


さてそういえば一月だけど、例の祭りはどうなるんだろ。
というかそもそもどれほど集まるか解らんけど…。
誰も祭りネタやる気配じゃなきゃここに落としますかね。

4 名前:韓芳:2007/01/09(火) 23:41
管理部様、ご苦労様です〜。
どのような画像なのか気になるところですが、その疑問は心の中にしまっておきます。

5 名前:7th:2007/01/23(火) 21:37
それは、幼稚な対抗心だったのかもしれない。
中学三年になってしばらく後、私は姉に引っ張られて帰宅部に入った。黙認されてはいるものの、学園の課外活動、通称「放課後乱世倶楽部」への参加は基本的に高校生になってからである。例え蒼天会長が参加を望んだとしても、高校生に達しない者ならば、本人の同意がなければ参加を強制する事は出来ない。
だから、これは私が望んだ事だ。同じく中学三年から、帰宅部総帥に請われて参加した姉への、ほんの些細な反抗心。
決定的に違うのは。姉は請われて、私は半ば姉に請う形でそうしたという事だ。
そうまでしてやろうとした事が何なのかに、私は長く気付けなかった。

―――今なら解る。あれはきっと、弱い私の精一杯の強がりだったのだと。




〜〜比翼の翼、連理の枝〜〜




漢中アスレチックへと至る道に秋風が奔る。
7月に端を発した漢中周辺での蒼天会と帰宅部連合間の緊張は、夏をまたいで9月に至ってついに爆発。アスレチックを包囲せんとする帰宅部に対し、蒼天会漢中方面最高責任者・夏侯淵は縦横に良く守り、事態は加熱の一途を辿りつつあった。
両者の全面対決へと発展しつつある中で、彼女はそこに居た。

諸葛喬と云う人物を客観的に評するならば、十中八九の人は「捻くれ者」と言うだろう。
事実、彼女の言動は素直とは銀河系とアンドロメダ星雲くらいの距離があるし、歯に衣着せぬ物言いは、彼女の姉がの一人が言うには、「ジョーズも裸足で逃げ出す」ほどのものと認識されている。
だが、その裏に純粋で真っ直ぐな心と、病弱である事のコンプレックスが有ることを知る者は少ない。
体が弱いが故に彼女は他人と等しくあろうとし、その方向の最初の一歩を踏み外した。彼女は強がりと本当の強さを履き違えたのだ。
以来、胸中の違和を虚勢と言葉の毒で覆い隠しつつ、人に疎まれながら彼女は生きてきた。
そして、これからもそうあるだろうと、そう思っていた。



―――私には姉が居る。
いつだって能天気で、おっちょこちょいで、早とちり。
周囲を否応無く巻き込んで、迷惑をかけて、謝って。
妹のはずの私より、ずっと子供っぽくて。

それでも、4人居る姉の中で、一番彼女に憧れた。

いつだって能天気で、おっちょこちょいで、早とちり。―――それは、私が失ってしまった心。
周囲を否応無く巻き込んで、迷惑をかけて、謝って。―――それは、私が出来ない行為。
妹のはずの私より、ずっと子供っぽくて。―――それは、私が塗り潰した純粋。

私と一緒に生まれた彼女は、私の持たないもの全てを持っている。
だから私は彼女が大嫌いで、―――同時にこれ以上ないくらい愛していた。

二律背反の心が体を狂わせる。狂った体が心を捻じ曲がらせる。
当然だ。だって私の心は、とうの昔から欠けていたのだから。



その日、彼女は体の不調を自覚していた。
普通の人にとっては取るに足りぬ程の不調。しかし、彼女にとっては決して無視できぬ事である。
公には病弱であるとしか言っていないが、彼女はもう一つ、確たる疾患を隠している。

心房中隔欠損症。心臓の壁に穴があり、動脈血に静脈血が混じってしまう疾患である。

彼女の場合は軽度であるためそこまで深刻ではないが、それでも少し過激な運動をすれば、体はあっという間に酸欠に陥り、最悪の場合チアノーゼから死に至るだろう。
そのため彼女は自らに過度の運動を禁じているし、病弱だからと言う理由で、それも通ってきた。
しかし、今は帰宅部の命運を賭けた一大決戦の渦中にある。病弱と言う事になっている彼女にも、公平に任務は回ってくる。
今彼女がいる此処も、抗争中の漢中アスレチック近辺。とはいえ、後方にある補給路だ。前線に立って縦横無尽に駆け回るより、遥かに運動量は少ない。任務をここに回してくれた上役の温情には、素直に感謝している。

それでも、うまくいかない時はある。

不意の出来事だった。
道の両脇、色付いた落葉樹の陰と茂みの中から現れた伏兵。
最初に一撃を受けた班は、態勢はおろか、呼吸を整える暇も無く打ち崩された。
「敵襲ーーーーッ!!!」
一班が壊滅し、矛先が次の班に向かうのと同時、我に返った誰かが絶叫する。だが、本来の狙いとは裏腹に、警告は混乱の引金となって響いた。
周囲がドミノ倒しのようにパニックに陥る中にあって、諸葛喬は冷静だった。
元々余り動く事が出来ない体であるためか、彼女は狼狽して走り出したりする事は無い。加えて、敵の補給路を狙うのは戦略の基本だ。その危険性には気付いていたものの、彼女はこの部隊の指揮に口を挟める程の地位には無い。精々が自分の班の頼りない班長の代わりに、10人程度の班員を指揮する程度が関の山だ。
兎に角、碌に戦力を持たない補給隊が生き残る術は、群れる事である。敵伏兵の数は多くは無い。まとまった数さえ揃えば防御も容易になり、異変を知った味方との合流まで、時間を稼げるはずだ。
一番近い大き目の集団までは50メートルほど。この程度なら行ける。そう確信し、
「全員、あの集団に合流するわ。走りなさい!」
駆け出した。最初の一歩に方向を定めてしまえば、後は自分より皆の方が身体能力で勝る。自然、自分が殿になるだろうが構わない。言いだしっぺがこの程度のリスクを負わねば、こんな年下で、しかも嫌われ者の言う事を信じ、従ってくれた皆に申し訳が立たないでは無いか―――
右手に竹刀を持ち、後ろを警戒しながら走る。距離の半ばを過ぎた辺りで、異変を覚える。緊張感も手伝ってか、何時もより疲労が激しい。それを自覚した刹那、急に胸が締め付けられた。
発作か、と苦痛に身を屈める。その上方、一瞬前まで体があった空間を、エアガンの弾が通過した。胸が痛まなければ、直撃だっただろう。
その幸運もつかの間、今度は竹刀を持った人影が迫る。身に降りかかろうとする危険を察し、痛みに混濁する意識で、疲労に屈しようとする体を強引に立て直す。苦痛に耐えながら、それでも意思と視線を真っ直ぐ相手に向ける。
勝ち目が無いのは明白である。それでも、この意思だけは曲げたくなかった。
振り下ろされる竹刀を、竹刀をかざして受けた。重い。このままでは耐え切る事は出来ないだろう。ならば、流せば良い。
息を吐いて、体から力を抜く。相手の力の方向をずらし、同時に自分の力は相手に向かわせる。初めての試みだったが、切羽詰った状況と、痛みによって極限まで研ぎ澄まされた精神がそれを可能にした。
行った、と確信した瞬間、更なる激痛が彼女を襲う。
こんな時に、と内心毒づくも、体は意識によるコントロールを完全に拒む。
為す術の無い彼女の体に、相手の竹刀が、無常にも振り下ろされた―――



失望と諦観が人を殺す。
闇色に塗り潰され、深遠へと落下していく意識の中で、彼女は。



 比翼の翼、連理の枝  前編「欠落、剥落、墜落」 了

6 名前:7th:2007/01/23(火) 21:47
あろうことかシリアスですよ奥さん……!

ご無沙汰しておりました。7thです。
今回のSSは、元々SSのリハビリ兼旭祭用だったものの成れの果てで御座います。しかも未完品。
まぁどう考えても旭祭向けではないのでこちらに投下させていただきました。
取り敢えず旭祭イコール創作推進期間、ということで一つ。
続きは近いうちに、といいたいところですが、何分最近忙しいですので、かなり間が空くかもしれません。
続きが読みたいという奇特な方は、気長に待っていただけると嬉しいです。

しかしシリアスって難しい。自分の芸風に合わないのかもしれません。

7 名前:韓芳:2007/01/24(水) 00:53
夢幻泡影

その少女は、平和に暮らせるはずだった。
あの日、あの時までは―――

「嘘じゃないわ。間違いない。」
「そこまで言うなら試してみるが、無駄だと思うぞ。」
「いいからお願い。」
ここはとある道場。ある少女の父親が代々受け継いできた場所である。
そこに、その少女と両親、親類達が集まっている。
「一応スポンジで出来ているから怪我はしないけど、ちょっと痛いかもしれないんだ。ごめんな。」
「うん・・・わかった。」
「じゃあ、いくぞ。」
そう言って父親はスポンジの剣を構え、少女の前に立った。
「無理に決まってる。」
「ああそうじゃ。手を抜いているとはいえ、まだ4つの子に避けられるはずが無い。」
誰もがそう思った。
手で顔を隠しつつも、指の間から覗いている人も居る。
父親は若干加減しつつ、剣を振り下ろした。

バン、と道場に鳴り響いた音。
誰もが少女の心配をした。だが・・・
「おっ、おい・・・嘘だろ・・・」
「まさか・・・」
「ね。言ったとおりでしょ。」
その少女は、父親の剣を見事にかわし、平然と立っていた。
「これは凄い・・・!もっとやってみてくれ!」
「あっ、ああ。」
父親は次々に剣を繰り出したが、少女はすべてかわしていた。
「これは・・・!」
「おい!この子は10年に1人の逸材だぞ!」
「明日からでも剣術を習わせるべきじゃ!」
「いや、剣術だけじゃなくほかの武術もだ!」
周りの大人は活気づいていた。
ただ少女のみ、この後の状況を把握できずに呆然と立ち尽くしていた。

それからと言うもの、毎日さまざまな道場へ通い、その力を十二分に発揮していった。
だが、
「もう嫌だよ!みんなと一緒に遊びたいよ!」
「駄目だ。今日は稽古の日だろ。」
「そんなの毎日じゃん!お母さんも何か言ってよー!」
「・・・」
「ほら、行くぞ。」
「何で何も言ってくれないの!?」
「静かにしろ!いい加減あきらめなさい。」
いつもこうだった。
その少女は遊ぶ暇も無く、毎日道場へ通わされていた。
少女の意見など通りもしなかった。
ただ、母親が何も言わないのがいつも気がかりだった。
そして、少女が中学1年生になったある日―――

少女は、すでに10個近くの武術を極め、もはや最強と言っても良い強さを持っていた。
ただ、その代償として感情をほとんど表には出さなくなっていた。
そんな時、母親がその少女を呼び出した。
「どうか致しましたか?」
「・・・そのしゃべり方はもうやめなさい。」
「あなたがそうするよう教えたのでしょう。」
部屋の中に夕日が差し込み、日が暮れようとしているのが良く分かった。
「そんなあなた、もう見てられない。耐えられない。あなたは私を許すことは無いかもしれないけれど、それでもいい。ここから逃げましょう!」
「えっ・・・?母上・・・?」
「嘘なんかじゃない。この数年、あなたと暮らすためにお金を貯めておいたのよ。さあ、2人でここから逃げ出しましょう。2人で暮らしましょう。」
母親は優しい顔と声で言った。
少女はしばらく呆然としていたが、ふと我に返ると涙目でこう言った。
「やっと・・・やっと自由に・・・!母上・・・!お母さん!」
ようやく掴んだ自由。もう、こんなつらい生活続けなくていい。これからは2人で生きていこう、そう思った。が。
「やはりか・・・。こっそり金を貯めていると思ったら、そういうことか。」
見ると、部屋の入り口に父親と親類数人が立っていた。皆、手には武器を持っている。
「!!お父さん・・・。」
「師匠と呼べ。・・・お仕置きが必要だな。」
「あなた、待って!話を聞いて!」
「問答無用だ。下手に逃げ出そうとすれば、お前といえども・・・斬る。」
そう言った父親の目は、冷たく憎悪がにじみ出ていた。
「さあ、こっちにおいで。稽古の時間だ。」
そう言って、父親は少女の腕をつかむ。
「あ・・・」
「だめよ!言っちゃ駄目!」
「邪魔をするな!」
父親はとっさに手にしていた剣を振りぬいた。
「あっ・・・」
薄暗い部屋に赤い雨が降った。

「し、しまった!おい、誰か!救急車を!」
「あ・・・ごめんね・・・ごめ・・ね・・・」
「お母さん!だめ、しっかりして!!」
だが傷は深く、出血の量も多い。誰の目に見ても死を感じずにはいられなかった。
「私が・・・あの時あんなことを・・・言わなければ、こんな・・・」
「もういい!お願い、しゃべらないで・・・!」
父親も親類も、母親から目を背けていた。
「ごめんね・・・ごめ・・・ほ・・・」
「お母さん・・・?・・・お母さん!」
だが、返事は無かった。
「・・・すまない・・・」
「・・・一緒に暮らすって・・・言ったのに・・・!」
その少女の目に、涙が光っていた。もう、何年ぶりだろうか。
「悪気は無かったんだ。許してくれ・・・」
少女が変わった。

8 名前:韓芳:2007/01/24(水) 00:54
『じ・・・者・・し・・・』
心の奥底から声が聞こえてくる。不思議と心地がいい。
「・・・さない。」
「!おっ、落ち着け!」
部屋の空気が変わった。
さっきまでとは違い、刺々しく背筋に寒気を覚えるような感じだ。
その手には木刀が握られていた。
「母さんを・・・よくも!」
『邪・・者は・・・してやる』
そうだ。私は戦うために居るんだ。そう、思えるような声。
もう、何も考えられない――
「落ち着け!」
「そうだ!これでは、今までの修行の甲斐が無い。」
それらの声は、少女には届かなかった。
「木刀を捨てろ!でないと私はお前も―――」
「うるさい!・・・みんな・・・みんな・・・」
   『邪魔者は殺してやる!』
「殺してやる!」
少女は父親へと突っ込んだ。
「くっっ!仕方ない!」
父親は一気に剣を振りぬいた。持っている力をすべて込めて。
だが次の瞬間、父親の体は宙を舞い、そのまま意識を失って倒れこんだ。
何が起こったか何をしたか、誰にも分からなかった。
「なっ、何と言うことを・・・」
「うっっ、うわぁぁ!けっ、警察を呼べー!」
「逃げろー!!」
「逃がさない!・・・全員殺す!」

