第2話 「紹興酒トッカータ」
1-2 紹興酒トッカータ 1ハルヒ:思うんだけど。 なんだ。 ハルヒ:今回の敗因よ。あんな凡将ども相手に、あたし達ほどの名将が苦戦した理由よ。 …厳白虎は三国志的には雑魚キャラかもしれんが、16や7の子供にそんな事言われる筋合いは無いと思ってるぞ、きっと。 ハルヒ:いちいちうるさいわね。とにかくよ、能力的に勝る我々が敗れた以上、やはり用兵を誤ったと、認めざるを得ないところだわ。 所移って、ふたたび治府の中である。 みくる:お待たせしましたー。 ありがとうございます、朝比奈さん。 みくる:今度は、キョン君のお口に合えばいいんだけど… 朝比奈さんが手ずから振る舞ってくれる飲食物に合わない口など、俺が持ち合わせていようはずもなく、一口啜ってみた今度のお茶は、まさしく甘露だった。 俺 :――美味しいですよ、朝比奈さん。 こぼれそうな大きな瞳を不安げに揺らめかせて、こちらを凝っと見つめている、この小動物のような美少女に、ほんの僅かでも否定的なニュアンスが滲み出るような言葉をかける奴はこの世から消え去った上に二度と戻ってこなくていい。 古 泉:なるほど。烏龍茶のような香気はありませんが、薬味が強く、質朴の中に喫茶の起源を感じさせる野趣がありますね。中国では古来、茶を烹(に)て薬湯に用いたといいますが、その工夫に従ったのでしょうか と、褒めてるのか貶してるのかよくわからんコメントで、朝比奈さんを喜ばせている。巧言令色とはこいつのような奴を差すんだろう。が、薬湯といわれれば、確かにニュアンスはわかるな。 ハルヒ:そう? まだちょっと苦いっていうか渋い味が残ってるわよね。みくるちゃん、まだ及第点とは言えないわ。 みくる:す、すみません… |
厳白虎 統率:75 武力:70 知力:23
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お前は空気を読め。 ハルヒ:このへんはお酒くらいしか特産品ないんだから、せめてお茶とか、もう1アイテムくらい地場産業の目玉が欲しいのよね。なんか高級品らしいし。 みくる;はあ… 相変わらず太守気取りで無茶を言う。おまけに朝比奈さんになんて重圧をかぶせてやがるんだ。 ハルヒ:で、さっきの続きなんだけど 続き? ああ、敗因か。問答するまでもないがな。なんなら教えてやろうか。 ハルヒ:あんたの意見なんか聞いてないわ。あたしに具申したければ、所定の申込書を書いて王朗さん経由で提出しなさい。 なんだそりゃ。 ハルヒ:もちろん古泉くんは別よ。副団長だし、軍師だからね。献策があればいつでも言って頂戴。 古 泉:光栄です、府君。――では、お言葉に甘えて、策を献じてよろしいでしょうか? 古泉、おまえがそういう言い回しをするから、こいつが増長するんだ。 ハルヒ:いいわよ古泉くん。ただし、あたしが納得するような戦術じゃないとだめよ。 古 泉:戦術というより、まず先ほどの敗因についてですが――戦地にあっては、やはり我々の不慣れが、そして戦場の外では、準備不足が祟ったのは否めません。せめてあと10ターン、もとい3ヶ月は戦備に費やしたかったところです。そこで―― ハルヒ:兵法は神速を尊ぶのよ、古泉くん。問題はそこじゃないのよ いや、そこだろう。 ハルヒ:あたしたちは、結構いいところまでいってたはずなのよ。現に敵軍を何度も潰走させている。でも、そのつど城へ戻った敵将が新しい兵を率いて戻ってくる。城に接近すれば矢を撃たれるし。この底なしの消耗戦に引き込まれたのが、戦場での失敗よね。 古 泉:なるほど。確かにそう言われると納得できます。――やはり、消耗戦に備えて、こちらも同程度の兵力を確保するのが得策ということでしょうか。 古泉のやつ、論破されるふりして、話を内政の方向へ持っていこうとしてるな。 ハルヒ:ふふん。駄目よ古泉くん。消極は退嬰につながるの。あたしに保守の2文字はないわ。 あっさりと古泉の詐略を看破したたらしく、底意地の悪そうなニヤニヤした笑みを古泉に向けた。 古 泉:――涼宮さんには敵いませんね。ここは雌伏の2文字をお耳に入れたかったのですが。 古泉、悪びれずに肩をすくめてみせる。 ハルヒ:まあいいわ。で、あたしが思うによ。 ここからハルヒのターンらしい。 ハルヒ:我がSOS軍の編成と戦場運用に不備があったのよね。