第5話 「ヒトメボレ猛将伝」
1-5 ヒトメボレ猛将伝 1 西暦195年、4月。
浙江を越え、郡境が近づくにつれ、越軍の兵士たちの間のお祭りムードが一変し、緊張が高まっているのが解る。 ――というわけで投石の一つでも覚悟していた俺たちだが、これがなんと、実にあっさりと歓迎された。 古 泉:まさに呉越同舟ですよ。この乱世の激流に漂う一艘の舟に乗り合わせたのですからね。呉だの越だの言ってられないのですよ。 今回その舟を脅かした激流というのは、越の領袖たるハルヒ本人だけどな。マッチポンプもここに極まれりだ。 古 泉:そのポンプですが、現在、文字通り大規模な農業灌漑が郊外で行われているようですよ。どうやら涼宮さんが、官庫を開いて民政を始めているようですね。呉の人心が明るいのも、善政を我々に期待しているからでしょう。 なんだ、ハルヒの奴が内政? 俄に信じがたい話だが。 古 泉:いざ進駐してみて、呉の窮状を見かねたのかも知れませんね。 あり得ない話じゃないな。呉の荒廃っぷりにアテが外れたってのは。 ――などと馬上でくっ喋っている俺たちの前に、ようやく都城の全景が広がってきた。 そして―― 古 泉:……な!? みくる:え…? どうして…!? 珍しく狼狽した古泉の小さな呻きと、朝比奈さんの可愛らしい狼狽が重なる。 文武百官の中央で俺たちを出迎える呉郡新太守ハルヒの、その隣で満面の笑みを浮かべている人物――もうここまで言えば解るだろうが、朝比奈さんのクラスメイトにしてSOS団の名誉顧問、鶴屋さんが、このマヌケ中華時空に参戦するであろうことはな。
|
統:3武:5知力:67政:79魅:68
|
||||||||||||
2
鶴 屋:わっはっはは――! みんな久しぶりだっ! みくるっ!チャイナも似合ってるよっ! ハルヒに匹敵するであろう大声で、鶴屋さんは屈託なく手を振った。 みくる:鶴屋さん…どうやって… 鶴 屋:はははっ!みんなと多分同じさっ。気が付いたらここにいたんだよっ。流石にびっくりさっ! そりゃびっくりするでしょうよ。 鶴 屋:状況が解らなかったから、とりあえず城の一番偉い人に会って話を聞こうと思ったら、ハルにゃんがいたのさっ! 単身で異世界に放り出されながら、いきなり城を訪ねようという発想のスケールがそもそもからしてデカ過ぎる。定番RPGであれば、文句なしに主人公が務まる行動力だろう。 …などと、思いがけない邂逅に沸く俺たちの横を素通りして、ハルヒは一直線に長門のもとへ駆け寄っている。 ハルヒ:有希っ!怪我しなかった!? 長 門:…大丈夫。 ハルヒ:でも有希、でかしたわっ!早馬で詳細は聴いてるわよ!二階級特進ものだわ! ハルヒは興奮気味に捲し立てながら、長門の両肩をがっしり掴んで、勢いよくその小柄な上体を揺さぶっている。そのたびにショートカットが前へ後ろへ飛び跳ねるように揺れた。 ハルヒ:うるさいわね。――まあ、とにかく立ち話じゃなんだから、みんな、城へ入りましょう! ぽかんと見守っている呉城の面々を置いてきぼりに、ハルヒは長門の肩を抱きながら、テンション5割増しできびすを返した。 董 襲:なんだ、あの髪の長いお嬢ちゃんもあんたらのお仲間か? …そうなるでしょうね。なにかと頼りになる先輩ですが、こっちでは、どの程度のパラメータなんだか。 董 襲:んー。オレの見立てだが、たぶん大将と同じ種類の化け物だぞ、あのお嬢ちゃんも。 化け物!? 董 襲:あー…オレせっかく一番槍係だったんだがなあ。 などとぼやきながら、董襲さんのごつい背中が心なしかトボトボとハルヒ達を追いかける。 虞 翻:出迎えは終わりじゃ。部署に戻り、上長の指示を仰げ。 