この一件後、少女は一時的に少年院に入れられたのち、遠い親類の家に預けられることになった。
だが、ほとんどの家で「このような子は預かれない」と言われ、たらいまわしにされることが多く、ほとんど野宿に近い日々をすごしていた。
そうしているうちに1年が過ぎた―――

「ふぅ。・・・もう少しやっておくか。」
少女は夜の公園で剣の素振りを行っていた。
親類の家に居ても、色々悪口を言われるだけで、体を休めることが出来ないからである。
そこへ、数人の男女が公園へやってきた。
「ちょっと!やめなさい!」
「なんだと!5人もやりやがったくせに!」
「それはそっちがふっかけてきたからでしょ!」
「んだと!?」
見ると、1人の女性に5・6人の男が集っている。
その女性は、遠くからだが少しかわいく見えた。
「・・・まあ、軽い運動にはなるか。」
そう言うと、その少女はもめている集団の方へと歩いていった――

「もう。離しなさいよ!」
「けっ。お前にはこれからたっぷりし返ししてやるぜ。」
「覚悟しろよ。」
「くっ・・・。」
もうだめだ・・・そう思った次の瞬間。1人の男が倒れていた。
「なっ、何?てめえ誰だ!」
「さあ・・・な。」
「野郎!」
集団の一人が殴りかかっていった。が、次の瞬間には男は3メートルほど吹き飛ばされ、気を失っていた。
「こいつ・・・強い!」
「・・・なんだ、弱すぎるな。面倒だから全員で来なよ。」
「くそっ!言われなくとも行ってやるぜ!」

「助けてくれてありがとうね。」
「・・・別に。」
再び静まり返った公園のベンチで、助けた女性の迎えが来るのを待っていた。
「あなた強いのね。まあ、私が本気を出せばあんなやつら10秒でやっちゃうけどね。それで、あなた名前は?」
「私・・・は・・・」
「あ、そうだ。私はね、て――」
遠くで車クラクションの音が聞こえた。
「あら?もう迎えが来たみたい。」
「あ・・・ああ・・・そうだな。」
「もう、無口なんだから!・・・そうだ!今度遊びにおいでよ。今日のお礼するからさ。」
「え・・・えっと・・・」
「ねえ、いいでしょ?」
その女性はじっと少女を見つめている。
これほど間近で人に見られたのはいつ振りだろうか。
少し恥ずかしくなってきた。
「じゃ、じゃあ・・・よろしくたのむ・・・」
「決まりね!じゃあ、またね!」
「ああ、また・・・」
そうしてその女性は帰っていった。
ある少女に満面の笑みを残して―――

「・・・様。り・・様!」
「う・・・ん?」
「起きてください、呂布様!」
「ん?どうした陳宮?」
そこはいつもの棟長室だった。
昼間とはいえ、1月の下丕は結構肌寒い。
「どうしたじゃなくて。『今日は祭りだ!』って言って騒いでたのはあなたでしょう?」
「ああ、そうか。・・・夢を見ていたのか。」
「夢、ですか?」
「ふっ・・・結局可愛かったのは印象だけだったなぁ〜。」
「へ?誰が?」
「なんでもない!じゃあ行くか、陳宮!」
「え、ちょっと!何をする気なんですか?」
あわてる陳宮をよそに呂布は、
「武芸大会に決まっているだろう!」
そう笑顔で答えた。

その後、ある少女は助けた女性の元で暮らしていたという。
大きな戦乱に巻き込まれるとは露ほども知らずに。

これは、ある少女の物語――

9 名前:韓芳:2007/01/24(水) 00:58
便乗して私も(ぉぃ
実は、これでも祭り期間に書いてみたんです。
ええ、雰囲気ぶち壊しですごめんなさいm(_ _)m
とりあえず、祭りとは別の休みの日ってことで・・・(汗

>7th様
お疲れ様です〜。
いや、いいと思いますよ、お世辞じゃなくて。
『ジョーズが素足で逃げ出す』に、ちょっとウケましたw
次回作、ゆっくり待たせていただきます。

10 名前:冷霊:2007/01/24(水) 10:48
白い吐息

「ちっ……クソッ!」
冷苞は壁に拳を叩きつけた。
何度も、何度も。
ここはフ水門、益州校区の中心たる成都棟へ向かうには、避けて通れない要所である。
劉循の守るラク棟に続くその門を守っていたのは冷苞、そしてトウ賢であった。
そして今、フ水にいるのは彼女一人である。
魏延と黄忠の夜襲に対し、二人は善戦空しく劉備軍に捕らわれた。
だが、トウ賢はその際に怪我を負い、脱出不可能。
結局、冷苞は一人で逃げてきたのだ。
トウ賢を一人、敵陣において。
冷苞の口から白い吐息が漏れる。
「……お前の力、借りるぜ……」
冷苞はグッと拳を握り締めた。
その手の中には丁寧に描かれた図面が握り締められていた。


ガラリと扉が開けられた。
「トウ賢、調子はどう?」
聞こえてきたのは懐かしい声。
だけど聞きたくなかった声。
彼女は扉に背を向け、窓の外を見る。
「ここでは診療は出来ないけど、ホウ統の話だと折れてるかもしれないそうよ」
コツリコツリと一歩ずつ近付いてくる。
椅子の擦れる音。
「まだ高校にもなってないのに引退するつもり?あんた、ここに何しに来たのよ」
突き刺さる言葉。
だけど答えるべき言葉は持っていない。
「あの子じゃもうダメなのはわかってるでしょ?益州校区には新しい風が必要なのよ」
ぎゅ……。
孟達の言葉に思わず拳を握り締める。
「今ならまだ間に合うわよ。従姉妹なんだし、劉備さんにはあたしから話をつけたげるから……」
「ねぇ」
トウ賢の声が孟達の声を遮った。
「達姉、一つ聞いていい?」
「……どうぞ」
「達姉は今、楽しいかい?」
「は?」
予想外の問いに空気が止まる。
そしてその沈黙は孟達の笑い声によって破られた。
「あははははっ!楽しいかどうかなんてどうでもいいじゃない」
孟達が一つ溜息を着く。
「いい?楽しい学園生活ってのは皆の平等の上に成り立つものなの。そして能力のある者が正しい評価をされることこそ平等……それが出来るのは劉備さんだけ。間違ってる?」
孟達が自信有り気に言い放つ。
だが、トウ賢からの反応はない。
「もういい……わかったわ。劉備さんにあんたの意思、伝えてくるわ」
「その必要はねーよ」
去ろうとしたその背中にトウ賢の声が聞こえた。
「この戦いの結果次第って伝えといて。以上」
「……わかったわ。伝えとく」
がらりと扉が閉まる。
誰もいない部屋でトウ賢が一人呟く。
「劉備を止めるのはあたしじゃ無理だ……けど……」
ぎゅっと毛布を握り締める。
「……皆の想いだけはゼッテー忘れねーから」
噛み締めた唇からはいつの間にか血が滲んでいた。


「やっぱ寒ぃな……上着くれぇ持ってきときゃ良かった……」
冷苞は白い吐息で指先を暖めた。
本来なら暖房機器のおかげでフ水門周辺は暖かいはずである。
元々、寒くなり易いこの辺りは生徒の要望もあって暖房機器が多く設置されている。
「前準備はばっちりっつーことか……」
夜を迎えた学園内でも寒いということは電気系統は死んでいるということである。
おそらく、トウ賢が前以てやっておいてくれたのだろう。
電気系統の知識なら益州校区でトウ賢の右に出る者はなかなかいない。
そして冷苞が向かっているのはフ水門管理棟の屋上に設置された非常用の貯水槽。
ここを壊せばフ水門は水浸し、一晩もしない内に氷に閉ざされる。
氷を溶かさない限り、劉備軍は進むことも出来ず、やがて退路を絶たれて自滅する。
元は巨大なスケートリンクを作る為に皆で考えていた方法だ。
「オレが必ず成功させてやる……時間をかせぎゃあいいんだ……益州の連中が一枚岩になれるだけの……」
まるで呪文のように呟きながら一段ずつ階段を上っていく。
付き従う者は誰もいない。
だが、悪い考えが思い浮かぶ。
もし、貯水槽のことをホウ統が知っていたとしたら。
もし、電気系統の死んでいる原因を調べてられていたとしたら。
「今更、“もし”を考えても仕方ねぇよな……」
屋上へと続く階段を上り終え、扉の前に立つ。
ノブを握るとキンと冷たい。
扉は大した抵抗もなく、あっさりと開いた。
「やっと来たね、待ち草臥れたよ」
冷苞に聞き覚えのある声が投げかけられる。
「昨日の借り、返させてもらいにきたわ」
そこにいたのは黄忠と魏延。
「考え直す気は……って聞くだけ野暮だろうね」
「オレは器用じゃないからね、アンタらみてぇにさ」
冷苞が僅かに口の端を緩め、魏延に視線を向ける。
「そっちの猪には昨日勝ったからどうとでもなる」
「ちょ、猪って何よ!」
魏延が食って掛かろうとするが黄忠がそれを制止する。
「でもよ……」
冷苞が視線を黄忠へと移した。
「オバサン、アンタとはまだ正面からやり合ってねぇだろ」
「……いいよ、かかって来な」
黄忠が得物を水平に構える。
笑みを浮かべる冷苞の口の端から白い吐息が漏れた。

11 名前:冷霊:2007/01/24(水) 11:08
管理部様御苦労様です。
そして更に便乗して私も投下……一先ずお久し振りですw
ネタが思いっ切り被ってしまいましたが、他に良い策が思いつかず、そのまま行ってしまいました(割腹)
後は葭萌関の攻防とかいろいろと書きたいなぁとは思っておりますが、

>7th様
おおっ、諸葛喬ですかー。
ホント、惜しい人物って早世しちゃいますよねぇ……
続きがとても気になりますー、のんびりと待たせて頂きますですよー。

>韓芳様
人に歴史あり、ですね。
まさか彼女にそのような過去があろうとは……
そして絡まれていた女性はもしかして……?
その頃のことはあまり詳しくはないので、ちと気になるところですねー。
お疲れ様でしたー。

12 名前:韓芳:2007/01/31(水) 00:52
>冷霊様
『冷苞…』と、思わず声に出してしまいました。
冷苞かっこいい…!
見方を変えれば、やっぱりどの人も格好よく見えるものなんですね。
お疲れ様です。

本物の過去を調べたんですけど(ちょっとだけ)、全然分からなかったので自分なりに考えてみました。
てか、呂布軍団しか書いてない… 私、呂布軍団好きなんだなぁ…

13 名前:彩鳳:2007/02/22(木) 22:24

『王者の征途』

序章『嵐の予感』

 曹操率いる蒼天学園・連合生徒会の北伐部隊と烏丸高校の抗争が終結してから、およそ1週間が過ぎ、学園は間もなく10月を迎えようとしていた。
 夏の余韻は完全に消え去り、秋らしい涼風が色付き始めた木の葉を揺さぶっている。
 
 本格的な秋の訪れは、学園内に漂う張り詰めた空気を一掃させていた。
 袁紹の引退を契機に曹操が河北侵攻を開始してからというもの、冀州校区・并州校区・幽州校区の各地で戦闘が連続し、学園内には緊張した空気が張り詰めたままであった。ようやく、先日になって北への攻勢が終結して学園内――特に黄河以北の地域――の空気は緊張感から開放されたのである。
 混乱続きの蒼天学園に穏やかな日常生活が戻ってきたのは、夏休みも含めておよそ四ヶ月ぶりのことである。生徒たちは烏丸高校との抗争が沈静化したことを喜び、開放感あふれる日々を満喫していた。
 だが、ほとんどの生徒たちは知っている。この平穏な日々が「嵐の前の静けさ」に過ぎないことを。次の嵐が、そう遠くない日に吹き荒れることを。
 嵐の訪れを予感しているためか、生徒たちは秋空の下“楽しまなくちゃ損”と言わんばかりの日常生活を送っている。そのほとんどが口にこそ出さないが、心の中で願っていた。
『この穏やかな日々が、一日でも長く続いて欲しい・・・』
 叶わぬ願いであることは皆が理解している。だから口には出さない。だが、それでも願わずにはいられない。混乱期の一般生徒たちが抱えた悲痛な願いである。
 だが、彼女らの願いが一旦実現するのは、三国時代が終結する数年先のことである。それまで蒼天学園の生徒たちは、戦乱の続く嵐の時代を過ごすことになる。
 その「嵐の時代」すなわち三国時代の始まりを告げる『赤壁島決戦』の序章、曹操の荊州校区侵攻が、間もなく始まろうとしていた・・・。

14 名前:補足説明:2007/02/22(木) 22:24
 正確に言うと、湖南地域では孫権率いる長湖部と荊州校区の間で紛争が頻発しており、学園内は完全に平和な状態ではありません。ですが、当時の孫権は揚州校区を束ねる立場に過ぎず、学園全体に与える影響力、あるいは生徒たちの注目度、といった部分で曹操に遠く及びません。
それに、江夏近辺の紛争は所詮地域レベルですので、現地の面々以外に注目する物好きもあまりいないでしょう。
(某勢力の参謀陣は違うと思いますが)


 さて、拙作『王者の征途』では曹操の荊州侵攻を扱います。正史準拠・・・と言えるかどうかは
相当怪しいですが、皆様がお楽しみいただけるように努力したいと思います。
 次の第一部は明後日に載せる予定です。

15 名前:雑号将軍:2007/02/25(日) 22:09
お久しぶりです。雑号将軍と申す者です。久々に感想などを…。

>7th様
諸葛喬ですね。彼(彼女)はなんというのか諸葛瑾の生き写しのような印象を持ってたりします。
なにはともあれ、蜀の中ではかなりの人物だった故に悲しいことです。

>冷霊様
冷苞将軍は自分の中ではすごい強い印象があります。三國志シリーズで常に先陣を切って敵陣に突っ込んでいます。
まあ、自分が常に劉璋を使うからかもしれませんけど。もし冷苞が劉備軍にいたとしたらと時々考えたりする雑号将軍であります。

>韓芳様
呂将軍、格好良いですなあ。そういえば、高順とかって呂布はどこでであったんでしょうね。張遼は丁原繋がりだった気がしますが…。
あと、韓芳様の中では呂将軍の流派って決まっているのでしょうか?やはり我流なのでしょうか?

