22.武陵攻防戦

武陵攻防戦

 

 

 武陵の失陥により、呂布の荊州戦略はその第一歩から蹴つまずいた。

 激怒した南蛮王呂布は、法正を白帝城から召還してデコピンを喰らわした後、遙か長安まで消し飛ばしてしまった(この人事が後に意外な幸運を生むことになるのだが)。

 正軍師の陳宮、さすがに競争相手の失脚をほくそ笑む余裕もなく、次善の案を練る。

 とにかく、荊州攻略のためには、どうしても武陵が必要なのだ。荊北と荊南は長江によってハッキリと区切られ、それぞれの玄関口となるのが江陵・武陵なのである。

 

 

 一見して江陵が劉表勢力の咽喉と思えるが、いまの呂布軍には同地を占領・維持する余裕がない。繰り返すようだが、呂布軍の全戦力(涼州方面軍は除く)をかきあつめても、劉表軍には僅かに及ばないのである。

 まずは武陵を獲って荊南を孤立させ、じりじりと蚕食するという手段をとるしかない。

 

陳 宮:というわけで、いまから武陵を攻めます。

呂 布:おう!

 

 呂布軍の反応は素早い。武陵失陥の次のターンには永安に全戦力が集結し、次の号令を待っている。

 …が、ここが全作までと違うところ。戦略的にはわずか二ターンながら、ゲームでは半年が過ぎてしまっている。つまりもう夏7月である。

 

呂 布:あれだな、人間年をくうと時間感覚がせわしなくなると言うが。

陳 宮:なんか人生損した気分になりますよねえ…。

呂 布:報を受けてから兵団移動するのに3ヶ月。出陣はさらに3ヶ月後…。ちょっとパースが長いよなあ…。

 

 しんみりと愚痴る呂布。――思えば、このときから出陣に不吉が漂っていたのかも知れない。

 永安を進発した呂布軍は、総勢で十一万という大兵力である。

 迎え撃つ劉表軍は、武陵軍六万。援軍は長沙と江陵から、それぞれ四~五万前後であると予測された。数の上では敵勢有利である。

 

呂 布:「VIII」になってから初戦争だよな~。どんなカンジなんだろ?

 

 ウキウキと軍議をはじめる呂布。まず方針(戦法)を定め、実行する計略を選択する――おおよそ全作と大きな差違はない軍議であった。

 

呂 布:よっし!じゃあ蹴散らしてやるか!

孟 獲:あ、兄者!が、頑張ろうぜ!

 

 呂布の義弟格の孟獲が出陣していることで、両部隊の士気は特に高い。

 戦場「武陵」は、平原と街道と森から為る、全くもって平凡な地形であった。呂布軍は街道に沿って前進を開始した。

 それにしても呂布軍の陣容は凄まじい。先鋒・公孫楼、右将・高順、左将・張遼、中堅・孟獲、張燕、黄権。そして元帥・呂布に参軍の陳宮。このメンツだけでも大陸の半ばは制覇できそうな勢いである。

 

呂 布:やっぱりユニットが「馬人形」とかじゃなくって、何というかこう、きちんとした部隊!っていうのはいいよなあ~。

陳 宮:でも、数によってサイズが変ってくれたら尚いいんですけど。

 

 なんどと言っているうちに、先鋒の公孫楼から敵見ゆの報が入った!

 つづいて諸将の索敵範囲にも、次々と敵部隊があらわれてくる。敵はマップ中央の砦まで迎撃にきているようだ。

 呂布は、全軍前進の指令を下した。援軍が到着するまでに、叩く肚であった。

 

呂 布:突撃~っ!!

 

 突撃、乱撃、奇襲、車駆、所有する戦技が全て「極」レベルの呂布、とにかく実戦で使いたくて仕方がなかったらしい。自ら主戦場を迂回して森に入り、そのまま敵部隊と交戦状態に入った。

 右翼の高順軍は、やや遅れて敵将・金旋の一軍と対峙する。

 

高 順:突撃!

 

 こちらも突撃「極」の陥陣営である。馬鎧を装備した重装騎兵軍は、地軸を踏み抜きかねない轟音をたてて突撃を開始した。

 

 ――すかっ!

 

金 旋:高順は勢いだけだ。

高 順:……!?

 

 敵の損害は、わずかに300あまり。一万五千の重騎兵軍団の突撃を受けた割には、あまりに貧相な損害であった。

 

金 旋:よし、こちらからも突撃だ!

