2009.01.01

37.涼州の砂塵

――建安15年、冬。
 天下の半ばを制した南蛮王国は、にわかに内訌の兆しを見せている。
 呂布の長女・呂刀姫一党の異動である。彼女とその派閥は中央軍の組織から外され、主に北方と西方の治安維持および制圧を命じられたのだ。
 ちょうど呂布の後妻の懐妊が伝えられた時期でもあり、世間はこれを事実上の追放と見た。
 王命を受けた呂刀姫は、沈んだ、しかし鋭く光る瞳で父王を見据え、命を奉じた。
 空気は凛と凍えている。宮殿の外へ出た呂刀姫は、心配げな顔を並べている幕将たちに一人一人呼びかけた。

 

呂刀姫:張任! 関平! 馬岱! 魏延! 張嶷! 張翼! 廖化! 張虎!

一 同:はっ――!

 

 呂刀姫は、ふっと微笑むと、覇気に満ちた声で言い渡した。

 

呂刀姫:みんな! 頑張ろう!

 
 この瞬間、呂刀姫の修羅の生涯が始まったのである――。

 

 

 

 涼州の砂塵

 

 

呂刀姫:ただいま戻りました――!

 

 堅牢そうな門扉をくぐって、呂刀姫が帰宅の挨拶を投げかける。

 呂刀姫も、最近独立して居館を得ていた。呂布が新しい妻を得る前から城や屯所で寝泊まりすることの多かった彼女だが、呂布が胡姫を娶ったとき、正式に屋敷を与えられたのだ。
 この当時、家を与えられて独立するという意味は大きい。家法を定め、家臣を治め、家財を拡大し、家人を統率する。一家とは、いわば国家の最小単位であると言ってよく、家長とは小さな国家の頭領なのだ。
 平時、家長に成り代わって家臣を統率する、いわゆる家宰の役割は、いまは長老格の張任が執っている。同時に、戦場における副将と参謀を兼ねるであろうから、多忙きわまりない。魏延や張虎、関平などと言った青年たちは、その張任の下で家臣団を形成し、それを補佐している。彼らは刀姫の私臣であり、俸禄は刀姫が支払う。
 刀姫の住まう屋敷は、彼らにとっての城で、刀姫は彼らの主君なのだ。

 

 

小間使:お帰りなさいませ、姫さま。

 

 奥から、刀姫の側に仕える小間使いが、ゆったりとした挙措で出迎えた。

 刀姫よりもいくらか歳上の女性だった。女と思えぬほどの長身で、刀姫よりも頭ふたつ高い。ほとんど化粧をしていないにもかかわらず、不自然なほどに艶やかな貌をしている。

 呂刀姫は、眩しそうに小間使いを仰ぎ見て、「ただいま」と繰り返した。

 小間使いも、磁器でつくったような美貌に笑みを浮かべて「お帰りなさい」と言った。存外、暖かみのある声だ。

 ――実のところ、この小間使いは、呂布が己のハーレムから特に選んで呂刀姫に付けた女である。無論、呂刀姫は少女らしい潔癖さで、父の後宮に居たというこの小間使いを嫌忌していたのだが、ひと月ほど共に暮らすうちに、すっかり懐いてしまった。教母の例もあるし、刀姫はどうも歳上の女性に憧れる傾向があるようだった。

 

呂刀姫:実は、この屋敷を出ることになりました。わが南蛮の北方を預かることになりそうです。

小間使:まあ――

呂刀姫:…父上が何を考えてるか知らないけど、命令には従います。月が遷る前に、荷物をまとめて引っ越すから…えっと、準備を手伝ってくださいね。

小間使:準備を手伝ってください、ではなくて、準備しなさい、と言うべきですよ、姫さま。

 

 美貌の小間使いは、赤面する呂刀姫を楽しそうに見やった。呂布の前では、絶対に見せたことのない笑顔である。呂布がこの事を知れば眉をひそめるに違いなく、それ以前に、こやつにも人間の感情があったのか、と驚くであろう。