16 名前:彩鳳:2007/02/25(日) 23:24
『王者の征途』

 第一章 『高まるうねり』

 その日、曹操を中心とする「嵐を起こす者」たちは鄴棟―冀州学院校区の中枢―の連合生徒会総本部にいた。

 鄴棟は冀州学院最大の校舎で、かつては袁紹が、現在は曹操が本拠地として活用している巨大校舎だ。黄巾革命の大乱で一度激しく荒廃したが、革命から二年が経った今では以前の賑わいを取り戻し、蒼天学園でも有数の大校舎となっている。
 その巨大校舎の廊下に響く、間の抜けた歌。
「しぃ〜っぷう(疾風)万里〜♪ れぇ〜んごう(連合)会〜♪ め〜ぇざす〜ぅ(目指す)は湖南♪ さぁ〜いそ〜ぉ(柴桑)棟〜♪」
「・・・・・・何歌ってんのさ」
 聞いたら誰もが沈黙すること請け合いの『ハ○イ大海戦』の替え歌に、生徒会執行部長・夏候惇は顔をしかめた。曹操の傍という位置関係上、脱力しつつも仕方なくツッこんだのだが、
(こんなのにウケる奴がいたら、相当変な奴だ。絶対に)
と心の中で思っている。廊下に二人だけしかいないのは、不幸中の幸いだ。だが、当の曹操は彼女の胸中を知ってか知らずか、
「え? 南征軍の賛歌。さっき思いついたの」
と言う始末。
「とりあえず、アンタの発想力に敬意を表することにするよ・・・」
 事ここに至っては、もはや多くを語る必要はあるまい。一体何を言えというのか。「馬鹿と天才は紙一重」と先人たちは言うが、その通りだとつくづく痛感させられる。どちらも結局は「変人」だ。
古くからの付き合いではあるが、こういう“変人モード”の時の曹操は、剣道一直線の夏候惇にはどうにも扱いにくい相手である。その天真爛漫さが、彼女の幼げな容姿に似合っているのが救いといえば救いか。
(まったく、昔から複雑な奴なのは分かってるんだけど。どうもやりづらい・・・)
 夏候惇の思考を遮るように、曹操が口を開く。
「も〜さっきから黙っちゃって。どうせ見た目と実年齢が、とか思ってんでしょ?」
 曹操が鋭いのは昔からだが、こういうところで得意技を発揮するのは勘弁して欲しいものだ。まあ、古い付き合いだけに仕方ないが。諦めたように夏候惇は口を開く。
「まあね。私や幹部連中の前ならまだいいけど、下級生たちの前ではやめときな。あんたのファンが泣く」
「も〜元譲は心配しすぎだよ! そんなことするワケないのに〜」
 そうやって無駄にムクれる姿は可愛らしいのだが、それはさて置き確かに曹操がそんなバカをやらかす心配は無いだろう。・・・・・・酒が回ったりしない限りは。まあ、年末年始はまだまだ先だ。もっとも、これから始まる大攻勢が成功裏に終われば、祝勝会で暴走する危険性は―――。
 考えるのはやめにしよう。夏候惇は自分の思考を打ち消した。これから始まる戦の後のことなど、戦の前から想像するべきではない。何が起こるかわからないのが戦だ。自分たちが官渡で証明したではないか。 
「まあ、ここまで来たんだから、今は作戦に集中しないとね」
「・・・・・・そうだね」
 先ほどのムクれた姿から、打って変わった曹操の一言。
 切り替えの早さもさることながら、こっちの考えを見透かしたかのように「作戦に集中しないと」ときた。
(これが孟徳の覇者たる所以、ってことなの・・・・・・かな?) 
 曹操の奇才(鬼才)ぶりは重々承知している夏候惇だが、事あるごとにこの古馴染みに振り回されてしまう。
(困った奴だけど、なんだかんだで敵わないんだよなぁ。やれやれ)
 そう思いつつも、不思議と不快感は感じずにいる夏候惇だった。結局のところ、彼女はこの騒々しい古馴染みを気に入っているのだ。

 曹操と夏候惇が入室した大会議室には、既に荊州侵攻作戦の最終打ち合わせのため、多くの連合会幹部たちが集合していた。
「それでは、全員揃いましたので、南方作戦の最終確認を始めたいと思います」
 口を開いたのはドレードマークのストールが印象的な議長役の荀掾B彼女は曹操の参謀長的存在だ。
 同時に、情報参謀役の賈詡がノートPC直結の大型スクリーンを操作し、スクリーンに大型の地図が映し出された。続いて荀揩ェ皆に作戦内容の確認を促すべく、作戦の概要を話し始める。
 10月初旬に発動される「ホッホヴァッサー」(Hoch Wasser=高潮作戦)。これが曹操と彼女を支える強力参謀陣が創り上げた南方侵攻作戦の名称である。
 作戦は3つの段階に分かれているが、大まかな流れは簡単だ。
 荊州校区と司隷校区及び豫州校区の境界部から一挙に大兵力をもって南下し、荊州校区の中枢である襄陽棟・江陵棟を制圧するまでが第一段階。
 そして、旧劉表(現劉N)陣営の取り込みを行い、同時に占領地域の安定化を図るのが第二段階。
 然るべき足場固めを行った後、長湖に面した江陵棟を拠点にして水陸両面から東進し、孫権率いる長湖部を屈服させるのが第三段階である。
 この作戦が成功すれば、連合生徒会に敵対する主な勢力は一掃され、残る勢力は馬騰率いる涼州校区の陸上連合会と、劉璋が生徒会長を務める益州校区の二つとなる。
 どちらの勢力も、追い詰められれば激しく抵抗する事が予測される。しかし、荊州・揚州校区を併合した連合会の大兵力を相手にすれば勝てないと参謀たちは考えている。第二次大戦時の東部戦線が良い例だ。
 東部戦線の戦いは、独ソ両軍合わせて600万以上(クルスク戦時は1000万以上)の将兵が激突した大規模なものであった。ドイツ軍は1941年の独ソ開戦までにポーランド・フランス・バルカン半島での戦闘を経験しており、将兵たちの戦闘能力はソ連赤軍を遥かに超えていた。事実、開戦直後のドイツ軍は圧倒的な勢いで進撃している。しかし、数で勝る赤軍に激しい抵抗と消耗を強いられ、1943年夏のツィタデル作戦(城塞作戦=クルスク大会戦)以降は完全に戦争の主導権を失うことになる。劣勢に立たされたドイツ軍はなおも自軍を上回る損害を赤軍に与え続けたが、雲霞のごとき赤軍の前に補充が追いつかずに戦力差は広がり、戦線は後退する一方であった。そして1945年5月の終戦により、彼らの祖国は東西分割の憂き目に遭ったのである。
 ドイツ軍の末路が良い教訓である。ゆえに参謀たちの考えは一つの点で一致していた。物量で勝る以上、多少てこずっても物量に限界のある相手に負けることは無い。最終的には勝者の座を獲得できる、と。もちろん、西方へ進出するのは荊州・揚州の両校区を押さえてからの話だが、蒼天学園を制覇するまでの道のりを考えるのが戦略に携わる参謀たちの仕事である。この辺りは目の前の仕事(戦闘)に集中する夏候惇のような軍人肌の人間たちと決定的に異なる部分だと言えよう。

17 名前:第一章Part2:2007/02/25(日) 23:25
自軍の戦略方針を一通り話し終えたところで、荀揩ヘ戦術面へ話を向ける。
「私たちが当面集中すべき作戦第一段階ですが、特に重要なのは生徒会長の劉N以下、荊州校区の生徒会幹部たちを確保することにあります。次の第二段階での無用な時間を取られないためにも、彼女らの口から降伏を宣言させなければなりません。もっとも、既に荊州校区内に浸透している者たちの報告では、降伏論が大勢を占めているようですが」
「ですが〜〜〜♪ 襄陽から逃げられると〜〜〜♪ 後始末に手が掛かりますから〜〜〜♪」
「作戦発動と同時に荊州校区に強行突入、快速部隊を投入して襄陽を電撃制圧する。逃走する猶予など与えない。反撃する猶予も与えない。与えるのは降伏か、引退かの選択権のみと言うわけだ」
 荀揩フ言葉を荀攸、程Gの二人が補足する。二人は荀揩粫ノ詡と共に曹操を支える“カルテット”のメンバーである。つい先日までは郭嘉を加えた“クインテット”として機能していたのだが、その郭嘉は北伐直後の発病により入院生活を余儀なくされている。
 郭嘉の発病リタイアは非常に痛い。彼女を知る全員が残念がっているが、それほど悲観しているわけではなかった。郭嘉抜きの状態でも、参謀陣の実力は他勢力のそれを大きく上回っていると誰もが思っていたうえ、北伐に伴い旧袁家ファミリーの人材や司馬懿・蒋済といった期待の下級生が加わり、郭嘉の抜けた穴は埋められようとしている状態だったのだ。
 もっとも、総合力を高めて郭嘉の穴を埋めることは出来ても、郭嘉本人になることは誰にも出来ないのだが。
 戦術方針の確認が終わると、会議の議題は戦術レベルの話へ移る。作戦参加部隊の編成表を見ながら、曹操が口を開いた。
「それじゃあ、次は誰に先陣を任せるかについてだけど―――」
 言うや否や、会議室内にいる武官たちの視線が曹操に集中する。個々の実力差はあれど(極めて高いレベルでの差ではあるが)腕に自身のある彼女らはみな、軍の先鋒を務める名誉を欲しているのだ。
 各人の見せる意欲の高さに満足しつつ、曹操が口を開いた。
「―――今回の先陣は文謙にお願いするわ。」
 僅かな一瞬だが、曹操の決定に誰もが「やはり」と言いたげな気配を放つ。小柄だが歴戦の彼女の突進力や実績は誰もが認めるところだ。
 当の彼女は何食わぬ顔のまま、その大きな瞳で曹操を見据えた。
「喜んで引き受けます。どのくらいの兵力を私に預けて下さるのですか?」 
 楽進の問いに、曹操ではなく情報参謀の賈詡が答えた。
「兵力ですが、バイク部隊100名を予定しています。何かご意見は?」
「後続の援護は?」
 楽進の懸念は当然である。バイク部隊は突破攻撃の切り札だが、後続部隊の援護がなければ敵中で孤立してしまう。最悪の場合は全滅、良くてもバイクを放棄して徒歩で脱出、という事態を覚悟しなければならない。
「ご心配には及びません。張[合β]さんの武装風紀を後続させる予定です。事後承諾になりますがお願いしてよろしいですね? 張[合β]さん」
「おや? 私の出番か。喜んで」
 自分の出番になるとは思わなかったようだが、あっさり承諾する張[合β]。一見楽進の補助員的役回りだが、彼女は先を読んでいる。その先の展開を読み、美味しい役回りなのを察した上で「それで、ウチの隊の戦力は?」と賈詡の言葉を引き出しにかかった。
「武装風紀100名に執行部員の精鋭50名、合わせて150名を預けます。襄陽棟を制圧して、荊州校区のトップたちを確保してください。戦闘序列は二番手ですが、非常に重要な役目です。気を悪くしないでくださいね」
 もちろん気を悪くなどする筈がなく「承知した」の一言だけ張[合β]は口にした。その一言で十分だった。
 二人のやり取り以降も、会議は平和裏に進んだ。激しい口論など起こらずに、会議は淡々と進んでゆく。皆が参謀陣の力量を認めているためだがもう一つ、作戦案を曹操が承認しているためでもあった。ここで参謀たちに反論するのは、曹操に反論するも同然だ。
 もっとも、いざとなれば指揮官たちは現地での独断専行を辞さないつもりだ。それだけの実績や勝負勘をすでに指揮官たちは備えている。

 一方、最高指揮官である曹操は、目の前で続く幹部たちのやり取りを眺めつつ(もちろん、注意して聞いてるよ? 司令官だからね)脳裏で南征軍の行軍ルートに思いを馳せていた。
 荊州侵攻から揚州制圧に至るまで、勝算はあるが全てが順調に進むとは思わない。その困難な作戦目標を成功させるために必要な拠点が幾つか存在する。
 まずは荊州校区の中枢である襄陽棟。次に長湖に面した荊州校区の水運拠点である江陵棟。そして長湖部の本部が置かれている揚州校区の柴桑棟。この三箇所は特に重要な拠点である。
 ここで地図を見てみよう。(準備できなくてごめんネ♪)
 曹操のいる鄴棟から南西へ進むと、蒼天会本部の置かれた許昌棟だ。その許昌棟から更に南西へ進むと襄陽棟へ至る。襄陽棟から南へ向かうと江陵棟で、同地で大きく進路を転じて東へ向かうと柴桑棟だ。
 この、鄴から許昌・襄陽・江陵を経由して柴桑に至る「し」の字を斜めにしたような線こそ、曹操が思い描く南征軍主力の進撃ルートである。
 そして彼女は、この進撃ルートに自分だけの名前を密かに付けていた。

 『ロイヤル・ロード』(Royal Load)。その意味は『王者の征途』。

 このネーミングについて、曹操は誰にも口にしていない。パートナーの夏候惇に対しても。誰にも言わないでいるシークレット事項である。周囲に笑われそうだから、という理由ではない。誰にも言いたくなかったから、自分一人の構想のまま封印しておきたったからである。
 南征軍の進撃が始まれば、荊州校区・揚州校区での交戦は必然。戦闘は避けられない。それも、官渡公園以来の大規模決戦になると予想される。
 その「決戦」に至り、勝利するために歩むべき道に、曹操は「ロイヤル・ロード」という名前を与えたのである。
 蒼天学園の行方も、曹操たちの行方も「決戦」の結果によって決定するだろう。
『―――決定するだろうけど、またどこかで烏巣のようなコトが起こりそうだねぇ・・・・・・』
 声に出さず、そのまま口の中で曹操は小さく呟いた。彼女の脳裏に浮かび上がるのは、自ら指揮した烏巣襲撃作戦の光景だ。あの決戦からもう半年が経ったが、忘れなどするものか。あのときの記憶は今でも鮮明なままだ。あの時の烏巣襲撃と、それに連鎖した官渡決戦の大逆転劇は、大津波のように巨大な衝撃となって全校を震撼させたものだった。
 今回もまた然り。戦いのどこかで烏巣の時のような「戦機」が訪れるはず。それを見逃してはいけないと、曹操は固く誓う。
『今度の南征で、蒼天学園の帰趨を決めてみせる。私たちが『王者の征途』を歩むとき、全校は固唾を飲んで見守るがいい・・・!』
 彼女の呟きを耳にしたものはいない。しかし、曹操が派手に仕掛けるつもりでいることは、室内の誰もが理解していた。

18 名前:作者補足:2007/02/25(日) 23:36
 こんばんは。彩鳳です。投稿が一日遅れてしまいました。
 投稿が遅れた以上に申し訳ないのは地図がないことです。(本文では代わりに曹操に謝ってもらいましたが)
 救いなのは、大都市ゆえに現代の地図でも補足できることでしょうか。

 さて、連合会が準備している「高潮作戦」ですが話の展開上、本当は「高潮」ではなく「満潮」作戦としたかったのです。
 が、ドイツ語の「満ち潮」って何て書くんでしょう?(滝汗)
 英語なら(Flood Tide)になります。Hoch Wasser(=洪水・高潮)は私の辞書(1972年 同学社)でフォロー出来たのですが。
 
 某架空戦記で描写されたソロモン諸島の某島を巡る戦いのように、「ハイ・タイド」(High Tide=高潮作戦)でもまあ良いかと思い、上記の作戦名になりました。
 私の電子辞書では(高潮=Tidal Wave もしくはSpring Tide)になっていますけどね。う〜む。

 何はともあれ、第2話から連合会の繰り出す津波のような強襲戦法が炸裂する予定であります。
 次の赤壁島決戦のことを考えると、連合会側としては荊州は速攻で落として赤壁戦に時間を割きたいでしょう。
 既に時期が10月なので、これ以上遅れると水上決戦が出来るかどうか怪しいですし。(辛うじて泳げる水温ですか?)
 