その一言で、居心地悪そうに突っ立っていた面々が、ネジを巻かれた人形のように、四方へ駆け戻っていく。 ……… ハルヒ:まあ、色々あったけど、結果オーライよね! 呉越を抑えたことだし、このまま勢いに乗って江東を席巻するわよっ 呉城の太守の間で、ハルヒは腕を振り上げて上機嫌に檄を飛ばしている。 鶴 屋:わははっ、太守さまっ!何でも命令してくれたまいっ! と、ハルヒ以上に盛り上がっている鶴屋さんと、 厳白虎:…。 厳 輿:…。 周囲へ往年の偏頭痛を訴えるような姿勢で憮然と佇む、かつての敵将の姿があった。 あらたに呉の支配者となったハルヒは、虜将を処断追放せず、幕下に納めることに成功していた。 ハルヒ:さあ古泉くん、次は建業攻略よね。いつ我が軍は出撃できるのかしら! 案の定のセリフを吐きだし、鼻息荒くキラキラした瞳で傍らの古泉を顧みるハルヒ。古泉は羽扇で巧みに苦笑を隠しているが、こっちの角度からだと丸見えなんだよ。 |
|
||||||||||||
ハルヒ:会稽にしても呉にしても、ド田舎もいいところだわ。SOS団の覇業は、あのでっかい建業※の城を奪って、ようやく始まるのよ。そうでしょう!? ハルヒがまくし立てるとおり、タテに回廊状になっている江東地方を抜け出すには、その出入り口を扼する建業を奪取しなければならない。 建業は長江に面した巨大港湾都市であり、江南の政治・商業・文化の中心地であると同時に、攻め手の気が滅入るほどの防衛力を誇る城壁と、常時数万の兵馬が駐留する一大要塞でもある。 ハルヒ:なによ。キョンの分際であたしに諫言するつもり? 言いながらも、上機嫌らしいハルヒはこちらに向き直って「まあ聴いてあげるわ」のポーズだ。いちいち業腹な野郎だが、またこいつの死の行軍に付き合わされるよりマシと自らを諌めて、ハルヒの突撃脳にも解りやすく、現状を分析してやる。 ――ひとつは、呉・越の兵力の少なさだ。建業の総兵力は3万に達しているが、いま会稽と呉の兵力を掻き集めても、どうにか1万そこそこだろう。外征どころか治安維持すらままならない状況であることは、先の山越襲撃でも明らかだ。 ハルヒ:…。 もうひとつは、内政の不備だ。なにしろ、先の会稽軍の攻撃により呉は壊滅状態。会稽のありったけの兵糧と銭帛をこちらへ掻き集めても、どうにかその一万の兵力を半年維持できるかどうか、というレベルまで困窮しているわけだ。そのうえ国防予算が収支を上回っているとなれば、財政破綻は目に見えているだろう。 ハルヒ:……。 最後に、山越民族だ。この間はたまたま長門が戻っていたから撃退できたが、また何万という軍団で襲撃されたときに、誰がどの兵力でそれを迎撃するんだ? 主力部隊が駐留する呉はともかく、がら空きの会稽はどうやって守るんだ? ハルヒ:…………。 俺が1ヶ条論駁するごとに、眉間の勾配を変えてゆくハルヒ。分かり易い野郎だな。もっとも、みるみる機嫌を損なう太守の様子に狼狽するのは、新参の呉の官吏たちばかりで、会稽からのSOS団員は平然たるものだ。 王 朗:キョン殿の申し様、三ヶ条ともに尤もでございます。揚州どの(劉)の正義を問う儀については、今しばらく民土を寧んじた後でも遅くありますまい。 相変わらず、新川執事を思わせるロマンスグレーの英国風紳士・王朗さんは、慇懃な物腰でハルヒを諭す。 古 泉:王朗さんの仰るとおりです。もちろん、のんびりとはしていられませんが、もうしばらく干戈を横たえて兵馬を休め、殖産に務めるのが、むしろ覇業の近道になるものかと。
と、無難そのものの纏めに入った。
