2009.01.01

44.要塞砲対要塞砲

INTERLUDE

 

 

呂 布:ところで聞いてくれよ。こないだ無口っ娘倶楽部の打ち上げあって。

陳 宮:はあ。

呂 布:そん時、生まれてはじめてメイド喫茶に行ってきたんだけどさ。

陳 宮:うわ、イタっ!

呂 布:イタいとかいうな。とにかくだな、凄かったわけですよ。

陳 宮:ほう。

呂 布:まずだな。メシが30分は出てこない。

陳 宮:…は?

呂 布:食後に頼んでたコーヒーが、普通に食前に出てくる

陳 宮:…。

呂 布:で、メイドさん呼ぶときはハンドベルでチリン…て呼びつけるんだけどさ、「はい、ただいま参ります、ご主人様」って返事があったと、別のテーブルに駆け付けたり

陳 宮:…それは、喫茶店として破綻してるのでは…?

呂 布ドジっ子メイドさんハァハァ

陳 宮:そっちかよ。

 

 

呂 布:あと、メイド喫茶でマリみて話もしたんだけど。

陳 宮:まだそのネタ引っ張ってたんですか。

呂 布:細川可南子が「登場人物イラスト」から消えたんだよ。

陳 宮:らしいですな。

呂 布:そのこと関羽に話したら、膝で思いっきりテーブル蹴り上げてやがんの。マジだよ、あいつ。

陳 宮:殿下、ひょっとして無口っ娘倶楽部で孤立してません?

 

 

 

第四四話 要塞砲対要塞砲

 

 

 建安17年(212年)9月。

 続々と中原へ集結する益州軍団に練兵を施しつつ、南蛮王呂布は許都にあって、東進への施策を精力的に押し進めていた。

 天子を擁し、自らは丞相・南蛮王を号し、既に中華のほぼ半分をおさめる呂布にとっては、もはや以後の戦さは残敵の掃討ほどに容易かろう――と、天下の耳目は皆そう思った。

 事実、この時点での諸勢力の比率は 

 

勢力
都市数
人口
武将数
兵力
呂布
31
9,461,900
127
1,195,106
曹操
6
973,000
127
549,215
袁譚
8
6,041,400
43
408,380
孫策
5
1,682,500
48
422,099

 

 となっており、数字だけで見れば、南蛮王が他へ敗れる要因は一つとして見つからぬであろう。

 ところが実際は、そうもいかなかった。

 

胡 姫:はー、なんだかご機嫌斜めですねえ。

呂 布:あああ!なんつうか、凄いストレスたまるのよ!

劉 備:CPUは飽きを知らへんすからねえ…

 

 呂布の私邸の院子にあって、馴染みのメンバーが適当に座を敷いて雑談していた。呂布は相変わらず、居城があるのに郊外で一軒家を構えているのである。

 

 ──さて。

 この10月に入ってなお、呂布は許から動けずにいる。

 南蛮軍団百万といえど、陳宮や呂布の自儘に出来るのは、許に駐留する十五万だけであり、その大軍は、ひたすら潁川以西の拠点防衛の消耗戦に巻き込まれていたのだ。

 小競り合いと云っても、双方十万ちかい軍勢が衝突する会戦で、その都度、どちらの軍もおびただしい死傷者を出して撤退をするというありさまだ。

 

 

陳 宮:なんか、「9」の異民族を思い出すなあ。何この徒労感。

劉 備:あー、確かに。勢力表見る限り、曹操にもまだストックありますから、このままだと延々と続くのと違いますか。

呂 布:要は寿春なんだよなあ…

 

 マップの通り、許の呂布軍団を悩ましているのは、寿春に駐留する荀攸の存在であった。

 剛柔自在のこの名士太守は、ほとんど嫌がらせのように、次々と軍を進発させ、呂布の東進を牽制している。その幕下も、鍾、趙巌などという、呂布でさえ舌打ちしたくなるような名将揃いで、彼らの一軍団だけで完全に呂布軍十五万を釘付けにしていた。

 拠点さえ抑えれば素直に東進できると考えていた首脳陣、意外な敵の遊撃戦に頭を抱えている。
 と、最近になって呂布の寵遇を得た陳羣が謹直そうな口調でボソボソ呟いた。

 

陳 羣:豫州方面は、都市こそ少ないですが、天下趨勢の要。このまま互いにビンタを打ち合っていても埒はあきませぬ。

呂 布:ぶわははは!ビンタ!ビンタ!いいなあ、その表現!

