42.いきなり官渡決戦
INTERLUDE
緞帳をめぐらせた、闇の一室。
一点の灯もない漆黒の空間に、男たちの呟くような声だけが響いている。
ぞっとするほど空虚な――そして、冷たい熱気を湛えた一室。
煩わしげな舌打ち。嘲弄を込めた沈黙。
…戦乱に膏血を搾られる民、血塗れた戦場で屍山の上を駆ける将兵、帷幄の内に謀をめぐらせる賢者、それらを一身に背負って乱世へ挑む群雄――。
彼らは到底知り得る筈がなかった。この時この場に居る男たちが、いまの中華の歴史を操る、真の枢軸であることを。
呂 布:――結論が出ん。
関 羽:出ているではないか。異を唱えているのは殿下のみだ。
呂 布:ああもう!なんでみんな解らないかなあ…
袁 譚:細川可南子は生粋の無口っ娘だ。我々無口っ娘倶楽部が彼女を応援せずにどうします。
呂 布:いやそりゃそうだけど…
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関 羽:借問致す、南蛮王。――いったい可南子のどこがお気に召されぬのか。
呂 布:いや、気に入るとか気に入らないとかじゃなくてだな、俺様は瞳子(ドリル)のほうが相応しいと言っているのだ。だいたい経緯といいキャラ立ちといい将来性といい、瞳子のが妹キャラとして広がりやすいだろう!
献 帝:…確かに一般的に見ればそうかもしれぬが、可南子のような無口っ娘が、今後どのようにして祐巳に心を開いてゆくのか、新しい妹を見つけるのか、そちらのほうが興味深いぞ。
呂 布:うーーーん………。
関 羽:まさか、殿下は「松巳会」の会員ではあるまいな。
韓 玄:「松巳会」!? それはあの伝説の組織のことか…!?
劉 度:知っておるのか韓玄――っ!?
韓 玄:読んで字の如し――すなわち松平瞳子×福沢祐巳を推進する秘密組織だ…! まさかあの組織が本当に存在していたとは…!
呂 布:じゃなくて!つーかそれって松平健のファンクラブだろう。
袁 譚:マツケン……! ――そうか! そういうことか!!
呂 布:な、なんだよ。
袁 譚:俺たちはとんでもない思い違いをしていたようだ!何故アニみてのコマーシャルにマツケンサンバIIが繰り返し流れるのか…何か作為的なものを感じてはいたが…! マツケンと、その背後のジェネオンエンターテイメントは、祐巳×瞳子派だったんだ!――俺たちは知らない間に、祐巳×瞳子派の洗脳を受けていたんだ!
一 同:な、何だって――――っ!?
呂 布:いいからマツケンネタからいっぺん離れろ!
……
…
献 帝:……南蛮王、以前から気になっていたのだが。
呂 布:何だよ、陛下。
献 帝:思うに王は、無口っ娘原理主義者ではないな。
呂 布:何っ!?
献 帝:王は攻略前のツンツンさと攻略後のデレデレに落差がある娘、すなわち――ツンデレ属性全般に萌えているに過ぎぬ。
一 同:……!?
献 帝:――王にとって無口っ娘はそのケースの一つに過ぎないのではないか。故に、よりツンデレ属性の強い瞳子に惹かれるのだ。
呂 布:なっ…!?
金 旋:これはしたり。王は、無口っ娘を至上の萌えとして信奉する倶楽部の筆頭会員でありながら、そのような下俗な志操を抱いておいでか?
関 羽:そういえば、以前もキャラよりもシチュなどと言っておられたな。よくぞそれで筆頭を名乗られるものだ。
呂 布:ち、違う!
関 羽:証拠は?
呂 布:だって…ほら、前だって俺、翠よりも香奈子さん派だったし――って何で俺様がオマエらに言い訳せにゃならんのだ!
一 同:……。
呂 布:だいたい今は妹論争だろう!この絶対可南子主義者どもが!
呂布、席を蹴倒して立ち上がるや、一同へわめき散らす。 ――が、一同は気まずそうな目で沈黙を保つのみだ。呂布、ますます感情的になる。
呂 布:バカ!バカ!満寵!――オマエら全員前線送りだ!これから一生、汗臭い甲胄で汚れまくったお心身でも包んでろ!ばか!