速攻で勝負をつけるため攻めに徹しようとした。古泉くん、「攻め」の反対は? 古 泉:受――「守り」、ですか。 ハルヒ:そう。防御よ。やっぱり、戦場では攻守のバランスが肝要だったと、今にして思えば悔やまれるところだわ。 さっきと言ってる事が違うじゃねえか。 ハルヒ:戦場での事を言ってんの。いい? このテの戦乱時代は、たいがい先に手を出した方が勝つのよ。道義だ人倫だって鶴首ならべてる弱者から順に征服されていくでしょ? 歴史が証明しているの。だから、大戦略は先手必勝。必ず相手が軍備を整える前に決着をつけるべきよ。――そうでしょう?古泉君。 古 泉:仰るとおりです。 爽やかなスマイルで、すかさず迎合する古泉。 ハルヒ:だから、戦場での慎重さが要求されるのよ。歴史上の英雄も独裁者も、負けたら駄目、ってところで蹴躓いて、みんなズルズル敗走モードへ引きずり込まれてるわけ。先人の失敗は教訓とすべきよね。要は負けなきゃ負けなかったわけなんだから。 …誰か、いまの理論を俺に解りやすく説明してくれ。 ハルヒ:あんたは理解しなくていいの。いまは乱世なのよ。あたしが必要としてるのは、団長であるあたしの命令を執行する意思と服従よ。――そうでしょう、古泉くん? 古 泉:仰るとおりかと。 ハルヒ:いい? つぎから、戦場では冷静沈着、戦場の外では猪突猛進。これをもって、わがSOS団の戦略方針とするわ。 普通、その逆だろう。なんか怪しげなドクトリンが10秒ほどの議論で採択されようとしてるぞ。 ハルヒ:有希、異存はないわね。 その視線の先には、室の隅の方にひっそりと腰掛け、先ほどからひたすらハードカバー本ならぬ竹簡に視線を走らせているショーカット姿の少女がいた。 ハルヒ:満場一致ね。じゃあ、この方針で突っ走るわよ、みんな! 好きにしてくれ。あと、俺はどうでもいいが、せめて朝比奈さんからも確認とってあげてくれ。
2
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お酒 |
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涼宮ハルヒ
いまどき小学生でもやらないだろう、これ。自ら知力20台くらいであることを証明するようなマヌケ能力値だ。 兵科が全Sでないことくらいが唯一の救いだが。 古 泉:根拠のある数値だとは思いますよ。基本的にスポーツ万能、成績優秀。あらゆる障害を力尽くで突破する破壊力、一を聴いて百を知る要領の良さ。すべてにおいて乱世向きの人材です。 明らかに姦雄のほうだろうな。まあ、ハルヒの能力をマックスとして考えれば、他の連中の能力値にも目処が付くが、強制的にハルヒ以下に能力を引き下げられることになる実在の英雄各位には、同情を禁じ得ないところだ。
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朝比奈みくる
ハルヒが朝比奈さんをどう見てるかがよく解る数値だ。キャラの特徴は出てると思うが、SLGのユニットとしては、相当に使いづらい能力値だな…特殊能力の傾国、って何をさせる気だ!? 古 泉:いつかの草野球大会では、まさにそのような投入のされ方でしたね。 ああ、あの時のチアガールか。確かに朝比奈さんのおかげで、だいぶ敵投手の動揺を誘えたと言える。
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■朝比奈みくる(メイド) SOS団のメイドとして甲斐甲斐しく働いてくれている愛くるしい先輩だが、その実、遙か未来から、ハルヒを監視するためにやってきた当局の人間らしい。そのわりりにはタイムトラベル用のデバイスをどこかに落として半泣きになったりするお茶目でかわいらしい人である。 |
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古泉一樹