 

 なにがツボにはまったのか、笑い転げる呂布。脳裡に、撃ってこい!とノーガードアピールしている半裸の荀攸でも想像したのであろう。

 

陳 宮:…確かに、荀攸の狙いは、我が軍にビンタ…じゃない、牽制を続けることで、曹操本軍の回復を待つつもりなのだろう。

呂 布:ならさあ、もう陳留攻めようよ。洛陽の馬超が合流するから、一発だって。

陳 宮:うーん。

 

 陳宮は難しい顔をする。

 実際、その通りなのだろうが、陳宮にしてみたら、まだ呂布軍の攻城兵器配備が完全ではない。できれば全部隊に井蘭を装備させ、緒戦の矢戦で勝敗を決したいほどなのだ。

 

呂 布:あのさあ、前から思ってたけど、オマエ曹操恐怖症だろ。

陳 宮:…というのとも、ちょっと違うんですけどね。

陳 羣:いや、私も気持ちは解ります。あの人、キャラ立ってないけど怖いから。

呂 布:そうかなあ。メイド喫茶行ったときも、凄い普通の反応だったしな。メイドさんが跪いてアイスコーヒーとかにミルク入れてくれるんだけど、結構どぎまぎしてたぞ。なぜか半笑いで

陳 宮曹操と行ったのかよ!?

呂 布:無口っ娘倶楽部の打ち上げだっての。袁譚もいたし、老師(※左慈)もいたぞ。

劉 備:ぶっちゃけ、アンタら何で戦争してるんですか?

陳 宮:ていうか、曹操も会員だったのか…

 

 話の腰をぼっきりと折られた南蛮首脳、しばらく呂布のメイド喫茶レポを聞かされる。

 

呂 布:行って来たのは二件なんだけどさ、一件目はまともだったのよ。普通の喫茶店がメイドさん雇いました、みたいな。店も綺麗だったしな。

陳 宮:はあ…

劉 備:じゃあ、二件目がハズレですか。

呂 布:そこが微妙なんだな。ある意味オーダーミスもフラグイベントかもしれんし。

公孫楼:…。

呂 布:俺様のポリシーは、「この世はセーブポイントのないエロゲー」だからなー。

陳 宮:…SLGですらないのかよ。

胡 姫:含蓄ある良いお言葉ですねー。いい年したオトナがなかなか口に出せる台詞ではないです。

公孫楼:…ナニゲにひどい。

 

 そんな緊張感の無い一同の元へ、息せき切って、おなじみの劉循が、急報を携えて駆け込んできた。

 ――またしても、勝ヒを目指して、荀攸軍八万が接近してきているというのである。

 顔を見合わせる一同。

 

呂 布:…きりがないな。

劉 循:ですねえ。

呂 布:…よし。汝南の高順にも出撃させて、この軍団は全滅させてしまえ。その後は、すぐに陳留を攻める。正直飽きた。

陳 宮:御意――

呂 布:迎撃軍は楼ちゃんをメインでシフトを組めよ。それから、陳留攻めで使うから、江夏から張遼を呼べ。あと、孟獲って何処にいたっけ?あいつと、戦象部隊セットでな。

陳 宮:直ちに手配します。

 

 陳宮はニヤリと笑った。

 孟獲だの張遼だのを呼び寄せるということは、呂布自らが陣頭に立つということであり、その傍らにあるのは、必ず陳宮なのであった。

 通称「同窓会」といわれるその布陣は、南蛮時代から、ほとんど例外のないカタチなのであった。

 南蛮で挙兵してから、はや十七年。山嶺を駆け回った当時と、呂布は何一つ変わっていない。

 

