第十四章 風は荊州から
建安八年(西暦二〇三年)。
南蛮王・呂布の版図は南中・益州・涼州にまたがる広大なものとなっていた。
同盟者の張魯の勢力も含めると、いまや押しも押されもせぬ西方の大軍閥である。
呂 布:がっはっはっは!どうだ陳宮!……旗揚げからわずか三年!天下まであと五年弱というところだろ!
陳 宮:そううまく運べばいいんですが…。
呆れたように呂布を見る陳宮。
これまでの戦いは、いうなれば前半の余興というべきもの。ろくな戦備を持たぬ劉璋陣営と、精強ではあるが果てしない貧乏勢力である馬騰陣営が相手であったため、敗戦ひとつせずに済ますことが出来た。
だが、これからの相手は、そうそう甘くはない。
呂 布:次はどこを攻めるんだ?
陳 宮:あのねえ…。
陳宮が順序立てて戦略計画を説明しようとした矢先、驚くべき情報が呂布の元へ飛び込んできた。
……江南の「小覇王」孫策が、いよいよ大軍団を率いて北上を開始したというのだ。
陳 宮:むしろ遅いくらいですな。劉備との同盟が契機になったのでしょう。
呂 布:で、どうなったんだ?
第一報によると、孫策軍は合肥を抜いて長江を渡り、徐州の州都・下を陥落させたという。
陳 宮:こうなると曹操は痛いだろ~な。
呂 布:まあ、まだ遠い他人事だけど。
遠く徐州方面の戦況を眺めながら、内政と軍の再編に追われる呂布たちのもとに、翌三月、さらなる報が飛び込んできた。
下の孫策軍が、こんどは小沛へ攻め入ったというのである。
呂 布:えらいペースだな。大丈夫かよ?
呂布が呟く間もなく、孫策軍敗退の報が入る。
矢継ぎ早に早馬が出入りする本営の慌ただしさを見て、諸将もぞろぞろと呂布のまわりに参集してきた。
高 順:殿。我らも、次の戦に備えて前線へ出るべきかと思いますが。
張 遼:御大将、俺をひとつ荊州方面へ向かわせて貰えんでしょうか?
涼州が治まってから数ヶ月経ち、荒れ放題だった諸郡の治安もどうやら回復した。そろそろ、彼ら野戦指揮官たちは戦の虫がうずく頃なのだろう。
わいわいと呂布を囲んで皆が好き勝手を云いあっているところに、またまた飛報が飛び込む。こんどは、汝南の劉備軍についての報告であった。
呂 布:なんだって!? もう許昌は陥ちたのか!?
驚くべき報であった。
昨年末、孫策と同盟を結んでその庇護下に入った劉備が、孫策勢力の北上に合わせるように自らも北上し、曹操の根拠地である許都を襲撃したというのだ。
陳 宮:で、天子の身柄はどうなったか!?
曹操にとって幸いなことに、皇帝は既に許を離れ、より治安のよいへと移動していた。
呂 布:身勝手な皇帝だ……。
張 超:なんか、季節ごとにフラフラ移動するらしいですぞ。
呂 布:イナゴかよ――って、お前だれだ!?
張 超:誰と仰られても…?
陳 宮:ほら、殿。パワーアップキット版にグレードアップしたとき、何人か武将追加したじゃないですか。
呂 布:ああ、なんだ、張の弟か。お前も甦生組に入れてもらえたのか。
嬉しそうに肯く張超。兄以上に存在感の薄い男だが、実は「名声」は呂布より高い。能力値はオール60代後半という、使えなさそうで案外重宝するタイプであった。
呂 布:まあ、成都で兄の手伝いでもしとくんだな
張 超:御意。
――そうこうしてるうち、季節は移り四月。
今度は対岸の火事などと言ってられない事態が、にわかに降って湧いてきた!
法 正:戦備が整いましたゆえ、武陵へ出撃いたしたいと存じまする。
荊州方面軍の総帥である永安太守法正が、麾下六万の大軍を率いて、独断で劉表と戦端を開いてしまったのである!
陳 宮:あ~っ!あ~っ!あ~っ!
呂 布:何を慌ててるんだ?
陳 宮:あのデブ~!長安の攻略が終わるまでおとなしくできんのか~ッ!
法正軍は、たちまち荊州の国境軍を撃砕して武陵の要塞を占拠した。
呂 布:い~じゃん、勝ったんだから。
陳 宮:こちらにもプランがあるんです!せっかく交趾に工作仕掛けてるってのに!
陳宮の戦略によると、来たるべき荊州侵攻作戦は江陵・襄陽の要衝を避け、雲南→交趾→南海経由で、海沿いに行うつもりであったのだ
呂 布:それだと南海で孫策とぶつかるぜ。
陳 宮:いいんです! 南海を早いとこ奪っとかないと、後々えらいことになりますから。
とにかく、法正へこれ以上軍を進めないように伝令を出すと、がら空きになってしまった永安へ、楊懐、高沛ら旧劉璋陣営の武将たちを急行させた。それでは不足と見た陳宮、さらに高順、張遼の騎馬軍団も進発させた。
呂 布:……俺は?
陳 宮:まずは雲南へ!季節が変わる前に交州を制圧します!
呂 布:おおお!雲南かぁ……懐かしいなあ!
陳 宮:驚かれるとおもいますよ。
呂 布:?