ハルヒ:…………。 ヘの字口とアヒル口の中間くらいの表情で、己を諫止する手下団員たちを交互に眺めていたハルヒは、しかし群臣をギャフンと言わせる有効な反論が思いつかなかったらしく、やがて不貞腐れたように溜息をつき、「まあいいわ」と呟いた。 ハルヒ:みんな分かってるわね!必ず次の年には、建業にわがSOS団の旌旗を掲げること!その為の準備期間なんだから、今日あたしを諫めたことを後悔するくらい、みんなには働いて貰うわよ! ――もちろんみくるちゃんにもよっ みくる:ふぇ――!? はいっ――!? まさか自分に振られると思わなかった朝比奈さんは、大きな目を白黒させてアタフタしている。奇襲効果の覿面さに満足げなハルヒの側で、鶴屋さんもその様子を見てゲラゲラと大喜びだ。 ……… 古 泉:さて、問題は山越の襲撃にいかに対処するか、ですが―― 内政について、やや事務的な討議がなされた後、古泉が一同の注意を喚起したことは、江東政権にとって死活問題とも言える、山越民族問題だった。 ハルヒ:面倒ね。パーッと本拠地とか燃やせちゃえないの? 無茶を言うな。推定何十万、何百万人という一つの民族だぞ。どんなジェノサイドを敢行するつもりだ。 ハルヒ:わかってるわよ。そうじゃなくて、戦闘集団を一箇所に集めて殲滅できないかってこと。 鶴 屋:ねねっ、何なら私が留守番してよっかっ? こっちは任せて、ハルにゃんたちはやりたいことを全力でやりなよっ 屈託無く、鶴屋さんが申し出てくれる。 ハルヒ:うーん…鶴屋さんを後方に回すのは、もったいなさ過ぎるわ と、ハルヒが渋面を作るのも無理ないことで、このマヌケ中華時空における鶴屋さんのスペックも、かなり反則気味なものだった。 鶴屋さん
ハルヒの場合と違って、たまに見え隠れする鶴屋さんの底知れない部分を考えると、そうあり得ない数値と感じられないのが怖いところだ。 ハルヒ:鶴屋さんには、政戦両略でガンガン活躍して欲しいのよ! もう一人くらいあたし級の人材が欲しいなあ、って思ってた矢先にフラっと来てくれたのよね。これは天が遣わしたものだわ。それを呉越に埋まらせるわけにはいかないわっ 鶴 屋:わはははっ、天を持ち出されると照れるにょろよっ ケラケラと笑うSOS団臨時顧問は、ふと表情を改めて、んー、と舌を出さないペコちゃん的思案顔を一同へ向けた。 鶴 屋:でもさ、山越って人たちも、絶対に攻めてくるわけじゃないんだよねっ。じゃ、攻められない方法も考えたらどうかなっ 山越の襲撃が起こらない方法―― 厳白虎:そういえば吾輩ら兄弟であれば、彼らを押さえることが出来るであろうな と、かつての敵将は、こともなげに言い放った。 ハルヒ:…本当に? と疑わしげな様子のハルヒに向かい、厳兄弟はニヤリと笑って見せた。 厳白虎:なめて貰っては困る。吾輩は山越の渠帥どもと互いの血を啜り、義を契った中だ。吾輩か弟がおる城には、彼らは決して寄せては来るまいよ なるほど、武将特性「親越」だ。 古 泉:ありがたいですね。厳氏お二人に、それぞれ会稽と呉に駐留して頂ければ、それだけで全域をカバーできます。 ハルヒ:でかしたわっ!何よ、これで問題ひとつ解決じゃない! ま、そうだな。出来すぎといえば出来すぎな配剤だが。 ハルヒ:とりあえずマイナス要因は払拭されたし、後は武将集めとか、計略とか、そのへんの話よね。――みんな、トイレ休憩とか挟んだ方がいい? 古 泉:府君、いかがでしょう。色々と重要な決議も出ましたし、ここは一度閉会して内容を消化して貰い、明日あらためて会同するというのは 俺たちの顔にそろそろ浮かんできている疲労を汲み取ったか、ふいに古泉が休会を提案する。まあ体感時間で7時間くらいぶっ続けだったからな。脳細胞のためにも、糖分の補給が欲しいところだ。 