 ――勝ヒの郊外で曹操軍を捕捉した南蛮軍は、援軍を入れれば13万に達する大軍団であった。

 とはいえ、敵の大将皇甫麗(ただしくは障モ)は族父の名に恥じぬ名将であり、猛将公孫楼率いる倍近い大軍を相手に、見事に進退したようである。

 結局のところ、呂布がプロ市民の相手をしている間に、戦捷の速報がもたらされたわけだが、南蛮軍の損害もばかにならなかった。いつも通りの痛み分け、という結果である。

 凱旋した公孫楼らをねぎらい、今回斬った夏侯楙の首を実検した呂布は、リストの中から意外な降将の名を見て、失笑した。

 曹操の五男である曹熊が、呂布に降っていたのである。無論、呂布は引見する必要を認めず、僻地へ飛ばした。

 

 戦後処理と軍兵の統廃合を行うと同時に、新野と永昌の兵器廠をフル稼働させて攻城兵器を装備させた益州軍団を、部隊単位で合流させる。

 そうこうしている間に、年が明け、建安十八年(213年)――

 

 正月早々、まずは関羽の次子、関興が成人したというめでたい報せと同時に、遙か南方の交趾で民衆らの武装蜂起があったとの急報が入る。厳侯張障・ェ薨去した影響が、ぼちぼちと内陸で顕れてきているのであろう。

 

呂 布:いつまでも、グダグダしておれん。陳留で、曹操を討つ!

陳 宮:はいっ!

呂 布:戦闘は井蘭が決めるかもしれんが、楼ちゃん、張遼、お前たちは突騎を率いて前衛しろ。今回はたぶん市街戦になるぞ。

張 遼:はっ――!

 

 許を進発した呂布軍は、全軍で10部隊10万。久々に親征する王呂布に従うのは、陳宮、張遼、公孫楼、孟獲と、凄まじい陣容である。

 また、呂刀姫麾下の馬超軍団にも動員令がかかっており、やがて5万規模の増援が洛陽から駆け付ける予定であった。

 対する陳留の守備戦力は、曹操、司馬懿、賈らを中核とする十二万という大軍である。

 数の上では遜色はなく、率いる将の力量も伯仲している。

 違うのは、攻城兵器の数で、呂布軍は10部隊中、なんと8部隊までもが井蘭を装備している。

 いわば、矢戦に特化した軍団である。

 前回、火力の強化が南蛮軍の主題としてあげられていたが、それを手っ取り早く解決するために、陳宮らがとった方策が、これであった。

 

曹 操:そこまでやるか、陳宮。

司馬懿:なんと、えげつない…

 

 城壁上から、陳留を取り囲む雲霞の如き大軍が遠望できる。

 地平をびっしり埋め尽くす鉄甲の中から、悪夢のように林立している塔車すべてが、凄絶な殺傷力をもつ攻城兵器なのである。

 呆れたようにため息をつく曹操軍首脳らの頭上に、1月の冷たい雨がパラパラと降りはじめた。

 両軍は開戦した。

大艦巨砲主義

 

 

 何とも不気味な戦場の姿であった。

 申し訳程度に接近した南蛮軍は、敵の弩の射程範囲外にずらりと展開し、前面に井蘭を押し出している。

 そして拍子木の音が鳴り響くと、城壁よりも高い井蘭の頂上部から、いっせいに数万の弩兵が斉射をはじめる。

 飛蝗かと見紛うほど、見上げる空をびっしり埋め尽くす鉄箭の大群は、城壁の上空で放物線を描いたかと思うと、雷雨のように轟々と音を立てて曹操軍の頭上へ降り注ぎはじめた。

 

呂 布:うわ、ひで。

 

 

