ある君主父娘の正月休暇
プレ第3部 ある君主父娘の正月休暇
建安八年の正月を、南蛮王呂布は武都郡で迎えることになった。
陳 宮:殿、明けましておめでとうございます。
高 順:殿、おめでとうござる。
呂 布:おう。謹賀新年。
孟 獲:賀正。
諸将が次々と酒杯を手に呂布の元へ挨拶へくる。涼州始末が一段落し、面々は久しぶりに心ゆくまで宴を楽しむ風情であった。
その喧噪の中、ふたりの少女が呂布の前へ歩み出た。
呂刀姫:父上、お話があります。
呂文姫:父様~っ、お年玉っ(≧▽≦)ノ
呂 布:はっはっは顔文字使うな!
呂文姫:え~(>_<)ヽ
呂刀姫:ああもう!あなたは黙ってなさい!
叱りつけた方の少女は、呂布の長女、刀姫であった。小柄だが姿勢が良く、颯々とした身ごなしが律動的である。名の通り刀剣をよく使う。この年、十四歳。
叱られた方の少女は、呂布の次女、文姫である。以前にも登場したが、この年十一歳。
呂 布:なんだ。俺様は楼ちゃんのために自腹で三尖刀を買っちゃったから、年玉は遣わせんぞ。
呂文姫:ええ~っ。「引出」したらいいじゃない!
呂刀姫:誰が小遣いの話をしとるか~っ!
ぐわしゃっと妹の頭を押さえつけると、
呂刀姫:父上!我ら姉妹、臣として忠義を尽くすことで、これまで育てられた御恩をお返しする所存にございます。どうか戦列のお端に加えていただきますよう……。
にわかに容を改めて言う。
びっくりする呂布の後ろでは、おおおおっ、と一座が響動めいている。
呂 布:えっ、もうそんなイベントがおこる年頃なの?
呂刀姫:ちょっと「えぢた~」で登場年をいじくりましたが。
個人差はあるものの、ふつう幼年武将が成人に達するのは十五から二十歳のあいだである。姉の呂刀姫はともかく、妹の呂文姫は明らかにフライングであった。
呂 布:いいのかなあ?
陳 宮:いいんじゃないんですか?姫様たちはいずれも文武の各方面で超一流の才幹をお持ちですし。
呂 布:そうなの?刀姫、武力は?
呂刀姫:84です。
呂 布:ほお。文姫、知力は?
呂文姫:じゃ~~ん!98で~~っす☆
呂 布:偏差値社会の歪みを垣間見た気がするな……。
頭を抱える呂布。もっとも拒む理由もないので、呂布の娘ふたりは、そのまま呂布軍団に組み込まれることとなった。
しばらくの間、ふたりは傅人である「陥陣営」こと高順の下に属して武者修行である。
あくる日、呂布は二人を連れて高順のもとを訪れた。
高 順:これは殿。我が屋敷にようこそ。
呂 布:てゆうか、お前の屋敷は成都にあるはずなんだがな。
高 順:……。
呂 布:ちっ、アドリブのきかんヤツだ。
高 順:はっ。申し訳ございませぬ。
呂 布:いちいち謝るな。それより俺様がこうやって来ているのだ!何か面白い事はないのか!
面白いこと…と言われて根が真面目な高順、困じ果てた表情で呆然としている。
呂 布:ええい、面白くない!なんで楼ちゃんか雲碌ちゃんを武都まで連れて来なかったんだろ?
呂刀姫:父上っ。……高順様、この辺りで観光名所か何かありませんか?
見かねて助け船を出す呂刀姫。高順はハタと気づいた顔で、
高 順:おお、そうでした。ここからそう遠くないところにございます。いかがですか、殿。ともに見物にでも。
呂 布:断る。何が悲しくてこんなムサイ男とデートして親密度上げにゃあならんのだ!?
高 順:はっ…。
呂 布:だいたい光栄は何をたくらんでる!今回のシステムは恐いぞ!男同士で文通してデートして親密度アップさせるんだぞ!?三国志世界に「アンジェリーク」を出現させるつもりなのか!?
呂文姫:アンジェってそういうゲームだったっけ?。
呂刀姫:ああもう!…父上!せっかく高順将軍が誘ってくださってるんですからっ!
結局、娘の気迫に圧されて呂布はしぶしぶ観光に参加する。とはいえ久々の家族ピクニック。弁当を持ってはしゃぐ呂布一行の前に、高順がチョイスした「名所」が姿をあらわした。
呂 布:……。
呂刀姫:……。
呂文姫:……。
そこには、目の眩むような断崖絶壁と、申し訳程度に壁面に張り付いている桟道があった。
これぞ巴蜀を天険たらしめている悪名高い「蜀の桟道」である。
呂 布:お、お前はどこまで不器用なんだ! この世のどこに主君の家族を桟道見物に誘う武将がいる!?
高 順:も、申し訳ございません。
呂 布:こんなクソ寒い所に来るくらいなら、狩りに行ったついでに虎と遭遇してる方がマシだ!
呂刀姫:ま、まあまあ……。父上、ほら軍団で通るのと観光で見るのと、また違う風情があるでしょう?
さすがに呂刀姫もフォローしきれない様子で、それでもいっしょうけんめいに高順をかばう。
呂 布:ふん。まあ、最初から武都の名所は「桟道」しかないしな。これを考えたヤツはどういう神経をしてるんだ?
呂刀姫:まあまあ…。
呂 布:だいたい、漢中の名所にかの「武侯真墓」がないのはどういうことだ!
呂文姫:まだ故人じゃないよ~。
結局、遠くから桟道を眺めた後、その補修作業について事務的な打ち合わせを済ますと、弁当を食べて呂布一行は城へ戻った。
呂 布:まったく……。風呂でも入って寝るか
呂文姫:でも私は楽しかったよ~っ
呂刀姫:なんだか私が一番疲れた気がする……。