献 帝:取り乱すな、王よ。間もなく発売の新刊(※10月1日)で、おおよその決着が付くであろうから――
…と、そのとき。
帳を勢いよく払って、ひとりのほっそりとした人影が、暗室に乱入してきた。無言で四囲の壁や窓を覆う緞帳を引っぺがしてまわる。
夏のまぶしい陽光が、たちどころに室に満ちた。
呂刀姫:だからあっ!丞相府でヘンな集会をしないっ!
呂 布:あ、刀姫。
呂刀姫:――いったい何の騒ぎですか!副丞相室まで聞こえてきました!
呂 布:うむ。話せば本気で長くなるのだが――
呂刀姫:じゃあ結構です! ……だいたい袁譚将軍!今わが軍団があなたのとこの高幹軍団と交戦中だって知ってて、此処にいらっしゃるのですか!?
袁 譚:あ、いえ、すぐに帰ります。
呂刀姫:――陛下!なんで陛下のお体を玉体って表現するか、その意味きちんと考えたことあります!?
献 帝:あっはっは、面目ない。
例によって、潔癖な娘の視線が、暗黒の中に蠢いていた無口っ娘倶楽部会員たちを次々と蹴散らしてゆく。
あたふたと退散してゆく一同の背中を、殺気じみた視線で見送った刀姫は、きっと呂布の方に向き直った。
呂刀姫:…お召しにより、ただいま参上いたしました!
呂 布:おう。
呂刀姫:で、ご用向きは
呂 布:うむ。しばらく会ってなかったので、顔を見たいと思ってな。
呂刀姫:…は?
呂 布:小遣いもやろう。これで上手い酒でも買って帰れ。なんと金200だ。
呂刀姫:…それだけですか?
呂 布:なんだ、足らなかったのか。
呂刀姫:お小遣いの話ではありません! 私をわざわざ臨戦体制の前線から召還された理由です!
呂 布:それだけだが、何か?
呂刀姫:………。
第四二話 いきなり官渡決戦
マウスを壊す気か
建安16年9月。
洛陽駐留の馬超軍が、突如として動いた。
主将馬超の突騎兵団を中核とした10万近い大部隊が、虎牢関を抜けて東進し、曹操軍の籠もる官渡城塞を囲んだのである。
第二軍団長たる刀姫がその報を受けたのは、間の悪いことに、世にもばかばかしい理由で許へ召還され、ぷりぷりと肩を怒らせながら、孤影、河内へと帰還している途上であった。
呂刀姫:な…! 我々の目標は河北だというのに!
刀姫は呻いた。たとえいま馬超が官渡を陥とそうとも、第二軍団の戦略目標である河北攻略には、直接関係のない武功なのだ。
正直言えば、官渡など許に駐留する呂布軍団がなんとでも料理できる障害物に過ぎず、そんな攻防に貴重な洛陽の戦力を削られるのは、不本意の限りであった。
ばか、ばか、馬超――と、呂布の口癖を無意識に呟く刀姫。
そしてそれに気付いて耳朶まで赤面する刀姫のもとへ、北方から物凄い早さで駆けてくる騎影があった。
刀姫のもとに護衛はいない。さすがに鋭い視線で彼我の距離を測り、七星をあしらった宝剣の柄に手を掛ける。
が――見れば、それは河内からの急使のようであった。
呂刀姫:なんだ!急報か!
急 使:はッ! 都督!ただいまより、河内郡の収支報告を読み上げます!
伝令は、やおら会計帳簿を馬上に広げ、朗々たる声で河内郡の四半期決算報告を始めた。
刀姫、ぼうぜんと急使の口上を聞く。
急 使:――以上!しからば、御免!
呂刀姫:あ…ああ…
嵐のように駆け去ってゆく急使。
と…その姿の向こうに、さらなる土煙を巻き上げ、各郡からと思われる急使たちが、手に手に財務諸表を携え、刀姫の一身めがけて続々と突進してくるようである。
長いクリック地獄の始まり――
そういえば、もう季節は10月であった。
………
……
河内郡。
第二軍団本営。
呂刀姫:――出陣の支度だ!今日中に出撃する!急げ!
