第2話 「紹興酒トッカータ」
1-2 紹興酒トッカータ 1
なんだ。
…厳白虎は三国志的には雑魚キャラかもしれんが、16や7の子供にそんな事言われる筋合いは無いと思ってるぞ、きっと。
所移って、ふたたび治府の中である。
ありがとうございます、朝比奈さん。 我らがSOS団の専属メイド、もとい、一年先輩の朝比奈みくるさんが、素焼きの椀に淹れたお茶を盆に載せ、一人一人に配り歩いてくれている。
朝比奈さんが手ずから振る舞ってくれる飲食物に合わない口など、俺が持ち合わせていようはずもなく、一口啜ってみた今度のお茶は、まさしく甘露だった。
こぼれそうな大きな瞳を不安げに揺らめかせて、こちらを凝っと見つめている、この小動物のような美少女に、ほんの僅かでも否定的なニュアンスが滲み出るような言葉をかける奴はこの世から消え去った上に二度と戻ってこなくていい。
と、褒めてるのか貶してるのかよくわからんコメントで、朝比奈さんを喜ばせている。巧言令色とはこいつのような奴を差すんだろう。が、薬湯といわれれば、確かにニュアンスはわかるな。
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厳白虎 統率:75 武力:70 知力:23 |
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お前は空気を読め。
相変わらず太守気取りで無茶を言う。おまけに朝比奈さんになんて重圧をかぶせてやがるんだ。
続き? ああ、敗因か。問答するまでもないがな。なんなら教えてやろうか。
なんだそりゃ。
古泉、おまえがそういう言い回しをするから、こいつが増長するんだ。
いや、そこだろう。
古泉のやつ、論破されるふりして、話を内政の方向へ持っていこうとしてるな。
あっさりと古泉の詐略を看破したたらしく、底意地の悪そうなニヤニヤした笑みを古泉に向けた。
古泉、悪びれずに肩をすくめてみせる。
ここからハルヒのターンらしい。
さっきと言ってる事が違うじゃねえか。
爽やかなスマイルで、すかさず迎合する古泉。
…誰か、いまの理論を俺に解りやすく説明してくれ。
普通、その逆だろう。なんか怪しげなドクトリンが10秒ほどの議論で採択されようとしてるぞ。
その視線の先には、室の隅の方にひっそりと腰掛け、先ほどからひたすらハードカバー本ならぬ竹簡に視線を走らせているショーカット姿の少女がいた。
好きにしてくれ。あと、俺はどうでもいいが、せめて朝比奈さんからも確認とってあげてくれ。 2舞台は、またまた城壁上に戻る。
こいつがアットランダムで現れるようになってから、俺もおちおちと独り言を呟いていられん日が続いている。
そういって古泉は、湯気上るソフトボール大の物体をよこした。…見たところ屋台あたりの作りたてみたいだが、変な素材が混ざってないだろうな? 可食物以外とか。
日本語が通じるくらいのデタラメ中国だからな。
そう言いながら、古泉は袂のあたりからゴソゴソと一枚の帛を取り出した。 びっしりと、文字が書かれている。
古泉が広げたのは、忘れもしない、というか覚えたくもない、ハルヒ流人物評価――というか、俺たちのこの世界におけるパラメータ一覧表だ。
やくたいもない。 |
お酒 この揚州は会稽郡の治所がある山陰県ってところは、21世紀現在、紹興市と呼ばれている。まあ、紹興酒と魯迅のおかげで、わりとメジャーな観光地だな。 |
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涼宮ハルヒ
いまどき小学生でもやらないだろう、これ。自ら知力20台くらいであることを証明するようなマヌケ能力値だ。 兵科が全Sでないことくらいが唯一の救いだが。
明らかに姦雄のほうだろうな。まあ、ハルヒの能力をマックスとして考えれば、他の連中の能力値にも目処が付くが、強制的にハルヒ以下に能力を引き下げられることになる実在の英雄各位には、同情を禁じ得ないところだ。 |
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朝比奈みくる
ハルヒが朝比奈さんをどう見てるかがよく解る数値だ。キャラの特徴は出てると思うが、SLGのユニットとしては、相当に使いづらい能力値だな…特殊能力の傾国、って何をさせる気だ!?
ああ、あの時のチアガールか。確かに朝比奈さんのおかげで、だいぶ敵投手の動揺を誘えたと言える。 |
![]() ■朝比奈みくる(メイド) SOS団のメイドとして甲斐甲斐しく働いてくれている愛くるしい先輩だが、その実、遙か未来から、ハルヒを監視するためにやってきた当局の人間らしい。そのわりりにはタイムトラベル用のデバイスをどこかに落として半泣きになったりするお茶目でかわいらしい人である。 |
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古泉一樹
ハルヒのを見た後だと毒気も抜けるが、やっぱこの能力値もやりすぎだろう。特技の弁舌というのは解るが、知力95・政治の90って何なんだ
軍師ねえ。わからんでもないが、Aクラスユニットとしては中途半端感があるな。
万能ユニットというにしては、統率と武力の70代ってのがな。使いではあると思うが、武の主力に据えるのは厳しい数値だ。
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![]() ■古泉一樹(軍師) 「機関」とやらいう超国家組織に所属する、場所限定・期間限定の使えない超能力者。 いつも爽やかスマイルを絶やさない、ハッキリ言って怪しい奴。 この世界では、知力90代の軍師役だが、意思決定はハルヒに任せてるから、結局はいつもの役だな。 |
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長門有希
なかなか反応に困る能力値だ。長門の場合、その正体を知ってる人間にとってみれば、全能力256でも全然足りないくらいなんだが、知らない人間にとっては、たんなる読書好きの無口少女だからな。スポーツ万能といっても、武力とはイメージが異なるわけだし。
武将としてはおまえに輪を掛けて中途半端感がなくもないが、文官としてみれば最強クラスだな。武力も65536くらいでいいと思うんだが。
ん? ――長門の特技って、前は「明鏡」じゃなかったか?
なんとなくそんな気がしたんだが…気のせいか。 |
![]() ■長門有希 文芸部所属で、俺たちと同じ学年だ。 その正体は、宇宙人。より正確に言うと、宇宙的存在(情報生命体?)が、人類とコンタクトするために作り上げたインターフェイスであるという。宇宙を構成する情報そのものにアクセス(?)できるため、事実上、こいつこそ神に等しい能力を任意に行使できるのだ。 この世界では、もちろんそんな能力は再現されていないが。 |
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俺(キョン)
…。なんか言えよ。
…ああ。
…なんだ、それは。
その、してやったり感の漂う意味ありげな微笑みはやめろ。もういい、俺は興味ない。
とか言いながら、作曲家はおまえだろう、軍師閣下。
古泉は肩をすくめた。
結局は、作曲無しの風まかせか。指揮者の気侭なタクトを追って、俺たちは必死こいて演奏するってことか。
はあ… 軍師役がはなから思考放棄とはな。
―やれやれ。 |
![]() ■俺(治安回復要員兼雑用係) いまや普通であることに憧れる、ただの高校生だ。その願望が叶ったのか、この世界内の能力値は、悲しいほどに普通だ。戦闘も内政も謀略も平均以下。実際そうかもしれんが釈然とせんな。 |
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