 そして、この寿司詰め状態のスケジュールに敢えて目を瞑っての決戦強行(つまりは連合会の焦り)が
赤壁での挫折に繋がるのでは・・・と私は愚考しております。(史実も似たようなものでしたし)

 ちなみに私は赤壁島決戦のプロットは全然考えておりません。(核爆)
 ただ、どなたが書くにせよ(対陣→両軍の駆け引き→決戦)の流れが一日二日の短期決戦で片付くとは到底思えないので
 荊州攻撃は速攻策で、という事に致しました。赤壁島決戦は最低でも一週間は必要になると思います。

 学園年表の流れから考えて、曹操の荊州攻撃が10月初旬、赤壁島決戦が同月中旬〜下旬(二週間程度か?)
と思ったのですが、果たして・・・。

○追記
「ハワイ大海戦」は作詞:北原白秋  作曲:海軍軍楽隊による戦時中の軍歌です。

19 名前:彩鳳:2007/02/25(日) 23:53
 俺はなんて馬鹿なんだ・・・。Load→Roadの間違いです。お恥ずかしい。
 これ以外にスペルの間違いは無いと思いますが、あったらご遠慮なく指摘してください。

20 名前:韓芳:2007/02/26(月) 00:53
>彩鳳様
第1章お疲れ様です。
外国語が苦手な私は、間違いに気付くどころかまず読めませんでした…ダメじゃん…orz
でも、今後曹操の参謀陣がさまざまな事態をどう乗り越えていくか見物ですね〜。
続き期待してます。

>雑号将軍様
私の中で呂布はやっぱり我流ですね。
さまざまな武術を習得→1回の戦闘にさまざまな流派の技を出すようになる→面影は残しつつも元の形とは違う技になる(我流
↑みたいな感じで。
改めて考えると、少し強引…

21 名前:彩鳳:2007/03/01(木) 01:38
『王者の征途』

第二章 『嵐は三たび』

 蒼天学園の構内は、再び緊張感が高まり始めている。
 10月が始まって僅かな日数しか経ってはいない。しかし、荊州校区から司隷校区・豫州校区にかけての一帯は、厳戒体制さながらの緊張感に包まれている。
 特にそれが顕著なのは荊州校区の北方、連合会との境界地帯だ。現地ではいくつもの小戦隊(国境警備隊に相当)が配置に付き、曹操の南下に目を光らせている。境界の向こう側には曹操の率いる蒼天会の大兵団が集結している。そのことは配置に付いている全員が知っていた。
 あとはもう、来るのが早いか遅いか、それだけの違いでしかない。

「来るとしたら今日かと思っていましたけど…来ませんね」 
 警戒班の一人(以降班員A)が、班長に話しかけた。
 今日は土曜日。大きな作戦を行うには絶好の週末である。しかし、太陽はすでに南の空を通り過ぎ、時計の針は午後二時の位置へ近付きつつあった。朝から厳戒体制を敷いていた警戒部隊の全員が、拍子抜けした気分を味わっている。
「まだ、来ないと決まった訳じゃないわよ…」
立場上『もう来ないと思うけど』とは言わずにおいたが、班長の言葉にはそう言いたげな響きがある。
『秋の空は釣瓶落とし』と言うが、10月の日の入りは早い。日が沈むのは夕方の五時二十分頃。あと三時間半ほどしかない。いま目の前で蒼天会の連中が動き出したとしても、もう遅すぎる。残された三時間半でどれだけのことが出来るというのか?
 幾多の修羅場をかいくぐってきた連合会の人間なら『何でもできるさ!』と言うだろう。しかし、彼女たちは校区境界部で時たま起こる紛争や治安維持など、実戦と呼ぶに値しない“荒事”に従事した経験しか持っていなかった。荊州校区内でそういった修羅場を知る人間といえば、長湖部と相対している黄祖とその麾下の者たちくらいだろう。先日の抗争で飛ばされてしまったが。
「ああ・・・せっかくの週末がこんなコトに・・・」
 いつ来るか分からない敵のために、私たちの週末が消えてゆく。警戒任務に付いている者たちの士気は決して高くなかった。
 姿こそ見えないが、目の前には蒼天会の大部隊がいるのである。校区境界部の警備班程度で太刀打ちできる訳がない。こういう時こと待機している(はずの)主力部隊の出番だというのに、その姿は影も形もない。
「一体どうなってるの・・・」
 圧倒的な敵への不安、動かない味方への不信が彼女たちを厭戦気分に陥れてゆく。周囲を包む沈黙が、余計に嫌な空気を形成してゆく。
「ひょっとして、向こうの大将が生○にでもなったんじゃないですかぁ?」
 嫌な空気を感じてかどうかは知らないが、班長の背後で別の班員(以降班員B)が馬鹿げたことを口にした。本当に馬鹿げていると思ったが、前途は暗い上に手持ち無沙汰でやる気など失せかけている。結局、班員Bを叱ることもなく話に付き合うことにした。


 烏丸高校との抗争が終結してから二週間あまり。蒼天会の主力部隊は、早くも荊州校区との境界地帯での集結を完了させていた。
 学園北辺部から南の荊州校区近辺へと、主力部隊の配置を大転換させるのに5日を要した。時間を惜しむあまりに、移動しつつ諸部隊の再編成を行うという荒業を行い、続いて移動先では、待ち受けていた各部隊の補充要員の受け入れを行ったためさらに1日を費やした。
 移動を終えてようやく腰を落ち着かせた諸部隊が、全員の休養と再編成後の合同訓練を行いつつ一週間が過ぎ、そして出撃の日を迎えた。戦場での戦闘経験だけではなく兵站の移動など、様々な局面を知っているからこそ出来る芸当だった。
 数字的な戦力や戦闘経験では圧倒的に分があるものの、新入りたちの練度にはまだ不安がある。これまでの北伐行に従事してきた者たちは、スタミナ面での不安が残る。攻撃部隊の指揮官たちはその点を気にしている。もっとも、今度の作戦はそのような状況にも配慮したものであったが。
 決してこちらはベストの状態ではない。そのような状況であっても、状況に合わせた戦い方というものがある。例えば、長丁場を避けて速攻を狙う戦い方などがそうだ。
 この方針は「高潮作戦」の第一段階に反映されている。とにかく遮二無二突っ込んで敵の中枢を一気に押さえ、出来る限り早く事を片付けるのだ。
 この速攻策を実現させるための戦力が、荊州校区の北東境界部前面に集結している。

 楽進隊:強襲部隊“ドンナー”
(Donner=雷部隊 オートバイ2個大隊・100名にて編成)

 張[合β]隊:強襲部隊“ケンプファー”
(Kampfer=剣部隊 武装風紀2個大隊(100名)及び生徒会執行部員50名の混成部隊。サイドカー付バイクにて移動)

 于禁隊:強襲部隊“アドラー”
(Adler=鷲部隊 歩兵4個大隊(200名)MTB大隊2個(100名)の混成部隊)
(※なお、MTB部隊は突破後の投入まで温存の予定)

 以上の三個強襲部隊が南征軍の前衛を構成し、そして第一段階の主役を担う部隊である。曹操と彼女の参謀陣の企図――機動戦力を集中させての速攻――を明確に反映させた陣容だ。
 指揮系統の上では「雷部隊」を率いる楽進が前衛部隊の総指揮を執り、副将格の張[合β]と于禁が彼女を補佐するが、部隊の参謀役として曹操の本営からは程Gが派遣されていた。彼女は荊州校区首脳陣との折衝役も兼ねて前衛部隊に加わっているのだ。
 前衛部隊の戦闘準備は前日から整いきり、いつでも仕掛けられる状態を維持している。歴戦の三人がその辺りの手配りを間違えることはない。
 あとは、攻撃時刻を待つばかりであった。

22 名前:第二章Part2:2007/03/01(木) 01:40
「ホントさ〜。テストで点数稼ぐのは得意かもしれませんけどぉ〜。だからって調子付いてこっち(荊州校区のことだよ。決まってんじゃん)まで来るなっていうんですよね〜。ホントに、私たちの週末を返せ!(ため息)」
「袁紹先輩には勝ちましたけど、アレは許攸先輩が裏切ったからで、アンタの手柄じゃないでしょって思いません? 絶対違いますよね〜」
「あんなのは周りに強い人が大勢いるから(夏候惇とか曹仁とか張遼とか徐晃とかetc)凄い人に見えるだけ。お付きの夏候惇がいなけりゃ、た・だ・の・小娘に過ぎないのよ。ただのね(冷笑)」
「でもでもぉっ、その手の掛かる小娘を世話する夏候惇先輩が格好良いんですよね〜。はぁぁ♪(赤面)」

 始まった途端、某校区某地域に展開する某警戒班の会話は文句の掃き溜めと化していた。誰に対しての文句かは言うまでもない。(一部例外がいるようだが)
 特に“週末を返せ!”の部分は全員の共感を呼び込み、同調した者たちが勢いのまま暴走の気配を見せ始めている。
 その勢いに辟易しつつも結局は話を合わせる班長。もう相手が来る可能性など考えておらず、相手が来ない以上は本来の任務に気を払うこともない。そうこうしている間も、時計の針は二時の位置へ近づいている。
「ホント、週末が台無しだわ。連中が来なかったらどうしようかしら。」
 班長はそう言って、週末の予定など何も考えていなかったことに気付いた。そして、気付いたことを後悔した。それもこれも境界の向こうにいるあの連中、正確には連中の一番上に立つ赤毛の小娘のせいである。せっかく赤い髪を持っているのだから、カ○ダの島にでも引っ越せばいいのに。
 班長の逆恨み的思考が世界的に愛読されている童話へと脱線している間も、時計の針は動きを止めず二時ジャストを目前にしていた。
「本当、来るなら来るで早くして欲しいんだけど―――」
 そして、時計の針が二時を指し―――
「―――全然予定が立たないじゃない。」
 ―――戦闘開始を告げる大声が、昼下がりの静寂を打ち破ったのだった。


「戦闘団A(アントン)敵拠点を制圧。損害軽微との報告です!」
「戦闘団C(ツェーザル)敵部隊を圧倒中。抵抗微弱との連絡です!」

 曹操らが陣取る南征軍の本営に、前線からの報告が次々と飛び込んでいる。今のところ味方が苦戦しているとの報告は入っていない。予定通りだ。
(どうやら、三度目の嵐が吹き荒れそうだね)
 特に躓いた様子の伺えない戦況報告を聞いて、曹操は嵐の訪れを確信した。
 曹操が過去に巻き起こした嵐は二回。一度目は反董卓連合の結成の折、二度目は官渡決戦の逆転勝利の折。どちらも蒼天学園を震撼させる衝撃を、全校に放ったものだった。
 そして今日、曹操は荊州校区の即日降伏という形で三度目の嵐を巻き起こし、全校を揺さぶるつもりでいる。だからこそこの作戦に「高潮」という名前を与えたのだ。
 激しい嵐はうねりを作り出し、うねりは高まりながら長湖の南岸へと拡がってゆく。そして学園全体へと拡がってゆく。全てのものを揺さぶりながら―――。そのような光景を、曹操は何度もイメージしていた。
 そうしている間も、彼女の目の前では幕僚たちが前線からの報告に応対している。味方優勢の状況にあっても、彼女らの態度には何の変化も無かった。報告を伝える伝令たちに「分かった」と軽く返事をする程度である。当然だ。彼女らはこれまで無数の修羅場を経験してきたのだから。
(この程度の小競り合いを制したくらいで、誰が浮かれるものか)
 そう言いたげな雰囲気が、沈黙に包まれた本営を満たしている。
「前線の警備隊はあらかた片付いたらしい。もう文謙や儁艾は動きだすだろうな」
 本営内の全員を代表するかのように、曹操の傍らの夏候惇が口を開いた。
「全力で突っ込めば一時間も掛からない。日が沈むまでには決着が付くね。でも―――」

 全ては曹操らの期待した通りに進展している。
 特に時間の余裕が厳しくなるのを承知の上で、敢えて攻撃時刻をズラしたのはした。何のひねりも無い正面攻撃だが、警戒のピークを午前中に持って来ていた敵にとっては奇襲同然の攻撃となったのである。
 いま、本営の正面で戦っているのは于禁率いる「鷲部隊」だ。
 歩兵中心の「鷲部隊」が第一波となり突破口を確保。後ろに控える第二波の「雷部隊」、第三波の「剣部隊」が間髪入れずに荊州校区へ雪崩込む。突入した二個強襲部隊は襄陽目指して突っ走り、同棟を制圧。劉N以下、荊州校区の要人たちを確保する。
 これが「高潮作戦」第一段階の概要だ。