河内に到着した刀姫の第一声は、緊迫したものであった。
例によって内政報告の順番をぼんやり待っていた諸将が、慌てて戎装しに部署へ駆け戻る。
刀姫が洛陽を経て河内へ戻るあいだにも、頻々たる早駆けが戦雲の急を告げていた。
――陳留を出撃した曹操軍十万、官渡城塞へ急行中
――馬超軍、官渡城外にて曹操軍と開戦
刀姫は道中、歯噛みをしながらそれらの報を聞いたのである。実は刀姫、官渡城塞を攻囲中の馬超軍を遠望する地点まで接近していたのだが、令箭のある政庁へ戻らなければ、軍団へ撤退命令を下すことが出来ないのだ。
徐 庶:ご主君、何人ほどで出る? 河内の防御が気がかりだが――
呂刀姫:構わない、全軍で出撃する。相手は曹操です。
張 任:王にも援軍の要請を。うまくゆけば、官渡で曹操を仕留められますな。
呂刀姫:そういうことです。
刀姫は一瞬だけ、獰猛ともいえる頬笑みを浮かべた。
彼女の用兵思想は父にもまして苛烈である。今回は確かに馬超の暴走による偶発事故だが、それを奇貨とし、かえって乱世の奸雄・曹操を包囲する罠として設定し直したのだ。
曹操一人仕留められるならば、結果として河内を失っても構わぬ――
徐庶と張任は、頼もしげに主君を見やり、視線を交わす。
建安十六年、十月。呂刀姫率いる第二軍団は、張任や文姫ほか、わずかな留守部隊のみを残し、九万という大軍を率いて河内を発った。
残念ながら、許の呂布は自ら汝南攻略に出征しており、援軍を出すことが出来なかったが、代わりに長安から韓遂が八万の大部隊を率いて急行する手筈となった。
限定ジャンケン
刀姫の本軍が官渡城塞に到着したのは、最初の開戦から半月ほどの頃であろう。
戦場はさぞグチャグチャの乱戦模様――と思いきや、馬超軍はまるで布陣をしたばかりのような状態で、刀姫軍を待っていた。
廖 化:俺いつも思うんだがな、援軍で駆け付けたときくらい、途中参加の雰囲気を味わいたいよな。
張 虎:最初から混戦ってのも鬱陶しくないですか?
魏 延:いや、敵味方がズタボロになってるところに、無傷の大部隊で到着するって燃えるだろう。
即座に官渡水沿いに展開する刀姫軍。馬超軍団と合流を果たし、士気は甚だ高い。
馬 超:おお、姫様。しばらく見ぬうちに女前を上げたな。顔グラ換えたのか?
呂刀姫:…ツッコミは後ほど。叔父上、曹操は何処に!
馬 超:うむ。あの牙門旗のあたりが、それよ。
馬超が戟の鉾先で指し示したのは、官渡城塞の内部である。
刀姫は頷いた。
呂刀姫:曹操は自ら鉄檻へ籠もったも同然です。叔父上、この戦、必ず勝ちましょう。
馬 超:おう!
刀姫が右手を振り上げ、振り下ろすや、官渡城塞を囲む呂布軍団が、一斉に前進を開始した。
――野戦場「官渡」は、マップのど真ん中を長大な官渡水が二条に分かれて流れ、戦場を三分割している。官渡城塞は、マップ中央部の三角州地帯に構築され、南北に流れる急流が容易に接近を許さない。そして曹操軍は官渡城塞外に集結し、三角州上に黒々とひしめきあっていた。
刀姫軍は、左右の両翼に分かれて渡河を開始する。
左翼方面、マップでいえば北側の河を渡るのは、馬超率いる洛陽軍。
右翼方面、マップ手前の南ルートは刀姫率いる河内軍。両軍は一斉にマップ中央部を目指す。
廖 化:騎馬全軍、先行しろ!敵は弩兵が前衛だ!近接して蹴散らせ!
馬 岱:っしゃあ!
黄河の急流を極力避け、陸沿いに移動を続けた河内軍は、開戦5日を過ぎる頃、三角州の南岸へ上陸した。軽舟から次々と騎馬軍団が揚陸し、曹操軍の密集陣へ突撃してゆく。
と――
楽 進:射よ!
程 ?:斉射だ!
号令一下、天が暗くなるほどの矢嵐が、騎馬軍団の頭上に殺到した。
ざあああっ、と豪雨のような音をたてて降り注ぐ飛箭の下、騎兵たちは面白いほどバタバタと斃れてゆく。
馬 岱:怯むな! 近接戦に持ち込め!
矢の雨をかいくぐって、生き残った騎兵が弩兵陣へ肉薄する。近接戦ともなれば騎兵が弓兵に破れるはずもない。戦局はふたたび逆転する――と思いきや。
呂刀姫:えっ!? 何で!?