ハルヒ:そうね。今日ももう遅いし、懸案事項も解決したし、一眠りして頭を休めたほうが効率いいかもね。 と、案外あっさりと明日への持ち越しを認めた。 ハルヒ:じゃあ、明日、また朝イチで集合。手ぶらで来ちゃダメよ。ちゃんと明日話し合うための腹案とか資料とかを各自まとめて持ってきなさい。そうね、一人一案、何か策を用意すること。 宿題つきかよ。策ったって何の策を提出すれば良いんだ。テーマを明示してくれ。 ハルヒ:内政でも軍事でもかまわないわ。テーマは「富国強兵」ね。――じゃ、今日はこれで解散。また前みたいに客楼でミーティングするから、みくるちゃん、用意よろしくね みくる:は、はいっ 鶴 屋:おっ!二次会もあるのかっ。私も手伝うよっ 嬉々として手を挙げた鶴屋さんが、朝比奈さんが慌てて断るよりも数瞬早くその腕を取って、ぐいぐいと引っ立てていく。
|
建業
|
||||||||||||
4 ――そんなこんながあってから、約半月後のことだ。 意外なことだが、呉越のSOS団と、ここ建業は相互不可侵の同盟関係にある。
さて、そんな仮想敵国の本拠地をたった一人でうろついている俺の目的は、もちろん買い物でも物見遊山でも傷心旅行でもなく、わがSOS団にふさわしい人材のスカウトにあった。 ハルヒ:キョン!あんた絶対に連れてきなさいよ! もしミスったら、今月の給料から経費天引くわよ! というハルヒの理不尽な叱咤を背に、この建業までやってきた俺だったワケだが、しかし任務を全うできずにいた。 凌 操:俺に、呉君に仕える理由が無いな と、まさに反論の余地が1ミリも介在しようのない完璧な理由でもって、丁重に断られた次第だ。 …だが不思議なもので、ミッションに失敗した直後はむしろ晴れ晴れとした開放感すら満喫していたのだが、こう時間が経つにつれ、あれこれと悔恨の虫が胸中に蠢動しはじめる。 やれやれだ。 などと一歩毎にダウナーなオーラを濃くしながら雑踏を歩くうちに――
何のドッキリだ、と思いかけて、俺は今さらながら己の不注意に気づいた。 ――さて、どう切り抜ける? 俺の武力は70。武将としては、初登場ページの2行目くらいで関羽とかの前に立ちふさがり、次の行で一抹の血煙と化して退場する程度の役どころなのだろうが、単なる兵士の群が相手であれば、一直線に切り抜けるくらいはできる、と信じたい。 ああ―― |
劉 統:62 武:67 知:52 政:70 魅:64
凌操さん 統:75 武:81 知:42 政:35 魅:55
|
||||||||||||
男は自らを東莱の太史慈である、と名乗った。※ 太史慈:吟味したいことがある。ご同行願おうか 謹直そうな声で、しかし厳しい視線はそのままに、太史慈さんはこちらへ手を差し伸ばした。 「おーいっ、キョン君――っ」 と、まるで場違いな呼びかけの声が、その辻中にこだましたのだった。 |
太史慈 統:82 武:93 知:66 政:58 魅:79 |
||||||||||||
5鶴 屋:キョン君、いたいた! わはは、ごめんよっ。凌操さんのことだけど、あたしの方で勧誘成功しちゃったにょろよっ 場違いな声で、また場違いな内容を、SOS団員団名誉顧問は思いっきり大声で伝えれくれた。 鶴屋さんは、槍の矛先を向け直す兵士たちをまるで無視して、俺の方へ一直線にスタスタ歩み寄った。 鶴 屋:いやー。キョン君の時はタイミングが悪かったみたいだったさ。ちょうど、ここの城の殿様からもオファーが来てたみたいで、条件面で悩んでたらしいっさ。キョン殿に詫びておいてくだされ、だって。いい男だよねっ 屈託無くケラケラ笑う鶴屋さんには、もちろん功を誇る風もなく、先に失敗している俺への変な気兼ねもない。 