「―――でも、大事なのは劉Nたちを逃がさないこと。失敗したら、元も子もない」
 全員に確認を促すかのように曹操が口を開く。もちろん、全員が百も承知だ。
「あははぁ〜〜〜♪ ご心配には及びません〜〜〜♪ もちろん〜万が一が無いとは言い切れませんが〜〜〜♪ 劉Nらは〜会長のような迅速さを持ち合わせておりませんのでぇ〜〜〜♪ まず襄陽からぁ〜逃げ出せはしないでしょうねぇ〜〜〜♪」
 参謀の荀攸が口を開く。彼女の口振りからして、本当に彼女は確信しているのだろうと曹操は思った。本気なったときの彼女は、内に秘めた鋭さを前面に出してくる。その彼女が普段と変わらぬ様子でいるのであれば、まだ緊急の措置などを下す必要はないということだ。
「うん。あの連中が動かない、っていうのは同感だけどね。」
「同感だけど、他に何か気になるコトがあると?」
 曹操の言葉に隣の夏候惇が口を挟んでくる。この場でこんな突っ込みを入れられるのは、古株の彼女くらいだろう。そんな彼女の疑問に曹操が答える。
「・・・劉備たちのコト」
「あの連中か・・・確かに厄介なのは何人かいるが、大した戦力は持ってないぞ? 普通に勝てるだろ。汝南の時のように」
 しばらく前の勝ち戦を引き合いに出して、夏候惇は曹操の懸念を否定した。特に大きな兵力を持っていない劉備に、さほどの抵抗が出来るとは彼女には思えなかった。
「分かってる。戦えば普通に勝つだろうけど、何だかんだでアイツは要注意だし荊州校区の連中に結構気に入られてるみたい。その辺はどう思う、賈詡?」
 突然話を振られた賈詡だったが「そうですね・・・」という具合に、何ら動揺せず話を進め始める。
「そうですね・・・確かに劉備に同調する者も多いようですが、襄陽近辺の部隊は反劉備の蔡瑁一派が掌握しています。実働戦力を持たない以上、表立った行動は取れません。例えば、劉備を荊州校区会長に迎えるといったような。劉備がその気になれば話は別ですが、彼女の性格からして可能性は低いでしょうね」
 どこから仕入れたのかは知らないが、荊州校区内の動静を参考にした判断だ。情報参謀の面目躍如ではあるが、話を振られるのを待っていたのでは?と曹操が(そして周囲も)思うほど、彼女の言葉には澱みが無かった。
 待たれていた(待たれてたね。間違いなく! 話を振ったのは私だけど、澄ました顔して!)ことへの不快感と、賈詡への賛辞を同時に喉の奥へと押し込めて、曹操は話を続けた。
「同感。劉備は荊州を奪ったりしない。アイツはそういう奴だから」
 そう、劉備は散々世話になった荊州を奪うような真似はしないだろう。徐州の時も消極的だった彼女だ。それに―――
「―――それに、アイツに荊州を奪う余裕を与えるなんて、そんなつもりは全然無いんだよねぇ」
 それまでの口調から一変した、トーンの下がった別人のような声。幕僚たちの視線が集中するのを感じて、笑い出しそうになるのを曹操は何とか抑え込んだ。らしくもない。場数を踏んでる筈のみんなが、この程度の事で動揺するなんて。
(ねえ劉備、私から逃げられると思ってる?)
 楽しげにギラついた眼を細めながら、曹操は心の中で問いかけた。

23 名前:第二章Part3:2007/03/01(木) 01:40
「掃除するのは後でいい、道を塞ぐものは全部押し出せっ!」
 許昌と襄陽を結ぶ幹線道路。大勢が動き回るその背後から、大きな怒号が響き渡った。
 普段は生徒の往来が活発な通りも流石にこの日は警備要員以外は姿を見せず、人気の無い通りは頑丈なバリケードに塞がれている。
「ったく・・・まともなやる気も見せないくせにきっちり仕事して・・・」
 半ば片付けられてはいるが、未だに道を塞いでいるバリケードを見て「鷲部隊」を預かる于禁がぼやいた。
 「鷲部隊」の戦いぶりは“強襲部隊”の名に恥じないものだった。彼女らの果敢な突撃によって、校区境界部の敵はあっという間に一掃されたのである。
 しかし、本当に大変なのはここからであった。呆気なく壊走した敵たちも、校区を守る気を見せないといけないと思ったのだろうか。道路上に組み上げられたバリケードはなかなか手強い。解体・撤去に予想外の手間が掛かっている。
 こうなると手間が惜しい。于禁自らも作業に加わり、降伏した敵警備班の者も加えて道路の片付けに邁進していた。とにかく時間が無いため、邪魔な障害物はそのまま路肩に山積みにされ、通行路の啓開に全員が大車輪のごとく駆けずり回ったのだった。
 その努力の甲斐あって、何とか後続部隊の通行路は確保されつつある。背後で作業の様子を見守っていた楽進が出撃可能と見切りを付けて、于禁の傍へと駆け寄ってきた。
「大体片付いたね。私らは行くよ于禁」
「ああ、後始末はお任せ願うとして・・・時間はどう? 15分のロスになったけど」
「心配要らない。距離が長い方が挽回できる余地も大きくなるから。一気に突っ込んでやるよ!」
「ならいいね。武運を祈る!」
 自分の部隊に駆け戻りつつ「ああ!」と于禁に返事をし、楽進は進撃の合図を後ろに送った。
 直後、周囲の大気が震撼する。
 指揮官の命令を待っていたかのように、アイドリングの轟音が周囲の空気を揺るがしたのだ。その様は、艦載機の発艦を待つ空母の飛行甲板さながらだ。
(良い音だ)
 壮観な光景に満足感を覚えた楽進だったが、いつまでも止まっているわけにはいかない。その思いを一瞬で振り払うと指揮官の任務に立ち戻った。
「雷部隊、出撃―っ!」
 力強い号令と共に、強襲部隊の第二陣が襄陽目指して動き出す。

 「前の連中が動いたか。私らも突っ込むぞ!」
 前方の「雷部隊」が動き出したのを見て取って、張[合β]の「剣部隊」も前進を開始した。
「程Gさん、しっかり掴まってな! お客様に怪我させるつもりも無いけどな!」
 張[合β]が操る車両のサイドカーには、参謀役の程Gが同乗していた。お客が乗っている以上、一人でバイクを乗り回すときのようにはいかない。かと言って、安全運転で走るつもりも無い張[合β]だった。都合のいい言葉だが、要は「事故らないように飛ばしまくる」ということだ。
 もちろん程Gも分かっている。彼女の胸中を知っての上で返事を返した。
「お任せしますよ、過激な馬車屋さん!」
 予期せぬ返答に面食らった張[合β]だったが、立ち直るのは早かった。「私は馬車屋か!余裕だねぇ!」と言いつつアクセル全開。お任せ願えるのであれば、遠慮は無用というものだ。
「それではお客様、出発致します!」
 後続車両が付いてくる気配を感じつつ、張[合β]は車両を加速させる。道の両脇に押しのけられた障害物が後方へ過ぎ去ると、眼前に荊州学院の広大な敷地が広がった。
(飛ばすには絶好だ! 大いに結構。この張儁艾の腕(テク)を披露してやるか!)
『関羽や夏候淵さんには敵わないけどな』と付け足して、張[合β]は「剣部隊」をトップスピートで突っ込ませた。

24 名前:彩鳳:2007/03/01(木) 01:53
 ◎作者補足

 投稿してから言うのもなんですが、勢いに任せて暴走した感が多々ありますね。
 特に張[合β]の率いる「剣部隊」について。Kampferは元々(戦士・剣闘士)といった意味合いで使われます。
 本来ドイツ語の「剣」は“Schwert”です。
 ケンプファー=剣部隊というのは作者の趣味なので、あまり突っ込まないで下さると助かります。

 ちなみにこの強襲劇、私のイメージしているのは1943年の「クルスク大戦車戦」だったりします。(滝汗)

 ↓ドイツの戦時ニュースですが、果たして参考になるでしょうか。
 http://www.youtube.com/watch?v=E17qu-f6LfU target=_blank>http://www.youtube.com/watch?v=E17qu-f6LfU
 (服装から見て、クルスク戦の第2SS装甲軍団・・・だと思います。)

25 名前:海月 亮:2007/03/01(木) 22:37
ようやくここ最近の投稿作全部読みきってやったぞコノヤロー!!( ゚д゚ )ww


結局なんだかんだいって何も書いていない大嘘吐きの海月です( ´・ω・`)
うーんポップンのネット対戦にかまけている間に随分とにぎやかになってた。うーむ。おい俺は取り残されたのか?


>7th様
7th様の作品で諸葛喬というとどうしても最初に浮かんでしまうのが、一昨年の旭日祭作品なんですよ。
あれと読み比べると諸葛喬ってツンデレだったんだなぁーとかしみじみ思いましたw

結末はどうなるか見当はつけども、それでもこのあとどうなるかwktkするのも人情と言うもの…。


>韓芳様
(*゜∀゜)o彡°呂布!呂布!!ww

呂布はある作品のイメージでやたら無口なイメージがあるんですが、こういう過去が呂布のそうした面を作り出してる一要因とか補完するとぴったり符合するような。
そしてこういうヘヴィな内容のお話は何気に好物です本当にあr(ry


>冷霊様

冷苞キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!

やーこれ見ちゃうともう横光三国志二度と読めなくなりますね><w
搆ォもですが、なんというか…こういうのを「粋」っつーんでしょうね、まさしく。


>彩鳳様
蒼天航路の劉備の言葉を借りれば「ぶっちぎりの曹操ってやつを味わってやろうじゃねぇか」ってトコですかね。

なんだかんだいって、曹操の南征は追う曹操、追われる劉備、迎え撃つ孫呉陣営と見せ所のカタマリですし。
堅実に己の職務に忠実に動く参謀&主将の皆様方の生き生きとした姿が眼に浮かぶかのようですな…。

「Kampfer」っつーと、ガンダム(ポケットの中の戦争)に登場した同名のMSの解説にも、確かに「剣闘士」で紹介されてたような。
まぁでも些細なことだと思いますよ。かくいう私めも言葉の小難しいところはかなり適当に解釈してますし(ぉ

26 名前:韓芳:2007/03/02(金) 23:50
高潮作戦カッコイイw
しかし、実際の戦闘をイメージするとは…凄いですね…
これから劉備と孫権がどう絡んでくるか楽しみです。

ドイツ語どころか英語もろくに分からない私には、「Kampfer」は語れない(語ることが無い)です… orz

27 名前:雑号将軍:2007/03/07(水) 21:58
彩鳳様、お見事です。
武将、1人1人の特徴が出ててすごいかっこよかったです。
これから武官たちがどのように暴れてくれるかが楽しみですね。
楽進の活躍がみたーい!そう言えば、張遼ってこの戦いに従軍してましたっけ?
演義にはいましたよね。たしか赤壁で黄蓋を射たのが彼(彼女)だった気がするので。

「Kampfer」は海月様と同じくガンダムからの印象が強いですね。

28 名前:彩鳳:2007/03/07(水) 22:14
 『王者の征途』

 第三章 『潮(うしお)満ちるとき』

 連合会が巻き起こした嵐は、巨大なうねりを伴って北から南へと押し寄せている。そのうねりの先端は、怒濤の勢いをもって目指す襄陽棟を目前にしていた。
 攻撃開始時と入れ替わり「雷部隊」「剣部隊」「鷲部隊」の順となった突入部隊は、ただひたむきに襄陽目指してひた走る。
 襄陽への途上、数か所の検問所のような拠点はあったが問答無用で強行突破され、守備隊はバイクの大集団を道端で見送るのが任務となった。正確に言うと、大集団を見送ったのち、後続の歩兵部隊に白旗を掲げるのが任務となったのである。
 本来これを迎え撃つべき荊州校区の主力部隊は、全く動きを見せなかった。一部の者は抵抗すべく迎撃命令を要請したが、上層部から命令が下ることはなかった。彼女らは襄陽近郊に展開していたが事態の急変に全く対応出来ず、最後まで傍観者であり続けることになる。
 予定外の遅れを取り戻すべく突進する前衛部隊の後方には、曹操率いる南征軍の本営が設けられている。本営を取り巻く司令部直属部隊や残る諸将の部隊が南征軍の本隊を形成し、前衛部隊の突破攻撃に合わせて南への進撃を開始していた。
 曹操の本隊が台風の中心だとすれば、前衛の各部隊は嵐を告げる高波である。
 末期の患者さながらにまともな抵抗の見られない――もしくは制圧された――荊州校区北部を進撃する南征軍の右手には、逆光に霞んで西方の山々が連なっている。その山々の向こうには「高潮作戦」の次のターゲットとなる、益州学園校区の各校舎が存在していた。しかし、そのことに関心を向けたのは本営にいる曹操と、彼女を取り巻く参謀たちだけであった。多くの者たちには益州校区での戦闘など遠い先の話でしかなったし、そもそも眼前の戦闘から目をそらす者など居るはずがなかった。
 秋の色に彩られた山々の稜線を横目に見ながら、南征軍の本隊は南下している。その前進を阻むものは何も無い。
 攻勢開始から半日も保たずに、襄陽は陥落の時を迎えようとしていた。