ハルヒのを見た後だと毒気も抜けるが、やっぱこの能力値もやりすぎだろう。特技の弁舌というのは解るが、知力95・政治の90って何なんだ 古 泉:こんなにも高く評価して貰えたのは、正直嬉しいですが、実際のところ涼宮さんなりのキャラ付けですね。ゲームを始めるに当たって、まず軍師役が必要ですから、そのためのデフォルメが必要だったんでしょう。 軍師ねえ。わからんでもないが、Aクラスユニットとしては中途半端感があるな。 古 泉:中途半端…ですか。 万能ユニットというにしては、統率と武力の70代ってのがな。使いではあると思うが、武の主力に据えるのは厳しい数値だ。 古 泉:なるほど。――言われてみると涼宮さんらしい自制が現れてますね。全権を任す事の出来る分身タイプの副将というよりは、補佐役向きのイメージを強調したのでしょう。
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長門有希
なかなか反応に困る能力値だ。長門の場合、その正体を知ってる人間にとってみれば、全能力256でも全然足りないくらいなんだが、知らない人間にとっては、たんなる読書好きの無口少女だからな。スポーツ万能といっても、武力とはイメージが異なるわけだし。 古 泉:涼宮さんは、その博識なところと、事務処理能力に強調点を見出しているようですね。知力が僕よりも低く設定されているのは、普段から参謀的な助言を涼宮さんに与える場がないからでしょうね。 武将としてはおまえに輪を掛けて中途半端感がなくもないが、文官としてみれば最強クラスだな。武力も65536くらいでいいと思うんだが。 古 泉:長門さんは、どちらかと言えばゲームの登場武将ではなく、メモリエディターみたいな存在ですからね。でも、涼宮さんはそれを知り得ない。よって、涼宮さんの世界の中では、読書好きの万能選手どまりにならざるを得ない、と。 ん? ――長門の特技って、前は「明鏡」じゃなかったか? 古 泉:そうでしたか? なんとなくそんな気がしたんだが…気のせいか。 |
■長門有希 文芸部所属で、俺たちと同じ学年だ。 その正体は、宇宙人。より正確に言うと、宇宙的存在(情報生命体?)が、人類とコンタクトするために作り上げたインターフェイスであるという。宇宙を構成する情報そのものにアクセス(?)できるため、事実上、こいつこそ神に等しい能力を任意に行使できるのだ。 この世界では、もちろんそんな能力は再現されていないが。 |
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俺(キョン)
古 泉:…。 …。なんか言えよ。 古 泉:特に序盤にかけて、政戦両面で重宝しそうな中堅ユニットです。何より特技の「捕縛」は、あらゆる特技の頂点に君臨するスペシャルスキルといっても過言ではありません。 …ああ。 古 泉:いや、あなたの能力値だけ、他のメンバーとは決定的に異なる点があるのに気づきましてね。からかってるのではなく、羨望を禁じ得ません。 …なんだ、それは。 古 泉:見てすぐに解る事なんですけどね。 その、してやったり感の漂う意味ありげな微笑みはやめろ。もういい、俺は興味ない。 古 泉:そうですか。――まあ、SOS団のメンバーは出揃いましたし、とりあえずこの面々で、中原に鹿を逐う戦いが始まるわけです。涼宮ハルヒ指揮・演奏SOS楽団。とんな物語組曲になるかは、終わってみないとわからないですね。 とか言いながら、作曲家はおまえだろう、軍師閣下。 古 泉:そうでもありませんよ。僕はこの世界においても、あくまで助言者兼イエスマンにすぎません。 古泉は肩をすくめた。 古 泉:なぜなら、涼宮さんは軍師に政戦両略を一任して、後方で安穏とするタイプではないからです。僕に要求されるのは、涼宮さんに戦略と戦術を決定するための情報を整理して提供すること。あとは実行フェーズでの駒の一つであること、のみです。――覇道になるか王道になるか、天下統一への道は、あくまで涼宮さんが決める事になるでしょう。 結局は、作曲無しの風まかせか。指揮者の気侭なタクトを追って、俺たちは必死こいて演奏するってことか。 古 泉:いいじゃありませんか。元の世界のSOS団だって、いきあたりばったりで色々な事態を乗り越えてきたのですから。この即興曲の果てにどんな終章を迎えるか楽しみなくらいですよ。 はあ… 軍師役がはなから思考放棄とはな。 古 泉:ま、慌てずにいきましょう。おそらくは終了条件である天下統一にむけて。 ―やれやれ。 |
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