 

呂刀姫:――わたしは、不甲斐ないから父上に見放されたのだろうか。

小間使:ふふふ、まさか。

 

 呂刀姫は、彼女の前では妙に饒舌に、気弱な己をさらけ出す。それを受けた小間使いは、呂刀姫の心配を、機械が情報を処理するくらい事も無げに一つ一つうち消してくれる。二人は、そういう仲であった。

 

 

 

 ――呂刀姫軍団の出立は、年が明ける前に慌ただしく行われた。

 胡姫はすでに臨月であり、その子の誕生を見届けてからでも良かろうに――と、誰しも思ったに違いない。呂布の意思か、呂刀姫の意思か、いずれにせよ穏やかではない雰囲気のなか、壮行会が催された。

 南蛮王として盛装する呂布の前に、同じく南蛮風の装束を纏った呂刀姫が、麾下の列将を従えて恭しく跪き、王命に背く事無きを盟った。

 その光景を一望する将兵らは、父娘の容子を遠望し、式典の華麗さや状況の深刻さを忘れ、ただただ南蛮王の姿にため息をついた。

 このところ祭典続きで例の触角姿の多かった呂布だが、この日は特にひどかった。1メートル、2メートル級のキラキラした綸子の束を背中いっぱいに背負い、その重量でよろけているのだ。歴代宝塚トップスター中でも絢爛舞踏と畏れられた鳳蘭でさえ、ここまではやらないだろう。

 努めてそういう父の姿を無視しているらしい呂刀姫、こちらは控えめに二本の触角をゆらめかせているだけだ。

 ――が、いずれ中華の文化から見れば異装に違いない。やはりこの二人は親子である、と参列した者はみな思った。

 

 わずか数日後――。

 呂刀姫軍が許を進発し、洛陽へ向かったのを見届けてから間もなく、呂布は己の屋敷で、そわそわと落ち着かない時間を過ごしていた。

 彼の幼い妻が、いよいよつわりを訴え、宮殿の産室へ移ったのだ。

 この時ばかりは屋敷の燕寝殿を使うとはいわず、呂布は我妻のために、最善と思える方法をとった。

 あわただしく人員が行き交うなか、医術と助産の心得がある教母が、この日から胡姫の姆がわりとして側に仕えることになり、同時に外部との連絡役を務めることになった。

 

呂 布:――くそ、なんかこう、ドキドキするよな。

陳 宮:そりゃわかりますけど、ちっとは自室で落ち着いていられないんですか?

 

 うんざり呂布を眺める陳宮。このところ劉循や公孫楼を引き連れて一日に何度も執務室に顔を出してくるので、正直迷惑なのだ。

 呂布、気づいた風もなく牀の上へ腰掛けると、床が軋むくらいの貧乏揺すりをはじめる。

 と、そこへ、左将軍の劉備が息せき切って駆け込んできた。

 

劉 備:殿下! 殿下! 大変な事になりましたぞ!

 

 劉備の真剣な眼差しに、呂布も陳宮も、公孫楼も劉循も息を呑んだ。

 

呂 布:な、何だっ!?

劉 備:――と、トラッキーの中の人が、阪神球団から更迭されました!(※こちら

呂 布:何っ…!?

 

 呂布と陳宮と劉循は同時に立ち上がった。

 

呂 布:トラッキーは、これまでタイガースのマスコットとして頑張ってきたではないか! なぜ彼がクビになるのだ!

劉 循:族父上、納得いきませぬ!何故ですか!