 呂布が呆れる程、井蘭の威力はすさまじい。

 このとき城壁上に躰を露出していた兵はもちろん、城壁の下に逃げ込んでいた兵でさえ、甲も盾も遮蔽物もあったものではなかった。満身に数十本の矢を立てて絶命した人体が、そこら中、悪趣味なオブジェのようにゴロゴロと転がり、針鼠のようになった兵舎が、鉄箭の重量で倒壊する事故まで起こった。

 その凄まじさに怯える陳留軍から、

 「──元戎弩だ!」

 という悲鳴が、すぐに上がった。

 その通りで、呂布軍は、宛の弓兵編成所で、実用可能な元戎弩兵部隊を大量に錬成していたのである。

 元戎弩兵の放つ鉄箭は、城門の構造物さえ破壊して、門中で防備に詰めていた兵士らを容赦なく殺傷する。

 最初の斉射だけで、曹操軍の前衛は、全体の一割を失う損害を被った。

 

陳 宮:張遼、続けて撃て!

 

 陳宮の「指揮」により、さらに張遼が射撃を続け、城壁上の残存兵をなぶり殺しにする。 陳留軍は、もはやこの一方的な虐殺におののくばかりであった。

 と──

 突然、曹操が哄笑した。

 彼自身、城壁上の一部隊を率いて、防戦にあたっていたが、急にけたたましく嗤い始めたのである。

 

 そして彼の命に従い、こんどは城壁上の陳留軍が、何と胸壁の上に井蘭を二群も組み上げ、呂布軍のさらに頭上を抑えた。

 

呂 布:なんじゃあ…!?

陳 宮:見るからにバランス悪そう…

 

 危なっかしくグラグラ揺れながらも、陳留城は、城壁上に塔車が屹立する要塞と急変した。

 

曹 操:──撃て!

 

 曹操が命ずるや、高々度から、今度は南蛮軍の頭上に矢の豪雨が降り注いだ。矢は呂布の身辺にも殺到し、彼の左右に控えていた兵士らがバタバタとたおれた。

 次のターン、さらに陳宮は一斉射撃を命じる。

 

陳 宮:こちらも続けて撃て!目標、敵井蘭部隊!

呂 布:…なんか、ガイエスブルク要塞とイゼルローン要塞の主砲戦みたいだなあ…

 

 などと、感心したように呟く呂布のはるか頭上を、うなりを上げて巨岩が飛び過ぎていった。

 陳宮と貌を見合わせた呂布、恐る恐る振りかえると、ちょうど巨岩の直撃を受けた井蘭が一基、兵士を載せたままゆっくりと倒壊してゆくスペクタクルな光景が目に映った。

 たちまちおびただしい土煙捲き上がり、轟音と無数の悲鳴が一瞬遅れて響きわたった。

 

呂 布:うっわー…

公孫楼:…霹靂車!

 

 南蛮軍の諸将は一斉に舌打ちした。

 霹靂車は対人の殺傷力は低いが、射程はきわめて長く、城門や攻城兵器の粉砕に使われる、文字通り要塞砲である。

 

張 遼:さすがは曹操。一筋縄じゃいかんですな。

陳 宮:あー、このまま撃ち合っていても埒があかんな…

 

 矢戦を選んだのは南蛮軍の方だが、敵方にも、相応の備えがあったわけだ。

陳 宮:近接先頭の準備!各支隊は城壁に取り付け!──くそ、衝車連れてこれば良かった。

 

 陳宮は、射程内に敵がおらず、所在なげにしている井蘭部隊を解体させ、俄に突撃兵を編成させた。

 じりじりと井蘭の車列を前進させながら、南蛮軍の将兵たちは、続々と陳留の城壁へ取りつきはじめた。

 

 ──いつぞやの官渡戦を思わせるような、凄絶な消耗戦であった。

 わずか数日の差で、馬超、法正、王平らが各々数部隊を引き連れて到着し、南蛮軍の戦力は一挙に倍増。

 …とはいえ、いまだ城壁を挟んだまま、壮絶な矢戦を続けている最中であり、馬超軍はしばらく参戦する事も出来ず、戦場を遠望するしかない。たまに曹操や司馬懿の「誘引」に引っ掛かっても、びっしりと城壁を埋め尽くす南蛮本軍のせいで、接近すらできないのである。

 ようやく、陳留の正門が破壊されたのが、開戦12日目であった。

 この時点で、曹操軍は2万を切っており、南蛮軍13万。勝敗はほぼ決している。

 ところが偶然にも、このターンに、なんと南蛮軍の兵糧が切れた。

 

陳 宮:マジ…?