後続の軍団が呆気にとられたことに、騎馬軍の突撃に対しても、弩兵陣は猛烈な抵抗を見せ、ついには馬岱軍を撃退してしまったのである。
残りわずか三〇〇騎まで討ち減らされた馬岱軍は、徐庶の緊急指揮をうけて文字通り命からがら前線を離脱し、歩兵の堅陣へ駆け込んだ。
廖 化:おいおい。大丈夫かよ。使えねぇな。
馬 岱:弩兵超強ェっスよ! びびったっスよ!
よほどショックだったのだろう。刀姫軍きっての勇将が、馬の陰に隠れてぶるぶる震えている。
…この現象を無理矢理好意的に解釈すれば――当時の軽装騎兵は斥候と陽動、後方攪乱が主任務であり、歩兵や弓兵の密集陣に突っ込んで蹂躙する雄姿は、半ば映画や小説が作り出したフィクション。実際の騎兵など、弩兵に突っ込ませても勝てっこない――と、まあ、リアリズムの発現といえなくもない。(ver.1.0当時)
しかし一同の動揺は激しい。
徐 庶:これが噂に聞くジャンケンシステムか…。
呂刀姫:ジャンケンシステム?
簡単に言えば、兵科特性の相性である。
騎兵(グー)は歩兵(チョキ)に勝ち、歩兵(チョキ)は弓兵(パー)に勝ち、弓兵(パー)は騎兵(グー)に勝つ。この三竦みが、あたかもジャンケンの如く明確なのが今作の特色である。
そして現状で言うなら、刀姫軍は騎兵(グー)と歩兵(チョキ)ばかりが多く、曹操軍は圧倒的に弓兵(パー)が多い。
呂刀姫:…ということは、作戦を根底から変えなければ。向こうはパーが多いんだから…
徐 庶:左様。こちらはチョキをメインに対応しなきゃならんってことだ。
呂刀姫:しかしチョキの手持ちはわずか4枚…
廖 化:ギャンブル船かよっ!
騎兵による突撃が使えない以上、あとは歩兵による浸透戦術があるのみだ。
兵力は、曹操軍9万に対して、刀姫軍15万。力押しで勝てないことはない。
廖 化:続けっ!早くしろ!
張 虎:…なんか廖化将軍、機嫌悪くない?
魏 延:きっと「下級生2」やっちゃったんだよ。
馬上でひそひそ話す両将、副将廖化の怒号に背中を蹴飛ばされ、歩兵部隊を突進させた。程? 、竇輔ら率いる曹操軍の弓兵部隊は、さすがに勢いに怯む。
司馬懿を黙らせろ
刀姫軍は、シフトチェンジに成功したといえよう。
前衛に歩兵が貼り付き、第二陣には弓兵・弩兵が控え、アウトレンジから猛烈な援護射撃を加える。
その両軍の矢風が頭上を飛び交うなか、弩兵を中核とする刀姫の本隊が前線に到着した。
呂刀姫:曹操、出会えっ!
雉羽の綸子をひるがえし、鎧光も燦然と、黄金造りの甲胄に身を固めた刀姫が馬上に戟を振るう姿は、それだけで将兵を陶酔させる。南蛮軍の士気は、否応もなく上がる。
ところが――
密集したのが仇となったか、翌ターン、敵将司馬懿に混乱させられた張虎隊が、さらに同士討のコンボをくらい、鉾を逆しまに刀姫隊へ襲いかかってしまった。
今作、同士討ちの威力は凄まじい。
一万を数えたはずの弩兵部隊は、張虎の歩兵軍団に突撃され、あっというまに半数を失った。
呂刀姫:ばか――っ!!
張 虎:ごめんなさい――っ!
呂刀姫:なんでこんな時に限って、やたら強いのよ!
馬 岱:「味方であった間は、さまでとも思えなかったが、こうして敵に廻してみると、何さま魁偉な猛勇に違いない(吉川英治「三国志」)」
廖 化:そんな大層なものかねえ。
魏 延:しょせん張虎だしな。
呂刀姫:和むな――っ!
これが、笑い事ではない騒ぎになった。敵将兵法に晦いと見た曹操軍、肉弾戦をやめて、次々と計略を連発し始めたのである。
ふたたび同士討ちを喰らった張虎、またまた刀姫部隊を蹂躙し、これが致命傷となった。
呂刀姫:…うそ…
刀姫本隊、前線到着4ターンでまさかの全滅。
さすがに呆気にとられる諸将の前で、ただひとり戦場に立ちつくす張虎、信じられぬと言う顔で呟いた。
張 虎:僕は…姉上に勝った…ッ?
呂刀姫:ドアホ――っ!