劉 備:球団のコメントが無いから何とも言えないが…パフォーマンスの度が過ぎたと、クレームがあったらしい…

 

 呂布、苦々しげに首を振って呟いた。

 

呂 布:そうか…。トラッキーの中の人も大変だな。

 

 何故か何度もうなずく公孫楼。

 そのうち、この冗談なのか真剣なのかよくわからないテンションの空間へ、噂を聞きつけた他の幕将たちがゾロゾロと駆けつけ、陳宮の執務室は、なし崩し的に「呂布一党」の溜まり場となってしまった。

 

 何だかんだ言って、ここ数日の間、みな不安と期待で死にそうなのだ。

 生まれてくる呂布の子が男子であれば、南蛮王の正しき世継ぎとなる王子が出現することになるが…あるいは女子の方が波風が立たずによい、と心密かに思う者もあるだろうし、何より母子共に健康で出産を終える、とは限らないのだ。

 とにかく、仕事に手がつかぬ面々、ここで雑談することによって、気を紛らわそうとしているのだろう。

 と――。

 満身に緊張を漲らせた張が、駆け込んできた。

 血相がかわっている。急激にシンとなる一同。

 

 :殿下!――教母殿より急使です。劉王后は、予定より早く、ご出産に入り――

 

 今度こそ、一同本気で息を呑む。

 

 :つい先ほど、立派な御子をお産みになりました! ――男子です!

一 同:……………っ!

呂 布でかしたっ――!!

 

 呂布の絶叫が堂の壁を吹き飛ばすほどに響き渡った。

 

 ――うおおおおおおっ!

 

 一瞬遅れて、どおっ、と、一室がわきかえった。陳宮と張が抱き合い、劉備と孟獲が抱き合った。張遼は公孫楼と強い視線を交わしあい、高順は早くも滝のような涙を流している。

 歓声を聞きつけたのだろう、何事かと文武百官が右往左往し、事情を知って狂喜し、歓声の爆発はさらに宮殿中へ広がってゆく。

 歓声はさらに牆壁を越えて市街にまで広がり、許の辻という辻までが祝賀ムード一色に染まった。

 この日、大いに官庫が開かれて、市民ひとりひとりに酒が振る舞われたという。
 数日前から予定されていた手放しのお祭り騒ぎであるが、刀姫が城にいては、諸人の遠慮があって、ここまでの騒ぎにはならなかったであろう。

 夜、呂布はひとり、妻の産室へ出向き、非公式に我が子と我が妻に対面した。古礼では考えられぬ話だが、胡姫のたっての願いとあって、教母はしぶしぶながら面会を許可した。

 実のところ、出産はとても安産と呼べるものではなく、今でも胡姫はオトコの想像を絶する激痛の中にいるはずなのだ。

 

胡 姫:えへへ…わたし、頑張っちゃいました。

呂 布:…ああ。よくやったな。

 

 呂布といえど、さすがにこの時ばかりは平凡な返事しか出来ぬ。妻の小さい手を無心にさすって、我が子と妻をかわるがわる見つめるだけだ。

 

胡 姫:…奉先さま…。この子のことなんですけど…

呂 布:――何だ?

胡 姫:…前から、考えていた名前があるんです…。聞いてもらえますか…?

 

 

……………………

………………

……

 

 

 …一方その頃。

 間もなく洛陽へ到着という地点で野営をしていた呂刀姫軍団は、西方からの急使によって、その眠りを妨げられていた。

 

呂刀姫:ふむ…東ではなく西からとはな…

呂文姫:何なんだろーねー…ふあ…。

 

 二人とも眠い目をこすりながら、陣屋に急使を迎え入れる。

 不寝番の張虎が警戒する中、急使は呂刀姫に書簡を差し出した。長安太守の韓遂からであるという。

 いわく

 ――西方の羌族居住地に不穏の気配あり。宜しく対処されたし。

 と。

 呂刀姫は形の良い眉間にしわを寄せて考え込んだ。

 彼女の裁量に委ねられているのは、三輔および涼雍二州である。西方の異民族に対する備えも、当然含まれているに違いない。

 となると、曹操軍団と戦端を開くより先に、羌族に対して何らかの手段を講じなければならないのだ。
 呂刀姫は配下に命じて篝火を盛んにし、幕将を集めて臨時の会議をひらいた。

 新たに刀姫のもとへ軍師として附けられた徐庶が、一同に状況を説明している。

 

呂刀姫:それにしても、羌族が何で今頃?

