23.荊州の窓
荊州の窓
建安九年(二〇四年)七月。
武陵奪還にむかった呂布軍は、その前衛である金旋軍に粉砕され、ぶざまに潰走した。
この戦いに投入された呂布方の戦力はおよそ十二万。
うち半数が戦場に遺棄され、むなしく烏の餌となっている。
呂 布:……。
陳 宮:……。
呂 布:……なあ。
陳 宮:はい?
呂 布:……もうやめようよ。
陳 宮:へ?
呂 布:だって面白くないんだもん。もうリプレイ止めよ?
陳 宮:早っ!
呂布の悄気ようは尋常ではない。
陽の当たる縁側のうえで、日がな一日中膝をかかえ、滔々と流るる長江をぼんやり眺めているのだ。
そして、いつのまにか高順もその隣で膝をかかえるようになり、幾度目かの夕日が主従ふたりを哀しい朱で染め上げていた…。
陳 宮:━━だ~っ!
高 順:…?
陳 宮:殿はともかく、都督までそんなのでどうするんですか!?
高 順:…軍師、お嗤い下され。高順はもう戦場に倦んだ…。
呂 布:いいよ、もう。パワーアップキットが出るまでこうしとくからさ。
陳 宮:こ、こりゃあ、重症だな…
思わぬ受難に頭を抱える陳宮であった。
が、国務は一日たりとも止めるべからず、である。すぐさま後方諸都市から兵を回送し、永安城近辺へ集結させる手配をすませると、陳宮は窮余の一策といってよい建議を呂布のもとへ上げた。
陳 宮:折角ですから、「VIII」のウリである「連合」を使いましょう。
呂 布:れんごう?
これまでの作品には無い概念だ。「連合」は、多数勢力が一国に標的を絞ってこれを袋叩きにするという、一種の攻守同盟のようなものである。
この場合、劉表を対象にした「反劉表連合」を諸侯に呼びかけることで、各国から最大三部隊ずつの援軍が送られてくることになる。
しかも連合参加国は自動的に準同盟関係となり、他に侵されることがない。
陳 宮:やってみて損はないですよ。各国へ檄を飛ばしましょう。
呂 布:んー。
面倒くさそうに頷く呂布。
陳 宮:ところで先の敗戦ですが――
敗戦、ということばで呂布と高順、同時にビクっとなる。
陳 宮:いったい敗因は何だったでしょう?
呂 布:やっぱアレだな、ドロス級空母二隻を浮遊砲台として運用した、総帥の用兵の甘さが最終的な敗北を招いたに違いない。
高 順:途中で最高指揮官が入れ替わり、指揮方針のスイッチがうまくいかなかったのも、連邦に付け入る隙を与えたのでしょう。
陳 宮:誰がア・バオア・クーを語れと言ったぁ!
ふたりはさっきからずっと低い声で一年戦争史を紐解いていたようだ。
陳 宮:いいですか!? 殿も、都督も、「突撃」や「奇襲」は「極レベル」です。かわって金旋の突撃は「初」です。なのに相手が成功し、こちらが失敗する。これが何を意味してるのか!
呂 布:そんなん、COMがズルしてるに決まってんじゃん…。
陳 宮:その通り。解析の結果、COMとプレイヤー勢力の乱数算出にズレがあった、という幾つかの報告があるようです。我々はそれを計算に入れる必要があります。
高 順:……。
陳 宮:この場合、具体的には「極レベル」はCOMにとって「三」くらいに該当する、と思えば間違いないでしょう。計略の成功率も、知力-5くらいで算出されてると思っておけばよろしい。
呂 布:それって酷い話じゃねえか!
陳 宮:ええ酷いです。あとで光栄にアンケートをボロクソ書いて送りつけてやればよろしい。…で、今作は「混乱」「恐慌」の時間が想像以上に長い。彼らを回復させるべき「僧侶」系武将を何人か同行させるべきでしょう。
呂 布:なんかRPGみたいだなー。
陳 宮:そうですね。殿や都督みたいな将帥を「戦士」、呉懿・孟達みたいな智勇兼備型を「魔法戦士」、軍師タイプを「僧侶」「魔術師」と思えばよろしいでしょう。タクティクスRPGの基本は、パーティーのバランスですよ。
呂 布:むー。そういわれると、何となく解るような…。
こうして、何とか失意から立直った呂布、冬十月、さっそく陳宮に言われたように反劉表連合の檄を天下に飛ばした。
劉表はこのとき、後漢王朝より韓公の爵位を与えられ、清流名士としての名声は比類無い。対する呂布、これも南蛮公の爵を受けている。加えて、南中の「南蛮兵」「象兵」、涼州の「山岳騎兵」を擁し、軍事国家としての色合いは随分とつよい。
果たして、天下はいずれを是とするか――
なんと南蛮公・呂布を盟主とする反劉表連合に立ち上がったのは、曹操を除く全勢力。張魯、孫策、袁紹・公孫度であった! とくに孫策など、劉表との同盟を破棄しての参加である。
呂 布:おおお!? これなら勝てる!? 勝てるぞ!?
陳 宮:いけますな!
年が明け建安十年、呂布はふたたび武陵へと出師した。
要請に従い、各国からも続々と武陵へと将兵が送られる。いったい、どのルートを辿って参集するのか疑いたくなるような出兵規模であった。
……武陵軍は、このたびは全滅した。
実のところ、同盟など必要なかったと言ってよい。
二度目でコツをつかんだ呂布軍、とにかく「戦法に頼らない」「混乱回復はお早めに」「援護射撃は母心」というフレーズを連呼しながら突進し、武陵軍を終始圧倒した。
前回散々苦しめられた弩兵部隊に対しては、やはり弩兵で対応し、後方には常に「僧侶」部隊が待機。前線の「戦士」部隊は奇策を弄さず殴って殴って殴って殴りまくった。
こうなると純粋に武力がモノを言う。砦に立て籠もる諸部隊は次々と撃砕され、前回獅子奮迅の活躍を見せた金旋など、高順相手にまともな反撃を試みる間もなく全滅した。
おおよそ戦場を呂布軍が蹂躙し尽くした頃に、ようやく各国の援兵が到着しだす。
呂 布:いまさら遅いわ。
呂布が鼻で嗤うのも無理無いことで、彼らが到着したわずか2ターン後には、武陵正規軍の姿は戦場から掻き消えていた。
ちょっとした戦い方だけで、こうも結果が違うものか。
呂布軍の圧勝である。
呂 布:んー。なんていうか、結構このゲーム面白いじゃん!
ようやく三国志VIIIのコツを掴んだ呂布!荊州の窓たる武陵を奪還し、次に狙うは荊北か荊南か!? が、次回急展開の予感! 南蛮王呂布の痛快活劇、ますます絶好調!