鶴 屋:ささ、用事も済んだし、いったん呉へ帰ろっ 鶴屋さんは、もうわざと言っているとしか思えないほどハッキリと所属元を四囲へ告げ、ぐいっと俺の手を引いた。 太史慈:待たれよ! さすがに唖然としていた太史慈さんが、慌てて制止しかけるのを、鶴屋さんはケラっとした笑顔で遮った。 鶴 屋:お勤めご苦労様っ。お城の殿様にも、よろしく伝えといてっ。 ヒマワリのような極上の笑顔で、しかも至近距離でぱっちりウインクされた太史慈さんは、目に見えて解るくらい狼狽した。逃げるように飛びすさり、挙げ句後ろの兵士に支えられるほどだ。 太史慈:そ、尊名を――! 先程までの破格の英雄っぷりはどこへやら、パニックのあまり太史慈さんは何故か鶴屋さんの名前を聴いてらっしゃる。 太史慈:拙者、東莱の太史慈でござる! 史実において曹操からラブレターを貰う程の英雄児の、渾身の自己紹介である。 ――なんなんだ、いったい。 ……… ともあれ、俺と鶴屋さんは、虎口を逃れたというか、とにかく建業城外への脱出に成功した。 なんだか太史慈さんが参入したあたりで色々あり過ぎて混乱気味だが、とにかく今回の目的、凌操さんをスカウトするというミッションは、鶴屋さんによって果たされた、という事でいいんだな? 夕刻が迫り、数里も離れた地点で、ふたたび建業を振り返る。 来年の今頃、あの化け物のような城にちっぽけな戦力で挑まなければならない俺たちの惨たる将来を、まるで象徴してるようじゃないか。 長江の豊富な水資源を循環させた堀は攻城兵器の密着を赦さないだろうし、林立する矢倉からは雨のように矢が降り注ぎ続け、二重の城壁は寄せ手を二乗倍に疲弊させるだろう。 ――と、アンニュイに佇む俺を見て、何を思ったか、鶴屋さんが馬首を巡らせ、建業城の方向へ歩みを戻した。 鶴 屋:キョン君キョン君。――今からさ、一つ予言するよっ 唐突に言うと、鶴屋さんはひらりと馬から飛び降り、遙か先の建業要塞群をぐるっと指さした。 鶴 屋:あのお城は、あと一年以内に、なんとキョン君の手によって陥落するのだっ!
…予言にしては、希望的観測が強すぎるんじゃないかと思いますが。 鶴 屋:あっはっは――。まあ見てなよキョン君! ハルにゃんがどんだけキョン君の能力値決めるのに時間かけたか。スモークチーズ賭けてもいいけど、多分あたしたちの中じゃ一番悩んだと思うなっ。 それはないでしょう。長門や古泉の場合、知力と政治力の調整は悩んだ形跡があるっぽいですけどね。 鶴 屋:んっふっふっふ。ちなみにー、キョン君のパラメータだけみんなみたいな一発芸がないのは、キョン君がこの三国志世界のバランスを崩してしまうからさっ はは。絶体絶命のピンチ時に真なる力が解放される隠れイベントでもあるんですか。映画の例をみれば、朝比奈さんあたりに隠しパラメーターがあってもおかしくなさそうだが。 鶴 屋:わはは。そーゆーのもいいけど、そうじゃなくて、普通にだよっ。ハルにゃんでも長門っちでもなく、キョン君の能力がこの世界観を壊す鍵になっちゃってるっさ 俺のどこにワールドブレーカーの要素が有るっていうんです? それを言うならハルヒのアレはバランスがどうこういう以前の能力値でしょう。 鶴 屋:んー。数字自体は作業の効率を上げるだけで、そんなに意味がないにょろ。あたしにしてもハルにゃんにしても、戦場の活躍じゃまずキョン君には敵わないっさ。 と、理解不明なことをさらっと言うと、呆気にとられる俺を放置するように、鶴屋さんはまた馬上の人となった。 鶴 屋:まあ、そのうち解るよっ! 再び南へ馬首をかえした鶴屋さんは、白馬の首をひたひた叩いて、さ、帰ろっかっ、と声をかけると、馬腹を軽く蹴った。