29 名前:彩鳳:2007/03/07(水) 22:18
 襄陽棟。荊州学院校区でも最大の規模を誇り、同校区の生徒会室が置かれた巨大キャンパス。言うまでも無く荊州校区の中枢となる棟である。
 その巨大キャンパスに、普段とは勝手の違う異様な空気が漂っている。
 現地より北の校区外縁部、あるいはさらに北の司隷校区や豫州校区ではお馴染みの、しかし荊州校区では久しぶりの殺伐とした空気。
 戦いの気配だ。
 その原因は言うまでもない。校区北方に迫りつつある曹操の脅威である。
 そして先刻、連合会の大部隊が境界を突破したとの連絡が入り、襄陽棟の大会議室に校区を預かる主な者たちが集まることになった。しかし、その後の続報が全く入らず状況が把握出来ずにいた。このため室内の空気は暗く沈んでおり、明るい話題など全くなかった。
「確認しますが、皆さんは校区の降伏に賛成なのですね?」
 重苦しい空気の中、荊州校区の新生徒会長・劉Nが口を開いた。目の前には蔡瑁、蒯良、蒯越、張允、王粲ら、姉であり前会長の劉表が、妹の補佐役に残した幹部たちが座している。その中の一人である蒯越が言う。
「真に残念ですが、降伏は止むを得ないかと思います。全員の意見は一致しております」
 神妙な表情、神妙な声で降伏を勧める蒯越だったが、劉Nは釈然としないものを感じていた。
 確かに戦力差は大きいが、引退した姉は校区の安定の為に尽力してきたのだ。学園統一の好機を逸したとの声もあるが、荊州校区を大事に思っていることは誰もが知っているはずではないか。平和を愛した姉が守り続けていたこの校区を、僅か一日で手放してしまうというのか。
 何より不愉快なのは、それをよりにもよって姉と共に校区を支えてきた者たちが口に出していることだ。その点を劉Nは訴えるが、幹部たちの考えは変わらない。
 蒯越に続いて校区の実戦部隊を預かる蔡瑁が、軍事的な観点を持ち出しての説得を開始する。
「会長・・・前会長が積み上げてきた実績を、ひいてはこの荊州校区をお守りしようとするその姿勢は真に立派なものです。ですが、荊州校区全体の戦力を集めても曹操の擁する兵力には敵いません。増してや―――」
 そこで、言葉を遮り劉Nが口を挟んだ。
「ええ、分かりますよ。―――増してや、荊州校区は南に長湖部という難敵を抱えています。戦力の集中は望むべくもなく、どのように戦っても敗北は必至。それでは我々に、そして荊州校区に対する処罰が過酷になるだけ。そう言いたいのでしょう? 蔡瑁さん」
「その通りです。何の益も無い戦いに、何の意味がありましょう? 今なら間に合います。会長、どうぞご英断を!」
 何度も繰り返された会話。何の進展も無いやり取り。
 表情に出さないように注意しているが、劉Nの苛立ちは高まっていた。この幹部たちは、なぜこうも悠然としていられるのか? こうしている間にも連合会の者たちは襄陽へ近づいているというのに。自分よりもずっと経験を積んでいるはずの彼女たちに、切迫した状況が理解できないはずが無いというのに。
 そこまで考えたところで、劉Nの頭の中で閃いたことがあった。
(この人たち、時間稼ぎを・・・!)
 劉Nは理解した。この上級生たちの間で、曹操への降伏は以前からの既定方針だったに違いない。このまま何の進展も無い議論を続けて、連合会の軍勢が襄陽に達するまで時間を稼いでしまう。そうなれば目の前に敵がいるという事実がある以上、降伏以外に残された道はない・・・!
 劉Nは思う。もし、姉の引退がもう少し遅ければ、この場にいたのが姉の劉表だったら、結果はどうだったろうか。目の前の幹部たちは、容易に降伏論を唱えたりしただろうか、と。
 少なくとも、姉が曹操との交戦を決断していれば彼女たちは反対しなかったのではないか。たとえ降伏論を唱えるものがいたとしても、最終的には従ったのではないか。
 いや、そもそも曹操は積極的に動いただろうか。動きはしなかったのではないか。
 そのことに思い至ったとき、劉Nは改めて自分の無力さを思い知った。
 劉Nは孤独だった。肩書上は生徒会長の立場にあるが、校区の実権は目の前の上級生たちに握られてしまっている。そのことは会長職を引き継いだ時から分かっていたが、この時ほどそれを恨めしく思ったことはなかった。先ほどから延々と続く進展のないやり取りにしてもそう、自分の言葉や気持ちが理解されていないのではない。相手にされていないのだ。考えれば考えるほど、暗鬱な気分に押しつぶされそうになる。
(確かに私には何の実績もない。でもこんなのって・・・)
 彼女の言葉に耳を傾けるものは、この会議室内にはいない。
「会長、大丈夫ですか。 どこかお具合でも・・・?」
 突然割り込んできた蒯良の声に、劉Nの意識が現実に引き戻された。
「いえ、大丈夫です」と何とか言い繕う。しかし、こちらの胸中を向こうは見抜いているだろう。目の前で見せ付けられる、余裕綽々の態度。これが年長者の強みというものか。
 今の自分が何を言っても、恐らく受け入れられはしないだろう。そう思いつつも彼女は口を開いた。曹操たちが来ないうちに確認を取らねばならない事がある。頼りにすべき上級生たちがこの有様では、極めて不安だが。
「もし襄陽が降伏するのであれば、江夏の姉や帰宅部の劉備さんはどうするのですか? まず黙ってはいないと思いますが」
「ご心配には及びません。私どもが何もしなくとも、曹操は劉備を叩くはずです。昔は一緒に組んでいた時期もありましたが、今は天敵同士ですので―――」
 蔡瑁がそこまで言ったところで「ちょっと待ってください」と劉Nは思わず言葉を遮った。期待はしていなかったが今の言葉は聞き捨てならない。“不安的中”というレベルの話ではなかった。
「―――ちょっと待って下さい? 帰宅部を・・・劉備さんたちを見捨てると言うのですか!?」
 思わず声を荒げてしまい、慌てて我に帰った劉Nだったが、目の前の上級生たちは憎たらしいほどに冷静だった。
「会長、騙されてはいけません。あの劉備は油断のならない相手です。考えてみてください。今まであの女が何度主人を変えてきたことか。ですがご安心ください。あの人の良い態度で前会長に取り入ることは出来ても、私どもを騙すことは出来ません」
 なんだその物言いは。危険な相手を受け入れた姉は唯のお人好しだと言いたいのか(実際思っていたのだろうが)。仕える相手も変えようとしているのは自分たちもだろうに。強い反発を覚えた劉Nだったが、その話は後だ。
「たっ・・・確かに何度も転校を繰り返してはいますが、徐州校区を曹操から守ったのはあの方たちの筈ですし、帰宅部から恩恵を受けたのは我が荊州校区もそうです。紛争の沈静化だけでなく、校区の文化活動の振興に帰宅部は大きく貢献しています。このような時こそ、我が校区を挙げて感謝の気持ちを見せるべきではないのですか!? その帰宅部を見捨てるなんて・・・」
 特に帰宅部連合の面々と親しくしていたわけではないし、彼女たちが荊州校区で活動したのも長い期間は無い。だが、その短い期間の間にどれだけ荊州校区が恩恵を受けたかは承知している。それを思うと「見捨てる」という選択肢は劉Nには選択できるものではない。
 しかし、上級生たちの反応は冷ややかだ。
「いけませんねぇ・・・会長。よろしいですか? 確かに帰宅部の我らが校区に対する貢献度は認めましょう。ですが、曹操から徐州を奪い、袁紹の下を離れて我が校区に流れてきたあの者たちの行いを思い出してください。確かに律儀な一面もありますが、基本的に劉備は野心家です。故に、あの者たちを信用し重用するなど断じてなりません」
「蒯良の言うとおりです。あの者たちに心を許してはなりません。あの者たちは曹操と交戦する姿勢を見せておりますが、これは幸いです。この機会に劉備一派をまとめて曹操に始末させてしまえば良いのです」 
 待っていましたとばかりに、劉備の批判を始める上級生たち。彼女たちからすれば、劉備たちは完全な余所者であり、邪魔者だった。

30 名前:彩鳳:2007/03/07(水) 22:20
 元々、荊州校区は文化系のサークル活動が活発な校区の一つである。同校区の生徒会役員の中でも、文官の蒯良や王粲らは荊州校区の生徒会役員としての肩書以外に、各自が所属するサークルの幹部としての肩書も併せ持っている。これらのサークルは彼女たちの支持基盤と言っていい。
 これまでは荊州校区内で平和に共存しつつ、独自の勢力圏を形成していた彼女たちだったが、官渡決戦以降は状況が変わった。劉備率いる帰宅部連合会が、荊州校区に編入したのである。
 帰宅部連合会の参入は、荊州校区のサークル活動に大きな波紋を投げ掛けた。
 規模の面では既存のサークルと大きな差は付かないものの、周囲に与える影響力には格段の差が出たのである。
 荊州校区に流れ着いた時点で、帰宅部連合と劉備の名前がある程度知れ渡っていたのに加え、文化系サークルが活発な校区だったことが劉備たちには幸いした。
 言うまでもない事だが、帰宅部連合の所属サークルは多くの校区を渡り歩いている。このため既存のサークルとは毛色の違う彼女らの存在は、校区内の注目の的となったのである。これには劉備の気さくな人柄も一役買っているのだが、既存のサークルのリーダー達がこの状況を好ましく思わないのは当然と言えよう。必然的に生徒会の主要メンバー(特に文官たち)の間では、反劉備の空気が形成された。
 蔡瑁一派や張允ら、荊州校区では少数派に属する体育会系サークル出身の生徒会幹部たちも、この空気に同調した。
 彼女らは、文化系サークル出身者の危機感とは別に、帰宅部連合の持つ軍事力を警戒していた。人数自体は取るに足らないものの、劉備に従う関羽、張飛、趙雲らが本気になった場合これといって対抗できる人間がいなかったことも、彼女たちの警戒感を強めさせた。
 だが校区の幹部たちにとって何よりも恐るべき事は、劉備に心酔する人間が日々増加し、劉備を荊州校区の会長に、つまり劉表の後継者に推す声が高まったことであった。万が一これが実現しようものならそれまで構築してきた校区の運営体制のみならず、自分たちの「聖域」、すなわちサークル内での地位までもが失われることになると考えたのだ。
 このため、彼女たちは事あるごとに劉備を校区から追い出そうと画策した。敵もさるもので中々成功しなかったが、ここにきて大きなチャンスが訪れた。曹操の南征が現実のものとなったのである。
 曹操と劉備は敵同士。必ずや曹操は劉備を攻撃するだろう。結局は仕える相手が劉表の妹から曹操に代わることになるが、劉備がトップに来るよりはマシなはずだ。
 なぜなら、劉備がトップに立ち、幸い校区内での地位が維持できたとしても、いずれは南下する曹操との交戦になる。そのような不安定な情勢では、特に文化系サークルの活動に悪影響が出るのは必然であった。それならば、最初から強大な力を持つ曹操に校区を守ってもらった方が都合がいい。
 荊州校区は安定した状況を作る力を持つ、強力なリーダーを欲しているのだ。

 劉Nの目の前では、蔡瑁が劉備の危険性を彼女に激しい恨みでもあるかのように劉Nに訴えていた。その話題が終わり、今度は話の矛先が姉の劉Kへと向けられる。
「それから劉Kさんの処遇についてですが、私どもの方で曹操に降伏されるよう説得いたします。ですので、この件については我々にお任せください」
 劉Nには分かっている。この者たちは劉備同様、姉に対して手を差し伸べるつもりなど全くないのだ。「今すぐ手配します」と言うならまだしも「私たちにお任せを」? 二人を見捨てるつもりとしか考えようがないではないか。
 もはや看過できない。目の前の上級生たちに苦言を呈すべく、それまで俯きがちだった顔を上げた劉Nだったが口を開くことは出来なかった。複数の視線に射すくめられた彼女の体は、動くことを許されなかったのだ。
 孤独な沈黙が室内を支配する。そのとき劉Nは気が付いた。外から聞こえてくる騒音に。
 そして彼女は理解した。荊州校区の終焉が訪れたことを。

 嵐を告げる高波が、ついに襄陽棟まで届いたのである。

31 名前:彩鳳:2007/03/07(水) 22:24
 ◎作者後記

 非常にお待たせいたしました。『王者の生徒』第三章です。
 ここ数日、こちらにアクセスできなかったのですが、いったい何が・・・。
「学園三国志」で検索したら来れましたが。(←早く気づけよ)

 さて、第三章ですが恐るべきことに、荊州校区の要人(幹部)たちのキャラ設定を全く考えないままに書いてしまいました。
 そのため作中でも彼女たちの容姿にはあまり触れていません。(滝汗) 
 
 演義では蔡瑁らの操り人形だった劉Nですが、正史では曹操との交戦も考えていたそうです。しかし、曹操が襄陽に到着したことにより降伏を余儀なくされました。
 劉表の跡を継いだばかりで、立場に反してそれほど発言力も無かったのでは・・・と愚考したので、作中では気の毒な役回りになっています。
 
 書いた後で気付いたのですが、この第三章って柴桑会議の荊州版と言えるかも知れません。
 周瑜があの場にいなかったら・・・と改めて考えてしまいました。 

>海月亮さま  

 実は某モビルスーツの件は私も意識してました。 確信犯です。(笑)
 ゆえに作中では「突撃大隊」“Sturmtruppe” が「強襲部隊」になっていたりします。

>韓芳様
 本作は基本的に連合会サイドで書いているので、劉備と孫権は出ないと思います。ご期待に沿えず申し訳ありません。
 ただ『王者の生徒』の劉備side版は、これとは別に書くかも知れません。(まだプロットを考えてないので、断言できません)

32 名前:彩鳳:2007/03/07(水) 23:11
 今更ですが、第二章の訂正箇所を発見しました!

