第十七章   南海の死闘

 

 

 南蛮王・呂布が直接指揮統率する「南蛮軍団」は、初陣早々から華々しい戦果を上げた。劉表に退路を断たれていた交趾の孫策軍は、本国の救援も得られぬまま全滅した。

 

呂 布:ちょろいちょろい。

 

 相変わらず軍功第一の呂布、上機嫌で捕虜達を引見する。

 ……さすがに、「小覇王」孫策に心服している彼らは、誰一人として呂布に従おうとはしない。

 

周 泰:斬れ。今の俺はそれが本望だ。

 

 などと頑固なものであった。

 

呂 布:ふん…。

 

 無論、この場合斬るのが正解。圧倒的な数の武将を抱える陣営に対し、弱小陣営のとるべき道はただ一つ、「人数減らし」である。一人でも多くの敵将を減らすよう心がけねば、いくら戦に勝っても意味はない。

 だが。

 

陳 宮:逃がしましょう。

呂 布:へ……?

 

 さすがに驚く呂布に、陳宮がヒソヒソ説明する。――先日、孫策軍本軍十二万は徐州の大会戦で壊滅的な打撃を被り、朱治、孫静をはじめ数多くの名将を喪っている。いま、孫策を一方的に追いつめて弱体化させるより、彼をして曹操に対する防波堤とするべきである。――

 

呂 布:オトナの理論だが…もし孫策が曹操に代わってしまったらどうするんだ?

陳 宮:う――そ、その時は臨機応変で!

呂 布:できるか~っ!

 

 ポカリと陳宮の頭をたたく呂布。しかしながら――

 

呂 布:まあ、初っ端から呉の有名人をズバズバ斬るのは面白くない。貴様らにはもう少しマシな死に場所を用意してやる。

董 襲:――それがしらを生かして帰すという意味か。

呂 布:おう。俺様に感謝して帰るように。

蒋 欽:バカにするな!貴様に救われるほど我らの命は軽く――

呂 布うるさ~い!

  

 華をはじめとする虜将たちは、ポイっとつまみ出されるように城から追い払われた。

 さかんに首を捻りながら、彼らは孫策領を目指してトボトボ騎行するハメになる。

 

呂 布:ああ、男臭かった…。

陳 宮:あんたねえ…。

 

 ゴタゴタがあったにしろ、交州の玄関・交趾の接収は終了した。同地の治安回復と兵力の再編成を急ぐ傍ら、陳宮は隙なく次の侵攻ポイント南海の調査をすすめている。

 

陳 宮:……いける!

 

 調査の結果、南海の劉表軍は孫策軍を撃ち破ったとき全滅寸前になっており、唯一援軍を送ることのできる荊州最南端・桂陽もガラ空きになっていることが判明したのだ。

 

陳 宮:というわけで、南海を今から攻めます!

呂 布:今から!?

陳 宮:なにごとも臨機応変!

呂 布:だからお前のは行き当たりばったりだ~っ!

 

 主従で怒鳴り合いながらも単騎、城を飛び出す呂布と陳宮。

 この暴走特急のような主君と軍師を追って、慌てて孟獲たちが城門を出、その後をどどどどどどどど――とおびただしい数の象が群れなして追い慕う。ややおくれて、取り残された兵士たちがあたふたと出撃してゆく。

 ……他国では、まず見られない珍風景であろう。

 

陳 宮:南海の劉表軍は、約三万です。敵主将は太守の黄忠!

呂 布:おお、あのハッスル爺さんだな!

陳 宮:あんたと8つしか違いませんけどね!

呂 布:ん!? 象の音がうるさくて聞こえなかったぞ!

陳 宮:……もう、いいです。

 

 凄まじい地響きのなかで怒鳴り合う二人の前に、劉表軍が姿を現した。

 戦場「交趾→南海」は、ハッキリ言ってただの平野部である。攻める側も守る側も、戦術などない。

 

呂 布:ようし、楼ちゃん続け~!

 

 前回に味を占めた呂布、新白馬義従を従え、必勝パターンとばかりに「強行」を開始する。快速の騎馬集団が先行するのに続き、戦象部隊が轟轟轟轟轟轟……と地軸を揺るがすほどの突進をする。

 

呂 布:邪魔だ、どけっ!

 

 あっという間に南海の最後衛地点に到着すると、呂布は息もつかせぬ突撃を公孫楼と代わる代わる敢行し、早速敵将を引っ捕らえてしまう。捕まえた後で、これが敵参軍の傅巽だったということが判明した。

 

呂 布:ジジイ、出てこい! 俺と一騎討ちでカタをつける気はないのか!

黄 忠:騒がしいわ!貴様もそろそろ老後の心配をして引っ込んでおれ!

呂 布:はっはっは! 顔グラフィック固定制が続く限り、俺様はいっこうに歳をとらんのだ!羨ましかろう!

黄 忠:おのれ~!

 

 砦を死守する黄忠。これでも武力95を誇る荊州最強の男だが、総大将という地位上、呂布の執拗な一騎討ちの誘いに乗らない。さすがに、公孫楼ではこの老人に太刀打ちできそうにない。

 

孟 獲:奪った! 

祝 融:あたいもいただき!

 

 一方、中央戦線。敵将を蹴散らした孟獲大王と祝融夫人のカップルが、ほぼ同時に砦を占拠している。

 ここに至り、ようやく北方から敵援軍が到着するが、もともと桂陽の兵力は三万に満たない。南蛮軍団にとって大した脅威ではなかった。

 

呂 布:だ~っ!しつこい!

公孫楼:……。

 

 こちらは最深部。黄忠老人、さすがに荊州最強の名はダテではない。

 右に呂布を防ぎ、左に公孫楼を攻め、とにかく「硬い」。おまけに連発する計略「混乱」が二回に一回くらい呂布に通用し、この老人ひとりで呂布軍は想像以上の苦戦を強いられた。

 が、それも限界がある。

 

黄 忠:む、無念……!

  

 数え切れないほどの突撃の結果、ようやく呂布の突撃が黄忠軍を全滅させた。呂布隊の損害は凄まじく、二万という大部隊が半数をきっている。

 

呂 布:……疲れた。

 

 というのが、正直なキモチであろう。

 とにかく、交州南海郡は、これまた天下が呆然とするほどの素早さで呂布の制圧下に置かれた。荊州侵攻の橋頭堡たるべき重要拠点を、とうとう手中に収めたのである。

 

 

 

 臨機応変か行き当たりばったりか!?軍師陳宮の策は図に当たり、南方ルートを驀進する呂布軍団!いよいよのぞむは荊州か!痛快読み切り三国志Ⅶ活劇は、次回・急展開です!