呂 布:なんで…?

 

 ──さすがに、蒼白になる呂布と陳宮。

 曹操軍の殆どは潰走し、城内へ撤退しているのだが、このあとの市街戦を考えれば、兵糧ゼロのまま戦い続けるのは、いかにも厳しい。

 

陳 宮:と、とにかく敵をつぶせ!

 

 陳宮の慌てふためいた命令により、孟獲率いる戦象部隊を中心に、鉄騎の集団が陳留城の外郭へなだれ込んだ。先ほどまで井蘭として活躍していた部隊である。

 城壁の下へおりていた敵軍は、抵抗するまもなく、次々と踏みつぶされてゆく。

 

 

市街戦

 

 

 しぶとく支隊から支隊へと所在を換えながら指揮を執っていた曹操も、ようやく全部隊を失い、陳留城内に撤退した。

 

陳 宮:あー、これから市街戦ですよ…もう…

呂 布:きっついなあ…

 

 呂布、頭を抱える。

 曹操軍は城内の兵を再編し、3万余を擁して最後の血戦に備えている。

 無論、闘って負けることは無いが、問題は兵数でなく兵士の腹具合であった。

呂 布:…まあ、ダメ元でやってみるしかないか。

孟 獲:義兄者、まだ、大丈夫!

 

 なるほど孟獲軍と呂布軍は、アホ程に士気が高く、まだ数日は余裕を持って戦える気配である。

 城壁戦で火計にやられた他の軍も、あと数日は何とか戦線を維持できそうであった。

 

呂 布:よっし!やろう!

 

 呂布がうなずくと、陳宮は全軍を前進させた。
もはや速攻で、敵を殲滅するしかない。タイムアタックである。

 

伝 令:軍師、孟獲将軍が陥し穽に墜ちました!

陳 宮:放っておけ!

伝 令:軍師、殿下も陥し穽にお堕ち遊ばしました!

陳 宮:埋めておけ!

伝 令:軍師、公孫楼将軍も陥とし穽に堕ちました!

陳 宮:うわ、ちょっと見たい。

 

 いつそのようなヒマがあったのか、陳留市街のいたるところに陥穽が仕掛けられ、呂布軍は面白い程ズボズボ堕ちた。それでも進撃速度をいささかも緩めず、先鋒の張遼は、その日のうちに曹操軍前衛と接触した。

陳 宮:力攻めだ!「近接」と「突撃」以外は使うなよ!

張 遼:承知!

 

 ジリジリと士気が低下してゆく呂布軍は、自軍の損害を省みず、ひたすら肉弾戦をするしかない。

 対する曹操軍は、司馬懿、賈ら謀臣を中核に据え、しぶとく計略を連発する。

 これがまた、いっそ痛快なほど図に当たる。

 混乱した上に火をかけられ、惑乱状態で「同士討」を仕掛けられた孟獲戦象軍が、公孫楼軍本隊を壊滅させると、負けじと呂布本隊も「同士討」にひっかかって、背後で控えていた陳宮軍分隊を木っ端微塵にする。

 

陳 宮やんのかコラぁ!