『特に時間の余裕が厳しくなるのを承知の上で、敢えて攻撃時刻をズラしたのはした』 
の部分ですが、正しくは
『特に時間の(中略)敢えて攻撃時刻をズラしたのが功奏した』 となります。大変失礼致しました。

>雑号将軍様
 荊州が無血開城なので、楽進の見せ場はちょっと・・・。申し訳ないです。
 張遼ですが、襄陽陥落後に劉備を追撃したのは彼(彼女?)ではなかったかと。
 韓芳様へのレスにある『王者の征途』の劉備サイド版が実現できれば、大いに活躍するでしょう。
(こうなったらマジでプロット考えねば)

33 名前:彩鳳:2007/03/11(日) 00:26


 『王者の征途』

 第四章 『襄陽棟の落日』

「見えた、目的地だ! 襄陽棟の校舎が見えたぞ、各小隊は散開用意!」
 前衛部隊の先頭で「雷部隊」を引っ張ってきた楽進が、ついに目的地を視界に捉えた。
 時計の針は、間もなく3時を過ぎようとしている。障害物の撤去作業で思わぬ時間を取られたが、それ以降は大した邪魔も入らずに突き進むことができた。このおかげで、攻撃開始から1時間半経たずに目的地に到達するという驚異的な猛進撃が実現できたのである。
 西に傾いた太陽が、かなり赤みを帯び始めた光で校舎を照らし出す中、「雷部隊」のバイク班は散開して校舎の各ゲートを封鎖しにかかる。同時に、後続してきた「剣部隊」と
 楽進の本部中隊は正門へと雪崩込み、校舎の敷地内へと乗り込んだ。
 剣道着姿に身を固めた武装風紀部隊と、運動着姿だが身のこなしの鮮やかな執行部員の精鋭たちがバイクから飛び降り、速やかに隊列を形成する。
「楽進さん、張[合β]さん、二人とも有難う。おかげでここまで来ることが出来た。ここから先は、この私にお任せ願いたい」
 そう言って張[合β]の脇に座していた程Gは、校舎に向けて歩き出す。長身の彼女ゆえに、その様は真剣になった時の曹操とは異なる威圧感がある。その彼女を護衛すべく周囲を張[合β]と武装風紀が取り巻くと、その光景はまさに「主従の一行」という趣である。
 外への警戒のために楽進らを残した一行が、校舎へ向けて歩いてゆく。
 歩きながら程Gは「張[合β]さん、気づいているか?」と前を進む張[合β]に語りかけた。
 急に問いかけられた張[合β]だったが、慌てる素振りを全く感じさせずに「戦の空気のことかな?」と返事する。曹操ほどではないが(いや、失礼)一見どこか抜けているようで、実は誰よりも鋭いのが彼女である。ある意味、一種の本能と言えるかも知れない。
「そうだ、我々が攻めてくることは(正確な日時はさておき、だが)ここの連中も分かっていたはず。だというのにこの警戒感の無さ。何かの罠かも、と最初は思ったがこれは明らかに違う」
「・・・荀揩ウんや賈詡さんが言っていたように、降伏派の力が強い、と?」
「それ以外に無いな、これは・・・で、噂をすれば何とやらか」
 突然、程Gの突き刺すような鋭い視線が正面を向いた。彼女たちの正面――大校舎の玄関口に人の影が立っているのが見えたのである。
 その影が「失礼ですが、連合生徒会の方々ですね?」と問いかけた。
 影の問いに「そのとおりだ、あなたは?」と程Gが応じる。
「お初にお目にかかります。わたくし、荊州学院校区の生徒会役員を務めております蒯良子柔と申します。どうぞお見知り置きを」
「ご丁寧な挨拶、恐れ入る。私は連合生徒会の程G仲徳。何のためにここに来たかは、今更語る必要もないと思うが」
 二人の脇では、張[合β]が蒯良の馬鹿丁寧な挨拶(なんだこいつ、司隷校区出身か?)に辟易しつつもこのやり取りを見守っていた。二人とも知恵者であるだけに、会話はとんとん拍子に進んでいく。
「程Gさんのお名前は、荊州校区の我々もよく存じ上げております。お会い出来て光栄ですわ。確かに、あなた方がここに来られた目的はよく存じ上げております。失礼ですが、なぜわたくしがここに居るかについても―――」
「―――ああ、語る必要の無い事だ。早速だが生徒会長の下へご案内願いたい」
「はい、会長の劉Nもみなさまをお待ちしております。それではこちらへ・・・」

 こうして、荊州校区の中枢はいとも容易く曹操の手中に納まった。
 襄陽棟制圧の報を受け取った曹操は直ちに現地へ赴き、降伏の手続きを行っていた程Gらと合流した。
 そして、直後の交渉によって、劉Nらの処遇が正式に決定した。
 生徒会長の劉Nは、生徒会長の座を降りることになったものの蒼天章の剥奪には至らなかった。さしたる抵抗をせずに降伏したことが評価されたのである。(曹操たちの予想通りの降伏ではあったが)ただし、荊州校区に留まることは許されず襄陽から、そして荊州校区から遠く離れた青州校区への転校となった。
 蒯良・蒯越らをはじめとする文官グループの者たちは、連合会役員に加わることになり、改めて連合会(つまりは曹操)から現在のポストに任命されると言う形で、新たな部署(地位)に転属したり元の地位を維持することが出来た。
 蔡瑁・張允ら、武官グループの面々も引き続きそれまでのポストに留まることになった。彼女たちはそれまで預かっていた部隊の指揮を引き継いで、曹操の南征軍に加わることになった。
 かくして、劉表の会長就任以来続いていた荊州校区の独立運営は、ここに終わりを告げたのである。

34 名前:彩鳳:2007/03/11(日) 00:27

 『どんな物事にも、必ず終わりがある』と人は言う。その言葉は正しいと思う。今までの人生で一番目まぐるしい、今日という日にも当てはまったのだから。
 そんなことを思いながら、劉Nは街灯に照らされた夜道を寮へ向けて歩いてゆく。
 曹操と相対しての降伏手続きが終わった頃にはすでに日は沈んでおり、夜空には無数の星々が浮かんでいた。
 歩きながら、彼女は今日一日の出来事を思い返してみる。
 普段と違う緊張感の張り詰めた朝がやって来て、しかし何ごともなく午後になったと思ったら、突然曹操の侵攻が始まった。
 それ以降は上級生たちと進展のない議論に終始し、気がついた時には連合会の大軍が目の前に迫っていた。
 そして、曹操との対面の時が訪れた。
(本当に、凄い人だったな・・・)
 先程まで顔を合わせていた人物の印象が、劉Nの頭を離れない。
 彼女の想像とは全く違った“学園統一に一番近い女”の幼げな容姿。
 初対面の劉Nは驚いた。だが、そこで驚いてはいけなかった。本当に驚くべきなのは、それからだったのだから。
 曹操が見せたのは、姉や姉を支えた上級生たちにも似た余裕綽々の態度。
 そんな彼女に付き従う錚々たる面々と、それを動かすリーダーシップ。
 そして「臨機応変」の言葉を地で行く瞬間的な判断力。
 どれも劉Nが必要だと思いつつ、持ち合わせていなかったものだ。しかし、曹操は持っている。
(無理だ。私じゃ敵わない)
 自分と曹操の間にある巨大な“差”の存在を、劉Nは認めざるを得なかった。
 姉には悪いが、たとえ姉の引退が遅れたとしても荊州校区の独立は守り切れなかったと思う。
 学内最大の実力者の力量を目の前で見せつけられて、劉Nは格の違いを思い知ったのだ。
 しかし、劉Nの驚きはそれだけではなかった。曹操は、劉Nを青州校区総代に任じたのである。
 青州校区総代。軍権は無く、階級章も2000円から600円にランクダウンしてしまうが、それ以外は生徒会長と大差のないポスト。すなわち青州校区の責任者である。
 荊州校区の降伏によって自分の学園生活は終わったと覚悟していた劉Nにとって、全く予想出来なかった決定だった。初対面ではあるが、自分は曹操の敵のはずである。その自分が一校区の責任者だなんて、それで良いのだろうか。意思決定を行う力こそ持っていなかったが、それでも荊州校区のトップにいるという自覚は持っている。
 校区の降伏手続きと、連合会主導による人事処理が終わった後、意を決して劉Nはそのことを曹操に問いかけた。だが、劉Nの訴えを聞いた曹操は呆れたように言った。
「敵同士だったのはさっきまでの話でしょ。それに、蒼天章まで取られなくちゃいけないことをあなたはやったの? やってないでしょ。そんな終わったことより、来週のことを心配したほうがいいんじゃない?」
 これが曹操の返事だった。こうして、劉Nの青州転属は正式なものとなった。
(明日も忙しそう・・・)
 月曜日には、青州校区での初仕事が待っている。そのため、明日の日曜日は引越しに専念しなければならない。荷物の移動は連合会のほうで受け持ってくれるというが、見知らぬ校区へ転校するのだ。楽な一日にはならないだろう。
 明日への不安を抱えつつ、一人孤独に彼女は夜道を歩いてゆく。
 道の半ばで、劉Nは後ろを振り返った。視線の先には毎日を過ごした校舎がある。曹操の事や明日の事に気を取られ、他にも気になる事が多すぎて、襄陽棟で過ごすのもこれで最後だということを彼女は失念していたのだ。
 彼女の視線の先では、見慣れた校舎が暗く静かにそびえ立っている。
 重々しい夜闇に包まれたその姿は、まるで墓標のようだと劉Nは思った。



 ○作者後記
 
 前章に続いて、劉Nには辛い章になってしまいました。後で補完ストーリーでも書かねば。
 さて『王者の征途』は次章で完成予定ですが、早く載せられるように尽力いたします。

35 名前:雑号将軍:2007/03/14(水) 21:40
彩鳳様。お疲れ様です!今回もお見事でありますな。荊州閥の保身に走る姿がなんとも生き生きと映し出されている気がしました。
まあ、彼らは彼らでいろいろ考えてた結果なんでしょうね。
これから、曹操が劉備とどう対峙していくのかが楽しみです。

36 名前:海月 亮:2007/03/16(金) 00:19
「蒼天航路」ファンとしては何の後ろめたさもなく保身に走る蒯越の姿がテラカナシス( ノД`)w


個人的な嗜好はさておいて(何)、実際の荊州政権も結局は豪族の連立政権しかなく、長いものに巻かれろ的な考え方があった感じですが…そのあたりが巧く表現されてますね。
劉Nは史実でも最後まで抵抗を試みようとしたみたいですけど…

37 名前:韓芳:2007/03/22(木) 22:55
2週間出掛けているうちに次がラストですか〜。
本当にご苦労様です。
演義しか読んでない私には、劉Nの見方がガラリと変わる内容でしたね。各々の心情が良く伝わってきました。
次章お待ちしてます。

劉備サイドはご無理をなさらない程度でお願いします(頼むのかよ

38 名前:韓芳:2007/03/25(日) 00:50
風凛華惨  其ノ壱

風は、時には凛と、時には華やかに吹くが、時には惨酷である。

ここは小沛棟より少し離れたところ。
そこで、2人の女性が話し合っていた。
「高順様どうしましょう? この数では苦戦は必死かと。」
「かといって、逃げ出すわけにも行かないわ。突撃するのみよ。」
「はぁ、まあそうなんですけどね。」
「曹性、今どのくらいいるんだっけ?」
「バイク持ちが20人と歩きが30人ですね。」
「そう。 じゃあ、歩兵は任せるわ。 私たちがバイクで敵陣をかき乱すから、そこをついて攻撃して。」
「はい! …しかし、呂布様にも困ったものですね。 慣れてきましたけど。」
「そういう素直なところがいいのよ。 …はぁ〜。」
「ダメだこりゃ。」

実は今、劉備が曹操と通じているということを知った呂布が、烈火のごとく怒って小沛棟を攻撃中だったのだが、曹操側の援軍が迫ってきているという知らせを受けたために迎撃に来ているのである。
とはいえ、呂布自体もこちら側に来ているのでほとんど転進ではあるが。
ただ、呂布の部隊は最前線に居た為ここへはまだ到着しておらず、後方に居た高順の部隊が待機していた。
「う〜ん、ざっと100…いや、150は居るかな?」
「倍以上かぁ。 まあ、なんとかなりそうね。 突撃用意!」
高順が攻撃するときは、大抵『突撃』である。この戦場での突撃の多さが陥陣営と呼ばれるきっかけになっているのかもしれない。
「本隊はまだかすかに見える程度ですね。 …先に仕掛けていいのですか?」
「仕掛けなければ向こうから来るよ。 …ん?指揮官は夏候惇か? 少し厄介ね。 まあ、でも――」
そこへ、あわただしく伝令がやってきた。

「呂布様より伝令です!」
やや疲れが見える。 まだ本隊は時間がかかりそうだ。
「『高順は本隊が来るまで獲物を抑えておけ』だそうです!」
「そうか、ご苦労様。」
「はっ!」
「…聞いたな曹性? 行くよ。」
「了解!」
風は送り風である。
絶好の突撃のタイミングだ。
「バイク部隊、進め!」
高順の率いる部隊は、爆音を響かせ目前の敵へと向かっていった。
颯爽と敵へと向かっていく高順の背中に憧れるものも多いという。

「私たちも行くよ! 歩兵部隊、突撃!」
曹性は気合を入れ、バイク部隊の後を追った。
その後の運命など知らずに。

39 名前:韓芳:2007/03/25(日) 00:54
こんなの書いてみました。
やっぱり呂布軍団ですw
一応主役は曹性ですが、分かりにくい…
文句は注文の多い料理店より多いでしょうが、お手柔らかに…

40 名前:彩鳳:2007/03/31(土) 23:16
 『王者の征途』
 
 第五章(終章) 『湖南へのうねり』
 
 太陽は西に大きく傾き、目に映る何もかもを紅く染め上げていた。眼下に広がる長湖の湖面は凪いでおり、夕日を浴びて鏡のように輝いている。その穏やかな光景は激しい嵐の訪れた地であることを忘れさせてしまう。
 襄陽棟の陥落から一日。同棟の南に位置し、長湖の西岸に建つ江陵棟の屋上には、二人の生徒の姿があった。
 江陵棟の新たな主となった曹操と、そのパートナーで生徒会執行部長の夏候惇だ。
 屋上から長湖の西岸一帯を眺めながら、曹操は一人考えに耽っている。その少し後ろに控える夏侯惇は無言のままで口を開くことはない。
 夕暮れの冷気を孕んだ夕風が、二人きりの屋上を吹き抜ける。

 その日の蒼天学園は、学内全体が異様な空気を孕んでいた。戦乱による混乱が常態化した学園にあって、極めて珍しいことであった。
 異様な空気の原因は言うまでもない。曹操の速攻による荊州校区の降伏だ。何しろ学園有数の校区が半日持たずに降伏してしまったのである。その信じ難い事実は津波のように学園中に伝わり、学園全体を揺さぶる衝撃をもたらした。
 曹操の目論見どおり『三度目の嵐』が吹き荒れたのである。