|
|
||||||||||||
6
建安195年夏―― 相変わらずハルヒは思いつきでバカな戦略命令しか下さないが、多期作化を中心とした農政改革のほうは予想以上の成功を収め、数万人単位での餓死者が予想されていた四半期を、どうにか乗り切った。
遠く離れた呉の城で、以上の報告を受けたハルヒは満足げにほくそ笑んだ。 ハルヒ:ふふん、鳥と貝どうし、せいぜい派手に噛み合ってなさい! あたしが結局美味しく頂くんだから はやくも漁夫の構えで待ち受けるハルヒ。見事なまでの悪役っぷりだな。 ハルヒ:ふん、何とでも言いなさい。我が敵をして我が敵を衝かせしむるのが、ええと、兵法の常道よっ 格好いいことを言っているつもりのハルヒは、しかし上機嫌らしく古泉に向き直った。 ハルヒ:古泉くん、だいぶ間が空いたからもう一度問うわ。――我が軍はいつ出撃できるのかしら? 今回は、古泉も苦笑を浮かべない。羽扇を軽く揺らし、いつものスマイルで答える。 古 泉:あと1ヶ月ほどで、井蘭の第一号、第二号が会稽の工廠で完成します。いかがでしょう、この兵器の到着をもって出陣なさるというのは ここで新兵器情報の投入である。ハルヒの顔が劇的に輝いた。 ハルヒ:わかったわっ! じゃあ、出陣まであと2ヶ月ほどの我慢ねっ 嬉々として、力いっぱい掌を打つハルヒ。まるで来月遊園地に行くことが決まった幼稚園児だ。 ハルヒ:そうと決まれば、じっとしていられないわ! もっともっと、我が軍を増やして、精強に鍛え上げなきゃ! みくるちゃん、また募兵するわよっ! みくる:ええーっ、またあれやるんですかぁ 朝比奈さんが情け無さそうな声でか細く抗議するも空しく、ハルヒは朝比奈さんの腕をむんずと掴んでズカズカと連れて出てゆく。 古 泉:…まあ、我が軍もこの半年間で飛躍的に増強されています。純軍事的には、けっこう善い戦いが期待できると思いますね 董 襲:そりゃいいんだが軍師どの、あんまりモタモタしてたら孫策軍に先を超されるんじゃないか? ハルヒが出ていった先を見送りつつ、なんとなくざわつく一同。ハルヒが自分の言いたいことしか言わないから、必然的にこういう間の雑談が、実質上の軍議にになっていたりする。 凌 操:太史慈がいるから、そう簡単には陥ちんだろう。硬いぞ、あの部隊は 直にあった俺としては、大いに頷きたいところだ。ただ、その太史慈さんとも、俺たちは時おかず戦うことになるわけだが。 …と皆で用兵を案じているところに、またまたハルヒが朝比奈さんを引きずるようにして戻ってきた。 ハルヒ:どう? こないだ作らせてたのよ。――さ、いくわよ、みくるちゃんっ! 虞 翻:待ちなされいっ! 太守自ら何たる面汚し、国の恥だ! ハルヒ:いいでしょ別に。団員募集ってのはね、やっぱり団長自ら率先して行うべきものなのよ。思えばあたしも原点を忘れていたわ 原点回帰は結構だが、せめてお前くらいは普通にやれ。 ハルヒ:へぇ… ハルヒは、にんまりと底意地の悪そうな笑顔を浮かべた。 ハルヒ:じゃあキョンは、みくるちゃんはこのままでいいって言うわけね? ふうん? いや、朝比奈さんも普通にやらしてあげてくれ。お前はって言ったのは、お前は太守という立場があるからであってだな… 朝比奈:あの…皆さんこう言ってるんだし、やっぱり―― ハルヒ:決めたわっ! やっぱりこのまま募兵に行くわ! みくるちゃんっ!今日もめいっぱいみんなを悩殺するわよっ! バネが弾けたように、ハルヒの野郎は朝比奈さんをかっ攫って、一気に飛び出していってしまった。 ――やれやれ。
|
|
||||||||||||