刀姫の一身は、辛うじて無事であった。わらわらと群がり寄る張虎隊の追撃を逃れ、至近まで前進していた支隊に合流する。
ふたたび「帥」の旌旗が戦場に翻るのをみて、刀姫軍の一同、ほっと一息つく。
呂刀姫:虎…アンタ覚えてなさいよ…
徐 庶:…とりあえず知力70以下の武将は他と隣接するな。
廖 化:それってほとんど全員ですよ。
呂刀姫:いいから!早く司馬懿を黙らせろ!
司馬懿、程?など、知力も統率も高い智将タイプは、たとえば呂布のような猛将タイプよりも遙かに厄介だ。「混乱」を三回ほど連続で喰らわせ、直後に「同士討」や「火計」でとどめを刺す、鬼のようなコンボを仕掛けてくるのだ。
まずは軍師を――の指示に従い、翌ターンから司馬懿、程?の部隊が集中攻撃を受けはじめた。さすがに責任を感じているのか、張虎も人が変わったかのように猛戦し、曹操の支隊を潰走させ、見事官渡城塞に取り付いた。
一方――
馬 超:なんかこっちのルートって遠回りだよなあ。ずっとプカプカ浮いてるカンジだ。
馬雲緑:見た目は近いのにね。
馬 休:三角州は北側から上陸できないからだよ。断崖になってるし。
馬 超:うわっ! 城塞から石弾撃ってきやがった! 卑怯くせえ!
法 正:いいから早く進みなされ。将軍の隊は私の「指揮」でブーストできないんだから。
…と、左翼は優雅なクルージング中であった。到着まで、少なくとも5ターンはかかりそうだ。
曹操出現
右翼本隊の戦況は、敵味方ともに惨憺たるものであった。歩兵がポカポカ殴り、弓兵がせっせと矢を撃ち込む、という無限の応酬の末、いつのまにやら殆どの部隊とも5000を切っている。
中でも官渡城塞へ取り付くことに成功した張虎隊は悲惨である。
官渡城塞の守将は他ならぬ曹操自身であり、しかも率いている軍は青州兵であった。城塞の険に加え、兵科の力量、将帥の能力、あらゆる面で格が違いすぎる。
おまけに、曹操隊は城塞の中にあって、全くの無傷である。安全地帯から、悠々と計略を連発し、魏延隊を混乱させ、張虎隊を焼き払った。おまけに混乱中の魏延隊、「同士討」にかかって張虎隊を攻撃し、ついには壊滅させてしまった。
魏 延:いっとくけど、わざとじゃないからな!
張 虎:うん…わかるわかる。
馬 岱:なんかもう、散々だよな、今回の僕ら。
戦線から脱落し、500足らずの残存兵力をまとめて、安全地帯へ逃げ延びる張虎隊。馬岱隊ともども、官渡水の畔でズラリと体育座りし、観戦の構えであった。
張虎の抜けた穴を埋めるように、刀姫の本隊が城壁へ取り付いた。
それに伴って各隊もスライドし、城塞を半包囲するような布陣になる。そんな状況を嘲笑うかのように、曹操は官渡で悠々と霹靂車を組み立て、混戦の最中にある刀姫軍へ石弾を撃ち込み始めた。
被害はさほどでないものの、うなりをあげて飛来する巨石の恐怖は、確実に兵の心を蝕んでゆく。
叩けど叩けどなかなか減らぬ、官渡城塞の守備力。そして無傷一万の曹操軍本隊。
そろそろ退き時か…と、他ならぬ刀姫もが思い始めた頃、ようやく馬超軍の一部が繞回を果たし、三角州地帯へなだれ込んできた。
馬雲緑:ごめん!待たせた!
呂刀姫;雲緑さま!助かります!