 異様な雰囲気の中、曹操は早くも江陵棟へ進駐した。襄陽の校区首脳陣がすでに降伏していたため、抵抗する者は皆無だった。
 江陵棟は、襄陽棟と共に荊州校区を代表するキャンパスだ。長湖に面しており、校舎に隣接した船着き場は校区第一の水運拠点として活況を呈している。同棟を手に押さえたことは、連合生徒会が揚州校区へ侵攻するための拠点を手に入れたことを意味する。
 だが、曹操の見せた動きはそれだけではなかった。江陵へ入るのと同時に、手元に温存していた最後の強襲部隊――張遼率いる「嵐部隊」(Sturm=強襲部隊“シュトゥルム”)――を投入し、南へ逃走する劉備を叩かせた。
 張遼は江陵と襄陽の中間点辺りで帰宅部の集団を捕捉した。「嵐部隊」は勇戦し、多大な損害を敵に与えたが張飛・趙雲・陳到らの必死の防戦により劉備を仕留めることは出来なかった。
 散々に叩かれた劉備たちは、劉Nの姉・劉Kがいる江夏棟へ落ち延びたという。
 江夏棟は、荊州校区と長湖部の抗争の地だ。相応の備えはあるだろうから、迂闊な手出しは出来ない。逃げ延びた帰宅部に、立て直しを図る時間を与えてしまうことになるだろう。
 結果的(戦術的)には、張遼の強襲劇は失敗に終わった。
(でも、戦略的な見地からすると、全てがマイナスに作用したわけじゃぁないんだよね)
 特に、劉備を中心にして敵対する抵抗勢力が一か所に集まったことを曹操は密かに喜んでいた。
 襄陽・江陵を手にしたことで「高潮作戦」の第一段階は達成された。今日以降は占領地域の安定化・治安回復を行う「高潮」の第二段階に着手する。
 このとき、抵抗勢力があちこちで活動するようでは第二段階の早期達成はおぼつかない。
 だが、危険視すべき不満分子は劉備と共に去っていった。これにより第二段階の早期達成が見込まれる。この点だけは劉備に感謝しても良いと曹操は思っていた。
 体勢を立て直した劉備たちはこの期に及んで降伏などしないだろうし、こちらも受け入れるつもりはないことは理解しているだろう。
(と、なると劉備に残された道はただ一つだけ)
 帰宅部が生き残る術は長湖部と連携する意外にあるまい。その可能性はかなり高いと曹操は見ている。
 両者が組むのは厄介だ。だが、考え方を変えて邪魔者をまとめて片付けられると思えば、これまた悪い話ではない。
 幸いなことに、荊州校区の保有する水上戦力を無傷で手に入れることが出来たのだ。
 これにより水陸両面からの作戦が可能となり、第三段階の決戦に際して行い得る作戦の幅が大きく広がる。
(そう、総合的に考えてプラス面のほうが大きいと判断して良いんだよね。あとは―――)

「孟徳、もう日が沈むぞ?」
 不意に響く夏候惇の声に、曹操の思考は断ち切られた。二人きりの屋上では、実際の声量以上に声が大きく響く。
 西の空に目をやると、彼女の言う通り半ば沈んだ太陽が最後の光を放っていた。その陽光が照明となって、益州校区の山々を黒く浮かび上がらせている。
「ごめん。もう少しだけ、いい?」
 夏候惇の沈黙を了承の意と解釈すると、曹操は長湖の湖面に視線を戻した。
 明日から数日は「高潮作戦」の第二段階に着手する。第二段階は事務仕事が中心となるため、戦闘部隊に休養を与える時間ができる。おかげで各部隊は満を持して第三段階に移ることが出来るはずだ。
(――あとは、揚州校区の態度次第)
 この時間を利用して、曹操は長湖部に決断を求めるつもりでいる。何の決断かは言うまでもない。抗戦か、それとも降伏か。果たして向こうがどう出てくるか。実に楽しみだ。
 曹操は視線を少し右に移した。その空の下には彼女が目指す揚州校区がある。
(あの空の下に『王者の征途』の終着点がある。今日は江陵までたどり着いたけど、まだまだ先は遠いね)
 東の空は暗い藍色に染まり始めており、湖岸を彩る街灯が星のように小さく見える。
 空の下に広がる長湖の湖面は白波を立てず、どこまでも穏やかに広がっていた。

                                ―『王者の征途』完―

41 名前:彩鳳:2007/03/31(土) 23:17
○作者後記

 大変お待たせいたしました。『王者の征途』終章(第五章)です。
 ギリギリ3月中に投稿できました。「俺の人生綱渡り」を地で行ってますね・・・。
 就活でバタついていた私ですが、先日の卒業式を前に何とか内定取れました。卒業式によく間に合った。感動した!(馬鹿)

 というわけで、来週から1年遅れで社会人の彩鳳ですが(滝汗)この後『王者の征途』の劉備サイド版を仕立てる前に
劉Nの補完ストーリーと言えば良いのでしょうか、SSSみたいなものを書き上げるつもりでおります。
 役回り上仕方ないとはいえ、三章&四章の終わり方では劉Nが気の毒ですからね。演義で損な役回りになった分の名誉回復
・・・になればと思っております。

>雑号将軍さま
 劉備サイド版のプロットが組みあがりつつあります。早期実現に務める所存です。

>海月亮さま
 蒯越の扱いは正直悩みますね。ここでは「曹操シンパ」と割り切って書きましたが、劉備サイド版では『蒼天航路』に配慮した
役回りをしてもらう予定です。

>韓芳さま
 曹性が主役ですか! となると夏候惇との死闘は必至ですね。『王者の征途』ではほとんど文官になってしまった彼女ですが、
活躍に期待しております!

42 名前:雑号将軍:2007/04/01(日) 00:05
>韓芳様
曹性よりも高順に目がいってしまう雑号将軍です。
いやあ、高順格好良いですね〜。高順は自分の大好きな武将の一人なのでこうやってSSになると感動しますね。

>彩鳳様
就職おめでとうございます!
作品の方もお見事なまとめ方で、自分も見習いたいものです。
夕日を見つめる曹操と夏侯惇が言葉では言い表せないなにかを感じさせて頂きました!

43 名前:雑号将軍:2007/04/01(日) 00:10
連レス失礼致します。
>劉備サイド版のプロットが組みあがりつつあります
それは!楽しみに待っております!無理はなさらないで下さいね。

44 名前:韓芳:2007/04/02(月) 01:10
風凛華惨  其ノ弐

「夏候惇様! 敵バイク部隊とまもなく交戦状態に入ります! 敵将は…高順です! 後方には歩兵も居るようです!」
「了解した。 …指示を出す、各部隊長へ伝えてくれ。」
「はい!」
空は、うっすら赤く染まり始めていた。その空の下を、夏候惇率いる200人の部隊が進んでいる。
今回の任務は名目上『劉備の援護と呂布の撃退』が目標ではあるが、実際は、曹操が来るまでの時間稼ぎだ。長い付き合いだからその辺のことは良く分かる。(サインも出ていたし
ただ、普通の時間稼ぎで終われるほどの自制心は持ち合わせていない。
それに、この人数なら呂布に一泡吹かせるくらい出来るかもしれない。そう考えていた――

「まず、横15列縦10人に並ばせ、各列横の間隔はバイク1台半空けさせろ。縦の間隔は1台分でいい。 敵は列の間に割り込んでくるだろうから、なるべく列を乱さないようにしつつ通り過ぎるのを待て。 バイク部隊が通り過ぎたら、前半分は各々の間隔を無くし歩兵へ突撃、後ろ半分はバイク部隊を追撃。 残りの50人は各列の最後尾にバリケードを作り、敵がUターンしようとしたところを襲ってバイクから蹴落とせ。 その後は、各員の判断に任せる。」
「了解しました!」
これでいい。 いくら高順とはいえ、100人ほどに囲まれたらたまったものじゃないだろう。 例え包囲から抜け出したとしても、その頃には私が歩兵を粉砕して応援に来ているだろうから、どうあがいても終わりだ。
「…いままでの恨みを晴らしてやる!」

敵が陣を整えているのを、高順からも見えてきた。
「改めてみると、圧巻ね…。」
「こっ、高順様… ああ、あの中を行くのですかっ?」
「当たり前。 怖がるのは今のうちよ。 …怖がってる暇も無くなるから。」
高順の目つきが変わった。 この瞬間から、彼女は『清楚潔白』から『陥陣営』へと姿が変わる。
「相手の布陣はすかすかよ! 隙間通ってかき乱してやりなさい!」
「はっ、はい!」
「かかれぇ!」

「来るぞ! 総員構えろ!」
風のように夏候惇の脇を数台駆け抜けていった。
その中に高順の姿が見えたのだが、剣を抜くことは出来なかった。 なぜなら、
「…あいつ、笑ってた… この状況で…」
背筋に寒気が走った。
作戦には問題ないはずだ。 たとえかき乱されたとしても、兵力で何とかなる。 いざとなったら私が――

振り向くと、悪い夢を見ているような気がした。
列はほとんど面影が無いほど乱れ、3分の1の兵は倒れ、もう3分の1は傷つき、残りの3分の1はただその場に呆然と立ち尽くしていた。
バリケードで待機していた兵などは、傷ついていない者は居ない有様だ。
そのうえ、敵の損害は10人。 半分に減らしたとはいえ、こちらの損害とは比べ物にならない。 これが陥陣営なのだ。

夏候惇もその光景をただ見ているしかなかった。

「高順様はうまいことやったみたいね。」
「曹性様! 敵は怯んでいます! 今ならいけます!」
「よし! みんな、行くよ! ん? あれは…夏候惇!」
「こちらに背を向けているようですね。 これはチャンスでは?」
「私が行くわ。 貴方たちは残りをお願い!」
「了解しました!」
「かかれっ!」
空の大半は赤く染まっていた。

45 名前:韓芳:2007/04/02(月) 01:21
はい、今回も曹性ほとんど出ず。
次回は、次回こそは出ますよ。
出さないと終わっちゃうし… orz
『陥陣営』表現するのに損害出しすぎたかな?

>彩鳳様
内定おめでとうございます。
これから大変だと思いますが頑張ってください!(何様
作品は、最後の曹操と夏候惇の2ショットがとても印象的です。
2人の絆は深いですね。

46 名前:韓芳:2007/04/04(水) 00:39
風凛華惨  其ノ参

夏候惇はようやく我に返った。
実際はほんの数秒だったのだが、その何十倍も長く感じられた。
「私としたことが… 驚いている場合ではないな。」
そうつぶやくと、夏候惇は軽く深呼吸をした。
大半のものも我に返り、怪我人の手助けを行っているが、まだ呆然と立ちすくんでいるものも居る。
「おい! しっかりしろ!」
「…えっ? …あっ、はい!」
「あんたは後方で怪我人を助けて。 あと、まだ突っ立ってるやつもね。 それから、元気な者の半分はすぐここへ来るよう伝えて。」
「はい!」
こうしている間に、敵の歩兵は目の前まで迫っている。
「夏候惇様! ご命令の通り、元気な者15名集合しました!」
元の1割にも満たない人数だった。しかし、過ぎたことを言ってもしょうがない。
「よし、作戦を伝える。 まず、10名ここで―――」
「…あ、危ない!」
「くっ…!」
「くらえぇぇ!」
夏候惇は振り向きながら回避行動をとった。
だが、振り向きながら避けようとしたため、敵の1撃を左目に受けてしまった。

「ぐぁっ… おのれ…」
「夏候惇様ぁ! …夏候惇様を守れ!」
15人が夏候惇を取り囲むように戦っている。 しかし、人数と士気の差が大きく徐々に押されていく。
「夏候…惇様… ご、ご無事ですか…?」
隣に倒れた兵の声はか細く、意識は朦朧としているようだ。
「ああ、何とか大丈夫だ。 しっかりしろ!」
「よか…た… 本当に…」
「おい… おい!」
「――覚悟は決まりましたか?」
どこかで聞いたことのある声。 …そうだ、1撃食らわされたやつだ。
「…フン。 覚悟なんてとっくの昔に出来てるさ。」
「なら…階級章、いただけますか?」
「残念ね。 私があいつと出会ってなければ考えたかもしれないが、今は無理な相談だな。 あいつより先にくたばるわけにはいかない。」
「なら、しかたありません。 …力ずくでも、階級章頂きます。」
「力ずくでも? …ちょうどいい。 私やこいつらの痛み、返させてもらうよ。」

周りに味方は20人、敵の兵は夏候惇を入れ3人。 もらった!
「曹性様、どうしましょう?」
「決まってる。 …行けぇ!」
わっと一斉に襲い掛かった。 だが、急に下腹部に痛みが走った。 別に病気など持っていない。 もちろん、走って息が切れたせいでもない。 ということは――
「どうした? もう終わりか?」
「なっ、こいつ… 強い…」
正面に木刀を握った夏候惇が立っている。 その周りに、味方の兵たちがうめき声を上げながらころがっていた。
「くっ… まだ…高順様が来ていない… このままで…終われるかぁ!」
「そうだ。 それでいい。 次はこちらから行くぞ!」
「くっそぉぉぉぁぁぁ!!」
夏候惇の頭を狙った一撃。 しかし、それはフェイクで実際は下からの切り上げ。 読めた!
「夏候惇! これでもくらえぇ!!」
下からの切り上げをガードし、がら空きの体への蹴り。 決まった!
「決まったとでも思ったか?」
「なにっ?」

そんなばかな。 確かに、ほんの0,数秒前にそこに居たはずの姿はすでに無く、あるのは曹性の背後から横腹へ1撃をくらわせた姿だった。
「なんという…速さ…」
「お前と私じゃ、格が違うのさ。」
「ぐぁ… 高…順さ…ま…」
薄れていく意識。 ああ、私はもうだめだ。 遠くからバイクの音が… バイク?
「曹性!」
猛スピードで現れた高順は崩れ落ちる曹性を抱え、そのまま走り去っていった。
あまりの速さに夏候惇は手が出なかった。
「高順… いつかはお前も―――」
そう言うと、夏候惇はその場に倒れこんだ。 首の後ろに、殴られたような跡がついていた。

「もう…しわけ… ございません…」
「仕方ないわ。 やり損ねたのは私なんだから。」
バイク上で抱きかかえられながら曹性は思った。
この人は、なぜこの軍団に居るのだろう。 なぜ、危険な役目を受けても嫌な顔ひとつしないのだろう。 ほかの軍団ならもっと活躍の場が――
「どうしたの? さっきからじっと私のほうを見て。」
「あっ… いえ、何でもありません。」
「? ならいいけど。」
でも、この人が同じ軍団にいてよかったと思う。 このような人にはなかなか出会えないだろうし、その人の下でいっしょに過ごせるか分からないし。 例えどんなにつらいことが起きても、この人が居るなら乗り越えられる… そんな気がした。
「私… 階級章とられてしまいました… 高順様、いままで…ありがとうございました。」
「…こちらこそ、ありがとう…。」
まるで映画のように、バイクで走り抜ける姿が夕日に照らされている。
「はは、呂布様に何言われるだろ。」
「そう…ね。 いざとなったら、ちゃんと止めてあげる。」
「いえ、でもそれでは――」
「私はあなたの上官よ。 それはいつだって変わらないわ。」
「…ありがとうございます。」
「…今のうちに、泣くなら泣いときなさい。」
「…はい。 すいま…せん…!」
高順様のぬくもりを、私は今でも忘れない。

47 名前:韓芳:2007/04/04(水) 00:42
よく考えれば明日(と言うより今日)入寮日なので、書き終えないとしばらく来れないという事に気付きました。
ということで急遽完結です。
ホントはもうちょっと長かったんですけどね… 時間が… orz
おかげで主役が夏候惇ぽく…

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