24.荊州と長安

荊州と長安

 

 

 呂布が武陵を奪還したことで、ふたたび劉表領は南北に分割された。

 荊南を制圧する方針であれば、呂布が次に狙うべきは長沙か零陵である。

 

陳 宮:長沙を攻めましょう。

呂 布:お、即答か。

陳 宮:そりゃあ、いまは早い者勝ちですよ。孫策も荊南を狙っている事をお忘れ無く。

 

 その通りであった。この機に南方の憂いを無くし、荊北へ全戦力を振り向けたいところである。

 圧勝したとはいえ呂布陣営の欠損もひどく、この年いっぱい呂布は戦力と物資の再編成に逐われた。その間、長沙に対する破壊や離間工作も続いている。

 

小間使い:はいー!到着いたしました!

呂 布:遅い!

 

 武陵に本営を構えて早々、呂布は成都の留守をしていた小間使を呼び寄せている。小間使いは、忠吉さんの引き綱を持ったまま、見慣れぬ景色をキョロキョロと眺めていた。

 彼女をここまで案内してきたのは、劉循である。彼も遅れて荊州戦線に加わることになる。

 

呂 布:しばらくはこの屋敷にすむことになる。仮住まいだからといって、掃除の手を抜くなよ!

小間使い:任せてください!お掃除は大好きなんです。

呂 布:もしこう…(指で柱を拭って)埃が残っているよーなら、お仕置きだ!

小間使い:え!? お仕置きですか!?

呂 布:そうだ、お仕置きだ!

小間使い:…………(ぽ)。

呂 布:「ぽ」じゃねーッ! おまえ何か勘違いしてないか?

劉 循:(…将軍、たしかメイド好きだったのでは?)

呂 布:(あほう!俺様はメイド愛好会名誉会員でもあるが、いわゆる「メイド嗜好」とは一線を画するのだ)

劉 循:(はあ…)

呂 布:(連中の多くは「虐待メイド」に萌えているが、俺様は健全に働くメイドを好むのだ!)

劉 循:(なるほど…正当派ということですか!)

 

 ヒソヒソと話す主従。二人を眺めている小間使いのきょとんとした顔をチラリと見て、得心したかのように頷く劉循。奥が深いですな、と呟いて軍営へ去っていった。

 

小間使い:あの…劉循さまにお茶をお出ししなくても…。

呂 布:あー構わん構わん。それより、何か気づいたことはないか。不足しているものがあれば持ってこさせるぞ。

小間使い:いえ、特には――あ、そうそう呂布様。

呂 布:何だ?

小間使い領国が大きくなって命令が出しづらくなったら、軍団を分けて対応すればいいですよ。

呂 布:軍団!?

小間使い:はい、軍団です…どうかされましたかー?

呂 布:い、いや、凄いこと言う小間使いだと思ってなー。一瞬おまえのこと尊敬しちまったよ…。

小間使い:もー、誉めても何も出ませんよー!

呂 布:はっはっは!

 

 ……その夜、呂布は本営に陳宮を訪れ、軍団分立のことを話してみる。

 

陳 宮:軍団ですか…いきなりですな。どうされたのですか?

 

 まさか小間使いにアドバイスされたからとは言えず、何となくな、と口をにごす。

 

陳 宮:…いずれは必要になるでしょうが、今は殿の直轄に置いていて問題ありませんよ。特に涼州軍は、馬超どのに任せると大変なことになりかねません。

呂 布:そうか。わかった。

 

 こうして軍団分立は立ち消えとなる。

 

 ――各人内政に追われている間に年が明け、建安十年(二〇五年)。

 この正月早々に、呂布陣営にとって信じがたい出来事が立て続けに起こるのである。

 悲劇の第一幕は、永安太守・孟達がもたらした一通の書状に始まる。

 

孟 達:「北方の劉表領・上庸城の防禦に不備が見られます。いま北進すれば、荊北の咽喉へ匕首を突きつける好機となります。宜しくご裁可頂きますよう」

 

 まことに耳あたりのよい内容であった。事実このとき上庸は兵力が減少気味であり、永安軍のみでも十分に制圧可能であった。

 呂布は、これに乗った。群議に問わず、許可してしまったのである。

 翌日それを知った陳宮は、――策士策に溺れる、と天を仰いだという。

 

 孟達は、折り返しの書状を得た翌日には白帝城を進発した。

 彼の軍団は八万ほどであったが、各国から派遣されてきた連合軍を合わせると十万を越す。彼らは襄陽を出撃した援軍を含めて十一万という劉表軍を散々に撃ち破り、上庸城をあっという間に占領した。

 

呂 布:やるじゃないか、孟達のヤツ!

 

 満身で喜色をあらわす呂布。ところが陳宮は彼の手から書状をひったくって、粉々に破いてしまった。 

 

呂 布:お、おい!さっきから何を怒ってるんだ?

陳 宮:将軍、孟達の罪は死刑に値します。彼が何をやったのかお解りではないのですか?

呂 布:何をって…?

陳 宮:いま我々は、絶対に上庸を取ってはダメなんです!

呂 布:……?

 

 謎かけのような陳宮の言葉を、この席で解る人間はいない。

 それよりも今呂布は長沙攻略の出撃準備を進めている最中で、正直上庸など次でよい。

 せめて葭萌と武都に五万ずつの増援を、という陳宮の言を無視して、さっさと出陣してしまった。

 

陳 宮:……。

呂 布:まーだ怒ってるのかー?

陳 宮:……。

 

 武陵を発した呂布軍は、妙に不機嫌な軍師を除いて、意気揚々である。

 呂布軍は、この戦いで今作初めて戦象部隊を投入。その天文学的な維持費用に負けないほどの武勲を、孟獲隊は挙げてみせた。なんと彼の軍(一万四千)たった一つで、零陵からの援軍を足止めし、潰走させたのだ。

  同時に到着した連合諸国軍も善戦し、桂陽からの援軍を退けてくれていた。

 その間にも、呂布軍は六台の霹靂車を押し立てて長沙城を攻め続け、とうとう城門の破壊に成功。

 こうなるとあっけないもので、たちまち長沙は呂布の軍門に降った。

 

呂 布:楽勝楽勝~♪

陳 宮:……。

 

 この年初ターン終了と同時に、歴史が一挙に動いたと言える。

 長沙の攻略に成功した呂布の元へ、漢中の張魯から一方的に盟約破棄と宣戦布告があり、ほぼ同時に武都壊滅・太守程銀敗死の報が飛び込んできた。

 

呂 布:……!?

陳 宮:だから言ったのに…。

 

 さらに同ターン、弘農と宛を出撃した曹操軍によって長安が急襲される。馬超は自ら城外に出撃したものの、圧倒的な物量差を覆すことが出来ず、天水まで撤退。かろうじて武都の敗残軍と合流を果した。

 

呂 布:……。

陳 宮:……。

 

 

 ……建安十年一月、南蛮王・呂布はあまりにも呆気なく、西方における覇権の過半を喪った。

 

 

 荊州攻略に着手した南蛮王呂布、プレイヤーが本気でリロードしようとしたこの事態にただ愕然! 挽回の遠征が先か、曹操の逆撃が先か!? 次回、南蛮王呂布の痛快活劇、あの人の登場です!