呂 布:はっはっは。むかし馬騰のおっさん倒したときって、こんなカンジだったよな。

馬 超:そうそう、だいたいこんなカンジだった。ありゃあ酷かった。

公孫楼:…。

 

 ふたりして涼州の山野を懐かしむ義兄弟たちを、冷たく一瞥する公孫楼。

 彼女の本隊である白き突騎兵団は、ほとんど無傷に近く、この戦闘の決勝打と成り得た。

 いまや陳留城の市街地は、数区画に渡って炎に包まれ、敵味方とも、互いの連絡が取れずに孤立している。

 

 そこへ、公孫楼が無言で指示すると、勇猛なる白馬義従たちは、疾風のように炎の戦場を横切り、曹操の本陣を一挙に衝いた。

 曹操が諸隊を糾合する隙を与えないほど、見事な速攻である。

 

 ――市街戦開始9日目。

 とうとう、曹操は全ての部隊を失い、陳留を放棄する。

 この攻防戦で、曹操軍は全軍の二割近くを喪ったことになり、いよいよ州の保持が難しい状況となった。曹操自身が籠もる濮陽城をのぞけば、もはや豫州、徐州に設定した防衛ライン維持に全力を注ぐしかないであろう。

 他方、不気味に沈黙を続けている孫呉が、いつ長江を渉って曹操領へ侵攻するか、というのも大いなる懸念材料であった。

 陳宮らとしては、東呉軍に、たとえば寿春あたりを抑えられると、非常に厄介なのである。

 今のところ、南蛮と東呉の間に結ばれた同盟は綻びる兆しもなく、双方の荊州駐留軍が、次々と前線へ振り向けられている。

 しかし、この同盟は結局、曹操勢力が滅びるまでの間の便宜に過ぎない。

 どのタイミングで、同盟者を裏切るか。あるいは裏切らせるか──。

 この時点から、すでに両勢力の軍師たちは戦を始めているのであった。

 

 

敗 走

 

 さて、陳留の仕置きが一段落し、許への帰還途中、南蛮軍は異様な光景に出くわした。

 彼らの進路にある官渡城塞が、なんと今まさに袁譚麾下の審配軍から攻撃を受けているのである。

 

呂 布:…はぁ?

陳 宮:うわ、最悪…

呂 布:何だよ、敵は8万だろ? ついでにやっちまおう。

陳 宮:殿下、我が軍の兵糧が既にゼロだって覚えてます?

呂 布:あ。

 

 間が悪いというか、皮肉というか、滅多にない野戦の機会に、呂布軍は壊滅寸前の状態で姿を現したわけである。

 かといって、進路を変える事も出来ぬ。許へ戻るルートは、この一本しか無いのだ。

 

陳 宮:布陣したら、すぐに逃げますよ。戦っちゃダメですからね!

呂 布:くそっ! むかつくなあ、もう!

 

 呂布、本気で悔しそうに呻くと、陳宮の指示通り、軍を展開させてすぐ、全軍を許へ向けて離脱させた。

 背後から、袁譚軍の嘲笑が響き渡った。

 無条件に敗戦扱いとなる撤退である。審配はこの機を逃さず、全戦域にわたって追撃戦を仕掛けてきた。

 呂布にとっては、生涯の屈辱となる、凄まじい潰走であった。

 南蛮の精兵は、ひたすらに遁げるしかなく、彼らの部将らは、身を後拒に置いて、命がけで部下の撤退を援護した。

 文字通り命からがら許へ戻った呂布は、兵の損耗を聞いて唖然とした。

 曹操との激戦で喪われた兵数など較べものにならない程の、凄まじい戦死者数であった。

 おまけに、殿軍を務めた白馬義従の将校から、我が耳を疑うような報告を受けた。

呂 布:楼ちゃんが、いないだと!?

 

 この時ほど激高した呂布は、かつて無かったであろう。

 この日、赤兎馬を曳き、ただ一騎で駆け出そうとする南蛮王を押し止めるのに、陳宮は一千名の兵士を投入した程である。

 結局騒動の最中に、その公孫楼自身が単騎、戻ってきたため、幸いにも死者を出さずに済んだ。

 公孫楼は南蛮王の貌を見て、「何もされなかった」と一言だけ云い、私邸へ引き上げていった。

 呂布は感情の整理に困り、とにかく私邸へ帰って、息子の燕を背負って忠吉さんの散歩へ出かけたのであった。

 

 

 

 建安十八年、二月。

 呂布は依然、許に居る――。

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