馬 超:はっはっは! すまんすまん、今しがた馬休が戦場の外まで流されていってしまった。
呂刀姫:…。
法 正:姫君は、いったん前線から後退されよ。あなたが倒れたら元も子もない。――徐庶殿、あなたも後退して、「指揮」に徹してくれ。
徐 庶:了解した。
櫛の歯が抜けるように後退する刀姫軍にかわり、全く無傷の馬超軍が最前線へ躍り出た。
ちなみに馬雲緑の本隊は弩兵で、馬超の本隊は騎射を得手とする突騎兵団だ。密集戦の援護も直接攻撃もこなす。
消耗しきっていた曹操軍は、新手の騎馬軍団によって、苦もなく蹴散らされた。魏延、うらやましそうにその様子を眺める。
司馬懿、楽進、于禁、程? …と、曹操軍の名だたる名将たちが、続々と上陸してくる騎兵の大軍に飲み込まれ、戦場を離脱してゆく。
――曹操、官渡城塞の望楼から戦場を眺め、鋭く舌打ちする。
戦況が一挙に南蛮軍優勢へ傾く中、今度は長安からの援軍が陸続と到着をはじめた。韓遂を主将とする、八万の大部隊だ。
これが、完全な決定打となった。
曹操軍は完全に孤軍となって、官渡城塞に取り残された。
四方八方から、城塞へ激しい攻撃が続けられ、とうとうその一部が倒壊し、突入した馬超軍と激しい戦闘になった。
それでも、曹操はしぶとい。
「誘引」と「混乱」、「同士討」、「火計」を連発し、馬超ほか、洛陽軍にも甚大な損害を与えた。やはり密集しすぎたのが裏目に出たのだろう。南蛮軍は、一時手が付けられないほどの混乱に陥った。
そのためか――影をもとどめぬ迅さで、城塞から突出したたったひとつの騎影を、馬超軍は捕捉し損ねた。
乱世の奸雄・曹操は、名馬「絶影」を駆り、自軍の数十倍という大軍に囲まれながら、見事、逃げおおせたのである。
凱 旋
勝敗は決した。
おそらく、官渡救援というより許急襲のために編成されたはずの曹操の大軍は、ことごとく官渡城塞の周囲に骸と化った。
が、南蛮軍の被害も大きい。
馬超麾下の洛陽軍、韓遂の長安軍はともかく、刀姫率いる河内軍はその半数を失い、再建には多くの歳月を要するであろう。
曹操を討ち取ることが出来なかったという点では、むしろ南蛮軍の失敗と言ってよい結果ではあるが、敗北するよりは万倍もましだ。
韓遂軍、馬超軍、そして刀姫軍は、凱旋の軍をまとめて、撤退を開始した。
魏 延:――なんか俺、大切なこと忘れてる気がするんだけど…
張 虎:? 忘れるくらいなら、大切じゃないんじゃないの?
しきりに首をかしげる魏延を殿軍に、刀姫軍は河内への帰途へ着く。
ところで…
この戦闘によって、南蛮軍は軍の有り様について、大きな課題を負った。
これまで、どちらかといえば騎兵偏重であった南蛮軍は、ここにきて、大いに刷新すべき事態に直面したと言って良い。いわば、
――正面火力体制
を確立する必要が出てきたわけだ。
今回は野戦であったため、さまでもなかったが、これが攻城戦ともなると、本当に騎兵は役に立たない。何しろ城壁をよじ登ることができないのだ。
今後の戦いでは、弓兵(というよりイメージ的には砲兵)を充実させ、その護衛として随伴歩兵を出陣させる、という布陣になりそうであった。
徐 庶:――ここまで弩兵が強いのは、「IV」以来だな。
呂刀姫:うん。連弩か強弩を揃えるだけで、絶対に勝てたよね。
廖 化:ところでご主君は、シリーズの何作派です?
呂刀姫:わたしは、その「IV」だった。内政がよかったな。軍師殿は?
徐 庶:私は「VI」だな。あの未完成さが心地よかった。
廖 化:やったのは復刻版ですけど、俺は「III」。「II」も名作だって聞きますけどね。
張 虎:僕は「V」。音楽が好き。
魏 延:あ、俺もだ。
馬 岱:同じく「V」。テンポいいよね。
廖 化:…こうしてみると、見事に旧作ばっかだな。
凱旋の軍を率いる諸将は、河内へ戻る途上、馬上でのんびりと旧作を懐かしんでいる。
――と、黄河の津にかかる手前で、 徐庶が出し抜けに大声をあげた。
徐 庶:あッ!
呂刀姫:――どうされた、軍師殿?
徐 庶:何の疑問も感じずに凱旋してるけど、よく考えたら我々は官渡城塞を攻め潰しに来たんだった!
呂刀姫:あっ! ――ホントだ、まだマップに城塞残ってる!
張 虎:なるほど、途中で「曹操軍の殲滅」に目的が替わっちゃったから、官渡城塞は攻撃対象から外れちゃったんだね。
魏 延:ああ、なんか忘れてると思ったら、それだったか。
呂刀姫:…いったい…我々は何のために…
馬上で、がっくりと項垂れる刀姫。
張 虎:あ、 _| ̄|○ のAAそっくり。
魏 延:ホントだ。
廖 化:今回はギャフンENDか。