魏 延:というより、このゲームって羌族とか出てきたか…?

呂文姫:ふっふっふ…。

張 虎:な、何だよ?

呂文姫:ふっふっふ! じゃーん! このマップのように、実は中国は3方を異民族に囲まれているのでありました!

 

 

 

呂刀姫:…気のせいか、なんかマップ変わってない?

呂文姫:☆( ̄ー ̄)ニヤリ…

 

 

 

呂文姫ぱんぱかぱーん!

呂刀姫:…はい、またしてもここで呂姉妹の解説です。

呂文姫いえーい!\(^O^)/

呂刀姫          呂文姫

 

 

呂文姫:皆様、お待たせしました! マップ見て頂いたらおわかりになると思いますが、南蛮王シリーズ、この37話から光栄「三国志IX」に舞台を移します!

呂刀姫:登録武将は、例によって玉川様に頂いたり、前回のデータを流用したりしました。

呂文姫:それにしても、今回のシナリオ再現は大変だったねー。

呂刀姫:ああ…。個人プレイでなくなった上に、これまでの作品と何もかも違うから…。

呂文姫:多少整合が取れないところもありますけど、基本的にほぼ忠実に舞台を再現しています!

呂刀姫:今回も、データ改変にはKz-8様のめもりえぢたーや、モロモロのツールを利用させて頂いています!

 

呂刀姫:それにしても、今回も参ったよな…

呂文姫:うん…。またキターってかんじの、光栄マジック。

呂刀姫:プレイの仕方によって多少差はありますけど、放っておくとCOM勢力が兵を集めすぎて、兵糧不足で自滅していくというバグが。

呂文姫:幸い、まだお目にかかってないけど、戦線が膠着状態になる中盤以降がヤバイって話だよね(^_^;)

呂刀姫:顔文字使うな。ともかく、この事態に備えてすぽいらー等メモリエディタを待機しておき、いざ自壊が始まったら、すぐさま都市パラメータを変更して兵糧を足してやる、という準備はしてあります。

呂文姫:敵方のデータまでいじらなきゃならないなんて、面倒…(-_-;)

 

 

呂刀姫:とにかく、これからリプレイ舞台は三国志9の世界ですので、そのおつもりで!

呂文姫:ストーリー的なことに関しては、「8」を引き継ぎますのでご安心を~。それから、一部懐かしの「7」の設定残してるキャラもいますしね。武力110の人外メイド白虎さんとか。

呂刀姫:まあ、何かチャンポンみたいなお話になってますけど、今後ともよろしくお願いします!

 

 

 

 

 

 

 ――建安15年末。

 南蛮王呂布は、吉日を選んで、わが王子の名を世間に公表した。

 

  呂燕

 

 というのが、その名である。

 公示を目にした百官は、皆おお、と声をあげた。

 名に込められた意味を察するに、おそらく父に似て、軽猛驃悍な驍将に育つであろうと、一同祝福し合ったものである。

 

 呂刀姫は長安への途上で、王子誕生の報と、その命名の内容を知った。

 おそらく表情の選択に困ったのだろう。二、三瞬茫然とした後、ようやく使者に笑いかけて言った。

 

呂刀姫:父上と母上にお伝え下さい。――稚い王子の御ため、刀姫は永く西の壁となりましょう、と。

 

 それは、張虎や文姫が聞いたこともない、硬い声だった。

 …呂刀姫はこの瞬間、自らの意思で後継者争いの舞台を降りたと言ってよい。

 張任と徐庶が、一瞬だけ視線を交わした。

 西方の空を、寒風に巻き上げられた砂塵が厚く覆っていた。

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