第十六章 南蛮軍出撃
建安八年、夏。
荊州の一角で偶発的に発生した呂・劉の軍事衝突は、意外な方面へ拡大を始めている。
南海から長駆して交趾を陥とした孫策軍の一隊が、劉表軍によって退路を断たれ、孤立してしまったのである。
陳 宮:殿、早速ですが南蛮軍を動かしますよ!
呂 布:おおお!あの象が戦うの見れるのか~!
陳 宮:……いえね。
ついに「小覇王」孫策と戦端をひらく事になる呂布軍!
だが、まさにそのターン、慌ただしく出撃の準備を整えている雲南の城市に、場違いともいえるふんわりした女性が姿を現した。
教 母:あらあら~。…御精勤ですわね~♪
呂 布:げ……。
漢中・五斗米教団の特使にして、教祖・張魯の母親、教母であった。
成都に呂布が居なかったものだから、さらに南へとやってきたのだろう。あいかわらず、ハエのとまるような雰囲気でフラフラと単身、宮殿奧まで入ってきている。
陳 宮:え、衛兵――は、まあ、いいとしよう。……このたびは、いかなるご用件で?
いま忙しいのだ、という態度もあらわに尋ねる陳宮。教母は唇に小さな手を当ててコロコロ頬笑んでいる。
教 母:嫌やですわ、軍師様。――同盟関係の更新に決まっているじゃありませんか♪
のほほン、と微笑む教母。陳宮、むむむ…っと唸る。
いまのところ張魯は同盟国ということで、漢中に対する防備はゼロに近い。もしも張魯との同盟が解消されたら、梓潼と武都の二郡にそれぞれ少なくとも五万の兵力を常駐させねばならなくなる。
国力的に見て、いま十万もの大兵力を別個に準備するだけの余裕はない。
呂 布:(……俺はイヤだぞ、あの人のトコロに攻め込むのは)
陳 宮:(まだ何も言ってません……)
ヒソヒソと会話する主従。――そう、常駐兵力が惜しいのならば、同盟期限が切れた瞬間に漢中を攻撃・制圧してしまえばよいのである。もっとも、そうなればそうなったで、長安と上庸という二つの敵都市と隣接する事になるが、二郡を永続的に防禦するよりは負担が少ないというモノ。
しかし――
教 母:1ヶ年でよいのです、将軍。私の顔を立てて、うんと仰ってください~。
ニコニコしながら、返答を迫る教母。
……結局、陳宮は折れた。出撃直前のこの時期に、懸念材料を増やす必要はなかった。
陳 宮:とんだハプニングがありましたが、予定通り今月、出撃します。
呂 布:ふう……。俺はどっと疲れた。
出撃する兵力は、南蛮王・呂布の騎兵二万と公孫楼の鉄騎一万六千を中核とする。
そして何よりの変わり種は、孟獲大王、木鹿大王、孟優、祝融ら南蛮象軍団四万である!
呂 布:ワクワクするなあ…どんなカンジなんだろ?
八万という南蛮大軍団は、雲南を発して東へ下り、交趾へなだれ込んだ。孫策軍はあわてて野戦陣を展開する。
陳 宮:敵兵力は約五万。敵主将は華だそうです。
呂 布:ふん、文官か。
陳 宮:でも武将にけっこう凄いのが揃ってますよ。質ではウチの負けですな。
陳宮の言葉通り、まず先鋒が接触したのは東呉の猛将・蒋欽と董襲であった。
ふたりとも武力は80にちかく、孟優や木鹿など足下にも及ばない。だが幸いなことに、兵科は両雄とも歩兵部隊である。
呂 布:いけ~っ! 踏みつぶしたれ~っ!
鼓膜をつんざくような鳴き声と地鳴りを轟かせて、戦象部隊が突進を開始する。
董 襲:な、なんじゃあ!?
驚く間もなく、孟獲隊が最初の突撃を敢行する。董襲隊一万二千は、一ターンも支えきれずに後退する。兵の損害も、孟獲隊400に対して1200と、凄まじい。
続いて木鹿、孟優が果敢に攻撃を始めるが、これはほぼ互角というところか。
呂 布:ん~~……。確かに、強いんだけど。
陳 宮:圧倒的、というほどでもない、と。
呂 布:ううむ。
ワクワクと期待していたため、ちょっと残念そうである。
陳宮は伝令を出して、右翼から渡河して迂回進路をとる公孫楼を、さらに急がせた。
公孫楼:……。
無言で肯くと、白馬義従は凄まじいスピードで行軍を開始し、たちまちのうちに湿地帯を抜け、敵の本城へ肉薄した。
呂 布:中央は任せる。俺様も楼ちゃんとこへ行って来る!
陳 宮:あまりムチャせんでくださいよ~!
陳宮を中央の手当に残し、呂布本隊もまた「強行」を開始した。残された陳宮、まずは計略で董襲隊を混乱させる。そこへ孟獲たちがいっせいに攻撃を集中させ、これを手捕りにする。
やがて孟獲隊の猛威に辟易した蒋欽隊を逐って、支城の一つが南蛮軍に占拠される。中央ブロックは、まずまず南蛮圧勝ムードで進んでゆく。
……一方、突出した公孫楼は、交趾太守の華を目前にして、賀斉、周泰という、これまた東呉屈指の猛将たちに行く手を阻まれてしまう。
公孫楼:……。
やはり無言で兵を差し招き、突撃を開始する公孫楼。さすが、容易には崩れない。それどころか二隊連携して、これをあざやかに包囲する東呉軍。
そこへ、
呂 布:お~い、楼ちゃん!
と、南蛮王自らが赤兎を飛ばして駆けつけてきた!
呂布は最初のターンからいきなり突撃して周泰を後退させつつ、逆に賀斉隊を公孫楼隊との中間地点に誘導し、数ターンに及ぶ一斉攻撃でこれをしとめてしまった。
周 泰:バ、バケモノか……!
さすがに蒼くなる周泰、華。
呂 布:がっはっはっは!そこにいたか、華とやら!
周 泰:い、いかん、太守を守れっ!
悲鳴を上げる華に、凄まじい突撃をかける二万の呂布本隊。一万ちょっとの華隊では防ぎようもなく、たちまちズタズタに戦線を崩されて後退する。呂布、敢えてそれを逐わずに城の占拠をすすめる。
呂 布:どうだ!交趾はもらったぞ!
この瞬間、あまりにもあっけなく「中央突破」が完成してしまった。
東呉軍の士気はゼロになり、ほとんど全滅直前であった各部隊は、ボロボロと櫛の歯がこぼれるように壊乱をはじめた。
……交州の玄関口・交趾は、諸侯が呆気にとられるほどの速さで南蛮王の制圧下に置かれた