 

 なんとこの突撃が、無敗の高順軍を突き崩し、動揺を全戦線に広げた。高順軍はいきなり千以上もの犠牲を出して後退した。金旋の部隊は重歩兵わずか一万である。

 

呂 布:ぶわっはっはっは! ダっセ~! 高順しっかりしろよ~!

 

 遠望した呂布、呵々と大笑しながら、自らも得意の奇襲攻撃をかけてみる。

 

 ――すかっ!

 

厳 顔:何をやりたかったのじゃ、呂布めは?

呂 布:!? !?

厳 顔:反撃じゃ。弓箭兵、三段に射よ!

 

 途端に、砦から天を覆うほどの矢が発射され、的確に呂布軍に吸い込まれた。バタバタと、面白いように兵が射斃されてゆく。

 

呂 布:!? !?

張 遼:大将、俺がやります!

 

 代って前に出た張遼軍が厳顔隊に痛撃を与える。高順軍は、なお金旋軍と激烈な戦闘を続けている。山岳騎兵である公孫楼軍は、その軽捷さを活かして戦線を次々と移動し、各軍の支援に回る。南蛮兵の孟獲軍は、森をウロウロしていた。エンカウント・ポイントが見つからないのだ。

 ――最初からひどい混戦になってしまったようであった。

 

 こちらの索敵範囲外から、次々と矢が打ち込まれる。

 霍峻隊を主力とする一大弩兵団が近くにいることは確かなのだが、呂布軍はそのことさえ確認できない。

 呂布と公孫楼、孟獲が相次いで敵の策略で混乱状態に陥り、もはや手がつけられないのである。陳宮がさっきから必至に建て直しをはかっているのだが、まるで効かない。たまにこちらの「混乱」が効いても、敵はターン内に回復しているというのにだ!

 それにしても、砦から発射される弩の被害は恐ろしい。ただの一撃でも軽く千ちかい兵が斃される。ヘタな突撃よりも威力は強い。

 

高 順:――っ!

 

 高順軍が、ついに崩れた。

 あの高順が、ひとたび戦場に出れば敵の陣営を陥とさずには帰らなかったあの名将高順が! 金旋…そう敵将金旋(!?)の武略を克服すること能わず、ついに一万以上の兵を遺棄したまま戦場を後退した。

 この時点で、敵には文聘、黄忠、蔡瑁ら荊州軍主力が加わり、数の上でも南蛮軍を圧倒しつつある。張遼は、高順よりわずかに損害が少ないものの、敵援軍文聘に対して立て続けに突撃を失敗し、もう後がない。文聘は厚みのある陣容を保ったまま、呂布本軍と砦との間に立ち塞がっていた。

 

呂 布:…………。

陳 宮:孟獲どの、早う落ち着きなされ!…ああもう、何ターン混乱してるんだ!

孟 獲:おおお、俺の兵が、へ、兵が、減ってゆく!

 

 無事なのは後方にいる陳宮ばかり。予備戦力のはずだった張燕隊など、とうの昔に戦線に投入され、おろし器にかけられた大根のように磨り減らされている。

 

呂 布:………か…。

陳 宮:はい?

呂 布:……やってられるか━━っ!

陳 宮:と、殿!?

呂 布:ウザイし!ショボいし!カッタルイし~ッ! もう帰るったら帰る帰る帰る!おうちに帰るぅ~~っ!

 

 三頭身に縮んで駄々をこね出す呂布。すでに涙目である。

 

張 遼:大将、落ち着いて! 

呂 布:あ~もう!

   ……こんなクソゲーやってられっか~~ッ! 

陳 宮:……うわ~!

公孫楼:…まだ慣れてないだけ。慣れたら面白くなる。

呂 布:いいもん慣れなくても! もう帰るったら帰るもん!

 

 乱心した呂布、本当に全部隊を撤収させてしまった。

 哀れをとどめたのは孟獲隊である。混乱したまま戦場に残され、なんとか自力で戦場を離脱したものの、随従したのはわずか1000あまりであった。

 

 戦場には、五万を超す死体と、敵方の果てない嘲笑だけが残された…。

 

 

戦えば必ず勝った南蛮軍、三国志VIII初の戦闘は記録的な大敗北!乱心した呂布と傷心の部下は、この屈辱を雪ぐことができるのか!? 次回、陳宮が分かり易くアドバイスです!